八条学園怪異譚

「藤原家は相手の命までは奪わなかった」
「そうですよね」
「陥れた相手を流罪にはしていた」
　しかし殺すことはなかった、このことが非常に大きかった。
「源氏は殺し合った」
「特に頼朝が」
「あの御仁はわしも好かん」
　大天狗はその赤い顔を顰めさせていた。
「どうしてもな」
「そういうことですね」
「あの御仁がその殺し合いの中心にいた」
　その中で幼い子供まで殺している。静御前が産んだ義経の子供にしても木曽義仲の息子にしてもである。
「当時の習いではあったがな」
「けれどそれでも」
「それが過ぎた。しかも陰気だった」
　俗にこう言い伝えられている。
「好きになれなかった」
「そうですか」
「あの御仁はな」
　大天狗は浮かない顔で源平の頃のことを話した、そのうえでだった。
　二人にあらためてこう言ったのだった。
「それで今夜にもだな」
「はい、神社に行こうって思っています」
「そう考えています」
「待っている。ただ」
「何か変わった巫女さんいるそうですね」
「私達の先輩筋の」
「お嬢には気をつけろ」
　大天狗自身もこう言う。
「悪い人ではないがそれでもな」
「面倒な人ですか？」
「そうなんですか」
「何かとな」
　二人に話していく。
「騒動を起こしてしまう」
「ううん、そうらしいですけれど」
「神社に行ったらおられるんですね、その先輩」
「我等のことも知っている」
　妖怪達のこともだというのだ。
「そして泉のこともだ」
「それで泉を探しておられるんですか？」
「そうなんですか？」
「探してはいないが調べている」
　実際の行動には移っていないというのだ。
「妖怪については博士の足元には及ばないが君達よりは知っている」
「ううん、そういう人なんですか」
「神社の巫女さんで」
「いい妖怪と悪い妖怪がいることも知っている」
　このことも把握しているというのだ。
「そしてこの学園にはいい妖怪しか入られないことも知っている」
「じゃあ話が早いですね」
「それですと」
「すぐに話は出来ると思うがとにかくややこしいお嬢だ」
「何か騒動を引き起こすとか」
「そういう人ですか」
「そうだ、会う時は注意してくれ」
　大天狗はくれぐれもという口調で二人に話す。
「実際に会うと思うからな」
「ううん、妖怪さん達はいい人ばかりですけれど」
「その先輩は」
「悪い娘ではないのだ」
　このことは間違いないと保障する、天狗もまた。
「むしろ善人だ」
「いい人でも面倒な人っていますからね」
　愛実はこのことを今言った。
「何かと」
「その若さでそのことがわかるか」
「いや、私も色々あったんで」
　入学当初聖花に対して強く感じていた劣等感や嫉妬のことも思い出しながらそのうえで大天狗に話していく。
「私も皆からいい娘って言われますけれど」
「愛実ちゃん実際にいい娘よ」
　親友の聖花もこのことは保障する。
「そのことはね」
「ううん、けれどね」
「私だって愛実ちゃんに嫉妬したりコンプレックスとかあったから」
　聖花はこの場でも愛実にこのことを言う。