IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第17話
六月も最終週、遂に始まる学年別トーナメント。
もうすぐ第一回戦が始まらんとする今、俺は一夏とシャルルしかいない更衣室に、激励に訪れていた。
「しかし、すごいなこりゃ……」
更衣室のモニターから映る観客席の様子に、一夏が驚いている。
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来てるからね」
「それで、先行き良好な一年には唾つけとこう、と」
「ふーん、ご苦労な事だ」
シャルルの説明と、俺の見通しに生返事を返す一夏。ボーデヴィッヒの事を考えているであろう一夏の真っ直ぐさに、自然と笑みがこぼれる。
「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」
「オルコットや凰の立場を慮ってか」
「まあ、な」
代表候補生二人が出場見合わせ、しかも専用機持ちがだ。立場が悪くなるかもしれぬと、一夏は思っているのだろう。
「本来なら、トモが一番注目されたと思うけど。未知の専用機持ちで無所属。引く手あまただっただろうね」
俺を見て、シャルルは言う。状態が万全ならばそうなり得たかもしれない。しかし、ゼロに負け、ISを損傷した俺の評価は著しく下がった。今や見向きもされない。
「俺の事はいい。ボーデヴィッヒは間違いなく一年最強の一人だ。まあ、シャルルが居れば問題ないとは思うが」
後で知ったが、医務室で一夏はシャルルと組むと宣言した。前々から息は合っていたが、最近、かなりスムーズに連携がとれるようになっていた。勿論、シャルルが一夏に合わせて、だが。
「さて、こっちの準備は出来たぞ」
「僕も大丈夫だよ」
一夏とシャルルの準備は整ったようで、今は対戦相手について話し合っていた。
今回、急にペア対戦に変更になった為、従来のシステムが正常に機能せず、今の今まで生徒たち手作りの抽選くじで対戦表を作成していた。
一夏達は一番最初、Aブロック一組目。対戦相手は、俺の予想が外れなければ…。
トーナメント表に変わったモニターの文字を見る。モニターにはラウラ・ボーデヴィッヒの文字が、間違いなく存在した。
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対戦相手が決まった所で一夏達に挨拶を残し、観客席の一席に陣取る。
眼下には、相対するボーデヴィッヒと篠ノ之、一夏とシャルル。
試合開始直後に一夏が瞬間加速、それを読んでいたボーデヴィッヒに停止結界で捕まえられる。
その後のボーデヴィッヒの攻撃を、一夏の頭上を飛び越えたシャルルが寸断する。
シャルルが得意の『高速切替(ラピッド・スイッチ)』で、ラウラを攻め、かばいに来た篠ノ之を一夏が受け持つ。
見事な連携に、観客席のボルテージが高まる。
試合を見ながら、行く末を予想する。
「このままなら…。ボーデヴィッヒ…、強さは、一つじゃないぞ…」
ボーデヴィッヒの、篠ノ之を蔑ろにする戦い方を危惧した俺の言葉は、観客の歓声にかき消された。
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戦況が変わった。一人でボーデヴィッヒ相手に持ちこたえていた一夏に、篠ノ之を倒したシャルルが援護に入った。
しかし、それでもボーデヴィッヒは一夏達と互角以上、一夏の零落白夜の特性上、受け続けた一夏は厳しい。しかし、厳しいのはボーデヴィッヒも同じ。
ボーデヴィッヒが零落白夜の消えた白式を貫く。そこに、瞬間加速を発動させたシャルルが、ボーデヴィッヒに肉薄。
結果が見えた。シャルルの奥の手は、ゼロ距離の何か。そして、なんの考えもなくシャルルは突撃をしない。一夏がボーデヴィッヒを止め、シャルルが仕留める。
目をつぶり、改めて結果を確める。そこには、変わり果てたボーデヴィッヒが居た。
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「ボーデヴィッヒ…ッ!」
呻くように言葉を捻り出す。
眼下のボーデヴィッヒは、黒い最小限のアーマーを腕と足につけ、フルフェイスのアーマーで顔を覆い、目がある場所は装甲のしたのラインアイ・センサーが赤く光っている。
そして、手には一夏の武器、《雪片弐型》に酷似した刀を持っている。
一夏が構えた瞬間、ボーデヴィッヒが攻める。が、一夏がおかしい。既にエネルギーの尽きた白式で、ボーデヴィッヒに突っ込んでいる。
その形相は怒りに満ちている。
そうか、一夏。それは、織斑先生の技なんだな。一夏の怒りと、ボーデヴィッヒの経歴から、自然と察することができた。
アナウンスが避難を促している。だが、俺は動く気は無かった。
「教えてやれ、一夏。力は、強さってのはどういうのか」
一夏とボーデヴィッヒ。二人の想いを知っているからこそ、この戦い、最後まで見なければならない。
一夏の動きを、余すことなく俺はその目に焼き付けた。
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戦闘終了後、ただちにボーデヴィッヒは医務室へ運ばれた。ボーデヴィッヒの様子を見るために医務室へ向かうと、ちょうど織斑先生とボーデヴィッヒが話していた。
ここにいるのも無粋だろうと、一旦離れる。
数分たって、廊下の向こうから、織斑先生が来た。
「丹下か。ラウラの見舞いなら、あまり無茶をさせるなよ」
「確認するだけですよ。俺の予想がどうなったか」
「それは、ラウラが『一夏に惚れる』、か?」
不敵に笑い、完璧な答えを先生は出してくれる。
「それなら間違いない。お前の勝ちだ。私が保証する」
ニヤニヤと嫌な笑みのまま、先生はそう言った。
「まあ、ラウラが復帰すれば分かることだ。今日は一人にしてやれ」
「…先生がそう仰るなら…」
ひとまず、機嫌の良い織斑先生の後に従い、ボーデヴィッヒに会うのは止めておくことにした。
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織斑先生と別れ、食堂につくと、混沌が広がっていた。
落ち込み、落胆する女子生徒、怒って出ていく篠ノ之、悶えている一夏。
何をどうすればこんな事態になるのか。
辟易しながら速やかに食事を済ませ、部屋に戻る。
一度戻ってきた一夏は、シャルルと解禁された大浴場に向かった。ここで大事なのは、シャルルは男装をした女子だということだ。この先一夏の身に振りかかるであろう災難を憐れみながら、俺は部屋備え付けのシャワーを浴びて、先に床についたのであった。
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翌日。朝のホームルームにシャルルの姿がない。ボーデヴィッヒの姿もないが、怪我の影響と思われる。
「み、みなさん、おはようございます……」
教室に来た山田先生は、朝から何だか疲れていた。
それからは、あれよあれよと、凄い勢いで穏やかな朝は何処かに飛び去ってしまった。
改めて己が女だと宣言したシャルル改めシャルロット・デュノア、いきり立つ乙女たち、突如現れ、一夏の唇を奪い、自分の嫁にすると言い放ったボーデヴィッヒ。
更に一夏に惚れた乙女が増え、我が予想は見事に的中した。
そう他人事のように考えていたのがいけなかった。一目散に逃げるべきだったんだ。
「助けてくれトモ!」
「は?え?嘘!?」
俺を盾にするように後ろに隠れる一夏、怒りに燃える少女達の、迫り来る一撃。
その日のホームルームは、轟音と爆音、そして絶え間の無い衝撃で文字通りクラスが揺れたそうだ。
俺は篠ノ之達の一夏に対する攻撃の生け贄にされ、再び医務室のお世話になった。
………理不尽だ。
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「フムフム…へぇ!ほほお!ソコでそうなる!」
智春達がいる地から遠く離れたとある場所で、一人の女性が、ある映像をみて興奮していた。
「いやー、『私が知らないIS』なんて凄い凄い!誰が作ったのかな~?知りたいな~♪」
鼻唄混じりに、一人映像からの情報を処理している。
最初は、とるに足らない存在と思っていた女性だが、改めて見てみると、女性の興味を引くに十二分な内容だった。
「他との互換性の排除、応用のききやすい武器、オーバーブーストに、……使ってる子は気付いて無さそうだけど、『異常なまでの修復能力』。根底から思想が異なってるね」
女性は、ここで言葉を切り、
「ヴァンガード…、『先導者』、か。少しだけ、楽しくなってきたかな?」
そう言って、女性は笑う。天才が故、あらゆる事に興味を持たなくなった女性、世界でたった三人にしか興味を示さない、『篠ノ之束』のそれは、新しい玩具を見つけた子供の様に無邪気であった。
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