トーゴの異世界無双
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百二十三話 二人を狙っているのは誰だ?
メイムの剣を受け、ヤーヴァスは冷静に思案していた。
滅ぼされた村。
魔剣が証拠。
リコール村。
そのキーワードを自身の記憶に検索をかけていく。
(リコール……そうか、確かリコールというのは……)
何かを思い出したのか、目を細めてメイムを見つめる。
「少女よ、そのリコール村というのは……」
「うるさいっ! 言い訳は聞かないっ!」
ヤーヴァスの言葉を消すように大声で張り上げる。
「公(おおやけ)の場でアンタを倒してやりたかった! でもできなかった!」
本当は大会で勝ち進み、ヤーヴァスを大会で倒すつもりだった。
そして、その場でこの男の罪を晒(さら)すはずだった。
だが大会には敗退してしまい、その希望は潰(つい)えた。
「だからここでアンタを殺すんだっ!」
もうメイムには策を練っている余裕は無かった。
いや、これ以上、ヤーヴァスが我が物顔で大会を勝ち進むことが気に入らなかった。
大会に敗退し、ヤーヴァスの行動を今までチェックしてきて、この場所、この時間なら、誰にも見つからないと判断した。
殺意の含んだ瞳で剣を振るう彼女を見て、ヤーヴァスは眉を寄せる。
(そうか、最近感じていた強い視線は、この少女のものだったか)
ヤーヴァス自身、大会では注目株だったので、自分が目立つ存在だというのは理解していた。
そのため、敵意や殺意を含んだ視線をぶつけられるのは覚悟していた。
だがその中で最も強い敵意を感じた視線があった。
それが彼女のものだと気づき納得を得る。
メイムが剣を構え突っ込んで突きを放ってきたので、そのまま剣で弾き返すと、彼女は顔をしかめて踏ん張る。
ヤーヴァスがまるで本気を出していない様子なのが、さらに怒りのボルテージを上げる。
苛立ちを隠しもせず、歯を食いしばり彼を睨み付ける。
だがヤーヴァスはそんな視線を意に反さず受け流す。
「いいか少女よ? リコール村というのは、三年前に滅んだ村のことだな?」
その言葉を受けて、ハッとなり、目を細める。
「……ようやく思い出したってわけね」
「お前は勘違いをしている」
「は?」
「私はリコール村を滅ぼしてなどいない」
またもメイムは全身を小刻みに震わせる。
「……私は見たのよ」
「見た?」
「アンタの持っている魔剣で滅んでいく村をね!」
「それは……」
「それに、ネムが教えてくれた……村を滅ぼしたのはエルフだってね!」
どうして、自分がエルフだと知っているのか気にはなったが、そんなことよりも、また彼女は突っ込んでくるので、それに対応しなければならない。
(これは一度退いた方が……ん?)
その時、メイムの背後からキラリと光るものが飛んできた。
グサッ!
刺さったのは…………メイムの肩だった。
呻(うめ)き声を上げながら膝をつく。
「な、何……ナイフ……っ!?」
自分の左肩を確認すると、小さなナイフが刺さっていた。
そしてそれを苦痛を我慢しながら抜くと、さらに憎しみを込めた表情でヤーヴァスを睨む。
「背後から……このぉっ!」
これはヤーヴァスの仕業だと思って、上がらない左腕はそのままにし、右手だけで剣を構える。
すると、また彼女の背後から光るものが飛んでくる。
「避けろ!」
「は?」
突然ヤーヴァスに言われ、眉間にしわを寄せ固まる。
いつまでも動かないメイムにやきもきし、ヤーヴァスは自ら彼女に向かって行く。
「き、来なさいよ!」
自分に向かって来るヤーヴァスに身構える。
だが彼は何故か横を通り過ぎる。
そして剣を振ったかと思うと、カランと地面に何かが落ちるような音が聞こえる。
それは自分の肩に刺さっていたナイフと同じものだった。
(え? ど、どういうこと?)
メイムは完全に混乱に陥ってしまっていた。
先程は自分を攻撃したのに、次は防ぐ……?
意味が分からないと首を振る。
ヤーヴァスは今、背後でメイムを庇うような格好になっている。
メイムはふと思う。
(い、今なら背中を刺せる……)
どういうわけか、ヤーヴァスは自分以外の何かに意識を取られている。
今なら背後から攻撃すれば、彼を簡単に殺すことができるかもしれない。
剣を握る右手に自然と力が込められる。
刺そうと思った瞬間、背後に何者かの気配を感じた。
いや、気配というよりは、自然と体がそこに反応した。
まるで恐怖が伝わってきたかのように背中に悪寒が走る。
恐る恐る振り向くと、そこには…………………………何も無かった。
いや、何も無いように見えた。だが本能が感づいている。
そして拒絶している。
これ以上意識を向けるのは危険だと。
するといきなり黒くて長いものが伸びてきて腕に絡みつく。
それは触手のようなものだが、実際は何か判明できない。
生温い嫌な感覚がそこから伝わってくる。
「ちょ! 何よコレ!?」
必死に掴まれた右腕を動かして解放を願うが、左腕は使い物にはならないので、どうしようもなかった。
すると、また黒い触手が伸びてきて今度は両足に絡みつく。
ゾクッと背筋が凍る感覚が走る。
何だか分からないが、とても気味の悪い恐怖が支配する。
「い……嫌……」
ブシュッ!
瞬間、体に自由が戻った。
何が起こったのかと思い、目の前を見ると、そこにはヤーヴァスの背中があった。
さっきまでヤーヴァスとは背中合わせになっていたはずだった。
それがどうして目の前にいるのか分からなかった。
するとまた触手が伸びてくる。
それをヤーヴァスは剣で斬り落とす。
それを見てようやく理解する。
どうやら自分に絡みついた触手を彼が斬ったお蔭で、体が自由になったようだ。
だが不思議でならなかった。
彼がこんなことをする理由が思いつかないからだ。
「ど……どうして……」
これでは、まるで自分を守っているみたいではないか。
またも触手が二人を狙って伸びてくる。
今度は複数だ。
だがさすがはヤーヴァス、向ってくる触手を難なく斬り落としていく。
すると攻撃が止み、静けさが辺りを支配する。
(もう終わりか……?)
ヤーヴァスは警戒を緩めずに周囲を観察する。
すると、目の前から何かが向かってくる足音が聞こえる。
それも固い地面を歩くような音では無く、まるで泥の上を歩くような粘々(ねばねば)した音が聞こえてくる。
だがもちろん、この周囲には水溜りも無ければ泥も無い。
それなのにビチャビチャと耳に届いてくる音が不快感を与える。
(何だ……この嫌な感じは……?)
メイムが感じた感覚と同じような思いをヤーヴァスも抱く。
目の前から視線を外したいと思うが、どうしても外せない。
外した瞬間、後悔してしまうような感じがする。
その上、生温かいゼリー状の物体を頭から被(かぶ)ったような感覚が伝わってくる。
そして、二人はそこに現れたモノに息を飲む。
「ほう、あのヤーヴァスと女性は闘っていたわけではなかったのですかね……」
先程までヤーヴァスとメイムが争っていたところを観察していた人物が首を傾げる。
争っていたはずなのに、今はそんな彼女をヤーヴァスは庇っている。
「一体どういうことでしょうか……?」
しばらく考えていたが、二人の関係が分からないので答えを導き出せない。
だがそこで何かを思いつき、狡猾(こうかつ)そうに口角(こうかく)を上げる。
「これはこれで、都合が良いですかねぇ」
ページ上へ戻る