久遠の神話
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第四十五話 二度目の激突その六
闇に似ているが違う、限りなく黒に近いがまた違う紫で生き物の様に蠢くそれを己の剣に帯びさせて言うのだった。
「今からな」
「そうですね。じゃあ」
「心配するな。俺はいたぶる趣味はない」
それは断じてだというのだ。
「苦しむことはない」
「いえ、苦しむ以前に」
上城もまた構えている。剣道の中段の構えを取りながらそのうえで加藤と対峙してそうしての言葉である。
「僕が貴方に勝ち」
「そしてか」
「貴方を止めますので」
だから苦しむことはないというのだ。
「そうなりますから」
「そういうことか。それではな」
「ええ、行きます」
上城は前に出た。剣道のすり足で前にすすす、と出る。そのうえで。
一旦右に出てそこから中段のその剣を前に出す、その剣からだった。
水が刃となって出る。それは流星の形をしていた。
水の流星、それを見て加藤は言った。
「水は一見すると弱い」
「ええ、一見は」
「しかしだ」
「はい、使い方によってはそれが変わります」
「その水圧で鉄にも穴を開けられる」
「それです」
まさにそれだというのだ。
「この水もまた」
しかもそれは一撃ではなかった。続いてだった。
二つ三つと続けて突きを出す。そのうえで加藤に向ける。
右から左に動き前からも出す。二つの方向から流星を放っていた。その水の流星達を前にしてもそれでもだった。
加藤は動じない。それでこう言うのだった。
「そう来るならだ」
「どうしますか?」
「こうするだけだ」
言うと姿を消した。不意にだ。
それで流星達をかわす。流星達はそのまま空を飛び何処かへと消えていく。だが上城はそれを見てはいなかった。
加藤が姿を見てすぐに場所を変えた。後ろに下がる。
そこからすぐに上に跳ぶ。その左にだった。
加藤が出て来た。そのうえで彼の剣で斬りつける。その剣に対して。
上城は己の刀で弾き返す。そしてそのまま空中で激しい斬り合いを演じる。それからだった。
二人は互いに着地してまた対峙する。その中でだ。
加藤は上城にこう言った。
「今のを受けたか」
「直感で」
「それで受けたか」
「はい」
そうだというのだ。
「来ると思いました」
「さっきの水の矢達はな」
加藤は上城が出したそれをこう呼んだ。
「受け止めるよりはだ」
「かわす方がですか」
「そうだ。だからああした」
かわしたというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「かわすのと一緒にですね」
「ああして仕掛けた」
攻めたというのだ。その上城を。
「だがそれは受けたか」
「はい、そうです」
二人はまた構えに入っている。そのうえで。
対峙を続けていた。そして言うのだった。
「直感で」
「読んではいないか」
「特にか」
「全て直感か。成程な」
加藤は考える顔はしていなかった。彼もまた本能的に何かを察しながらそのうえで語っている感じであった。
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