神々の黄昏
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第二幕その八
第二幕その八
「グンターに与えたものならばだ」
「それならば」
「それは彼のものだ」
理屈を言ってみせたのである。
「そしてジークフリートは姦計によってそれを手に入れたことになる」
「それによって」
「そうだ。信義を破ることは罪だ」
「そう、私は騙された」
顔を真っ青にさせての言葉である。
「恥ずべき欺瞞、恐ろしい裏切り?」
「裏切り?」
その言葉に最初に反応したのはグートルーネだった。
「誰が裏切られたというの?」
「何か話がおかしくなったぞ」
「そうね」
「これは」
家臣達も女達も今の言葉に眉を顰めさせて話をする。
「どういうことなの?」
「それで」
「神聖な神々、ヴァルハラの支配者達よ」
ブリュンヒルテは嘆き悲しく声でその天を見上げて言うのだった。
「貴方達の私への報いはこれだったのですか。これだけの悩みと屈辱を与えることが」
まさにそれだというのである。
「そして私にさらに恐ろしい復讐を。誰も抑えられないような激しい憤りをこの胸に沸かせてそのうえでこの心を引き裂くのですか。それなら」
震える身体でだ。わなわなと言うのだった。
「私を偽った男も打ち砕くがいい」
「ブリュンヒルテ、我が妻よ」
グンターが慌ててその彼女に告げる。
「落ち着くのだ、今は」
「離れるのです、裏切られた人よ」
「私もまた裏切られたというのか」
「そう、自ら裏切られた人よ」
こう彼に告げるのである。
「聞くのです」
「何だ?」
「今度は一体」
「私はこの人と結婚したのではなく」
一旦グンターに顔を向けてからであった。
「この人と結婚したのです!」
「ジークフリートとだと!?」
「グートルーネ様の夫と」
「まさか」
誰もが、ハーゲン以外の全ての者がそれを聞いて唖然となった。
「そんなことが」
「有り得るのか」
「この人は私から喜びも愛も奪ったのです」
こう告発するのである。
「全てをです」
「私は貴女がわからない」
ジークフリートはまさに狐につままれた顔になっていた。
「自らの名誉をそこまで傷つけられるとは」
「まだ嘘を言うの?」
「私は嘘は言っていない」
少なくともジークフリートには自覚のないことであった。
「その言葉が作り事だというのを私が言わないといけないのですか?」
「そうです」
「私が信義を破ったかどうか聞くといい」
彼にしてもこう言うしかなかった。
「私はグンターと兄弟の誓いをしてそれを私の剣ノートゥングが守ってくれたのだ」
「だから何だというのです?」
「剣の名誉にかけて言う」
これが彼の言葉だった。
「絶対にだ」
「そんなものを引き合いに出しても」
しかしブリュンヒルテも言うのだった。
「そんなものは何の役にも立ちはしない」
「無駄だというのか」
「そうです」
まさにその通りだというのだ。
「その剣は鞘まで知っている」
「では余計に」
「剣の持ち主が恋慕の女に言い寄った時にはその忠実な友人ノートゥングは気楽に鞘に収まって壁にかかっていただけなのです」
「ジークフリート」
グンターは強張った顔でジークフリートに問うてきた。
「君が彼女の言葉に弁明できなければ」
「その時は?」
「君は私の名誉を汚したことになる」
そのことを言うのであった。
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