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ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~

作者:enagon
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第3章 さらば聖剣泥棒コカビエル
  第51話 客人

 
前書き


さて、ついに登場しましたイリナとゼノヴィア!
本当にようやくといった感じです。
リアスが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使い切っている以上、彼女たちがグレモリー眷属になることは不可能なわけですが、果たして彼女たちの運命やいかに!?


 

 



 積もる話もあるだろうからと、私達が帰ってくるとおばさんは気を利かせてか買い物に出かけていった。さて、それで今この状況だけど、なんかリビングが微妙な雰囲気になってみんな黙り込んでる。理由は私とイッセーの対面に座るイリナが、ずっとものすごい落ち込みようを見せていたから。最初顔を合わせたときは何故か絶望したような表情を見せていたし。

 っていうかイリナってこんなキャラだっけ? イリナって原作では天真爛漫な天然ってキャラで描かれてたと思うし、この顔合わせでも明るかったってなってた思う。それに幼い頃も確かにそんな性格だったし。それがなぜかこんなことになっちゃってるから、私としてもどうしていいかわからないし、覚えていないイッセーも話を切り出せそうにない。さて、どうしたものか。

 とそんな中、最初に口を開いたのはゼノヴィアだった。

「日本最強の剣士と聞いて期待していたが、とんだ的外れだったよ」

 ……ん? 日本最強の剣士?

「なんのこと?」

「イリナから何度も君が剣道大会を5連覇したという記事の切り抜きを見せられたからな。実際私もどれほどの腕かと楽しみにしていたんだが……まさか悪魔だったとはな。悪魔の力で最強気取りなどさすが悪魔、恥を知らないな」

「ちょっと待てよ!」

 ゼノヴィアの言葉に私がなにか言う前に、イッセーが机をダンッと叩いて立ち上がった。

「火織が悪魔になったのはたった3ヶ月前だ! 5連覇したときはまだちゃんと人間だった! さっきの言葉は取り消せ!」

「……3ヶ月?」

 イッセーの言葉にイリナがほんのちょっと反応する……けどなんでそこに反応するの? 一方ゼノヴィアというと……

「……ふんっ、ならなおさら恥知らずだな。それだけの力を持ちながら更なる力を欲して悪魔になった口か? 同じ学校の連中が知ったらどう思うだろうな?」

「てめぇ……」

 その言葉にイッセーは更に怒ったのか席を立ち上がりかけるんだけど、私は肩を掴んで強引に座らせた。

「落ち着きなさいイッセー。そんな幼稚な挑発に乗ってどうすんの?」

ピキッ

 あ、あれ? なんかゼノヴィアの方からなぜか怒気が……? あ! もしかして幼稚って言ったこと怒ってる!?

 一方イッセーはというと……

「でも火織、こいつ……!」

「だから落ち着きなさいって」

 私はワシャワシャとイッセーの髪の毛を撫でてあげる。するとイッセーもようやく落ち着いてくれたわ。未だに唇を尖らせた不満顔だけど。

「3ヶ月? 3ヶ月前まではまだ人間だったの? じゃあもう少し早く帰ってきてれば……うぅん、もっと頻繁に日本に帰って来てればこんなことには……」

 あ、あれ? なんかイリナ、俯いたままぶつぶつとなにか言ってるんだけど……なぜだろう、なんか怖い。

「なんで……」

「ん?」

 俯いていたイリナが顔を上げた……って泣いてる!?

「どうして!? なんで悪魔になんかなったの!? せっかく私……なのに、なのにこんなのってないよ!」

 えぇ!? っていうかイリナって本当にこんな性格だっけ!? っていうか原作でもこの再会は何事も無く終わってなかったっけ!? もしかして私のせい? でも私がいるだけでこんなに性格が変わるかな!?

「と、とにかく落ちいて。ちゃんと説明するから」

「……グスッ」

 私の言葉にイリナも乗り出していた体をソファーに戻してくれた。まあそれでも未だに泣きながら睨んできてるんだけど。

「……説明する前に、まず実物から見てもらおうかな。イッセー、それ、見せてあげて」

 私はそう言いつつ右隣に座るイッセーの左手をトントンッと叩く。

「……いいのか? こいつら一応……」

「大丈夫よ。任せて」

 そう言うとイッセーは納得してくれたのか、左手に赤い籠手を装着した。それを見て前の二人はびっくりしてるわ。それはもうさっきまで泣いていたイリナが泣き止んでしまうくらいには。

神器(セイクリッドギア)?」

「ええ、しかもただの神器(セイクリッドギア)じゃない。これは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)よ」

「「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!?」」

 それを聞いた2人は先程よりさらに驚いてるわ。

神滅具(ロンギヌス)……」

「まさかこんな所で出会うなんて……」

「で、なんで私達が悪魔になったかなんだけどね? 3ヶ月前、突然現れた堕天使にイッセーが襲われたのよ」

「堕天使に!?」

「ええ、その時イッセーは神器(セイクリッドギア)なんて知らない一般人だったんだけど、自分たちの計画の邪魔になるかもしれないからと言って殺しに来たのよ。幸い私が間に合って撃退したからイッセーは殺されずに済んだんだけど、その時運悪く逃げられちゃって。それで次はイッセーを守り切れないほどの大群が押し寄せてきたら危ないと思って何処かに保護を頼もうと思ったのよ」

「っ! だ、だったらなんで教会に助けを求めなかったの!?」

「求められなかったのよ。そもそも教会に知り合いいないし、この辺には潰れた教会しかなかったからね。それに……」

 私はそう言って手を床にかざす。すると床からザンッという音とともに大量の斬魄刀が咲き誇った。

「っ!? 火織ちゃんも神器(セイクリッドギア)を持っていたの!?」

「……このオーラ、全て魔剣か? なるほど、これで堕天使を退けたのか」

「その通りよ。それにこれで教会に保護を頼めない理由も分かるでしょう? あなた達が異端と呼ぶ神滅具(ロンギヌス)に魔の物をいくらでも作り出せる神器(セイクリッドギア)。教会が受け入れてくれるとは思えなかった。堕天使が襲ってきた以上堕天使の組織に保護を求めるのも論外だし、となれば悪魔に助けを求めるしかないじゃない?」

「そ、そんなことないよ! 確かに2人の神器(セイクリッドギア)は教会にとっては異端だけど、でも助けを求めれば受け入れたはずだわ! それに教会には例外だけど神滅具(ロンギヌス)使いや魔剣使いの戦士もいるもの! そうでしょゼノヴィア!?」

「……主に仇なさないと誓っていれば可能性もあったかもな」

「……その言い方だと受け入れない可能性も高いってことでしょ?」

「まあな」

「ゼノヴィア!」

 ゼノヴィアの答えにイリナが睨む。一方のゼノヴィアはそんなこと気にもせずに涼しい顔してるわ。……まあどうせ仮定の話だし、もう悪魔になってる以上今更教会に保護できるわけでもないから話すだけ無駄だと思ってるんでしょうね。

「それに教会に助けを求めなかったのにはもうひとつ理由があったし」

「……それは、何?」

 イリナが未だにゼノヴィアを睨みつつも聞いてくる。

「イリナ、私ね、姉妹が出来たの」

「……妹さんが出来たの? でもそれと教会になんの関係が?」

「出来たのは妹2人に姉1人よ」

「姉!? で、でも昔はお姉さんなんて……姉が出来たってどういうこと!?」

「3人とも孤児でね。たまたま出会った3人をお父さんとお母さんが気に入って養子にしたの。……で、その3人なんだけど、1人は龍で2人は姉妹の猫又なのよ」

「「っ!?」」

 2人がまたしても驚きに目を丸くする。っていうかこの2人今日驚いてばっかね。

「保護してもらう以上家族も一緒に保護して貰う必要があったわけだけど、教会は龍や妖怪も保護してくれたのかな?」

「それは……」

「無理だな」

 言い淀むイリナに対してゼノヴィアは悩む素振りも見せず即答した。

「龍は種類にもよるが、妖怪はすべて我らにとって滅すべき敵だ。保護をするなどありえない」

「……だってイリナ。まあこれで分かったでしょ。私達が教会ではなく悪魔に保護を求めた理由が」

 私はこれで理解や共感はともかく納得はしてくれると思ってたんだけど……どうやら違ったみたい。

「……そ、そんなの! 火織ちゃんたちは騙されてるのよ! 相手は妖怪よ!? 何か術をかけたに決まって……!」

バンッ!!

 私はその言い分に思わず机を思いっきり叩いちゃった。その私の反応にイリナは怯えたような目つきになる。……ちょっと悪いことしちゃったな。まあだからといって今の発言を許せはしないんだけど。

「イリナ、悪いけど今の発言は取り消してくれないかな? なんと言おうと彼女たちは私の大切な家族なの。さすがにそんな侮辱は私も許せないかな。それに何かの術を使ったなんてありえないわよ。自分たちが龍や妖怪であること、孤児であることを包み隠さず説明して、それを聞いたお父さんとお母さんが自分から養子にするって言い出したのよ。あの時のあまりの嬉しさに流れた彼女たちの涙は本物だったわ」

 そう言うとイリナはうつむいて黙りこんじゃった。納得してはくれないか。……もう今のイリナと話せることは無さそうね。ゼノヴィアもその雰囲気を読み取ったのか立ち上がる。

「さて、我々もそろそろ御暇させてもらうよ。これ以上君たちと話すこともないしね。行くぞイリナ」

 そう言ってゼノヴィアが立ち上がるけど、ふと思いついたかのようにこちらを見て質問を投げかけた。

「ところで君たちはこの街を縄張りにしている悪魔の眷属か?」

「ええ。私たちはここを支配しているグレモリー家の眷属よ?」

「そうか。我々はその悪魔に用事があってな。明日の夕刻交渉をすることになっている。一応別の悪魔から連絡が行っているはずだがそちらからも伝えておいてくれ」

 そう言うとゼノヴィアは私の返事を聞かずにリビングを出て行く。そしてその後をイリナが夢遊病患者のようにふらふらしながら出て行こうとする。なんか思っていた以上にショック受けてるわね。原作では悲しみながらも元気にイッセーと模擬戦してなかったっけ? う~ん、このままじゃ帰り道さえ危なそうだし、なんとか元気だして欲しいんだけど……

「……ねぇ、イリナ」

「……何?」

「覚えてる? おはいお屋のトライデント焼き。よくイッセーと3人で1個を分けて食べたよね? 当時お小遣いなんてちょっとしかないから3人でなけなしのお金持ち寄ってさ。あのお店、味もそのままでまだ残ってるんだよ? 明日、買っていくからまた一緒に食べよう?」

「……うん」

 イリナは私の言葉を聞いてちょっとだけ目を潤ませて、でもさっきより少しだけしっかりとした足取りで出て行った。さて、とにかくなんとか何事も無く終わったわね。でもイリナのあの変わり様は驚いたな。

「なあ火織」

「何? イッセー」

「あいつが好きなの、ヨーグルト味だったっけ?」

「……へぇ、思い出したの?」

「まだぼんやりとだけどさ。でも確かに火織以外でもよく遊んだ女の子がいたってのは……。なあ、昔みたいにまた仲良くなることって出来ねえのかな?」

「……悪魔と教会が敵対している以上は難しいでしょうね。あんたも気付いてたでしょ? あのゼノヴィアって娘が持ってた包み」

「ああ、めちゃくちゃ寒気みたいなものがした」

「あれが聖剣でしょうね。多分彼女は教会の聖剣使いよ。そしてそんな娘と一緒にいたってことは、おそらくイリナもね。つまり今までも彼女はたぶん私達悪魔と戦ってきてる」

「……それが俺たちだけと仲良く出来るわけ無いってか。……なあ火織、悪魔になったのは間違いだったのかな?」

「後悔してるの? どちらにせよそれはあんたが自分で決めることよ。少なくとも私は後悔してないわ」

「幼馴染と仲たがいしても、か?」

「……幼馴染と家族、どちらを取るかと言われれば……私は家族を取るわ」

「そっか、黒歌姉達がいる以上、俺達が悪魔になろうとなかろうと……」

 そう言ったあと、イッセーは何かを考えるように黙り込んだ。それに今のイッセーの言葉……そう、ここで敵対するのは分かってたこと。こうなることは分かった上で悪魔になったんだから。大切なのはこれから。

 とにかく原作通りに運べば教会とも和平を結べて昔みたいに仲良くなれるはず。でもこのままだと……皆が危険に晒される。原作では皆無事だったけど、イリナの性格があんなに変わってたことを考えるとどんな事態が起こるか分からないし……困ったわね。とにかくまずは明日の交渉……か。

 その後部長が血相を変えて家に飛び込んでくるまで、私とイッセーは黙ったままソファーで物思いにふけっていた。







   ☆







 ゼノヴィアの後をついてイッセーくんの家から出る。さっきの火織ちゃんの言葉、私のことを考えて言ってくれてた。火織ちゃんは、それに多分イッセーくんも悪魔になっても昔と変わってない。私にとってのヒーローと、そのヒーローに一緒に憧れる大事な友だち。つまりこんなことになったのは全部……

「むっ」

 とその時前を歩くゼノヴィアが足を止めた。なんだろうと思い前を見てみると、火織ちゃんの家の門柱に背中を預けて腕組みしてる綺麗な黒髪の女性が……この気配、悪魔?

「あんたたちがなんの目的でイッセーの家にいたか知らないけど……私の大切な妹と幼馴染に手を出したらただじゃおかないから」

 その言葉の後に彼女の影からもう2人女の子が出てくる。長い黒髪の女の子と白髪をショートにした女の子。……そう、今の言葉、つまり彼女たちが……

「あなたの、あなた達のせいで火織ちゃんは……!」

 私はぎゅっと手を握って彼女たちを睨みつける。と、そこでゼノヴィアが私の肩を掴んできた。

「落ち着けイリナ。ここではなにもしないと主に誓った上で来たはずだ」

 そんなの、そんなの分かってる! でも、でもこいつらさえいなければ火織ちゃんも、それにイッセーくんだって……!

「認めない。私はあなた達なんて認めない!」

 私は腰の紐を手に取り、その姿を刀に変えて彼女たちに突きつける!

「おいイリナ!」

 分かってる。今ここでは彼女たちに手を出さない。でも……

「火織ちゃんは必ずあなた達から救い出す!」

 私はそれだけ言うと睨む彼女たちの横を通ってこの場を後にする。そう、火織ちゃん、そしてイッセーくんを助けだす。もう悪魔になっている以上それが難しいことは分かってる。でも……それでも私は2人を助け出してみせる! 私は2人を守るために帰ってきたんだから!







   ☆







 次の日の放課後、俺達はオカ研の部室に集まって昨日の2人、イリナとゼノヴィアを迎えていた。本当はこの時間は俺は剣道部に、黒歌姉と白音ちゃんもそれぞれの部活に行ってる時間なんだけど、今日はそっちを休んで放課後すぐにこっちに来た。まあ事情が事情だからな。

 で、今日は教会のこの2人が俺たち悪魔と交渉したいらしいんだけど……実はまだ話は始まっていない。なんでかって言うと……火織と龍巳がまだ来てないんだよ!

 昨日言ってた通り火織は放課後すぐにおはいお屋にトライデント焼きを買いに行った。で、龍巳もそれに付いて行き、部長にそのことを話したら来るまで待とうってことになったんだ。目の前の2人、イリナとゼノヴィアも昨日火織から直接聞いてたから了承してくれたんだけど、2人が来るのがあまりにも遅い! 何やってるんだよあいつら!?

 イリナの方は隠しているつもりだろうけど心配そうにしてる。なんか昨日とちょっと感じが違うな。悪魔になった俺達を昨日は拒絶したり責めたりしてたのに、今日はなんというか……気にかけてるっていうのかな? で、一方ゼノヴィアの方はと言うとこれ見よがしにイライラしてる。 若干殺気も漏れてるし……勘弁してくれよ。そっちがそんなだとこっちのこいつも……。

 俺は前に向けていた視線を隣に移す。そこにはもう今にも彼女たちに斬りかかりそうな雰囲気の木場が。過去のことを考えればこいつが教会の、しかも現役の聖剣使いに対して並々ならない感情を持つことには理解できるんだけど、頼むからこの場で爆発しないでくれよ?

「おいリアス・グレモリー、いつまで待たせるつもりだ」

「はぁ、まったくあの娘達は一体何をしてるのかしら? ごめんなさいね。あの娘達にはあとで私から話しておくから先に始めていましょう」

 結局こうなったか。なんか火織、大事なときはいつも来るの遅いよな。前のレーティングゲームの時も来るのギリギリだったし。……っていうかこのまま始めて大丈夫か? なんか今日はいつも余裕がある黒歌姉や白音ちゃんまで不機嫌だし、何かあった時火織がいないとストッパーは誰がやるんだよ。俺達じゃ黒歌姉達は止められねぇぞ?

「……まあいい。では単刀直入に行こう。先日カトリック教会本部ヴァチカン、及びプロテスタント、正教会に保管されていた聖剣エクスカリバーが奪われた」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 せ、聖剣、しかもエクスカリバーが奪われた!? おいおい教会は一体どんな管理を……ってあれ? なんで保管場所が複数もあるんだ? なんか今の発言おかしくねぇか? 不思議に思い周りを見てみると……みんな驚いてはいるけど不思議に思っている奴はいないな。分かってないのは俺だけか?

「聖剣エクスカリバーそのものは今現在存在していないわ」

 俺の疑問を察してくれたのか、部長が振り向いて説明してくれた。けどどういう意味だ? エクスカリバーは存在していないのに盗まれたってどういうこっちゃ?

「ごめんなさいね。悪魔になりたての子が多いからエクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?」

 部長の申し出にイリナが頷いた。

「イッセーくん、聖剣エクスカリバーはね、昔の戦争で折れてしまったの」

 ……は? 折れた!? 誰でも知ってるような有名な聖剣が!?

「今はこういった姿だ」

 そう言ったゼノヴィアは昨日も持っていた包みを手に取り、巻いてあった布を解くとその中から1本の長剣が現れた。そしてそれが布から解き放たれた瞬間、体の芯まで悪寒が駆け巡った!

「これがエクスカリバーだ。大昔の戦争で折れた刃の破片をかき集め、錬金術によって造り直されたのさ。その時造られた7本のうちの1本がこれさ」

 7本!? じゃあ今はエクスカリバーは7本もあるのかよ!? っていうかエクスカリバーがこの場に!? エクスカリバーと因縁がある奴がこの場にいるってのにどういう偶然だよ!?

 俺はちらりと木場の方に目を向ける。するとそこには今まで以上に殺気を放つ木場が! こ、この状況かなりやばくないか!? いつ斬りかかってもおかしくねぇぞ!?

「私の持っているのは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。これはカトリックが管理しているものだ」

 そう言うとゼノヴィアは再びエクスカリバーに布を巻いた。それによりさっきまでの悪寒が少しだけ引く。それを確認すると今度はイリナのほうが腰に吊っていた紐を手に取る。するとその紐が瞬時にその姿を刀に変えた!?

「私のは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。見ての通りその姿を自由自在に変えられるのが特徴なんだ。こっちはプロテスタントが管理しているの」

「……イリナ、悪魔に能力まで教える必要はないだろう?」

「大丈夫よ。能力を知られたからといって悪魔に遅れを取るなんてありえないし……それに少なくともこの中でイッセーくんとは信頼関係を築かないと(ボソッ」

 偉い自信だなイリナ。それにしても最後、小さい声でつぶやいてたけどなんて言ったんだ? しっかしエクスカリバーが2本かよ。もう俺の隣の殺気が半端無いんだけど……。

「……それで? 奪われたエクスカリバーがどうして日本の、しかも私の管轄の土地と関係してくるのかしら?」

「戦争の際に行方不明になった1本を除き、エクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会が2本づつ管理していたんだが、それぞれの陣営から各1本づつ奪われた。そして奪った連中は日本まで逃げ延び、この街に持ち込んだという話さ」

「……はぁ、私の縄張りはイベントが豊富ね。で? 奪った者の目星は付いているの?」

「奪ったのは『神の子を見張る者(グリゴリ)』だ」

 神の子を見張る者(グリゴリ)!? 神の子を見張る者(グリゴリ)って確かレイナーレも所属してた堕天使の組織だよな!? じゃあ今回の事件の犯人は堕天使なのか!?

「……確かに奪うとしたらそこくらいしかいないわね。私達悪魔にとっては聖剣は興味の薄いものだし。それで? 首謀者はわかっているのかしら?」

「ああ、神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部、コカビエルだ」

「コカビエル……、(いにしえ)より生き残りし堕天使の幹部。……まさかそんな大物が出てくるなんてね」

 部長がそう言ってため息をつく。まあ確かにここ最近連続して厄介事が起きてるしな。しかも今回の相手は堕天使の幹部。今までで一番やばい状況だよなこれ。と、その時

「そんな……まさかコカビエル様が……」

 と、俺の隣のレイナーレがつぶやいた。その瞬間イリナとゼノヴィアがレイナーレに視線を向けた! バカ! この場でそんなこと言っちまったら!

「……一目見た時から怪しいと思っていたが、やはり堕天使だったか……!」

 そう言ってゼノヴィアがエクスカリバーの入った包みに手をかける! ヤバイヤバイヤバイ! 普通なら悪魔と堕天使が一緒にいるなんてありえないし、もしかして今回のことに俺たちも関係してるんじゃないかと疑われたか!?

 と、その時部長はすぐさま手のひらを彼女たちに向け、2人を静止させる。

「確かに彼女は堕天使。だけど今回のことには無関係よ」

「……それを証明できるのか?」

「そもそも彼女は今や神の子を見張る者(グリゴリ)から追われる身よ。その彼女が神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部と事を起こせるわけ無いでしょう?」

「……いいだろう。ならこの場ではそういうことにしておいてやる」

 そう言うとゼノヴィアは包みにかけていた手を離して再びソファーに身を預けた。あ、危なかった。危うくこの場でやりあうところだったぜ。

「お前も少しは気をつけろよ」

「……ごめん」

 俺が小声で隣のレイナーレに声をかけると、レイナーレは素直に謝った。っていうかおい。もう怒ってねぇからその服の裾を掴んでる手を離せ。それじゃあ火織に怒られた後の龍巳や白音ちゃんと同じじゃねぇか。

「それで? 話は分かったのだけれど一体何を交渉しにきたのかしら?」

「私達の依頼、いや注文は私達と堕天使の争いにお前たち悪魔が一切関わるなということ、つまり介入するなと言いに来た」

 そのゼノヴィアの言葉に部長は眉を吊り上げた。

「随分な言いようね。私達が堕天使と手を組んで聖剣を奪取したとでも?」

「本部はその可能性も考えている。上は悪魔も堕天使も信用していないからな。神側が聖剣を失えば悪魔としても嬉しいだろう? お前たちに利益がある以上、手を組んでいてもおかしくはない。特に堕天使がこの場にいる現状では特にな」

 そう言ってゼノヴィアはレイナーレにちらりと視線を向ける。

「私達の上司からの言葉を伝える。例えあなたが魔王の妹であろうと堕天使コカビエルと手を組んでいれば、私たちはあなた方も完全に消滅させる。以上だ」

 その言葉を聞いた部長は……ソファーの肘掛けを思いっきり握りこんでいた。完全にキレていらっしゃる!

「私が魔王の妹と知っているということはあなた達も相当上の方の連中と繋がっているということね。なら言わせてもらうわ。私は神の子を見張る者(グリゴリ)とは手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて魔王の顔に泥を塗るようなことは決してしないわ!」

 しかしそれを聞いたゼノヴィアは……

「ここに墮天使がいる以上、信用など出来ないな」

 その言葉を最後にお互い膠着状態になった。部長とゼノヴィアはお互いにガンを飛ばし合ってる。と、そこで……

「まあいい。こちらが伝えたかったのはそれだけだ。とにかくこちらのことにお前たちは手を出すな。そちらとしても神側と手を組んだなどと思われたくないだろう?」

「……1つ聞かせてちょうだい。あなた達は2人だけでエクスカリバーを奪還するつもり?」

「そうだ。正教会が保管している最後の1本は私とイリナが敗北した場合に備えて死守するつもりのようだ」

「堕天使幹部相手に2人だけなんて無謀だわ。死ぬつもり?」

 部長は呆れたようにして2人を見た。でもイリナとゼノヴィアはいたって真剣だった。

「そうよ」

「私もイリナと同意見だ。死にたくはないけどね」

「死ぬつもりで日本まで来たというの? 相変わらずあなた達の信仰は常軌を逸しているわ」

「あなた達悪魔には私達の信仰なんて理解できないわよ。ね? ゼノヴィア」

「まあね。それに教会はエクスカリバーを堕天使に利用されるくらいなら全て消滅させてもいいと決定したのさ。最低でも堕天使の手からエクスカリバーを失くすこと、それが私たちの任務だ。そのためなら私たちは死ぬ覚悟はできているんだ。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけだからね」

「……それが2人だけで可能なのかしら?」

「ああ、ただで死ぬつもりはない」

 部長の言葉にゼノヴィアは不敵に笑みを浮かべた。

「自信があるようね。切り札でも持っているのかしら?」

「さてね。そこは想像にお任せするよ」

 そう言ってゼノヴィアは立ち上がった。これで話は本当に終わりか。でもイリナはまだなぜか座ったまま困惑したような表情を浮かべてるけど……どうしたんだ?

「どうしたイリナ? もうここには用がないんだ。行くぞ」

「でもまだ火織ちゃんが……」

 あ、そういやまだ火織、それから龍巳も来てねぇな。昨日約束もしてたし……っていうかおはいお屋行って帰るだけでこんなに時間かかるか?

「イリナ、私達には仕事があるんだ。こんな所でお茶をするためだけに来るのを待つ時間などない。お前もそれは分かっているだろう?」

「……うん」

 そう言うとイリナは渋々といった感じに立ち上がった。でも、すぐに2人の視線はある所でピタリと止まった。

「もしやお前、『魔女』のアーシア・アルジェントか?」

 そうゼノヴィアが言った瞬間、アーシアの肩がぴくんと跳ねた。

「へぇ、あなたが一時期話題になってた『魔女』になった『聖女』さん? 悪魔や堕天使でも癒す能力を持ってたらしいわね。追放されて姿を消したって聞いてたけど、悪魔になってたんだ」

「……わ、私は…………」

 2人に言われ、目を涙目にしながら怖気づくアーシア。でもその時、キュッと両隣のレイナーレと白音ちゃんがアーシアの両手を握ってあげた。その瞬間、オロオロしていたアーシアは平静を取り戻し、2人にニコっと微笑むとイリナたちに向き直った。相変わらず涙目だけど、それでも確固とした意志を持った目で。

「あなたと会ったことは上の人達には黙っておくから安心してね。あなたの周囲にいた人たちがこのことを聞いたらショックを受けると思うし」

「……ありがとうございます。でも私は悪魔になったこと、後悔していません」

「ほう、悪魔になったことを後悔していないか。『聖女』も堕ちるところまで堕ちたということだな。ほんの少し信仰の匂いがするから我らの神を信じつつ後悔しているものと思っていたが……アテが外れたようだ」

 その言葉を聞いた瞬間、みんなから怒気が発せられる。確かにアーシアは悪魔になったけど……そもそも教会を追い出したのはお前らじゃねぇか!

「ちょっとゼノヴィア、悪魔の彼女が主を信仰しているはずないじゃない」

「いや、背信行為をする輩でも罪の意識を持ち、信仰を続けるものが稀にいる。この子も同じだと思ったんだがな」

「そうなんだ。でもアーシアさんは後悔してないって言うし、違うんでしょ?」

 そのイリナの質問にアーシアは

「私は……今でも主を信じています。それどころか今のほうが昔よりも信仰心が強いと思っています」

 とはっきり言った。その言葉にイリナたちは驚いているな。

「私は教会を追い出された後も、悪魔になった後も信仰心を忘れたことはありません。教会にいた頃ずっと1人ぼっちだったのも、教会を追い出されて辛い思いをしたのも、……その後殺されそうになったのも全部主の私に対する試練だと思って……いえ、思い込もうとしていました」

 その言葉を聞いてレイナーレは苦しそうな顔をした。でも今度はさっきとは逆にアーシアがレイナーレの手を握り締める。

「でも! それは違ったんだってことがここに来て分かったんです! 私はこれまで主を言い訳に使っていただけなんだって! 依存して、目の前のことから逃げていただけなんだって! 自分で考えて、自分の意志で答えを出すようになって私の世界は変わりました。怖いものだと思ってた悪魔の皆さんは優しくて、私を殺そうとしたレイナーレさんは今では私の一番の親友です。欲しかった友だちもいっぱいできました。それに……教会にいた頃私は限られた方にしかこの力を使えませんでした。滅多に外に出して貰えませんでしたし、治療するのも教会の方が連れてきた方だけで……でも今は違います。目の前の傷ついている人を、皆を治療することが出来るんです! 種族に関係なく誰でも! 私がこの地に来てイッセーさんに、皆さんに出会えたことは主のお導きだったんだって、私は信じています!」

 ……アーシア、そんなふうに思ってくれてたのか。初めて会った頃は頼りなさ気な、儚い少女って感じだったのに、よくここまで……。

「……そうか」

 ゼノヴィアも今の言葉を真剣に聞いてたのか、神妙な顔になって…………表情が変わった!? いきなり鋭い目つきになって厳しい顔つきになったぞ!?

「アーシア・アルジェント。お前の信仰は間違っている。悪魔になることが主の導きだと? そんなはずがないだろう。もし本当に信仰を忘れていないというならば、お前のとるべき行動は1つだ」

 そう言うとゼノヴィアは……エクスカリバーをアーシアに突き付けた!?

「今この場で私達に斬られろ。神の名のもとに断罪してやる。慈悲深い我らの神ならば、信仰の間違ったお前でも救いの手を差し伸べてくれるはずだ」

 こいつ、何ふざけたこと言ってやがる!?

 俺と……同時にレイナーレがアーシアとゼノヴィアの間に割って入った。

「ふざけたこと言ってんじゃないわよ」

「アーシアに触れてみろ。俺が許さねぇぞ」

 こんなに腹が立つのはレイナーレと戦った時以来だよ。でもあの時は同時に後ろめたさもあったけど、今は怒りしか感じねぇ!

 見れば俺達以外にもみんな怒ってるのがありありと分かるし、部長も怒気を纏ってソファーから立ち上がりつつある。

「私の可愛い眷属に剣を向けないでもらえるかしら?」

「悪いがこれは信仰心を持つ者の、教会の者としての話だ。部外者は引っ込んでいてもらおうか」

「部外者? ふざけんな! 俺はアーシアの友達だ。仲間だ。家族だ! お前らがアーシアを手に掛けるって言うんなら、俺はお前たち全員を敵に回してもアーシアを守るぜ!」

「……ほう、それは我ら教会すべてを敵に回す……そう受け取っていいんだな?」

 その言葉と同時にゼノヴィアが殺気を放つ。イリナは……オロオロしつつもエクスカリバーに姿を変える紐を手にしてるし……くそっ! 結局こうなるのかよ!

 と、その時

「遅くなりました~~~!!」

「ただいま」

 火織と龍巳が元気よく部室に入ってきた! ったく、ようやく来…………た……………………え?

「遅い! あなた達いったい今まで何をやっ…………て……………………」

 怒ったふうに火織たちに向けて声を飛ばした部長も、その声をだんだん小さくさせちまった。その上目が点になっちまってる。いや、部長だけじゃない。俺も隣のレイナーレもさっきまでヤバい雰囲気だった木場も、ゼノヴィアやイリナまで目を点にしてある一点を、いや、()()()凝視しちまってる。

「? 火織お姉ちゃん、みんな、変な顔」

「ふふ、みんなコレに驚いてるんじゃない? お土産にしてはちょっと豪勢だもんね。じゃあせ~ので見せようか」

「うん」

 そう言って左手におはいお屋の袋を持つ火織は右手をいつも七天七刀を吊っている左腰に、龍巳は両手を両腰に持って行き……

「せ~のっ、じゃ~ん!!」

 その言葉とともにそれを引きぬき思いっきり振り上げた!

「「エクスカリバー!!」」



 ………………



 ………………………………………………



 ………………………………………………………………………………………………え?



「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!?!?!?!?」」」」」」」」

「にゃっははは、にゃ~っはっはっはっはっは!!!」

「ぷっ、クスクスクス……」

 猫又姉妹の笑い声がする中、俺達の叫び声が部室中に響き渡った。


 
 

 
後書き


次回予告

「私からしたら、あなた達の方がよっぽど神に背いてると思うけど……」

「火織お姉ちゃん、あれ見せる」

「お願い火織ちゃん! こんなことやめて!!」

「にゃ~っはっはっはっはっは!! 死ぬのも覚悟の上だって意気込んで来ておきながらもう全部終わってたとか!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

 次回、第52話 終わりと始まり

「来なさい、祐斗!」


 
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