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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第19話 「俺は……劉玄徳を万難から護る盾! 北郷盾二だ!」





  ―― 周瑜 side 宛 ――




「なんですって!?」
「さ、叫ぶなや……耳が痛いやん」
「こ、これは失礼を……」

 私は、思わず叫んでしまった非礼を詫びつつ、内心で舌打ちする。
 雪蓮め……勝手なことを!

 宛での黄巾は、半分が討ち取られ、半分は散り散りに遁走した。
 これは張遼将軍が、死兵となった黄巾を無理に討ち取るなと自ら伝令して回った結果だった。
 やろうと思えば殲滅すらもできただろうに……

 だが、張遼将軍は宛を解放することを第一としたようで、宛内部での火矢の使用も禁じている。
 もっとも、これは本陣の諸葛孔明の献策らしいが……

(諸葛孔明、か)

 あの天の御遣いの臣として、本陣での統率を担っている。
 その采配は、とても誰かの臣とは思えない。
 一軍の将、筆頭軍師としても遜色はない。
 だが、彼の人物は、それを越える人物に仕えている。

(その孔明を従わせ、力量は将を越え……志もかなりのものと見た)

 この世全ての軍師がわが師……恐ろしい言葉だ。
 つまり、どんな相手も侮らず、どんな相手にも油断せず、どんな策をも自分の身に取り入れようとする。
 その貪欲さ、勤勉さ、そして……周到さ。

(我らが独立した後、最大の敵となるやもしれん)

 その恐ろしさに、私は身の毛もよだつ感覚を覚える。
 武で雪蓮を超え、智で私を超え、その先を目指す眼光はまるで――

(まるでかの覇王・項羽ではないか……)

 ――危険だ。
 そう私の勘が、警鐘を鳴らす。
 だが……だが雪蓮は、そんな彼を夫にと言った。
 それはつまり……雪蓮の人徳と彼の文武、それがそろえば天下すら望める、ということ。

 欲しい。
 確かに、欲しい……

「――て、おーい? 周瑜ー? きいとるんかいっ、あんたわっ!?」
「うわははははい!?」

 はっ! いかん。
 つい、物思いに耽りすぎてしまった!

「なんやもー、みんなしてウチの前で物思い耽りやすいん? 盾二といい、翠といい……何や真面目に指示だしとるウチが、アホみたいやわ」

 ブツブツと呟いて頭を抱える張遼殿。
 い、いかん。
 これでは軍師失格だ。

「ま、まことに申し訳もなく……」
「えーんや、えーんや。どうせウチなんて……将軍なんて呼ばれるほど、統率も才覚もないねん。孫策も言うこと聞かんし……」
「うっ……」

 そ、そうだった。
 雪蓮の馬鹿者めぇ!




  ―― 孫策 side 宛近郊 ――




「へっぷしゅ!」
「そ、孫策様……」
「あ、ごめんね……ばれたかな?」

 思わず丘下の黄巾を覗こうとする。
 すぐに兵に止められたけど。

 息を潜めているけど、特に反応はなし。
 あー……よかった。

「ふう……じゃあ、そろそろいい頃合ね」
「このまま坂から急襲すると?」
「うん。わたしの勘だと、たぶんそれで十分だと思うのよね」
「はあ……」

 やっぱ信じないわよね。
 呉の兵ならすぐに『応っ!』って反応してくれるんだけどなー。
 まーいっかー。
 たぶん、あの中に劉備って()いなさそうだし。

 勘だけど。

「んじゃ、いくわよー」
「そ、孫策様!?」

 わたしが剣を抜いて、馬で丘を駆け下りる。
 その坂下では、黄巾の一団が無防備な姿を晒していた。

 ほらほら。さっさとしないと、わたしだけで片付けちゃうわよー。




  ―― 盾二 side 宛近郊 ――




 あれから一刻。
 東へ分かれた部隊を追跡すると、人里が見えてきた。
 どうやらあそこに駐留する気らしい。

(桃香がこちらの部隊にいるなら、取り戻すチャンスだな)

 まずは、桃香がいるかどうかを確かめねばならない。
 俺は、部隊が邑に入るのを見届けると、林の中を回り込んで木に登り、陣容を見る。

 部隊はおよそ千ニ~三百ほど。
 それに対して邑は……せいぜい数百だろうか。

 と、悲鳴と怒号が聞こえてきた。

(!)

 黄巾の兵が、邑の人々を虐殺しはじめた。
 何箇所かの人家に火を放ち、それを灯りに邑の人間を脅し、見せしめに殺し、邑の広間へと人を集めている。

 ギリッ!
 俺の歯が軋む。

(……無辜(むこ)の人間になんという)

 犬畜生にも劣る連中だ。

 俺とて一般人ではない。
 元傭兵でもあった。だから現代での非道も見てきている。

 軍事政権の軍が、ゲリラの村に対して虐殺するのも見た。
 対して、ゲリラが活動資金ほしさに関係のない街で虐殺を行うのも見た。
 だが、見慣れていることと、赦せる事は違う。
 それらは反吐が出る蛮行だ。

 今、眼下に繰り広げられる虐殺。
 下種(げす)……まさしく下種の所業だ。

(……敵の数は千ちょっと。やって()れない数ではない。だが……)

 問題は人質である桃香。
 彼女がここにいるか、まだ確認ができていない。

 そして、もしここに彼女がいて騒動を起こせば……人質として殺される可能性もある。

 彼女がもし死んでしまったら……この三国の時代はどうなる。
 完全に歴史が変わってしまう……

(いや、すでに歴史は変革しようと思ったはずだ。なにを迷う……)

 霞に告げた要望。
 彼女は「たぶん通るやろ」と言っていた。

 それが成れば……歴史は本当に変革するはずだ。
 ならば……ここで劉備が死んだとしても。
 影武者を立てることができれば……

(待て。俺はなにを考えている)

 劉備は……桃香は……
 おれ、は……

(『頼りにしてるよ、ご主人様』)

 !!
 
 彼女の声が聞こえた気がした。
 そして視線の先には――

 は、はは。
 そうか……そうだったな。
 俺は彼女に……頼りにされていたんだな。

 ……俺は、なにをバカなことを考えていたんだ。

「助けるに、決まってるじゃないか……」

 彼女の信。
 それは絶対に裏切れない。

 それこそが俺の、不文律。

「俺は……劉玄徳を万難から護る盾! 北郷盾二だ!」

 俺は、木から飛び降り、その場を駆け出した。
 広間で子供二人を護ろうとする、彼女を見つけて。




  ―― 劉備 side ――




「なにしてんだ、テメェ……」

 私を捕らえていた黄巾の人が、剣を向けてくる。
 私はそれを見据えながら、震える身体に鞭を打つ。

「もう一度言います。こんな酷いことはやめてください。この邑の人たちに、なんの恨みがあるんですか」

 私の背中には十歳ぐらいの男の子と、それより二~三歳年下の男の子が隠れている。

 私から離れた場所には、彼女の両親であろう人が他の黄巾の兵に取り押さえられていた。

「恨み……? 恨みねぇ」

 私に答えている身なりのいい黄巾の人。
 たぶん、将軍とか部隊を率いる立場の人だろう。
 でも、その目は醜く濁っていた。

「恨みがなきゃ、殺しちゃいけねぇのか?」

 その人は、そう言って薄笑いを浮かべている。
 その姿は、邑を荒らしまわる賊と変わらない。

「恨みがあっても殺しちゃだめです! 話し合えばちゃんとわかりあえる筈です!」
「……は?」

 私の言葉にその人も、周囲の黄巾兵もぽかん、と呆けた顔をして……爆笑した。

「「「ぶははははははっ!」」」

 でも、私はその彼らを睨みつけている。
 私の背中には、震え、縋る四つの手を感じる。

 この子たちだけでも護らないと……

「ひ~ひ~……ふはっ! おもしれえ、おもしれえ姉ちゃんだ。頭がイカれてるようだな」

 黄巾の将らしき人は、そう言いながらその手に持つ剣を、私の顎へ向ける。

「話し合えばわかる、ねぇ……何をどう話し合えばわかるんだ?」
「貴方達はなぜ蜂起したのですか? 何故、漢に逆らうのですか?」
「ふっ……そこからかい。まあいいや、おもしれぇから付き合ってやるよ」

 その人は、剣を私の顎から引くと、その場に突き刺した。

「黄巾ってやつはただの不満の塊よ。喰えねぇ、金ねぇ、やることなすことうまくいかねぇ……そんな連中の集まり、だと俺は思ってる」
「……なんらかの大義があるわけではない、と?」
「大義? はははははは! さてね、この乱を考えた奴がどんな大義を持っているかは知らねぇよ。だが、大部分はそんなもんだ……おい、お前らはどうだ!?」

 彼は、周囲の黄巾の兵に問いかける。

「俺は飯喰うのもあるけど、女抱ければ、だなぁ」
「そうか? 俺は暴れられればどうでも……」
「私は金目の物をいただければ……」

「そ、そんな……」

 大義もなく、ただ生きるためだけでもなく……
 それではまさしく賊と変わらない。

 あの馬正さんの元にいた黄巾の人たち。
 彼らとはあまり話す時間がなかったけど、それでも少しは話が聞けた。

 彼らのほとんどは食べる為に止むを得ず参加した人、もしくは官の不正に憤りを持つ人ばかりだった。

 だが、この人たちは、ただ自分の享楽のためだけに人を殺すという……

「まあ、張角っていうこの乱の主導者も、実際はただ大陸が欲しいだけらしいしな。その後の事なんか考えてもいないんじゃねぇか?」
「…………」
「幹部の連中は、ほあほあ言ってばっかだしな。まあそのおかげで好き勝手できるから、俺としては助かるがね」
「……貴方は、何のために黄巾に参加したんですか?」
「俺か? そんなもん、決まっているじゃねぇか」

 そう言って、彼は私に近づく。
 私は、キッと相手を睨みつけた。

「俺の目的は……金、食い物、そして……女だ、よっ!」

 ビリッ!

 彼が言葉とともに、私の服を掴むと、おもむろに引き裂いた。

「きゃあああああああっ!」

 私は曝け出された胸を両腕で隠して、(うずくま)る。

「へっ……なかなかいい女だ。犯しがいがありそうだぜ……」

 彼は、私を押し倒すと、さらに服を引き千切る。

「やだっ! やめて! いやぁぁぁぁぁぁっ!」
「はっはっは! 泣き叫ぶ女も、いいもんだな!」

 いやぁああああああっ!
 私が逃げようとすると、彼が私の背中から身体を押さえつける。
 そして、腰を上げさせて、下着をずり下ろそうとする。

「やだ、やだ、やだあああああああああっ!」
「ははははは! ほら、どうした! 話し合えばわかるんじゃなかったのか!? 話してみろよ、どうやって犯して欲しいってなぁ!」

 やだ、やだ、やだやだやだやだやだやだやだ!

「助けて!」

 私が叫ぶ。
 だが、邑の人たちはうなだれて動かない。

「助けて!」

 私が叫ぶ。
 だが、子供達は震えて動けない。

「助けて……愛紗ちゃん! 鈴々ちゃん!」

 私が叫ぶ。
 だが、二人はここにいない。

「はははははは! ほら……股、開けよ! ツバつければ濡れんだろ!」

 彼は……私を抑えながら、下履をずり下ろした。

「いやああああああああっ!」

 助けて……
 助けて……
 助けて……

 助けて……盾二、さん。
 助けて……ごしゅじん、さま。

 つぷっ。
 私の股に、何かが当たった。
 
「助けてぇぇぇぇぇ! ご主人様ぁぁぁぁぁぁっ!」

 私は燃え盛る家屋に照らされながら、闇夜に泣き叫んだ。

 その燃え盛る家屋が、突然爆発した。




  ―― 韓忠 side ――




 さて、入れるか……
 そう思ったときだった。

 突然、周囲の家屋が爆発した。

「ぐあ!」
「ひいいっ!」
「な、なんだぁ!?」

 周囲の兵どもは爆風に吹き飛ばされる奴、飛んできた木の破片で傷つく奴、逃げ出そうとする邑人を取り押さえようとする奴と様々だ。

「ちっ……家の中になに入れてやがった!」

 もうちょっとだったのによ……そう思って振り向いたときだった。
 炎の中から、黒い人影が近づいてくる。

「……まだ、邑に人が残っていやがったのか!」

 俺は、下履を履きなおし、地面に突き立てた剣を取る。

「おまえら、中に誰かいるぞ。引きずり出して来い!」

 俺の命令に、十人ほどが燃え盛る家の残骸を取り囲む。
 その瞬間だった。

 突然の爆発音とともに、取り囲んだ兵ごと家が吹き飛ぶ。

「な!?」

 あまりの出来事に、俺は目を疑った。
 爆音とともに巻き起こる突風に、顔を守るように身構える。

 すると――足音が聞こえた。
 木を踏み抜く音。
 大地を踏みしめる音。

 それはまるで……巨大な怒気の塊だった。

 炎の中から現れたのは――黒ずくめの魔人だった。

「…………」

 その魔人は、鋭い眼光を周囲に向け――

「……ぅぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 

 
 叫んだ。

 そして消えた。

「「「「ぎゃああああああああああああっ!」」」」

 !?

 俺が悲鳴をした方を見る。
 そこには……

「ヒッ!」

 捕らえられていた邑人が息を飲む。
 それもそのはずだ。

 邑人を捕らえている俺の兵。
 その頭が空に千切れ飛んでいる。

 それも数十も。

 俺は、それを呆然と見ている。

 最初に見えた首が、ようやく地面に落ちようとする間に、その周囲にいた百を越える首が次々に飛ぶ。
 それはまるで波のように見えた。

 黒い風に、人の首が刈り取られていく。

 そしてその風は、邑人を捕らえていた兵の半数を、最初の首が地面に落ちる刹那に全て刈り取った。

「…………」

 黒い風は、先程の男だった。

「……な」

 その一言を出すのが精一杯な時間。
 その一瞬で、百数十の兵の首を刈り取った。

「……や」

 俺は、自分でも意識しない間に叫ぼうとしていた。

()れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 俺の狂気と、兵の渦巻く恐怖が、魔人のどす黒い怒気と交じり合う。

 戦闘が……始まった。 
 
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