東方守勢録
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第六話
本拠地ゲート付近では未だ激戦状態のまま、戦況が動こうとはしていなかった。
「さすがに本拠地だからでしょうか……守りが堅いですね」
「それもそうだな。鈴仙あそこ」
「はい」
鈴仙は指示通りの場所に向けて発砲していく。その度に男の声が聞こえてきていた。
「いい感じですね」
「そうだな」
「アハハハ! 無様に散れぇ!!」
今度は二人の横から、異様な妖気を放った槍が小さな吸血鬼から放たれる。その後地響きとともに、衝撃音があたりを響き渡った。
「お嬢様……少しやりすぎでは?」
「大丈夫よ咲夜。それに、暴れていいといったのはスキマ妖怪よ? 遠慮することないわ」
「ですが……いくら敵とはいえ、けが人が出てしまいます」
「きちんと加減はしてるからいいわ。それより咲夜、あなたも戦いなさい」
「かしこまりました」
咲夜は頭を下げた瞬間、その場からいなくなっていった。
その後もレミリア達はここぞとばかりに暴れまくる。敵の注意を引くにはちょうどいいと言うよりかは、それ以上だった。
そんな中、一番やりを勤めた文と霊夢は少し下がって戦況を見極めていた。
「みんな暴れてるわね」
「いいんじゃないですか? それより……私は俊司さん達のほうが……」
「それもそうね……!?」
俊司の心配をしていたとたん、突然爆発音が聞こえたと思ったら最上階から真っ赤な炎と多数の瓦礫が噴出していた。
何が起こったかわからないまま、文と霊夢はそれをただ呆然と見ていた。
「最上階で何が……」
「俊司……」
「……」
最上階では、二人の外来人が激しい戦闘を行っていた。
「アハハハッ! さて俊司君、どうやってこの局面を抜けるつもりかな!?」
「くそっ……うわっ!?」
走り続ける俊司のすぐ横で、図ったかのように爆発が起こっていく。俊司は軽く負傷しながらも、何とか走り続けていた。
(くそっ! どこに何が仕掛けてるかわからない!)
「どこに仕掛けるかなんてこっちの思い通り。それに……一度爆発したところに何もないなんて誰も言ってないよ?」
「なにを言って……!?」
同じルートは爆発が起きないと考えていた俊司は、もう一度同じ場所を走ればスキをつけると考えていた。だが、その場所に足を入れた瞬間、さっきと寸分狂わず同じ場所で爆発が発生する。
何とか直撃は避けたものの、破片が俊司の足を少しずつ傷つけていった。
「ちくしょっ……」
「痛いよなぁ……しかも地味に」
「ちっ……」
「さあどうする?このままじゃ時間の問題だと思うけどね!?」
そう言ってクルトは魔方陣を描こうとする。明らかな劣勢。やられるのも時間の問題だと、誰もが思えるほどだった。
だが、少年は自信満々な彼を見て笑っていた。
「……見えなくても……勝てるさ」
「……?」
「俺には……こいつがあるんだ!!」
そうい言って、俊司は一枚のカードを発動させた。
変換『魔術師の拳銃』
スペルカードを発動させた瞬間、俊司はなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
「魔術師の拳銃ねぇ……言葉の通りと思っていいのかな?」
「まあ大方はそうだと……思いますね!」
そう言った瞬間、俊司はなぜか銃口を下に向けたまま引き金を引き始める。だが、何秒たっても発砲音は聞こえてこなかった。
(何をして……!?)
疑問に思い始めたクルトは、なぜか目を丸くしてしまった。
俊司は片方の銃の引き金を完全に引いている。だが、弾丸が飛び出るどころか発砲音すらでない。しかし、微かではあったが、銃口から何か光が漏れ始めているのが目にうつっていた。
(魔術師の拳銃……意味通りなら魔法を使ってくるはずだが……)
クルトはスペルカードの内容を、発射する弾丸を魔法に変換することだと予測していた。だが、それなら銃口をこちら側に向けていないと意味がないはずだ。
なら、なぜ銃口を下に向けたのか? そう思い始めていたころだった。
(!!)
銃口から出ていた光が、突如膨張を始めていた。
光はどんどん膨れ上がり、一つの球体のような状態になり始める。
そして、まるで爆弾が爆発した時のような光を出し、円状の光が衝撃波の用に迫ってきていた。
(しまった! 油断した!!)
クルトはとっさの判断で足元に魔方陣を展開させる。その直後、衝撃波と共に空中へと飛び上がった。
(油断させての攻撃か……にしては安易すぎる……!?)
空中に飛び上がったクルトは、攻撃をかわしたにも関わらず目を見開いていた。
確かに、俊司の銃から放たれたのは光の衝撃波のようなものである。だが、問題はそれだけではなかった。
衝撃波が走り去った後、ところどころの床に光り輝く何かが発生していた。それも、クルトにとっては見覚えのある場所に……
(あれは……設置したはずの魔方陣!?)
光り輝く何かは、クルトが俊司の行動を予測して設置していた魔方陣であった。
光の衝撃波の正体は、見えない魔方陣を見えるようにするための魔法だった。それも、クルトが攻撃だと間違えやすいように、紛らわしい方法と見せ方を使った俊司なりのトラップだったのだ。
「これは仕掛けすぎじゃないのか? あんたの魔力も限界はあるだろ?」
「あたりまえだよ。だから早急に終わらせようとしてたんだが……仕方がないか」
クルトはそう呟くと、左右に新たな魔方陣を二つ展開させた。
「それがあんたの唯一のスキだな」
「なに……!?」
クルトがそう言いながら俊司を見た瞬間、彼は先ほどとは違う方の銃をこちらへと向けていた。
「しまっ!?」
クルトが回避しようとした瞬間、俊司は何のためらいもなく引き金を引く。
その瞬間、クルトを炎の渦が包み込んでいった……。
「俊司さん……」
最上階に進む階段の前で、少女はひたすら少年を待ち続けていた。
時折聞こえてくる轟音と、地震のような地響きが彼女をさらに不安へと導いていった。だが、少年は必ず帰ってくる。それだけは、心の底から願い続けていた。
「……そこ」
少女はそう呟くと、いきなり抜刀し後方に向けて刀を振った。
すると、さっきまで誰もいなかったはずの場所に、真っ二つになったアンドロイドが浮かび上がる。そのまま、アンドロイドはゆっくりと倒れて行った。
「まだ来ますか……」
通路にはゆらゆら揺れる物体がいくつか浮かんでいた。おそらく、道をふさぎ続けていたアンドロイド達の残党だろう。
「俊司さんは必ず帰ってくる……だから……私もここで……待ち続けます」
そう言って少女は刀を構えていた。
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