ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第五十六話 鳥籠に囚われた者たち
「はぁ・・・暇だなー」
「この状況で、どうしてそう言う感想が出てくるのよー!」
白いテーブルの上で羽を寄せ合って歌をさえずる小鳥を見ながら黒髪の少女はぼやいた。そのボヤキに反応したのは栗色の髪をした少女である。非難を含めたその言葉が響き渡り、歌をさえずっていた小鳥たちは空へと逃げてしまう。それを見送った黒髪の少女は栗色の髪の少女の方へと視線を向ける。
「だって、実際にやることないんだもん」
「そ、それはそうだけど・・・!」
黒髪の少女の言葉に言いよどんでしまう栗色の髪の少女。
「・・・ルナは心配じゃないの?ソレイユ君のこととか」
「・・・あの人のことは心配するだけ無駄な気がするんだよね・・・」
本人が聞いていたらルナの言葉にどういう反応が返ってくるか見てみたいものがある栗色の髪の少女であったが、残念ながらソレイユ本人はここにはいない。
「そう言うアスナは心配しすぎなんだよ。ここからじゃ確かめる方法なんてないんだし、心労が重なるだけだよ」
「そ、それはそうだけど・・・でも・・・!」
そう言って泣き出しそうな表情になるアスナにルナは溜息を吐いた。アスナの気持ちはわからなくもないが、そんなことばかりしていたら身も心も持たないだろうというのがルナの心の内であった。実際はルナもソレイユのことは気にならないと言えば嘘になるが、それでも彼ならばなんとかしているだろうという気持ちが大半を占めているため、アスナの様にマイナス思考のスパイラルに陥ったりはしない。
「その表情が一番美しいよ、ティターニア」
不意に鳥籠の中にアスナとルナ以外の声が響き渡る。声色からして男であることがわかるが、何とも不快感を及ぼす声色だった。
「泣き出す寸前のその顔がね。凍らせて飾っておきたいくらいだよ」
「悪趣味(ボソッ」
「んん?何か言ったかね?」
「いえ、何も」
いきなり現れた人物の趣味を小声で罵倒するルナ。何かつぶやいたのを聞いた金髪の男性はルナに問い掛けるが、ルナはありきたりな返答をするだけであった。
「あなたならなんでも思いのままでしょう、システム管理者なんだから。好きにしたらいいわ」
それで本当に凍らされたらどうする気なのかな、なんて疑問がルナの頭の中を横切り、危うく口に出してしまいそうになるところを必死で抑える。
「またそんなつれないことを言う。ぼくが今まで君に無理やり手を触れたことがあったかい、ティターニア」
「こんな所に閉じ込めておいてよく言うわ。それにそんな変な名前で呼ぶのは止めて。私はアスナよ。オベイロン――いえ、須郷さん」
「興ざめなことを言うなよ。君一人では寂しい思いをするだろうと思ってもう一人つけてやったのにねぇ」
つまり私はおまけですか、なんてツッコミを入れたいルナであったが何とか自制する。
「ふざけないで!!私だけならまだ我慢はできたわ。でも、そんなことのためだけにルナを巻き込むなんて・・・!!」
激動するアスナだったが、その言葉を聞いたオベイロンこと須郷はひっひっと甲高い声で下劣な笑いを見せる。
「本当にそれだけだと思っているのかい?」
「なんですって・・・?」
「・・・・・・」
「君は知らないようだから教えてあげるよ、ティターニア。そこにいる小娘はあの【ネクサス】の副社長である柊 俊介の一人娘だ」
「つまり、私を使って何か企んでるってことよ」
冷静にそう言うルナ。対して、アスナは友人が利用されることに当然のごとく不快感をあらわし、オベイロンに対して怒りを向ける。が、それより前にルナの言葉が響いた。
「それでも副社長ってだけだよ?あの会社の代表権は社長である天宝 夜鷹さんがもってるはずだし」
「・・・随分と冷静な意見じゃないか、小娘ごときが」
「だって、あなたは大事な人質である私たちに手を出すことはできないでしょ?」
そう言ったルナ。その言葉を聞いたオベイロンは人を蔑むような笑みをうかべ、次第には甲高い声を上げて聞くに堪えない笑いをもらしながら口を開いた。
「これだから何も知らない奴っていうのは滑稽だよ!フルダイブ技術が娯楽市場だけの技術ではないという事実を知っているかい?こんなものはね、副産物でしかないんだよ!!」
「・・・・・・」
オベイロンの言っていることがわからないのか、ルナとアスナは黙ったままオベイロンを見据えている。
「フルダイブ用インターフェースマシン――ナーヴギアやアミュスフィアは脳の感覚視野に限定し、仮想の信号を与えているわけだが――もし、その枷を取り払ったらどういうことになるだろうねぇ!つまり―――」
「思考、感情、記憶と言った脳の感覚処理以外の機能までも制御できる可能性があるってことでしょ?」
オベイロンが意気込んで今まで述べていたことの結論をいおうとしたが、それはルナによって横取りされた。調子付き、自身に酔っていたオベイロンは台詞がとられたことに不快感をあらわし、ルナを睨みつけるがルナはどこ吹く風といったようにその視線を流す。
ルナとオベイロンが見えないやり取りをしていると、アスナが声を震わせながら言った。
「・・・そんな、そんなことが許されるわけが・・・」
「誰が許さないんだい?法かい?それとも――」
「それを是としない人たちよ」
またもやオベイロンの言葉を区切るように言うルナ。そこでオベイロンの我慢の限界がキレたのか、ルナに仕置きでもするのか近くに歩み寄ろうとしたところで、声をかける人物が現れた。
「その辺にしておいたらどうですか?」
その声のした方を向くと見慣れない女性が腕を組みながら左肩をドア枠に預けもたれ掛かっていた。その女性はこの世界観に合わないスーツ姿で、顔立ちもオベイロンのように作られた美しさではなく、現実世界のままであることがうかがえた。
青みを帯びた黒髪をハーフアップに仕上げ、ルナとアスナを見る黒色の双眸からは慈しみさえ感じられる。
しかし、ルナが最初に抱いた印象は見た目からとれる印象ではなかった。
「(―――この人っ!?)」
危険だ。反射的にルナはそう思った。強いて言うならば剣士の勘だろうか。自分では絶対に勝てないような領域にいる人物だということがルナは無意識に感じていた。確証があるわけでもない。だが、そう思わざるを得ない何かがこの人物にはあると直感していた。
「君か・・・まったく、何度言ったらわかるんだい?その姿でここに来るのはやめろと言ったはずだろう?」
「ナメクジになるのなんて御免です」
「・・・まぁ、いい。それで一体どうしたんだい?」
「状況に変化があったのでお伝えに来ました」
「・・・今行く。指示を待て」
「了解♪」
それだけ言うと、女性はウインドウ画面を操作してログアウトしていく。残ったオベイロンはアスナの髪を撫でながら猫撫で声で囁いた。
「――そう言う訳だから、君が僕を盲目的に愛し、服従する日も近いという訳さ。次に会う時はもう少し純情であることを願うよ、ティターニア」
それだけ言うと、身を翻しドアを出て行く。残った鳥籠には静寂が訪れる。
◆
『お前の剣は綺麗だ。まっすぐで穢れがない。だからこそ、必要以上に“こちら”側に来てはいけない』
付き合い始めて間もない頃、どうやったらあなたのように強くなれるのか聞いた時、そう言われたことがあった。その時の彼の瞳から読み取れるものはなく、その表情から読み取れるものはある種の儚さだった。すぐにでも消えてしまいそうなその表情を見て、恐くなってしまった私は彼に抱き着き思わず聞いてしまった。
『どこにも、行かないよね?』
それは彼を縛り付けてしまう言葉。おそらく彼が好かない言葉。口走ってから自分が何を言ったのか理解した私は咄嗟に訂正をしようとしたが、言葉が見つからずただ言いよどむしかなかった。そんな私に彼は――
『それは約束できない。でも、必ず帰ってくるから』
と言って頭を撫でてきた。やさしく、髪を梳かすように。愛しみを宿した瞳で私を見つめながら、微笑みながら。私は、そんな彼に甘えることしかできなかった。
時々、彼のことがわからなくなる。
戦っているときは、いつだって憂いに満ちた瞳をしていた。
強敵と知れば、ランランと輝いた瞳をしていた。
私と共にいるときは、いつだって愛しみを宿した瞳をしていた。
人を殺すときは、何も――何も瞳にうつしてはいなかった。
あなたの瞳がうつしているものは何?と聞けたらどれだけ楽だろうか。もし聞けたとしても、あなたは答えてくれるだろうか。きっと、それはない。わかっているからこそ、口に出すことをためらってしまう。言えば何かが変わるかもしれない。けど、なにかがおわってしまうかもしれない。そんな恐怖が私を襲う。
唯一つ、わかることがあるとすれば―――どんな時でも、あなたの瞳は深い深い闇の深潭を覗き込んでいるよう。それは美しくもあり、とても・・・危ういものだと思う。だけど、私にできることはなく、結局は彼に助けられてばかり。あの時も、今回も。
「結局、私は守られてばっかりなのかな・・・」
『そうじゃないだろ』
「え・・・?」
声のした方を向いてみると、ここにいるはずのない人物がいた。それは誰よりも知っている人物。あの世界で出会い、尊敬し憧れ、そして愛した剣士がそこにいた。だが、どこか違和感がぬぐえない。目の前にいる人物は本当に恋人なのだろうか、そんな意味合いを含めて名前を呼ぶ。
「ソレ、イユ・・・?」
『お前はあの世界で真の“強さ”を知った。それに憧れ、あの世界の中でずっと追い求め続けて来た』
スルーされた。だが、そんなことはお構いなしに話を続けられてしまう。
「言ってる意味が・・・」
『お前なら辿りつけると信じてるよ。だから、あきらめるな』
それだけ言うと、ソレイユの姿をした何かはだんだんと薄れていってしまう。咄嗟に腕を伸ばすが、届く距離ではなかった。何か言おうとするが、言葉が浮かんでこない。そんな自分に彼は微笑みながら口を開いた。
『――――――――』
◆
がばっと勢いよく身を起こすと、そこは鳥籠の中だった。隣ではアスナが寝息を立てながら眠っている。
「ゆ、夢・・・?」
あまりにもリアリティのある夢だったが、今になって一つだけ気になることがあった。夢に出てきた彼。姿形から声まで一緒だったが、どこか別人のように感じた。しかし――
「そうだよね、諦めるのは私の性分じゃないもんね」
そういって気合を入れなおすルナ。彼女の瞳には悲壮感はなく、不撓不屈の意思が見て取れた。
後書き
やっと、やっとヒロインが出てきたー!!
ルナ「やっと出番が回ってきたのはいいんだけどさ・・・次の出番はいつになるの?」
・・・・・・・・・
ルナ「・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・
そ、それでは感想などお待ちしております!!
では、次回の更新出会いましょう!!‥…━━━タタタΣΣΣヘ( ゚ 3゚)ノ
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