万華鏡
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第二十九話 兵学校その六
「それだと早く済むから。子供を送り出してから歯を磨いてお化粧もしてね」
「大変なんですね」
「主婦は大変よ」
それで働いているのは、というのだ。
「自分の時間もなくなるしね」
「和食が食べられなくなる位に」
「朝はね。御飯炊いたりとかお味噌汁を作る時間とかは」
「朝は残ってません?晩のが」
「旦那と子供と私で全部食べるから」
それで残っていないというのだ。
「ないわよ。ジャーは夜のうちに洗うから」
「そうなんですか」
「だから朝はパンなの」
その食パンと牛乳の組合わせだというのだ。
「あまり食べた気がしないけれどそれでも食べないとね」
「身が持たないですね」
「人間食べないと死ぬのよ」
生きているからだ、それこそ食べないと死んでしまう。
「それでよ、こうして和食の朝は」
「いいんですね」
「それかお粥か」
これもいいというのだ。
「茶粥ね。結婚する前は実家でお母さんがいつも作ってくれてたの」
「朝はお粥だったんですか」
「いいわよ、お粥は」
朝に食べるそれはというのだ。
「食べやすいし美味しいし」
「しかも茶粥ですか」
「身体にもいいし。貴女達もそうしてみたら?」
「そうですね」
和食好きの景子が応える。
「それなら」
「朝のお粥は最高のご馳走でもあるから」
「手間暇かかりますからね、お粥は」
景子はこの辺りもわかっていた。
「だからですね」
「そうよ。作る方は大変なのよ」
「お粥ってシンプルな感じしますけれどね」
今度は彩夏が言う。
「それがかえってなんですね」
「そう、贅沢なご馳走なのよ」
お粥もまたご馳走だというのだ、先生はこの辺りをよく理解していた。そのことを話してそのうえでだった。
五人はいただきますを待っていた、そこに宇野先輩と高見先輩も来た。先輩達も酒が完全に抜けた感じだった。
その先輩達が来たところでいただきますになった、そして食べる朝食は。
実に美味だった、そしてその朝食を食べてだった。
歯を磨いて身支度をしてからだった、部活に入った。この日の朝はというと。
海に出た、そこで水泳をした。
里香は黒と青の競泳水着で海の中にいた、そこで皆と遠泳をしていた。その中でこんなことを言ったのである。
「ねえ、遠泳ってね」
「遠泳って?」
「意外だったけれどね」
それでもだとだ、里香は美優に返した。隣には彼女がいるのだ。
「それでも江田島らしいわね」
「海だからかよ」
「そう、海軍も遠泳の練習してたし」
「海軍だから泳げないとな」
この理屈は美優にもわかった。
「やっぱり駄目だよな」
「そう、いざという時にね」
具体的に言うと船が沈んだ時だ。
「泳げないとね」
「終わりだからな」
「それでなのよ」
「海軍も遠泳してたんだな」
「今もしてるわ」
海上自衛隊でもだというのだ。
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