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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第69話

麻生は自分の高校に向かって歩いていた。
何故向かっているのかというと、高等学校部門の第一種目である棒倒しに出場しなければならないからだ。
これはクラス全員参加なので麻生も拒否する事が出来なかった。
競技場の入り口には選手と応援と出入り口が別々である。
そのちょうど分かれ目に上条とインデックスが分かれる所だった。
上条は麻生が後ろにいる事が分かると近づいてくる。

「よう、恭介。」

「・・・・・・近づかないでくれ。」

「へ?何で?」

「最近不幸な出来事に会っているのは、お前の不幸が移ったからだと俺は考えた。
 だから、極力近づかないでくれ。」

「それ関係ない・・・・のか?」

自分が結構麻生を巻き込んでいる事に気がついたのか、語尾が疑問形になる。
空気が重たくなっているのを感じたのか、上条は話題を変えてくる。

「そ、そうだ!
 学校の順位で常盤台中学に負けたら、御坂のヤツに罰ゲームで何を要求されるか分かったもんじゃないな!!
 だから、最初のこの種目は気合い入れていかないとな!!」

「お前が勝手に巻き込んだんだろう。
 言っておくがもし負けたらお前が俺の代わりに罰ゲームを受けろよ。」

卑怯だ!!、と上条は叫ぶ。
当たり前だ、ボケ、と麻生は鬱陶しいそうな顔で言う。
二人は他愛のない話をしながらクラスメート達がいる所に向かう。

「しかし、俺がやる気なくても他の奴は気合入っているだろ。
 ああ見えて負けず嫌いが多い連中だからな。」

「でも、あいつら準備中とか馬鹿騒ぎの連続だったからな。
 恭介の言っている事も合っているし、むしろ勝つために何をやらかすか心配なくらいだな。」

上条はクラスが無駄な団結力に対して期待感で胸をいっぱいにしつつ、校庭の端にある選手控えエリアへ意気揚々と乗り込み、クラスメイト達の輪の中へ入る。
麻生も麻生で無駄な団結力に自分も巻き込まれるであろうと、今から疲れたため息を吐いている。
そして、こういったお祭り騒ぎがいかにも好きそうな青髪ピアスがこちらへ振り返る。

「うっだー・・・やるきなぁーい・・い。」

上条は何もない地面で盛大に転がった。
さすがの麻生もあまりのテンションの低さに少し驚いている。
周りを見渡すと他のクラスメイト達も大体そんな感じだ。
つまり全員が日射病の一歩手前みたいな顔をしている。

「ちょ、ちょっと待ってください皆さん。
 何故に一番最初の競技が始まる前からすでに最終日に訪れるであろうぐったりテンションに移行していますか?」

上条の問いかけに、青髪ピアスがガバッと振り返って言う。

「あん?っつかこっちは前日の夜に大騒ぎし過ぎて一睡もできんかったっつーの!
 しかも開会式前も、どんな戦術で攻め込みゃ他の学校に勝てるかいうてクラス全員でモメまくって、残り少ない体力をゼロまですり減らしちまったわい!!」

「馬鹿だな。」

「全員それが原因なの!?
 結論言っちゃうけどみんなまとめて本末転倒じゃねーか!
 麻生の言葉を借りる訳じゃないけど、馬鹿だろテメェら!!
 しかし、姫神はおめでとう!
 ちゃんとクラスに溶け込めているようで上条さんはほっと一安心です!!」

姫神というのは、上条と麻生からちょっと離れた所に立っている女神秋沙の事である。
色白で、腰まである長い黒髪の少女で、吸血殺し(ディープブラッド)という特殊な能力の持ち主。
現在はその力を封印する為、半袖の体操服の胸の中へ隠すように、首から十字架を提げている。
彼女は今月の初めに麻生のクラスに転入してきたばかりである。
姫神は逆に今時珍しい純和風の黒髪を軽く揺らしながら言う。

「学生の競技なんて。所詮そんなもの。
 専属のトレーナーとか。コーチがいる訳でもないし。」

「うっ、所詮とか言われた。」

これは完全に負けフラグだな、と麻生は思う。

「にゃー、でもカミやん、テンションダウンは致し方ない事ですたい。
 何せ開会式で待っていたのは十五連続校長先生のお話コンボ。
 さらに怒涛のお喜び電報五〇連発。
 キョウやんがあの爆発に巻き込まれたのを見て少しは気が紛れたけど、それも今のこの状況を見れば分かる通りですたい。
 むしろ、カミやんやキョウやんはよく耐えたと褒めてやるぜーい。」

言ったのは土御門元春。
生徒に見せかけた、魔術にも科学にも精通する多角経営スパイだ。
短い金髪をツンツンに尖らせ、薄い色のサングラスをかけて、首元には金のアクセサリーがジャラジャラついている。
半袖短パンの体操服と装飾品のバランスが果てしなく似合っていない。
土御門の聞き捨てならない発言に麻生は反応する。

「おい、今俺の事をキョウやんと呼ばなかったか?」

「うん?そう呼んだが何かあるかにゃー?」

「大有りだ。
 その呼び名止めろ。」

「似合っているのに勿体ないにゃー。
 気にするなよ、キョウやん。」

ぐったりとだらけながらも口はしっかり動かす土御門。
麻生はこれ以上言っても意味がないと分かり、舌打ちをして黙る。

「た、体力馬鹿の青髪ピアスや土御門ですらこの有様・・・・い、いや待て、対戦相手も同じようにグッタリしてればまだ勝機がッ!?」

「駄目だにゃーカミやん。
 なんか相手は私立のエリートスポーツ校らしいっすよ?」

ぎゃああ!、と上条は完全に地面に突っ伏す。
脳裏には御坂美琴に敗北した後に待っているであろう地獄絵図の罰ゲームが明確に浮かんでくる。
さらに麻生の罰ゲーム分を受けなければならないというおまけつき。
自然と全身に恐怖の鳥肌が立ってきた所へ、クラスの女子生徒の一人が遅れてやってきた。

「な、何なの。
 この無気力感は!」

麻生と上条は声のする方に顔を向ける。
他のクラスメイトと同じく半袖短パンを着た少女だが、その上に薄手のパーカーを羽織っている。
パーカーの腕の所には「大覇星祭運営委員・高等部」と書かれている。
おそらく背中にも同じ文字が書かれているだろう。
クラスの中では背が高い方で、スタイルも良い。
体操服のTシャツの上から、ぐぐっと胸が盛り上がっているのが一目でわかる。
黒い髪は耳に引っ掛けるように分けられていて、おでこが大きく見えるようになっていた。
彼女の名前は吹寄制理。
またの名を、美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女とも言う。
そして、麻生恭介を救った一人でもある。
実は、制理は幼い頃に麻生と出会っている事は覚えていない。
麻生は一目見ただけで分かったが、相手は初対面の反応をしたので麻生はそのまま黙っていた。

「ハッ!まさか、麻生。
 また貴様がやる気がないから、それが皆に伝染して。
 貴様・・・これはどう収拾をつける気なのよ!」

「俺のせいじゃない。
 むしろ、当麻のせいだ。」

「ちょ!!俺のせいなのか!?
 第一、俺も恭介も今さっき来たばかりだぞ!!」

「つまり、貴様らが遅刻したから皆のやる気がなくなったのね?」

「どうやってでも俺達のせいにしたいみたいだな。」

「勝手に含めるんじゃねぇ!!
 吹寄だって俺達より遅れて来たじゃん!」

「あたしは運営委員の仕事よ馬鹿!」

割と問答無用で馬鹿扱いか俺!と上条は泣き出しそうになる。

「もう放っといてくれ!
 駄目なんです、不幸な不幸な現実に直面した上条さんは今ちょっと立ち上がれない状態なんです!!」

「だらしない。
 それは心因性ではなく朝食を抜いた事による軽い貧血状態よ。
 ほら水分とミネラルがあれば問題ないわスポーツドリンクで補給しろそして立ち上がるのよ上条当麻!」

もはや狙いが上条一点になっている事にさらに不幸だと、項垂れる。
制理のパーカーのポケットから五〇〇ミリサイズの半分ほどの長さのペットボトルが数種類も飛び出してくる。

「お前も懲りないな。
 まだ、そんな健康食品とか集めているのか?」

「うるさいわね!
 飲料商品は買っても外れはないでしょうが。」

「そう自分に言い聞かせて大量に買い漁っているんじゃないのか?」

麻生がそう言うと制理から言葉が出ない。
どうやら図星の様だ。

「と、とにかく、あたしはね、不幸とか不運とかを理由につけて人生に手を抜く輩が大っ嫌いなの。
 貴様一人がだらけると周りもやる気がなくなる。
 だから、シャキっとしなさい皆の為にも!」

キーキーと立て続けにまくし立てる吹寄制理に、上条は思わずたじろぐ。
後ろへ下がる少年に対して、運営委員はさらに距離を詰めていく。
上条は後ろへ下がろうとするが、背後にあるのは花壇だけだ。
それを見ていたクラスメイト達は歓喜の表情を浮かべる。

「す、すげぇ。
 すげぇよ吹寄!
 流石は対カミジョー属性完全ガードの女!」

「いつものパターンなら「か、上条君、大丈夫?」とかフォローにいっちゃう所なのに!」

「そして、不幸だと何とか言いながら一番美味しいポジションを占有する筈なのに!!」

「我々人類の希望やね。
 吹寄制理を研究する事で、カミやんを克服できるかもしれへん!!」

どんな評価を受けてんだよ俺ーっ!?、と上条はぐったりしながら後ずさる。
と、不意に、上条の足がグニッと何かを踏んだ。
それは散水用のゴムホースだった。
土の校庭の砂埃を起こすのをある程度防ぐため(完全ではない)競技前に水を撒くためのものだ。
遠くを見ると、校庭で作業している男性教論が「ん?」という感じで、水の出なくなったホースの口を眺めている。
瞬間、上条の足で堰き止められていた水が爆発した。
地面に埋め込まれた、散水専用の蛇口に繋げられたホースの口が勢い良く外れ、辺り一面に水道水を撒き散らす。
蛇口から一番近くにいたのは制理だ。
水道水が制理に向かって飛んでくるが誰かが制理を抱きしめ自ら盾になる。
その人物は麻生恭介だ。
全身が水浸しになるが、麻生は制理に聞く。

「大丈夫か?」

抱きしめられ、しかも顔もおでことおでこがくっつくくらい近い状態で話しかけられ、さすがの制理の顔を赤くする。

「水はかかっていないか?」

自分が水浸しなのに制理に水がかかっていないか確認する麻生。

「だ、大丈夫よ。」

「そうか、ならいい。」

制理の言葉を聞いた麻生は制理から離れる。
制理から離れる際、能力を使い水道水の蛇口を閉める。
その光景を見ていた男子クラスメイト達は悲哀の表情を浮かべる。

「し、しまった!!
 この男がいる事を忘れていた!!」

「あの吹寄すらも攻略するのかこのキョウやんは!!」

「最近になって性格が良くなって女子への人気が急上昇している。
 この男に攻略できない女子はいるのか!!」

「ある意味、上条属性よりも性質が悪いぞ!!」

男共の悲痛な叫びに麻生は無視して近くにある体育館の壁に寄りかかる。
一方、女子達は制理を助け、気遣いの心を見せる麻生に見惚れている。
それを見た男達はまた麻生属性が蔓延している!!、と叫びを上げる。
制理も制理でまだ顔を赤くしていた。
上条は自分の不幸のせいで濡れてしまった麻生に近づいて謝ろうとする。

「恭介、悪いな。
 水をかけてしま・・・いってえええええぇぇぇぇぇ!!!」

上条が謝罪を言う前に麻生はハリセンで思いっきり上条の頭を叩く。

「これでチャラだ。」

さすがにさっきの事は自分が悪いのか何も言い返せない。
上条も同じように体育館の壁に寄りかかろうとしたら、どこからか男女の言い争う声が聞こえてきた。
ちょうど体育館の陰に隠れる形で、誰かが話し合っていた。

「そんな事は・・・絶対に・・・ですよっ!」

「馬鹿馬鹿しい・・・に決まって・・・ですか。」

上条は体育館の壁にぴったりとくっつき、端から首だけ出して様子を窺う。
麻生はその場を動かなかったがしっかりと耳で聞いているみたいだ。
日当たりの悪い体育館裏手にいたのは、上条のクラスの担任の月詠小萌だった。
服装はいつもの服と違い、チアガールのような姿になっていた。
彼女と向かい合っているのは、知らない男性だった。
他校の先生だろうか。
大覇星祭の期間中は教員も市販のジャージに着替えたりするものだが、なぜこの暑い中でも、ピッチリとスーツを着込んでいる。
小萌先生と男の先生は言い争っていた。
というより、嘲る男の先生に、小萌先生が食い下がっているような構図だ。

「だから!ウチの設備や授業内容に不備があるのは認めるです!
 でもそれは私達のせいであって、生徒さん達には何の非もないのですよーっ!」

「設備の不足はお宅の生徒の質が低いせいでしょう?
 結果を残せば統括理事会から追加資金が下りるはずなのですから。
 くっくっ。
 もっとも、落ちこぼればかりを輩出する学校では申請も通らないでしょうが。
 ああ、聞きましたよ先生。
 あなたの所は一学期の期末能力測定もひどかったそうじゃないですか。
 何やらあの常盤台に一時編入した生徒がいるみたいですね。
 さぞ、恥を晒したのでしょうな。」

その言葉が聞こえたのか、ピクリ、と麻生が反応する。

「せ、生徒さんには成功も失敗もないのですーっ!
 あるのはそれぞれの個性だけなのですよ!
 みんなは一生懸命頑張っているっていうのに!
 それを・・・それを、自分達の都合で切り捨てるなんてーっ!!」

「それが己の力量不足を隠す言い訳ですか。
 はっはっはっ。
 なかなか夢のある意見ですが、私は現実でそれを打ち消してみせましょうかね?
 私の担当育成したエリートクラスで、お宅の落ちこぼれ達を完膚なきまでに撃破して差し上げますよ。
 うん、ここで行う競技は「棒倒し」でしたか。
 いや、くれぐれも怪我人が出ないように、準備運動は入念に行っておく事を、対戦校の代表としてご忠告させていただきますよ?」

「なっ・・・・」

「あなたには、前回の学会で恥をかかされましたからねぇ。
 借りは返させていただきますよ?
 全世界に放映される競技場でね。
 一応手加減はするつもりですが、そちらの愚図な失敗作共があまりに弱すぎた場合はどうなってしまうのかは、こちらも分かりませんねぇ。」

はっはっはっー、と笑いながら立ち去っていく男の先生。
対戦相手の学校だったのか、と上条は大雑把な感想を抱いた。
正直、無能力(レベル0)な上条としては、今さら失敗とか落ちこぼれとか言われたところで大したダメージにはならない。

「違いますよね。」

その時、ポツリと、小萌先生は言った。
たった一人で。
誰に言うまでもなく。
俯いたまま。
ぶるぶると震える声で。

「みんなは、落ちこぼれなんかじゃありませんよね?」

ただでさえ小さな肩が、より小さくするように。
今の罵倒は、全て自分のせいで皆に降りかかったものだと告げるように。
彼女はそっと空を見上げて、何かをこらえるように、じっと動きを止めていた。
上条はちょっとだけ黙り、振り返る。
そこには彼のクラスメイト達が無言で立っていた。
上条当麻は、彼らに確認を取るために言う。

「はいはい皆さーん、話は聞きましたね?
 ついさっきまで、やる気がないだの、体力が尽きただのと、各々勝手に喚いていましたが。」

上条は片目を閉じて言う。

「もう一度だけ聞く。
 テメェら、本当にやる気がねえのか?」




麻生は依然と体育館の壁に寄りかかっていた。
しかし、眼だけは違った。

(なるほど、そっちがその気なら。)

麻生は決意する。
今回くらいは真面目に競技に参加してやる、と。

(格の違いを見せてやるよ。)

そう静かに自分の胸に誓う。
珍しく麻生も怒っていた。 
 

 
後書き
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