夢遊病の女
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第一幕その二
第一幕その二
「アミーナを祝う為に」
「あの二人をお祝いする為にね」
「是非皆で」
「じゃあ僕も」
「ちょっとアレッシオ」
「幸せは祝うものだよ」
何か言って止めようとするリーザへの言葉だった。
「だから君も。二人を祝えばいいじゃないか」
「そんなことできる筈がないわ」
ここでもリーザは不機嫌な顔をする。
「とてもね」
「まだそんなことを言うのか」
「私は無理よ」
遂にその顔をぷい、と背けてしまった。
「絶対にね」
「じゃあいいよ。僕は歌うから」
「勝手にして、それじゃあ」
「うん、それじゃあ」
彼は皆の中に入った。そうして笛を奏でその音楽に加わった。
「このスイスにもありはしないよ」
「アミーナ程美しい花はないよ」
「あんな奇麗な娘は何処にもいない」
「スイスの何処にもね」
こう彼女を讃えるのだった。
「愛に満ちて光溢れる」
「そんな暁の星だよ」
「本当にね」
そしてこんな風にも讃えるのだった。
「慎ましやかでしっかりしていて」
「優しく美しい」
「そう、それはまるで」
その歌はさらに進み。
「無邪気な山鳩の様で」
「清純の象徴だ」
「アミーナ万歳!」
「永遠に幸せに!」
「この歌は何時かは私の為に」
その幸せの歌を聞きながらも不機嫌な顔のリーザだった。
「そう思っていたのに」
「だからそれは」
「聞いていられないわ」
やはりアレッシオの言葉は耳に入らない。
「とても」
「だからリーザ」
アレッシオはそれでも彼女を気遣う。
「そんなことは言わないで」
「ではどうしろというの?」
「未来を思うんだよ」
優しく彼女に言うのだった。
「優しくね」
「優しく?」
「そう、優しくだよ」
そうしろというのである。
「何時かは君の為にね」
「私の為に」
「そう、皆がこの歌を歌ってくれるよ」
そしてこうも言うのであった。
「そして僕の為にも」
「そんなことは決してないわ」
「だから過去は過去なんだよ」
アレッシオの言葉はあくまで優しい。
「未来はもうはじまっているから」
「私にとっては違うわ」
リーザはまた顔を背けさせた。
「決してね」
「そんなことを言わないで」
「言わずにいられないわ」
やはり話を聞こうとしない。
「今の私にはね」
「現在はそうでも」
アレッシオはそれでも彼女に優しく言い続ける。
「未来はきっと幸せになれるよ」
「そんなことは決してないわ」
そして村人達の歌は。これはまだ続いていた。
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