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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第18話 『正体不明 < Unknown >』 前編

――『その存在』はある目的の為に存在した。 しかし、『ソレ』にはその目的がわからなかった。

――わかっていたのは、己は何かの為に存在する事というだけ。 何かを探している、というだけ。

『その存在が、目的とする対象を見つけた時、一体何を思うのか』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

何が起こったのか、俺には理解できなかった。自分の目の前で『現実』として起こっているそれが、俺には理解できなかった。

頭の中が混乱する、そしてそれが原因で状況がすぐには読み込めない、だけど――そんな状態の俺でも真っ先に分かったことがあった。

アリアが――堕ちた。
突如として放たれた閃光、何者かが放った収束砲からオルコットさんを守り、自身は逃げ切れずに被弾した。

なんだ、これは――どうしてこんな事になっている?これはアリアとオルコットさんの試合の筈だ、そして俺が記憶している限りではモニターを見ていた限り、その結末はアリアがオルコットさんの攻撃を読みきって最後の一撃を放とうとしていたのだ。

あの一撃は、間違いなくオルコットさんに届いて、そしてこの試合は終了――きっと彼女はいつもの笑顔と少し照れくさそうな顔をしてピットに戻ってくるものだとばかり思っていた。

だが、現実はそうではない――とても、とても非情だった。
今、第三アリーナにはけたたましく緊急警報が鳴り響き、観客席の防御壁が降りて、生徒たちが避難している。

そして、自分の目の前のモニターの中では――気を失ってISを解除され、オルコットさんに抱きかかえられるアリア。そして、その上空に存在したのは――

「テン……ペスト……?」

馬鹿な、と思った。何故ならば"Tempest_Dragoon"は自分自身の機体であり、そして待機状態のネックレスは俺が持っている――だが、己の機体、"Tempest_Dragoon"に酷似したそれは、モニターを通して見えており、確実にアリーナの上空に存在した。

先程からけたたましく鳴り続ける警報、モニターの中で起こっている状況、それが俺には飲み込めずに居た。あまりにも唐突過ぎて、そして……それが理解できなくて。

「――う……おい、悠ッ!ぼさっとしてるんじゃねえよ!どうしたんだよ、おい!」

「ッ……悪い、一夏」

呆然とただモニターを見ながら立ち尽くしていた俺は、隣でモニターを見ていた友人、一夏の言葉で目を覚ます。そうだ、何をやってるんだ俺は――

我に返った俺は考える、まずは状況を整理――アリアとオルコットさんが試合中に何者かの襲撃を受けてアリアが撃墜された、そしてその襲撃者はアリーナのシールドバリアーを貫通するだけの威力の武器を持っていること、何か対策をとらなければならないということ。
そして――何よりも、あの襲撃者が自分の『専用機』、"Tempest_Dragoon"に酷く似ていたということ。

考える事は山ほどある、元々俺の"Tempest_Dragoon"はエディさんから聞いた話では『個人かつ私情のもので、政府や軍部は詳細を一切知らない』と言っていたのだ。
国や世界が殆ど知らないはずの、本来『軍用』として製作されたらしい"Tempest_Dragoon"、不明点が非情に多く特秘以上にされていたらしい機体が、どうしてコイツに似た機体が――今目の前に存在しているのか、頭の中で多くの思考や疑念が交差したが、今真っ先にやらなければならない事だけはすぐに理解できた。


「……サンキュ一夏、お前のお陰で現実をよく理解できたよ。とにかく、こののまじゃ今アリーナの中に居るアリアとオルコットさんが不味い――ゲートは、ピット・ゲートはどうなってる!?」

そうだ、ここはピットだ、そして試合前にアリアはここからアリーナへと飛び立っている――つまり、ピット・ゲートだ。今すぐにでも俺は自分のIS"Tempest_Dragoon"を展開して、アリーナの中へと飛び込んで2人を救助しないと不味い、と考えたが。そんな考えは無駄に終わる。
ピット・ゲートを確認する――するとゲートは『閉まっていた』のだ。先程の試合中までは開いていたはずのそのゲートは、今は完全にロックがかかっており、使用する事はできない。クソッ……どうすりゃいいんだ


「悠ッ!不味いぞこれは!」

アリーナ内部を写すモニターを見ていた篠ノ之さんがそう叫ぶ、それを聞いて俺もモニターに目を移すと――そこには、正体不明の襲撃者がオルコットさんと気絶しているアリアに対して攻撃を開始しており、オルコットさんがアリアを抱かかえながらその攻撃をなんとか避けていた。

冗談じゃない、アリーナのシールドバリアーを貫通するような威力のライフル――そんなの、"Tempest_Dragoon"に搭載されているリミッター無しの<インフェルノ>に匹敵する威力じゃないか、モニターの中に見える襲撃者はそのバスターライフルと、『テンペストと同じ武装』を展開すると、それを2人に対して放っていた。

今はなんとかもっているかもしれないが、オルコットさんはアリアを守りながら逃げるという状態だ、そんなの長続きするわけもない。このまま何かしらの対応をしなければ確実に2人ともお終いだ。どうしたら――そうだッ

「クソ……ゲートが使用できないんじゃ、アリーナの中へは入れない――どうしたら……」

「一夏ッ!篠ノ之さんッ!管制室だ、急いで管制室に行くぞ!」

そうだ、管制室には『織斑先生』も居るのだ、そして山田先生がアリーナの管制を行っている筈であり、もしかしたら――管制室に行けばなんとかなるかもしれない。
そして管制室に行けば、一体今の現状がどうなっているかが、少しでも詳しく分かるはずだ、ならば怒られるのも覚悟の上だ、というより緊急事態なのだ、ゲートが開かない今、急いで管制室に向かって現状を知るのが恐らく今、最も有効な手段だ。

「管制室?――そうか、千冬姉か!」

「確かに、何もしないよりそうすることで何か変わるかもしれないな……わかった、急ごう、悠、一夏!」

ピットから走り去る間際、俺はもう一度だけピットのモニターを見る。そこには先程から変わらず、謎の襲撃者からの攻撃を避け続けて、アリアを守るオルコットさんの姿があった。
急いでなんとかしないと、そうじゃないと――何も、何も守れないし、二人が危険だ、急がないと。

そう思いながら俺は、管制室へと向かう通路を全力疾走しながら管制室へと急いだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「くっ……このままでは、かなり不味いですわね――」

突如現れた正体不明の襲撃者、そしてその襲撃者が放った最初のあの砲撃は間違いなく私とローレンスさんへの直撃を狙った砲撃だったのでしょう。
もし、もしあの時ローレンスさんが私を突き飛ばして、その砲撃から逃れさせてくれなければ、間違いなく自分自身もローレンスさんと共に撃墜されていた。
私を庇って自分だけ砲撃を受けたローレンスさんが墜落していくのを見て、私は血の気が引きました――そして、急いで子機のブルー・ティアーズを戻すと、メインの『ブルー・ティアーズ』のスラスターを全力で吹かせて落下していく彼女を抱きとめる。
抱きとめて私は心配のあまりに何度も名前を呼んで、うっすらとだけ目を開けてこちらに対してふっと笑いかけた彼女は、その直後に気を失い、纏っていた彼女のISも解除されました。どうやら、彼女と機体自身にもかなりのダメージがあったようです。

そして、暫くただ『何かを探すように』傍観していたその襲撃者は唐突に、私達への攻撃を開始しましたわ。そしてその攻撃を掻い潜りながら私、セリア・オルコットは感じたことがありました――あの襲撃者の攻撃は『1発でも直撃を受けてはいけない』という事を。
アリーナのシールドバリアーというのは、非常に強固に作られています。それこそ現存する兵器、ましてやISでも簡単には破れない程の強固なシールド、それをたった一撃で簡単に破りアリーナへと突入してきたあの襲撃者、そして襲撃者が使用しているあの巨大なライフル――よくはわかりませんが、先程からの攻撃を見る限り『収束砲撃専用のライフル』だということがわかりました。

そんな馬鹿げた威力の一撃を直撃として受けたらどうなるか、直撃ではなく、多少掠った程度でこの状態にローレンスさんはなっているのだ、もしシールドエネルギーがほぼエンプティーの状態で直撃を受けたらどうなるか、そんな事考えたくもありませんし、考えるまでもありませんでした。

お互い試合の中でかなりシールドエネルギーを消費していた、ということもあってなのでしょうか、ローレンスさんが掠った程度でこの状態になっているのはあの馬鹿げた威力の砲撃だけが原因ではなく、シールドエネルギーがかなり少なかったのだと予測しました、それなりのシールドエネルギーがあったとしても掠ってこの状態です。

そんな中、私の『ブルー・ティアーズ』のシールドエネルギーもかなり不味い状態になっていました。元々、私の『ブルー・ティアーズ』はあまり燃費がよくありません、その理由はエネルギー兵装を多用するからですわ。残りのシールドエネルギーは僅かでエンプティーに近い、そんな状況の中でもしあの一撃を掠めたりしたらどうなるか、そんなものわかっています。

何故あの襲撃者がいきなり現れたのか、どうして自分達を攻撃しているのか、それはまったくわかりません。まさに正体不明の<Unknown>という名前が最も相応しいでしょう。

「あ、あなたは―― 一体何者ですの!?」

「……」

そう襲撃者、<Unknown>に問いかけても、当然返答はありませんでした。それどころか、こちらを見ている<Unknown>は続けざまに左手に持っているライフルをこちらに撃ち続けてきます。
それをひたすらに回避、ですがそんなもの長く続くわけもありません。恐らくこうして時間を稼ぐのが精一杯、ピットに戻ろうにも確認すればピット・ゲートはロックが掛けられている、そして先程管制室から来た通信は『教師陣が突入するまでなんとか耐えろ』でした。
しかし、既に襲撃者から逃げ続けて15分、私自身も息切れしており、更に『ブルー・ティアーズ』のシールドエネルギーもエンプティーが近い、そして気絶しているローレンスさんの容態と安全を気にするばかりで、私らしくもなく、かなり焦っていました。

「くっ……」

何度目になるのか、<Unknown>からの収束砲撃を回避――すると、<Unknown>の動きが変化しました。左手に持っていたライフルをクローズし、両手腕部から2発のビームブーメランのようなものをこちらに放ってきました。
確かに早いですわ――しかし私はそれを回避、同時にローレンスさんの様子を確認、ですが……一瞬気を抜いたことが致命的となりました。

ブォン、という機械的な音と共に、<Unknown>は背中の――真紅の6枚羽を広げると同時にこちらに対して左手を向けて、銃を撃つような素振りを見せました。
次の瞬間、その真紅の翼にエネルギーが収束して――

「多重高圧縮エネルギー弾!?」

6枚の翼の1枚1枚から1発づつ発射された高エネルギー弾は、尋常ではない速度で飛来し、その6発全ての弾がこちらを追尾してくる。そして同時にブルー・ティアーズから『警告、危険性大と推測――回避を推奨』とのウインドウメッセージが表示される
ですが、ローレンスさんをなんとしても守らなければならない以上、そんなことはできませんでした――ですから

「ごめんなさい、ブルー・ティアーズ――私達を守りなさい!」

それは、一種の賭けでした。そのまま逃げようとすれば、確実に直撃を貰い私もローレンスさんも終わりだろう、ですから私は心の中で『ごめんなさい』とブルー・ティアーズに言うと、先程回収した全6基のブルー・ティアーズを発射し、<Unknown>から放たれたエネルギー弾が飛来する位置を推測、そして6発全てが飛来すると思われる位置に、ブルー・ティアーズを配置しました。

私がブルー・ティアーズを全て展開し、展開した瞬間――予測したとおり、6発のエネルギー弾とブルー・ティアーズがぶつかると同時に爆発、かなり無理矢理な方法でしたが……なんとか危機を脱することができました。

しかし、今の無理な行動によってブルー・ティアーズは全て破壊されてしまいました。そして、私自身が後使えそうなのは――クローズしているスターライトmkIIIに、私が使う事を苦手としているインターセプターくらいしかなかった。
スターライトmkIIIは基本的に両手で使用するため、今こうしてローレンスさんを抱きかかえている状態では使用不可能、インター・セプターは片手でも使用で杵かもしれませんが――私自身が苦手としているため、下手に使うと不味い事になりかねません。完全に追い詰められた、そう私は思いました。

今の状況を日本の言葉では、何と言うのでしたか……そう、言うならば万事休す といったような状況ですわ。
ブルー・ティアーズは子機を失った事により機動力は大幅に下がり、そして私が打てる手は……もうありませんでした。

せめてなんとかしてローレンスさんだけでも、と思っていると再び<Unknown>からの攻撃――<Unknown>は、今度は左手に巨大な機殻剣を呼び出すと、こちらに突っ込んできました。
速い……!私が感じたのはその言葉に突きました。ブルー・ティアーズのハイパーセンサーを持ってしても追うのが精一杯で、試合中にローレンスさんが見せたあの圧倒的な機動力など目ではないほどの速度で、<Unknown>はこちらに機殻剣を手に突撃してきました。 
私は考えました、今打てる手段であの攻撃をできるだけ被害を少なく済ませるにはどうしたらいいのか――数秒間思考して、私は再び強引な手段に出ることを決意しました。

「また無理させますわよ……!ブルー・ティアーズ!」

本当に、私らしくない戦い方だと思いますわ。今やっている戦い方は、優雅という字も美しいという字もありませんでした。ただ強引に、どうしたらいいか考えて無理矢理に動いているだけの、足掻き。
ですがそうしなければ自分自身もローレンスさんも終わりだ、そう私は自分に言い聞かせました。

私は、左手にスターライトmkIIIをコール、そしてコールと同時にマガジンを装填、セーフティーを解除――ですが、決して撃つ訳ではありません。
私はマガジン装填とセーフティーが解除されているのを確認すると、それを……こちらに切りかかってきた<Unknown>が、自分達から見てショートレンジに入る瞬間に、左手のスターライトmkIIIを投げつけました。
当然、予測したように<Unknown>はそれを見ると、手に持つ巨大な機殻剣でそれを切り捨てようとします、そしてそれが……私の狙いでした。
<Unknown>が私の投げたスターライトmkIIIに対して機殻剣を振り上げた瞬間、私はローレンスさんをぎゅっと強く抱きしめると、ブルー・ティアーズの現状で出せる最大の速度を出して距離を離しました。
そして――先程私達が居た位置では、大きな爆発が起こっていました。これこそが、私の狙っていた事、自分らしくもないと考えながらも打てる手段として最も有効だと考えた方法でした。

スターライトmkIIIは高エネルギーを使用するレーザーライフル、そして当然ですがそのマガジンもエネルギーの塊です。ですが、撃てなければ何の意味もない、そこで私が咄嗟に考えたのは『撃てないのなら盾にすればいい』という考え方でした。
セーフティーを解除してあったスターライトmkIIIは<Unknown>に切られると、その場で爆発――これならば、なんとかなったかもしれませんわね……! あれだけの爆発です、<Unknown>も無事では済まない――

次の瞬間、私は信じられないものを見ることになりました。爆発で発生した煙が晴れたそこに存在したのは……『無傷』の状態の<Unknown>でした。

有り得ない――あれだけの爆発ですのよ!? その爆発をゼロ距離で受けたのだ、無事で済むはずがない…… そう私は思いましたが、現実は非情でした。
<Unknown>は、こちらを向くと、機殻剣からいつの間にか持ち替えていた巨大なライフルを、私達に向けました。

そして、次に起こる未来が大体予測できました、きっと、あのライフルから放たれる収束砲は私達に対して放たれる、そして私にも、ブルー・ティアーズにも、もう対応するだけの力は……ありませんでした。

もう一度、自分はどうなってもいい、とにかく負傷しているローレンスさんだけでもなんとかして助けられないものかと考えますが――私にはその方法が見つかりませんでした。
ここまで、ですのね。 そう覚悟を決めて、心の中でローレンスさんに『申し訳ありませんわ』と言った瞬間でした。

ブルー・ティアーズが自分達の後方――シールドバリアーの外からこちらに接近する機体が2機来ているとウインドウメッセージを出してきました、それを見て私はこの状況でまさかまた襲撃者なのか、と思ってしまいました。

しかし、それは襲撃者などではなくて――言うならば私が後に、尊敬の対象として見る人物と、知りたいと望んでしまった人物でした。

バリィィン! という、アリーナのシールドバリアーが割れる音と共にアリーナに入ってきて、ローレンスさんを抱きかかえる私の前に現れたのは、『白』――織斑一夏の『白式』、そして……もう一機を見て、私は言葉を失いましたわ。
灰銀色のアーマーに、緑色の6枚翼のエネルギーウイング、そう――『白式』と共に現れた機体は、私と戦っていた<Unknown>の姿と、殆ど一緒だったからですわ。

「大丈夫か!オルコットさん!」

「え、ええ……ありがとうございます――しかし、そちらの機体は……」

すると、<Unknown>とほぼ同じ姿をした『彼』は口を開きました。

「色々言いたい事はあるかもしれないけど、全部後にしようかオルコットさん―― 一夏!手筈通りにオルコットさんとアリア連れて離脱しろ!」

「だ、だけどよ……本当にお前一人でアレの相手をするって言うのかよ!?」

「それしかないだろうが、アリーナのシールドロックはすぐに解除できるようなもんじゃないし、ピット・ゲートは使えない――さっき話したように、お前の単一仕様能力で無理矢理アリーナのシールドバリアーに穴を開けて、自動修復される前にそこから脱出するしか方法がないだろうが!」

「確かにそうは言ったが……じゃあ悠はどうすんだよ!――お前は、お前一人だけここに取り残されるんだぞ!?」

「知ってる。だけど――そうでもしなきゃ、この状況はなんともならんだろうが。一夏、お前は今アリーナに穴を開けるために一度零落白夜を使用している。そのせいでもうシールドエネルギーはギリギリの筈だ……そして、零落白夜は使えても後一回だけだろ? だったらバリアを壊して、2人を連れて戻れ。それにオルコットさんもアリアも負傷してるんだ、一夏頼む――作戦通りやってくれ」

「……糞がッ!わかったよ、やるよ、やればいいんだろ!だけど約束しろ悠ッ!必ず、必ず戻って来い、まだ昼飯や奢りの貸しも返してないし、色々と言いたい事もあるんだからな!」

「勿論だ、負けるつもりなんてないさ――あんな、あんな俺の『相棒』の姿をした奴なんかに俺は負けない、だから――行け!一夏ッ!」

会話を終えると、『月代 悠』は背中の6枚翼の緑色に輝くエネルギーウイングを展開すると<Unknown>へと向かっていき、彼――織斑一夏は私達のところに来ると言葉を紡ぎました。

「オルコットさん、言いたい事はあるかもしれない、だけど……今はあの馬鹿悠に任せてやってくれないか?オルコットさんもローレンスさんも怪我してるんだ、だから――零落白夜でもう一度シールドに穴を開ける、そこから脱出してくれ」

私は、確かに言いたい事は沢山ありましたわ。そして、どうして『月代 悠』が纏っているあのISと<Unknown>の姿が同じなのかも。ですが――それよりも今は、ローレンスさんの容態が最も心配でした。

「――分かりましたわ」

そう言葉を紡ぐと、私はローレンスさんを抱きしめたまま、もう一度切り裂かれ、そこに出来たアリーナのシールドバリアーの穴から外へと脱出しました。
アリーナから離脱する際に、一瞬だけ戦闘を開始した殆ど同じの二機を見つめながら私は――ただそれを見守る事しかできませんでした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

時間は少しだけ遡る。俺は、アリーナの中の状況を見て、すぐにでもアリーナ内部への突入を試みた。しかし、ピット・ゲートはロックされており、アリーナへの突入方法はほぼなかった。
考えた結果として、俺と一夏、篠ノ之さんは現状について最も知っているであろう『織斑先生』が居る管制室へと全力疾走した。

とにかく何とかしなければ、急がなければきっと2人は不味い事になる――そう俺は思っていた、だから本来ならば管制室に許可なしで入れば処罰の対象なのだが、俺はそんなもの構わないと思っていた。
第三アリーナの通路を全力疾走して階段を駆け上がる、そして目的地である管制室のドアを見つけると俺達は急いで管制室へと入る。

「千冬姉ッ!」

「織斑先生だ。どうした馬鹿者――全生徒に対しては緊急事態であるが故に避難指示を出した筈だが?」

「そ、そうだけど……一体何がどうなってるんだよ!?オルコットさんとローレンスさんが試合をしていたと思ったら、変な奴が乱入してきて、それで、それで――」

「……教師としては、本来なら管制室への無断入室、それから避難指示の無視やその他で言いたい事や怒りたい事はあるんだがな、ひとまず落ち着け織斑、そして月代、篠ノ之、お前達も今何が起こっているのか知りたいんじゃないのか?」

「――その通りです、織斑先生。指示や規則を無視した挙句破った事については後ほど処罰でも何でも受けます、ですが……一体今何が起こってるんですか?教えてください」

俺は普段、一夏と会話していたり漫才していたり、そんな日常で見せるような目ではなく―― 一人の『軍属』としての目で織斑先生の目を見据えると正面からそう問いかけた。

「私からもお願いします、織斑先生。悠も言いましたが処罰なら受けます、ですが――あの2人を助けたいんです、このまま放っておけば――きっと不味い事になると思います」

「…はぁ、篠ノ之、普段優等生のお前までこんな事をするのか」

「こんな事?こんな事って――千冬さんッ!」

「落ち着け篠ノ之! それと、織斑先生だ。お前にまで織斑の馬鹿がうつったか――誰も説明しないとは言っていない、山田君、現状のデータとアリーナのシステム状態のステータスを出せ!」

「は、はいっ!」

篠ノ之さんはアリアと仲がよかった。だからこそ、下手をすれば2人が死んでもおかしくはないこの状況では冷静にいつも通り振舞っているように見えても、心の中ではかなり焦っていたのかもしれない。
今の篠ノ之さんの口から出た織斑先生への言葉は、きっとそれを物語っていたのだと思う。そしてそんな冷静ではいられないという状態は、織斑先生も同じなのだろう。普段常に冷静な織斑先生が、今こうして言葉を荒げたのだから。
織斑先生が山田先生に指示を出すと、管制室のモニターにアリーナのステータスが表示される、そしてそれを見て俺達3人は、現状が自分達の思っていたものより遥かに不味い事になっているという事を俺は理解した。

「これは……」

「これが今の現状だ、アリーナの全ピット・ゲートが使用できないのはお前達も見たと思う、だがそれだけではない……アリーナのシールドレベルが4に設定され、更に何者かが学園のデータベースへとハッキングを仕掛けている――恐らく、今アリーナの中に居るあの襲撃者だろう」

「レベル4、最も大きな危険性が発生した場合に行われるセキュリティレベルの適応値――織斑先生、それで現状の対応は?」

「現在、ハッキングに対して教員・そして精鋭の生徒達でその対処を行い、扉のロックだけは解除できた。つまり観客席に居た生徒は全員避難済みだ――しかし、アリーナの中へ突入する手段はまだ確定されていない、残念だが……2人を助けに行く手立ては、今はない」

「ざ、残念って――それだけで済ませるんですか!? 中でアリアが、2人が死ぬかもしれないんですよ!? よくそんなに冷静で居られますね、千冬さんッ!」

「そうだぞ千冬姉! 急がないと2人が危ないんだ、モニターで見ただけだけどよくわかる、あの襲撃者は不味いって事が!」

何も出来ない、という織斑先生の発言に対して一夏と篠ノ之さんが非難の声を上げる。確かに、俺だってそう思うさ――だけど、織斑先生だってきっと今辛いんだ。
俺は考える、今新たな情報を得た上で、現状としてどうすればいいのか。アリーナへは非常に強固な上に、レベル4設定の『シールドバリアー』が邪魔していて進入できない。ゲートも封鎖されている。
仮定の話として、もしリミッター無しの『テンペスト』ならば、あの襲撃者がやったように<インフェルノ>でバリアーに対して穴を開けることは可能だろう、だが――今のコイツにはリミッターが掛かっており、そしてこれを解除するわけにはいかない。そんなことをしてしまえば、今よりもっと大変な事になってしまうのだろうから。

待て、待てよ――『シールドバリアー』?  そうか、その手があったか!何故気がつかなかったんだ俺は!――だけど、それをするとして……後々色々と学園や先生には説明しなければならなくなるし、きっと『仏蘭西国企業連』にも迷惑をかけることになる。

ええい、ままよ――そんな後の事より『今』だ、今あの2人をどうやって助けるかだ、そしてその可能性が見つかったんだ、だったらやるしかないだろうが!

「一夏!篠ノ之さんも落ち着け!ここで織斑先生を責めても何も変わらないだろうが!――織斑先生、お聞きしたい事があります」

「何だ、言ってみろ月代」

「――恐らく織斑先生でなければ分からない事です。アリーナの『シールドバリアー』、あれは一夏のIS『白式』の単一仕様能力、『零落白夜』で破壊する事は可能ですか?」

「そ、そうか……確かにそれなら――」

一夏がその手があったか、というような顔をする。そして織斑先生は俺の質問に対して答えを返した。

「――『破壊』する事は不可能だ」

「そんな、それじゃあ――」

「待て、最後まで話を聞け織斑。確かに『破壊』する事はできない、その理由はアリーナのシールドバリアーは非常に強固なものであり、仮に破壊しても即座に修復処理が行われるからだ、先程襲撃者が破壊したシールドも既に修復されている。だが――『破壊』は無理でも、『切り裂く』事はできる」

「……と言うと?」

「前にも話したが『零落白夜』は白式のシールドエネルギーを犠牲にして、『バリアー無効化攻撃』を行うものだ。そして、その無効対象はアリーナのバリアーも例外ではない――月代、お前が考えている事を当ててやろう。一夏の白式でアリーナのバリアーを切り裂いて、そこに出来た穴から内部へと進入、オルコットとローレンスの救出と援護に入るという考えだろうが――『零落白夜』は白式のシールドエネルギーを食うんだぞ?シールドエネルギーを大幅に消費した状態で一夏が白式を使い、二人を助けられると思うか?あの襲撃者は――間違いなく規格外だぞ」

「織斑先生の今仰った事は概ね当たっています――確かに、自分の考えは一夏の白式によるシールドの破壊、そしてそこから進入して2人の援護と救出を行う事です。ですが…『一夏だけとは言っていません』」

「ほう?」

「自分も出ます――自分が提案する作戦内容はこうです。一夏の『零落白夜』でアリーナのシールドを切り裂いて、そこから自分と一夏が内部へと進入、そして2人を救出した後に一夏にもう一度『零落白夜』を使ってもらい、アリーナから脱出してもらう。これが自分の考える作戦です。失礼を承知でお聞きします、世界最強『ブリュンヒルデ』としては、この作戦は遂行可能だと思われますか?もし無理だと判断されるのでしたら――自分は先生方の判断にお任せします」

「全く……私はその名を嫌っていると言っただろうが。まあいい、結論から言えば可能だ。だがしかし、あの襲撃者はどうする気だ?仮に内部へと突入が成功したとして、襲撃者の攻撃対象は恐らくお前達に向くぞ?そんな状況になった場合『零落白夜』で再度シールドバリアーを切り裂いて脱出するのは困難だろう、そして襲撃者もそれを許すとは思えない」

「それについては考えがあります――自分があの襲撃者の相手をします、そして自分が襲撃者と戦闘をしている内に、一夏と2人には脱出してもらいます」

「…馬鹿かお前は!」

「そ、そうだ――そんな事をしたらお前がヤバイんだぞ馬鹿悠!」

「危険すぎる、無茶だぞ悠!」

そこで織斑先生は、普段見せないような心配という表情を見せて、声を荒げた。そして一夏と篠ノ之さんも同様だった。そう、普通に考えたらこの作戦は無謀以外の何者でもない。仮に、仮にだ。一夏を含めて3人が脱出に成功したとして、俺があの襲撃者との戦闘に敗れた場合死ぬ可能性だってあるのだ。
無論、俺は死ぬ気は更々ない。まだ己の求める答えも、『テンペスト』の真実も、ISの可能性も、何一つ見つけてないし達成してないからだ。だからこそ、俺は死ねない。死ねないが、それでも命を張らなければ自分の隣で己の『相方』のように居てくれる奴と、大事なクラスメートが死ぬかもしれないんだ。

だったらやるしかない、何の犠牲もなしに何かを成せるとは思っていない。だからこそ、俺は往くんだ。

「だが、そうでもしない限り2人を救出するのは不可能だ。そして政府や先生方のアリーナへの突入や対応を待っていたら……きっと手遅れになる」

「月代、私としてはこの作戦には反対だ――だが、反対だがこの作戦ほど今行える手段で有効なものはないと思う。 下手をすればお前が死ぬぞ?それでも、それでもやるのか?」

「やります、やり遂げてみせます」

織斑先生は暫く目を瞑ると険しい顔で何を考えた後、『全く、馬鹿な奴だ』と言うと再び言葉を紡いだ。

「月代、お前の作戦を許可する。そして全責任は私が取る、だから必ず成功させろ、成功させてお前も必ず戻って来い。無論、戻ってきて貰った上で全て説明もして貰うからな? ――生徒に死なれたら私とて嫌だし、それに私が責任を持つのだ、『ブリュンヒルデ』の名に泥を塗ってくれるなよ?」

「善処します、それでは――作戦行動に移ります」

きっと織斑先生のその言葉は皮肉だったのかもしれない。己の嫌う『ブリュンヒルデ』という言葉を出したのだから。だけど、その言葉を出してまで俺達を心配してくれているのだということがよくわかった。

だから、俺は負けないと決めた。そうだ、あんな――あんな俺の『テンペスト』に酷似した奴なんかに負けない、俺の『相棒』に似た奴なんかに絶対負けない、だから――だから行くぞ『テンペスト』、全部終わらせて、そしてまた戻ってこよう。
そう俺は心に誓うと、管制室を後にし、一夏と共に行動を開始した。


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