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万華鏡

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第二十九話 兵学校その十六

 その夜も先輩達に色々と話をされる、その中で。
 宇野先輩は昨日と同じく広島弁でこう五人に言った。
「土日は呉にするけえ?」
「あの町ですか」
「そこに行くんですか」
「午前はもう決まってるけえ」
「はい、江田島ですよね」
「あそこへの史跡研修ですね」
「広島市や厳島にも行くけえが」
 このことももう決まっている、それと共になのだ。
「江田島もじゃけえ」
「色々観られますよね」
「ハンカチ用意しときんしゃい」
 宇野先輩はここで五人にこうも言った。
「わかったけえ?」
「ハンカチ、ですか?」
「それもですか」
「泣くけえ、あそこは」
 だからだというのだ。
「ハンカチは必須のものじゃけえな」
「ほんまな、あそこはええ勉強になるで」
 高見先輩も大阪弁で言う。
「泣くから、あんた等も」
「確か特攻隊の資料もありますよね」
 里香が話す。
「そうでしたね」
「そやねん、回天の資料もあるし」
「悲しい話のことも一杯あるけえ」
「格好良さとかだけちゃうさかい」
「ハンカチは必須なんじゃ」
「特攻隊とかもありますよね」
 琴乃は顔を前に出して宇野先輩に問うた。
「やっぱり」
「それじゃ、それが悲しいんじゃ」
 まさにそれがだというのだ、特攻隊の話が。
「人間全部を賭けて死んだ人達じゃけえ」
「鹿屋にも記念館がありますよね」
 里香は宇野先輩にこのことも言った。
「あそこにも」
「鹿児島やの」
「はい、あそこに」
「わし鹿児島は詳しくないんじゃ」 
 先輩は少し困った感じになって里香のその言葉に答えた。
「申し訳ないんじゃがのう」
「そうなんですか」
「お父ちゃんもお母ちゃんも広島なんじゃ」
 生粋の広島人だ、だからだというのだ。
「九州自体に縁が薄いんじゃ」
「そうなんですか」
「誰か鹿児島の子おったか?」
 宇野先輩は高見先輩に顔を向けてこのことを問うた。
「誰かおるけ?」
「おらんかったんちゃうか?今ここには」
「そうじゃったか」
「鹿児島はな」 
 そこはというのだ。
「おらんかったわ、確か」
「そうなんじゃ」
「そや、ただな」
「ただ?」
「九州はおるやろ」
 鹿児島出身はおらずとも同じ九州出身はというのだ。 
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