トーゴの異世界無双
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第百二十二話 メイム……何でだ……?
「それではよろしいでしょうか皆さん!」
突然モアの声が闘武場に響く。
今まで二人で喋っていた闘悟達も彼女の声に注目する。
どうやら闘悟の骨折の件は、フレンシアが上手く誤魔化してくれたようで、モアも追及してはこない。
フレンシアには感謝するが、後でどんな要求されるか分からないので、結局はプラマイゼロのような感じがするのも否(いな)めない。
「これから準決勝のクジをしたいと思います!」
何ぃぃぃぃぃっ!!!
闘悟は心の中で小躍(こおど)りしていた。
まさかまたクジをさせてもらえるとは思っていなかったのだ。
このまま順当に、試合順として、一回戦の勝利者と二回戦の勝利者、三回戦の勝利者と四回戦の勝利者が闘うと思っていたのだ。
だがどうやら残った四人で再びクジをするみたいだ。
よし! 残り物には福がある!
最後に咲く花もある!
つまり次の大会最後のクジではドベじゃない可能性が!
闘悟は一縷(いちる)の望みを掛けて、クジを引く右手に力を込める。
「あ、クジはもうこちらで引きましたので、今から対戦表を発表しますね!」
何ですとぉぉぉぉっ!!!
オレの元気を込めた右手はどうしてくれんだよぉっ!!!
もちろん闘悟のそんな叫びは誰も気づいてはくれない。
行き場の失った右拳の力は、そのまま虚しくフェードアウトしていく。
くそ……いいんだいいんだ、どうせオレなんかクジを引いたところでドベって決まってんだ……いいんだよ、別に悔しくは…………ないこともないんだけど…………はぁ、引きたかった……
闘悟が心の中で涙を流していると、ゴゴゴと音が耳に入ってきた。
音の正体を確かめようと、周囲を見てみると、またも地面から石版が競り上がって来た。
そこにはこう書かれてあった。
準決勝第一回戦、ヤーヴァス対ガシュー。
準決勝第二回戦、レリーズ対トーゴ。
はい、終わりましたぁ…………。
闘悟の思いは砂となり、風にさらされて吹かれていきました。
ドベという名のそよ風に乗って。
ミラニはようやく事態を飲み込めたのか、闘悟に対して憐(あわれ)みの視線を向ける。
止めて! そんな目で見ないでぇ!
とにもかくにも、これで準決勝の相手が判明した。
闘悟の相手は、あのシャオニですらあっさりと破ったレリーズ。
見たところ、その強さは別格のような気がした。
シャオニを手玉に取った氷の属性魔法。
発動スピードも、魔法の清廉(せいれん)さも、ミラニと良い勝負かもしれないと感じた。
ただ、勝負は相性の問題もあるので、どちらが強いかなどは判断できない。
闘悟自身、氷使いと闘うのは初めてなので、楽しみでもあるのだ。
時間が経てば、明日否応なく舞台に立つのだから、今から気にしていても仕方無い。
それよりも気になるのが、やはりガシューのことだ。
今日の不戦勝の件もあり、ヤーヴァスのことが心配になった。
もしかしたら、今回のようにヤーヴァスが何かされる恐れがある。
ミラニもそのことに気づいているのか、険しい表情で考え込んでいた。
闘悟は、この闘武場のどこかでほくそ笑んでいるガシューを思い苦々しい表情をする。
「それでは皆さん! 明日の準決勝楽しみにしていて下さい!」
モアの締めくくりの声が闘武場に響く。
「とりあえずクィル達のところへ戻るか」
ミラニと一緒にその場を後にした。
闘武場を出る時に、モアに舞台粉砕の件で怒られたのは言うまでもないことだった。
ホントに二度も破壊してごめんなさい。
これからまた舞台を直す人達に謝罪した。
試合が終わったその日の夜。
ヤーヴァスは酒場で食事をし、宿屋へと帰路の途中だった。
もう夜更けなので、周りには人気(ひとけ)が無い。
しばらく歩いていると、何か嫌な予感が走った。
ピリッとした感覚。
これは確かに経験のある感覚だった。
自分を意識して視線を送られている感じだが、その上、その視線にはただならない感情が込められている。
こういった視線は、よく魔物や、盗賊などとの戦いで感じることが多い。
だが今、見えるところには誰の姿も見えない。
どこにいるかは、その視線を辿ると大体把握できる。
だが彼は立ち止まり、目を閉じながら言葉を放つ。
「出てこい」
その一言を受け、何者かが足音を立てて現れる。
目を開けると、そこには一人の人物が立っていた。
ちょうど左前に立っている木の後ろに隠れていたらしい。
「間違いない……やっと見つけた」
そう小声で言って月影にさらされながら姿を露(あら)わにした。
ヤーヴァスは目の前の人物を見据えて問う。
「何者だ?」
すると相手はギリッと聞こえるような歯噛(はが)みをして答える。
「私はメイム・ウォーレス。アンタが滅ぼした村の生き残りよ」
ヤーヴァスを睨みつけながらそう呟いたのは、間違いなく闘悟と同じくヴェルーナ魔法学園に通う、あのメイムだった。
「滅ぼした?」
表情を変えずに、ヤーヴァスは聞き返す。
「惚(とぼ)けても無駄よ。その魔剣が動かない証拠よ!」
メイムはヤーヴァスが腰に携えている『魔剣ドール』を指差す。
「何のことだ?」
微かに首を傾げながら問う。
「惚けても無駄って言わなかった?」
ヤーヴァスは目の前の少女を観察する。
どうやらこちらの言うことに耳を傾ける冷静さを感じない。
先程から激しい殺気が漂ってきている。
今にも襲い掛かって来るかもしれないと警戒させられた。
「……村とは?」
それでも何とか事情を聞き出そうとする。
話して落ち着かせることができるかもしれないとも思った。
するとメイムはフッと鼻で笑うような仕草を見せる。
「そうよね。私の村なんか、アンタが滅ぼした幾つもの村の、ほんの一つしか過ぎないもんね?」
「……」
しばらく沈黙が流れる。
そして、その沈黙が苦痛かのように顔を歪めて、メイムは呟く。
「……リコール村」
「……ん? ……リコール?」
聞き返した瞬間、メイムが何かを投げつけてきた。
ヤーヴァスは咄嗟(とっさ)に横に跳び避ける。
投げたのはナイフのようだ。
ナイフはそのまま地面に突き刺さる。
攻撃をされたことで、ヤーヴァスの警戒心は最大になる。
即座に剣に手を掛けるが、メイムの様子を見て目を細めてしまう。
「名前すら聞き返すほど覚えてないってわけなんだ……」
「……」
「こんな奴に……こんな奴に……」
彼女の体が小刻みに震えていく。
その震えには、間違いなく憤怒(ふんぬ)が込められている。
そしてキッと顔を上げて睨みつける。
「アンタが!」
「……」
「アンタが私の村をっ! 母さんをっ! 父さんをっ! ネムを殺したぁっ!」
メイムはそのまま突撃するようにヤーヴァスに向かう。
剣を抜いて斬りつける。
ヤーヴァスも同じように対応する。
カキンッ!
両者の剣が合わさり火花が散る。
「おやおや、これは面白いことになっているようですね」
メイムとヤーヴァスの小競(こぜ)り合いを見ていた者がいた。
その者は、二人に気づかれないように、物陰に身を隠している。
「奴を仕留めるには骨が折れるかと思いましたが……ふむ、この状況、上手く利用させて頂きましょうか」
闇の中に微かに笑い声が響く。
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