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剣風覇伝

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第十二話「死神」

 タチカゼは、進むのを邪魔しようとするスケルトンたちを薙ぎ払いながら城をみちなりにあがっていく。その奥に潜む魔に挑むように。
 どこからかなにやらなにを哀しむのかレクイエムが聞こえる。唄だった。
 みると、城の城壁に腰掛ける不思議な女性がいた。鎌を持っている。
「なんだ、きみは?」
 黒装束に身を包むその美女は長い黒髪をたなびかせ、その身に反して黒い大鎌を構えると掻き消えたように動いた。そして骸骨たちの首が一斉にはねられる。
「おまえは、味方なのか」
 その一言に鋭い鎌が首にかかる相手は一瞬でタチカゼの背後をとる。
「味方?私は死神、この城に死をもたらしに来た」
「死神?」
「神は言った。吸血鬼の哀しみを拭い去れとあの人は生き過ぎた。もう、自分がこの世に生きる意味などないのに」
「何を言っている」
「おまえは?あの人のなにを知っているというのだ。なぜ、あの人の哀しみをわかってやろうとしない?」
「おれは町の人のために戦っているんだ。あいつは数百年間、そういった人たちを虐げて生きてきたんだ」
「人間を虐げた?笑わせる、いいかあの人こそ虐げられたのだ。吸血鬼としてこの世に生まれ、それだけで孤独を背負い、日の当たる場所へなど呪われた体は出る事さえ敵わない。あの人はいつまでもこの城で一人で生きていくしかなかった」
「じゃあ、なぜ人を虐げる。ゴミ同然に扱う!この世に生きるならば、他の物を虐げていいはずがない」
「お前にはわからないのだ。毎夜、毎夜血が足りなくなると美女の血を気が狂うほど欲しくてたまらなくなる。それをおしとどめていても、勇気のない人間は友情など絶対に見せようなどとはしない、そして、あの人をここから、追い出そうとした。人間は、本能と戦い苦悩するあの人をただたんに恐怖から木の杭や銀の矢を持っておそってくるのだ。どれほどの恐怖だと思う!憎しみに耐え切れなくなるとは思えぬか?」
「そなたは、もしやあの者の恋人か?人間……のようだが」
「わたしは、彼の……娘だ」
「なに、しかしおまえは人間じゃないか?」
「ヴァンパイアといっても彼は人間の女に恋をしたのだ。私の母さんは人間だった。人か吸血鬼かに生まれてくる確率は半々だった。そして私は人間として生まれた」
「なん……だと?」
「わからないのか、あの人もほんの数十年まえまでは、人間以上に愛に満ちた人だったのよ」
「なら、伯爵の妻はどこに?」
「最後に、あの人に立ちはだかった剣士の剣を伯爵の代わりに受けて死んだわ」
「じゃあ、あなたは?」
「エルリック・フォン・エリル・エルシア ルシアと呼ぶわ、わたしが殺してきた者たちは」
「お前は、なんだ?」
「死神。ただしくは、死ねない人を殺す死神」
「死ねない人?」
「いったでしょ、あの人はもう数百年も生きてる。それがどういうことか分かる?あの人はもう死ねないのよ。数百年もの間、彼はこの城で人間たちの上に君臨してきた。体は鋼のようになり、ナイフで腹を刺してもナイフのほうが曲がる。あの人の血は不死の血、正確には不老不死。そんな存在が死のうとしたってできるはずないでしょ?」
「だが俺はやつを倒す」
「知ってるわ、わたしは神を通して、あなたのことを知った」
「おれを知っている?」
「そう、あなたはそう神を信じ始めてる。あなたはそうすることによって、自分に内在する不思議な力まで信じ始めた」
「魔法?」
「そうよ、だから神はあなたを選んだ」
「なら、おれはやはりあいつを倒す」
「そう、でもわたしはどうしてここにいると思う。なぜ、あの人の娘が、あの人を殺す死神なのか?疑問じゃない」
「そういえばそうだ。何故だ?」
「神は言った。クドロワは、吸血鬼だが我を信じていた。善良であるならかならずいつかは自分を救ってくれると」
「クドロワが善良?そんなことが?」
「吸血鬼なら吸血鬼なりの善があるのよ。わからないの、犬や猫だって善良であろうとする、あなたたちはいや人間は数が多すぎて、なんにでも自分たちを基準に置くからいやなのよ。でもいいのよ、あなたは間違ってない。人間として善であるわ」
「……」
「どうしたのよ」
「事情が変わった」
「なんでよ?」
「そんなことを聞いたら奴を殺せない」
「そう、なら私が殺す」
「それもだめだ」
「わたしは父の望むことをするのよ!そのために神はこの大鎌をくれた。そう父の望みは死ぬことよ」
「いや、違う」
「え?」
「あの人間は、死のうなどとは考えていない。おれは今分かった。あれは人間だ、だがすこし体の機能が違うだけだ。そしてそれに苦しんでいる。そしてそれでも生きようとしている」
「なにいってるのよ!あなたに何がわかるのよ!あの人の!何が!」
「なぜ?伯爵が善良であろうとしているなら、それには、生きなければならないということだ。生きてこそ、善というものは機能する」
「そ、そんな」
「思えば、わたしはクドロワに会った時から奴を否定しにかかった。やつにしてみればものすごい痛みだったろう、天馬に乗って現れたものが自分を少しも理解しようとしないのだからな」
「つまり、父は、あなたを天の使いかなにかだと思ったと?」
「そうだろう。唯一どんな存在でも等しく公平に救いを与えるのが神だ。おまえのお父様はすがるような思いで祈り、そしておれに期待をしたのだ」
 
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