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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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妄想―人外の弟子、入学す―

 
前書き
なんだか一夏の性格や口調が表現出来てない気がする・・・


言い訳をすれば、どこから書きはじめようかとか、勉強とかで遅れました。
ニセコイ面白い。 

 
「今日から俺、ドイツ行くから」

邦介さんの突然の告白を聞いて俺は一瞬目が丸くなった。
唐突に、なに外国渡ろうとしているんだと。
だが、修行後で動くことができない俺は口を開くことは出来ず、目で語る。

こんなに急に、しかも千冬姉のいる国になんの用があるのだろうか。

「ちょっとな。千冬ちゃんが育てた部隊ってのがどんなものか見に行こうと思ったんだ」
「そうなのか!? それなら俺も連れて行ってくれよ!」
「だめだ。お前には勉強があるだろう? それに鈴ちゃんや弾君達が寂しがると思うな」
「ぬぐっ」
確かに俺は中学に入ったばかりで勉強についていけるかが少し心配だが、邦介さんが俺の同伴を断る理由は絶対それじゃない。

きっとこっそり日本からドイツに渡るつもりだ。
約一年一緒に過ごしてきて分かった。邦介さんは妙に修行癖があるみたいで、突拍子も無い事をよくする。
だからドイツに行くのにも泳いでいくとか、平気で言い出しそうだ。

「それで、どうやって行くんだ?」
「泳いで。もしくは走って」
「……はあ」

やっぱりな。ていうか走ってどうやってドイツに行くんだよ。

「なんだそのため息は……。まあいい。それじゃしばらく一人になると思うが、修行はしておけよ」
「おう」
「……精々俺との組手で吐かない程度にはなっとけよ」
「そ……」

そんなこと出来るか!
そう言う前に邦介さんは家から姿を消した。恐らくドイツに向かったのだろう。
相変わらず速すぎる。目で追えないってどういうことだよ。
本当に人間か、あの人は。

「……はあ。せめて吐かないようにって、無理だろ」
邦介さんの攻撃は後になっても痛みが引かないため、殴られれば殴られる程辛くなる。
終いには血反吐を吐いてしまうのだから始末におけない。
なんでも殴ってる本人曰く、殴り方を三種類に分けていて衝撃を内臓に留める方法もある。というかそれを途中から俺にぶつけていたらしい。
あんたのは殺人拳か。道理で殴られても吹っ飛ばなくなったと思ったよ。


ため息を吐きながら俺は洗濯物をたたみ、日課の耐久ランニングをするために街へと繰り出した。
ある日の土曜日のことである。














ここまでが回想な。
「織斑一夏くんっ」
「……っふぉ!? あ、はい!」
奇声を上げてしまったせいか、周りからはクスクスと笑い声が聞こえてくる。
くそう、現実逃避していて気づかなかった。

何故現実逃避をしてるか? それはすぐ分かるから後にしよう。

現在俺こと織斑一夏(身内には阿修羅のように強い姉が一人)は学校にいる。高校の入学式だ。新しい世界の幕開け。確かにそれは良い。中学とは違った人、高校デビューを果たした(もしくは失敗した)友人の姿、広がる(かもしれない)交友……等々様々な楽しみがあるだろう。

(それでもこれは無いだろう)

目の前で非常に物腰の低い態度で、俺に自己紹介を頼む副担任の山田真耶先生が見える。身長は俺より低く、俺より胸がでかい。……女性だから当然か。
これ以上現実逃避もしてられないため、後ろを振り返る。最前列の真ん中故に教室全体が見渡せるが……これは辛い。

「えー……織斑一夏です。よろしくお願いします」
内心冷や汗をかきながら俺は作り笑顔を浮かべて自己紹介する。
クラス中から突き刺さる視線、更なる情報開示を所望するという口パク大多数、極東の猿めという視線一名、わが生涯に春来たり! とばかりの表情をする者数名。

……さて、ここで俺のクラスの男女比率を公開しようと思う。
29:1。勿論1は俺である。
ここはIS操縦者を育成する高校(超倍率高い。五桁の倍率なんて初めて見たぞ俺は)IS高校である。半ば女子高のようなものであるが、俺は訳あってここにいる。


ここの女子の視線はきっと珍しいもの……まあ、女性しか乗れないと言われるISに世界で二番目かもしれない男性IS操縦者なのだから、差し詰め俺は動物園のパンダと同じ状況なのだろう。
というわけで、俺はちょっとした反抗の意も含めて君ら女子生徒の意に背いてみる。
「――以上です!」

どうだ――。

ドヤ顔を浮かべようとした瞬間に、後頭部に何かの気配が高速で迫って来るのを感じるも、時既に遅し。とでも言うべきか、既に直撃の模様。
せめてもの気休めで、大げさな動作をすることで多少の衝撃を緩和。
それでも痛い。一体誰だよ、こんな馬鹿力な人は――。
「げえっ、関羽!?」
また叩かれたが、今回はちゃんと衝撃を流せた。
「っち。誰が三国志の英雄か馬鹿者」
……この人思ったよりもダメージを与えられなかったからって舌打ちしてるよ。
いいじゃないか。音が大きい所為で周りは少し引いてるみたいなのに。

突如俺の背後に現れた担任の先生は、若干悶えている俺を無視して、教壇に立つ。
あ、山田先生に話しかけた。山田先生デレた。

「諸君、私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

なんという暴力宣言。信じられるか? 俺の姉だぜ?

それでも、まあ他の女子はそうは思わないのか……。
俺は周りの空気を察知して、頭を抱えて机の上に伏せる。
「キャ―――! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 二次元から!」

おいそれ詳しく聞かせろ。

まあ、このような千冬姉に対する音波攻撃に、当の本人の千冬姉は頭を痛めているようだがそれでもつつがなくHRは終わった。
……職業不詳で月に一、二回しか家に帰ってこないから何をしているのかと思ったが、IS学園の教師だったんだな。


「さあ、SHRはこれで終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

なんという鬼教官。と、邦介さんともう一人、邦介さんが雲隠れして修行をつけられなくなったから、その代わりとして連れて来てくれた蒼也さんの修行を受けた身とすれば、中々に優しい方だと思える。
(まあ、出来る事を言われてるだけましだからなあ)
決して三日、または体力が無くなり、意識が無くなるまで飲まず食わずで走れ、とかこの岩が砕けるか、拳が砕けるまでそれ以外何もするな、とか屋上から無傷で着地しろ。とかいう生死にもかかわる修行を受けてきた身からすれば、この程度は楽に思える。


ちなみに邦介さんも蒼也さん(妻帯持ち)も少し感覚がずれているらしく、二人はこの内容の遥か上のことをやって見せた。不思議な力は一切使わずに。


……俺の周りにはどうしてこうも人を超越した方々がおられるのだろうか。


よく笑って、一流大企業(世間に疎い俺でも知っていた。というかよく買っている製品がほとんどそこの商品だった)に勤めている蒼也さんはまともかと思ったら、平気で海を割ったり、屋上まで一度で跳んだりするし。
その奥さんも大和撫子みたいにおっとりとしていて、雅な雰囲気を醸し出しているのに握力勝負や腕相撲では勝てた試しがないし(俺はリンゴを握り潰せる)。
唯一の身内である千冬姉は「私も精進が足りないな」とか言いながら定規で斬鉄の練習をしてるし(成功率は五割である)。

「顔を上げろ馬鹿者」
うぃっす。


ちなみに俺のセカンド師匠(ファーストは千冬姉、サードは蒼也さん)である邦介さんは、ジーパンに半袖でそれ以外何も持たずにエベレストを登頂したり、素手で斬鉄出来る(成功率は十割)し、本人曰く心眼というものが使えるとか。詳細が分からない。
その噂の一番目の男性操縦者候補がリビングのテーブルにその写真を置いてあったのだから間違いない。

……ああ、俺は邦介さんがドイツに行った日からその姿を一度も見ていないが、どこにいたのかは大体分かっている。
……一応指名手配されている身なのに、家に平気で土産物とか写真を置いておくなよ。



さあて、ISの授業は如何ほどのものか。果たして俺は予習なしについていけるのだろうか。
俺はこんな見世物のパンダのような状態でまともな学園生活を送ることが出来るのだろうか。



頬を一筋の汗が流れた。今は涼しいのにな。
 
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