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ランメルモールのルチア

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第三幕その五


第三幕その五

「香がくゆり神聖なる光が見えて司祭様がおられて」
「そうしていれば」
 ライモンドの心に後悔が起こった。
「この様なことには」
「右手を差し伸べて儀式を行い私は貴方のものになり貴方は私のものになり」
 それが今彼女が見ているものだった。
「こうしてあらゆる喜びを分け合い障害を情深い天の微笑みとするのですね」
「ライモンド様」
 兵士の一人が彼のところに来て告げてきた。
「エンリーコ様が来られました」
「そうか」
「話は聞いた」
 エンリーコが慌しく部屋に入って来た。丁度今エドガルドのところから戻って来たばかりだ。戻って来てすぐに話を聞いたのである。
「まことか?」
「残念ですが」
 沈痛極まりない顔で答えるライモンドだった。
「それは」
「あれがルチアか」
 ここで彼は妹を見た。その完全に失われた彼女をだ。
「まさか。あれが」
「そうです」
「最早何もかもが失われてしまいました」
 周りの者が沈みきった顔で彼に告げた。
「これでもう」
「全てが」
「私は」
 ここで急に怯えだすルチアだった。
「私はお兄様に従いました」
「わしにだと?」
「ですからその様な恐ろしい顔で見ないで下さい」
 また別の幻想を見ているのだった。
「契約書には署名しました。ですから」
「あのことか」
 エンリーコにはすぐにわかった。
「あのことがそれ程までに」
「あの方が来られ」
 先程の宴の場を見ているのだった。
「私の指輪を踏み躙り私を呪い」
「それ程までに」
「この方にとっては傷になったのか」
「ですが私は」
 その怯える声で彼を見ながらの言葉であった。
「貴方を愛しています。エドガルド様、貴方だけを」
「神よ、御加護を」
「この死にゆく娘に」
 誰もが祈るしかなかった。最早。
 そしてまた。ルチアは言うのであった。
「私には貴方だけです。ですから逃げないで下さい」
「恐ろしい夜だ」
「こうなってしまうとは」
「エドガルド様、どうか一緒に。私は天界で貴方の為に祈ります」
 その言葉が続けられる。
「貴方がおられる時に。私はただ祈ります」
 ここまで言って崩れ落ちていく。アリーサが駆け寄り抱き締める。しかしその身体はもう。
「何と冷たい・・・・・・」
「冷たいというのか」
「そうです」
 まさにその通りだとエンリーコに返す。
「そして鉛の様に硬く重いです」
「そうなのか・・・・・・」
「最早。間も無く本当に」
「わしは全てを壊してしまった」
 エンリーコも最早こう言うしかなかった。
「何もかもを」
「まさかこうなってしまうとは」
「この方はあまりにも繊細だった」
 ライモンドがノルマンノに対して述べた。
「私もそなたもだ」
「はい・・・・・・」
「誰もに罪がある」
 そのルチアのことについてである。
 
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