久遠の神話
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第四十五話 二度目の激突その四
「命のやり取りだからだ」
「面白いっていうんですね」
「スリル、刺激や興奮と言ってもいい」
加藤は高揚感と共に上城に話していく。
「そうしたものがあるからだ」
「いいんですか」
「そうだ、いい」
まさにだというのだ。
「俺は好きだ。戦いがな」
「ですか。それなら」
上城はここまで聞いて今加藤と会ってから内心にあったものをさらに強いものにした。そのうえで彼にこう言葉を返した。
「僕もです」
「闘うか」
「戦いを止める為に戦う」
強い決意と共に言う。
「決めましたから」
「だから今俺と闘うか」
「はい、そうします」
上城は己の左手に剣を出した。水の力を持つ青い刀身の日本刀だ。
それを出してだ。構えてからまた言う。
「僕は貴方を止めます」
「止めるか」
「そうします」
「なら俺はだ」
その好戦そのものの赤く燃える目での言葉だ。
彼もまた己の剣を出して構える、そして上城と対峙して述べた。
「楽しませてもらう」
「今この闘いをですか」
「俺は戦えればそれでいい」
加藤はこのことを言って憚らない。
「全くな。それではだ」
「やりますね」
「行く。いいな」
「はい。じゃあ村山さん」
上城は自分の左隣にいる樹里に顔を向けた。そして彼女にも言った。
「今はね」
「うん、それじゃあね」
「後ろに下がっていてね」
闘いに巻き込まれるから安全な場所にいて欲しいというのだ。
「そうしてね」
「怪我はね」
「しないよ」
樹里を安心させる為にあえて微笑んで言った言葉だった。
「何があってもね」
「わかってるよ。何があってもね」
二人で話してだった。そのうえで。
樹里は上城の言葉に従い後ろに下がった。上城はそれを見届けてからあらためて加藤と対峙する。その加藤が彼にこう言う。
「武士道か」
「あの娘に下がってもらったことですか」
「闘いに巻き込みたくないからだな」
「その通りです」
下がってもらった、上城は加藤にも答える。
「そうします」
「いいことだ。しかしだ」
「しかし?」
「俺も武器を持たない、拳を構えない相手に興味はない」
己の剣を構えながらの言葉だった。
「何もな」
「戦う気がないとですね」
「俺が興味があるのは戦いだ」
あくまでそれだというのだ。
「弱い者いじめはしない」
「戦ってもですか」
「弱い者をいたぶる趣味はない」
こうも言う。
「何があってもな」
「ですか」
「戦いといじめは違う」
加藤はその両者の間には明確な線引きをした。
「俺の趣味は戦いだ。興味があるのは武器を持つ相手だ」
「そして今は僕ですね」
「あの娘は最初から今も何の興味もない」
やはり武器を持たない、拳も構えていないからだった。加藤は少なくとも弱者を虐げることには全く関心がなかった。
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