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万華鏡

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第二十九話 兵学校その五

「素人の兵隊さん達が順番で作るから」
「コックさんいないんですか?」
 景子が眉を顰めさせて問うた。
「そういう人は」
「ああ、給養の人ね」
 先生はあえて自衛隊の用語で述べた。自衛隊ではコックやシェフとは呼ばず給養というマークで呼ぶのである。マークとは職種のことだ。
「いないのよ、陸自さんは」
「そうなんですか」
「海自さんや空自さんにはいるけれどね」
「どうしていないんですか?」
「何か昔はいたけれどその人達が料理を作ってやってるって偉そうにしてたからなくしたらしいのよ」
 こうしたことはよくある話だ、それが自分達の仕事だがしてやってると勘違いして傲慢になるということは。先生は五人には教えるにはまだ早いと思ったがこうした話もあえて話した。
「それで素人さんが作る様になったのよ」
「そうだったんですか」
「それでなんですか」
「だから陸自さんの食事は覚悟してね」
 期待するな、ではなかった。
「それはね」
「ううん、期待するなですか」
「そうなるんですね」
「そうよ、先生も一度陸自さんのカレーを食べたけれど」
 それはどういったものかというと。
「ビーフカレーだったけれどね」
「美味しくなかったんですね」
「そうよ」
 まさにその通りだった。
「あのカレーはね」
「あまり食べたくないですね。お話を聞いた限りですと」
 美優は首を捻りながら答えた。
「ちょっと」
「ええ、そう思うわよね」
「というか陸自さんも凄いんですね」
「自衛隊の中で一番親切なことは覚えておいてね」
「はい」
「ただ。カレーはお昼だから」
 その朝食に目をやって言う。
「朝は朝で食べるのよ」
「お味噌汁とメザシに」
 琴乃がその朝食の献立を見ていた。
「お漬物にもやしのお浸しですか」
「白い御飯とね」
「海苔もありますね」
 そんな献立だった。
「あとお茶もあった」
「完璧な和食ですね」
「和食はいいわよ」
 先生はにこりと笑って言う。
「朝もね」
「夜もいいですけれど朝もですか」
「これがいいんですね」
「先生なんてね、朝はいつも時間がなくて」
 また家庭での話をするのだった。
「パンよ、パン」
「私もパンですけれど」
 琴乃は先生にこう返した。
「大抵は」
「先生は元々朝は和食派なの」
 好みの問題だった、この辺りは。
「白い御飯にお味噌汁、お漬物と卵焼きかめざしね」
「今みたいにですか」
「そうでないと食べた気がしないのよ」
「それでどうして今はパンなんですか?」
「時間がないからよ」
 それでだというのだ。
「いつもね」
「やっぱり子育てとかで」
「旦那を送り出して子供にも食べさせないといけないのよ」
 憮然とした顔で話していく。
「家事もさっとしてね。時間がないのよ」
「それでパンなんですか」
「食パンを買っておいてそれに牛乳をつけて食べていくのよ」
 耳のところを柔らかくしてというのだ。 
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