お手紙
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第三章
それで今度はボードレールにしようと思った、だが。
その女子生徒達はこうも話した。
「ボードレールっていいの?」
「あの人の詩は癖あるわよ」
「そうなの?」
「そう、代表作は悪の華だけれど」
これがボードレールの代名詞ともなっている。
「結構ね、人選ぶから」
「そうした詩なのね」
こんな話を聞いた、そして実際にだ。
その悪の華を見つけて読んでみた、そのうえでの感想は。
「これは駄目ね」
手紙の参考に使えなかった、確かにあまりにも癖が強かった。
それで他の詩人にしようとした、次に見掛けたのは。
ハイネだった、それにすることにした。
ハイネの詩集を自分が座っていた机に戻ってそこで読みながら書く、すると筆はこれまでの倍以上の速さで進んだ。
筆を快適に進めていた、するとだった。
その横から声がしてきた、その声はというと。
「どうしたの?」
「!?」
唯は声がした方を見て驚いた、そのうえで。
そこには明るく晴れやかな顔をした背の高い少年がいた、年齢は唯と同じ位だった。
背は一八〇を越えている、黒く量の多い髪を鬣の様んしいている。黒い眉がかなり濃く男らしい感じである。
丸みのある愛嬌のある目は二重で顔も細長めだがやはり何処か丸さがある。鼻や口の辺りも人懐っこい感じだ。
名前を釘宮涼という、唯の想い人だ。その彼がいきなり出て来て驚いたのだ。
「どうしてここに!?」
手紙を慌てて席の傍に置いていた鞄にしまいながら返す。
「いるの?」
「うん、実は妹に頼まれててさ」
「妹さんに?」
「そうなんだ、詩を読みたいって言ってさ」
「それで図書館に来たの」
「ハイネね」
詩集は彼のものだというのだ。
「それを読みたいって言ってさ」
「ハイネだったら」
唯は涼の言葉にはっとなった、そしてだった。
早速だ、彼に手元にあったその詩集を出して言った。
「これね」
「あっ、勝宮さんが持ってたんだ」
「たまたまね」
事実を何とか隠しながら答えた。
「読んでたの」
「そうなんだ、それでどんな感じかな」
「ハイネ・」
「うん、聞かせてくれるかな」
こう言うのである。
「よかったら」
「じゃあ」
唯は内心の戸惑いを抑えながら涼と話す、そうしてだった。
涼と話をはじめた、それがきっかけになった。
二人は交際をはじめた、図書館で書いた手紙を渡すとそれも笑顔で受け入れてもらった。
このことをだ、唯は愛実と聖花に満面の笑顔で話した、こう言うのだった。
「もう本当にね」
「最高っていうのね」
「そう言うのね」
「まさか図書館で会えるなんてね」
そのことがだというのだ。
「思いも寄らなかったし」
「そこからはじまったこともよね」
「最高っていうのね」
「そう、あの噂は本当だったのよ」
図書館で手紙を書けばその相手と結ばれる話がだというのだ。
「だって私がそうなったから」
「そういうことなのね」
「本当になることだったのね」
「そうなの、こんないいことってないわ」
また言う唯だった。
「だから二人もね」
「ううん、私はまだね」
「私もね」
愛実と聖花は二人の言葉に少しはにかんで答えた。
「そういうことはね」
「いいわ」
「そうなの、じゃあいいけれど」
唯も二人の言葉を受けてそれでは、と返した。顔は笑顔のままだ。
「それだとね。それでだけれど」
「ええ、今からね」
「はじめよう」
二人も応える、今三人はその商業科の図書館の席に三人でいる。
そしそこでだ、教科書とノートを開いていた。
問題集もある、聖花は唯に彼女が持っている問題集を見せて言って来た。
「それで夏目漱石の代表作はね」
「坊ちゃんよね」
「あと四つ覚えていたらテストも大丈夫」
「四つ?」
「そう、今回のテスト範囲で出るのはこころだから」
だからだというのだ。
「他の四つね」
「わかったわ、じゃあまずは吾輩は猫である、に」
唯は漱石の作品のチェックをはじめた、愛実もそれに続く。今は図書館の中で三人で勉強をするのだった、恋が実ったその図書館の中で。
お手紙 完
2013・5・29
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