八条学園怪異譚
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第三十話 神社の巫女その三
「それに女同士とかは」
「キス位普通じゃない」
茉莉也はその酒臭い息を一言ごとに撒き散らしながら言う。
「そうでしょ」
「そうじゃないと思います」
「私もです。あの、先輩」
聖花も右に抱き寄らせられながら強張った顔で茉莉也に言う。
「今ですけれど」
「どうしたの?」
「胸触らないでくれますか?」
「スキンシップよスキンシップ」
茉莉也は笑いながら返す。
「ただのね」
「これってセクハラですよ」
「そうですよ、口移しとか」
愛実もまた言う。
「先輩ってそういう趣味あるんですか?」
「いえ、ちゃんと婚約者いるわよ」
今言う衝撃の事実だった。
「別の神社の長男さんとね」
「長男さん?」
「私の上にお兄ちゃんいて弟も三人いるのよ」
茉莉也は自分の兄弟のことも話す。
「妹もいるけれどね」
「それで先輩は何時かは、ですか」
「神社に嫁ぐんですね」
「そうよ、とはいっても婚約者とはキスもまだだから」
酔ったままこのことも話していく。
「女の子は別だけれどね」
「だから先輩そうした趣味もあるんですか?」
「これはお嬢の酒癖だ」
天狗は愛実の胸も触る茉莉也を見ながら二人に語る。
「絡むのだ、男には絡まないがな」
「女の子には、ですか」
「絡むんですね」
「そうだ、絡む」
噂の酒癖ということだった。
「今の様にな」
「それでセクハラもされるんですね」
「その通りだ、お嬢の悪い癖だ」
「あはは、まあそういうことでね」
茉莉也は悪びれず二人を抱え込んだまま酒を飲みつつ笑っていた。
「で、あんた達だけれど」
「はい、どうしたんですか?」
「出来れば離して欲しいんですけれど」
「まあまあ、もうちょっと楽しませてよ」
茉莉也は笑いながら駄目だと返しそのうえでこうも言う。
「それでここに来た理由は知ってるけれどね」
「泉ですよね」
「その候補地は」
「うちの中よ」
この神社の中にある、それは間違いないというのだ。
「ちゃんとあるわよ」
「あの、それって何処ですか?」
「この神社の中にあると聞きましたけれど」
「物置よ」
「物置?」
「そこなんですか」
「ちょっとね、長い間誰も開いていないね」
茉莉也は今度はいわしの干物を食べながら話す、女の子座りで二人を抱えたままでだ。
「お祖父ちゃんがずっと鍵をなくしてるところだけれど」
「そこですか」
「そこが泉の候補地なんですか」
「そう、そこね」
二人にセクハラを続けながら語る。
「そこにあるから、ただ開かずになってるから」
「鍵、ないからですね」
「だからですね」
「ちょっと手荒に行くわ」
素っ気なく言う。
「そうするから」
「あの、手荒っていいますと」
「どうされるんですか?」
「斧を持って来てね」
確かに手荒だ、神社の巫女とは思えないまでの。
「それで扉を割って壊すわ」
「それ手荒過ぎますよ」
「幾ら何でも」
二人は茉莉也の言葉に顔を曇らせてその左右から言った。
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