ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第52話 フラグが……泣きたいです
こんにちは。ギルバートです。あれからテファを連れ、速攻でドリュアス領へ戻りました。彼女は原作からは考えられない様な酷い状態です。目の前の娘が原作のテファの様になるか、心配でしょうがありまあせん。下手をしたら(悪い意味で)カトレアの様に……。
(その場合は、原因である私が責任を取るべきなのでしょうか?)
混乱した頭でそんな事を考え、直ぐに首を振り考えをまとめ始めました。
そもそもテファは、何故これほどひどい状態になったのでしょうか?
……その原因は、モード大公の死体が晒された時に起こりました。
マチルダとテファは、今後の事を真剣に考えていました。しかし落ち着いて考えられる環境が整えば、今後の事より近しい者達の事が気になるのは、当然と言えるでしょう。そんな状態では、良い考えが浮かぶはずがありません。そこでマチルダがブノワに相談すると、宿の外に出て気晴らしをしたら如何かと言われたのです。
ブノワから少しの小遣いをもらい、2人は街に繰り出しました。特にテファにとっては、生まれて初めての外出です。かなりの気分転換が期待出来ました。
しかし、そうはなりませんでした。
大公家襲撃事件が徐々に広まり、サウスゴータの街は多少ざわついていました。それでもマチルダにとっては、治安も良く慣れた町……問題は無いはずだったのです。それが出かけて暫くした後に“大公家襲撃事件の詳細を公表する”と、神官からお触れが出た事で状況は一変しました。町は混乱に包まれ、その所為で2人は逸れてしまいます。
必死にテファを探すマチルダ。そして嫌な予感に導かれるまま、襲撃事件の詳細が公表される中央広場へ向かいます
そこには大公やシャジャルだけでなく、マチルダの両親を含む家臣達の死体まで晒されていました。そしてそれを呆然と眺めるテファの姿が……。
マチルダは自分の両親の事を頭から無理やり追い出し、テファを広場から連れ出そう彼女の元へ走ります。その間も絶え間なく響く、高い癪に障る神官達の声。“モード大公家はエルフと繋がっていた”“大公家は異端の裏切り者だ”“我々は正義の為に大公を裁いた”“大公を庇う王家も異端だ”と……
ようやくテファを捕まえると、広場に数体の騎獣が突っ込んで来ました。アルビオン王国所属の衛士隊です。
彼等は神官達やその従者を拘束……抵抗する者は殺害して行き、晒された死体を手早く解放して行きました。……そう、シャジャルを除いて。そして衛士隊が宣言します。“これはエルフの死体を得た神官が画策した事だ。大公はエルフと関わっていない。利権に溺れ薄汚い犯罪者となった神官の言う事を信じてはいけない”(王家のシャジャルに対するスタンスは、残念ながら未だに分かりません。しかし状況を考えると、シャジャルを助ける訳には行かないのでしょう)
こうなると信用と言う意味で、神官達に勝ち目はありません。民衆達の支持を得た衛士隊は、騒ぎを収束させる為の数人を残し撤退して行きました。
……話しがそこで終われば、問題は無かったのかもしれません。
騒ぎが鎮静化され落ち着くと、民衆は一連の事件の怒りの持って行き場を求めました。良くも悪くも、モード大公が貴族だけでなく、民衆にも人気があったのが仇となったと言えます。本来なら恨まれるべきは神官達なのですが、衛士隊に連行され既に居ません。そして広場には、まだ怒りの捌け口となるモノが残っていました。
そう。磔にされたシャジャルの死体です。
誰が始めたのでしょうか? 最初は小さな罵倒が次第に大きくなり、やがて石が飛び始めました。
その光景をテファは、まざまざと見せつけられたのです。
……これはひょっとしたら、原作より酷い状態になったのかもしれません。そしてその原因の一端は、イレギュラーである私にあるのです。
しかし、原因……責任はあるかもしれませんが、それはあくまで一端でしかありません。その全てを背負うと言うのは、傲慢でしょう。逆を言えば一端とは言え、責任はあるのですから“彼女達を助けるのは当然”と思う事にしました。
はい。自己完結をしました。そうでもしないとこの世界で、私の脆弱な心が持ちません。(逃げたと言われたら、反論のしようもありません)
連れ帰ったマチルダとテファは、マリヴォンヌ一家に預ける事にしました。エルウィングも居るので、ドリュアス家の中で一番信頼出来ます。(人の機微を理解すると言う意味で、ルクシャナにはとても任せられない)少し回復したら、孤児院を手伝わせる心算です。原作を参考にしましたが、上手く行けば十分なリハビリになるでしょう。やはり鍵となるのは“偏見の無い子供”です。
テファの事はこれで良いとして、アルビオンの混乱を如何するかです。
「ギル。戻ったの?」
「ええ。テファ達はマリヴォンヌの所に預けて来ました」
カトレアと目が合うと、何故が青い顔をして2歩ほど下がりました。何故でしょう?
「カトレア」
「は はい」
「馬鹿共に……少し痛い目に遭ってもらおうと思うのですが、協力してくれますよね?」
何故かカトレアは、ガタガタと震えています。そう言えばテファ達を預けてから、誰も私に近づこうとしないのは何故でしょうか? ティアもなかなか戻って来ないし……
「ギル。お願いだから殺気を抑えて。それから青筋を立てながら笑わないで。本気で怖いから」
おっと。これは失礼。深呼吸をして心を落ち着かせます。そして私は、計画を練り始めました。
元々今回の件が起きた原因は、モード大公がシャジャルを囲い込んだ事です。それ自体は確かに軽率としか言えませんが、問題はその弱みに付け込んた神官と貴族派です。今回ばかりは、予想が当たっていた事を喜べませんでした。
後にこの情報が入り更にキレる事になりますが、神官と貴族派はアルビオン王家に大まかに三つほど要求を出していました。
一つ、モード大公家襲撃を黙認し、今後一切干渉しない。
これは、恐らく原作と同じ条件です。これで事実を知らない王党派貴族は、“大した理由もなく弟を殺した無慈悲な王”と誤認させ離反……結果として貴族派の勢力拡大すると言う訳です。神官と貴族派の発言力低下により、これだけでも呑むかどうか微妙になっています。
二つ、神官特権の復権
とても飲める条件ではありません。この神官特権はトリステインの事件で、禁製品の温床であると公的に証明されています。奴隷や麻薬だけでも完全にアウトなのに、人の心を操る薬やマジックアイテムは被害が洒落にならないからです。
三つ、アルビオン王族の引き渡し
あり得ません。現状人質となりえる王族は、ウェールズ王子しか居ません。そして彼を差し出せば、事実上アルビオン王国はロマリアの属国になったと宣言した様な物です。……神官達の意図は“虚無の担い手を出せ”と遠回しに言った心算の様です。しかしその事を知らないアルビオン王家は、ウェールズ王子を差し出せと言われたと判断しました。
地味に三つ目の条件は、私の所為だったりします。私が虚無の担い手を演じなければ、こんな条件は出されなかったでしょう。アルビオン王家も“居もしない王族”を出せと言われても、応え様がありません。ハッキリ言って、交渉が決裂した原因は神官の交渉力の低さです。一つ目だけでもあやしいのに、二つ目の条件を出すなんて正気の沙汰とは思えません。神官って……馬鹿なのでしょうか? きっとブリミルの威光を笠に着て、まともな交渉の経験が無かったのでしょう。
もしこの時点でこの事を知って居たら、私の自己嫌悪と報復はもっと凄い事になっていたでしょう。
---- SIDE カトレア ----
ギルが帰っているのを見つけて、私は迷わず声をかけた。
「ギル。戻ったの?」
まさかそれを後悔する事になるとは思わなかった。そう……ギルが、かつて無いほど不味いレベルのキレ方をしているからだ。
こう言ってはなんだけど、絶対に関わりたくない。少し前に剣を作った時もそう思ったけれど、今回はレベルが全く違う。あの時は悪くてもケガ人(軽傷+トラウマ)の人間が出る程度だけど、今回は明らかに死人が出るレベルでキレている。
「ええ。テファ達はマリヴォンヌの所に預けて来ました」
にこやかに笑っているけれど、目が全く笑っていない。それだけならまだしも、血管が浮かび上がり……って言うか狂系脈みたくなってる。
「カトレア」
「は はい!!」
「馬鹿共に少し痛い目に遭ってもらおうと思うのですが、協力してくれますよね?」
断れない。……絶対に。と言うか下手に逆らうと、その怒りが私に向きそうでイヤ。でもお願いだから……
「ギル。お願いだから殺気を抑えて。それから青筋を立てながら笑わないで。本気で怖いから」
勇気を振り絞って言うと、ギルは殺気をひっこめてくれました。そしてなにやら考え始める。暫く待つと、ギルは突然ニヤリと笑った。……絶対にろくなこと考えていない。……誰か助けて。
私の願いが叶う事は無く、ガリアまで連れてこられた。二言三言話すだけで、例外無く全員が逃げ出すのだ。同じく逃げられなかったティアも、きっと私と同じ気分だろう。
「……と言う訳で、インビジブルマントを一時返却してほしいのです」
今ギルと話しているのはビターシャルだ。彼の顔が蒼い気がするのは、気のせいでは無いだろう。
「かまわない。それにそのマントのおかけで、王宮での安全なルートをいくつか発見できた。もう必要ないので、そのまま返却する」
「ありがとうございます」
話しはこれで終わったと思ったが、ビターシャルが言い辛そうに口を開いた。
「それより……そちらは、手伝わなくても良いのか?」
「手伝ってくれるのですか?」
ビターシャルが渋い顔をした。何か葛藤の様な物を感じる。何かあるわね。
「ネフテスの者としては協力できないが、個人的には思う所がある。……それ以上は聞かないでくれ」
そう言いながら、ビターシャルは目を逸らした。
「分かりました。なら、シャジャルの死体を回収してもらえますか?」
彼女の死体には《固定化》が掛けられて、今この瞬間も民衆に石を投げつけられているだろう。そう思うと心が痛む。
「……そう。なるべく派手にね」
ギルが邪悪な笑顔でそう付け加える。
「? 分かった。それは私が姿を見せると言う事か? ……まさか」
ビターシャルには、ギルが現在の情勢を徹底的に教えていたし、2年以上一緒に居ればその性格も良く知っているはずだ。本人の顔が“分かりたくなかった”と、語っているのは仕方が無いと思う。
「察しが良くて助かります」
……その笑顔が怖いの。
私達は、ロマリアのネフテスの国境沿いにある街、グラスノスタヴに来ていた。
この街は、神官の息が掛かった商会の重要拠点となっているので、ロマリアの動向を探る為に諜報部の人間が複数潜伏している。それはドリュアス家だけでなく、ロマリアを警戒する各国や有力貴族の諜報員も居ると言う事だ。
それだけでは無い。事実上この町は、聖地周辺から場違いな工芸品を回収する前線基地と言って良いだろう。だからロマリアは“槍の回収の為に”この街の統治に手は抜く事は無いし、“場違いな工芸品”を求める好事家(貴族)の手の者も多く居る。(ヴァリエール家に出入りしていた商人も、この町の名前を口にしていた)
そう言う背景から、この街で何かあれば一気に世界中へと情報が広がる事になる。
「さて、早速仕事を始めますよ」
宿屋に入って早々に、サイレントをかけて口にした言葉がこれだ。一見平静を取り戻している様に見えるけど、怒りを心の奥へしまいこみ熟成しているのが私には分かる。と言うか、抑えきれなくなって来ている。私には“暴れちゃうぞ♪”と、顔に書いてあるかの様に感じた。
「私はインビジブルマントを使って、本命の方へ偵察をして来ます」
偵察と言う名の証拠集めですね。夜までに神官と商会の不正の証拠がたくさん集まりそう。
「行ってらっしゃい」
ギルは「行って来ます」と呟くと、インビジブルマントをはおり出て行った。そして少し経つと、猫に化けたティアが合流して来る。
「待たせたの。主はもう行ったのか?」
「ええ。殺る気満々よ」
私がそう言うと、ティアはゲンナリとした。気持は分かる。
「それより今回の一件で、ギルは精神的にかなり追いつめられているわ。一時期より大分良くなったけど、責任の一端は自分にあると思っているのよ。ティアも協力してちょうだい」
「うむ」
ギルを更生させる為に、私はティアとじっくりと話し合った。
私とティアが話し始めて、3時間ほどでギルが帰って来た。その顔は……怖い。
「あの馬鹿共はまだ懲りて居ないみたいですね」
また“笑顔なのに、目が全く笑っていない”状態だ。いい加減にしてほしい。そして、ギルが手に持っていた帳簿を私の前に出したので、私は促されるままに受け取り目を通す。
「……奴隷売買。こっちは麻薬ね。ロマリアからこの街を中継してガリアへ、ガリアからアルビオン、トリステイン、ゲルマニアに流れているわね。それにこっちは、協力している貴族派の名簿か。貴族派と神官の資金が、未だに尽きない訳だわ」
詳細の方に目を通すと、末端価格がすごい事になっている。安全な密輸ルートを使えなくなったからか、奴隷や麻薬の値段が以前の10倍以上になっている。値上がりの主な原因は、密輸ルートを確保する為の貴族派への賄賂だ。それでも売れていると言うのだから、ある意味感心してしまう。
「マギ商会の事前調査があったとしても、この短時間でこれだけの証拠をよく集められたわね」
「当然です。今晩は忙しくなりますよ」
何が当然なのか分からないけど、笑顔に殺気を込めるのは止めて欲しい。
夜も更けて来た所で、先ずは1件目ね。
ギル、私、ティアの3人で、無関係の商会に忍び込む。ここで行うのはあくまで仕込みだ。従業員を魔法で眠らせ、商会長の部屋へと突入する。
「な 何者だ!!」
驚いて叫ぶ商会長。だけど従業員達は既に眠っているので、助けは来ない。そこで私達がフードを取ると、途端に商会長は青ざめた。
「え えるふ な なんで……」
今の私達はフェイスチェンジで、エルフに化けている。突然エルフが押し入ってくれば、この反応も当然だろう。
「我々の質問に答えろ。無関係なら危害は加えん。言っておくが我々に嘘は通じんぞ」
ギルが剣を突き付けながら言うと、商会長は壊れた人形の様に首を縦に振った。
「エルフの女が2人……母娘が、この街に捕えられているはずだ。貴様は関わっているか?」
「し 知らない」
ギルがティアの方を見ると、彼女は頷いた。
「嘘はついておらん。その者は無関係じゃ」
ティアも精霊魔法が使えるので、エルフ達と同じ様に嘘を見破る事が出来る。万が一似たような事件があって関わっていた場合、これならややこしい事にならなくて済む。
「そうか。では、それが可能な者達に心当たりはあるか?」
「わ 分かった。先ずは……」
商会長が幾つかの商会の名前を口にする。良し。想定外の名前は出なかった。
「それで全部か?」
商会長の頭が、必要以上に上下に振られる。
「約束通り危害は加えん。だが、今は我々の侵入を知られると面倒だ。明日まで寝てもらうぞ」
ギルが目で合図すると、ティアが「眠りを導く風よ」と短く唱える。すると商会長は、意識を失い床に倒れた。
これと同じ事を3回ほど繰り返す。消費精神力が少々キツイが、問題無くやり遂げる事が出来た。
「さて、いよいよメインディッシュです」
ギルが嬉しそうに呟く。何となく思ったのだけど、このキレ方がまだ見ぬ無能王に被るのは気のせいだろうか?
そんな事を考えている内に、作戦はどんどん進んで行く。今度の商会は、麻薬や奴隷を扱っているので遠慮は必要ない。先程と同じ様に従業員を眠らせるが、商会長や幹部の首は刎ねて行く。……酷薄な笑みを浮かべながら、淡々と作業するギルが怖い。
そして捕まっていた奴隷に、わざとフードの中身を見せてから解放する。今の私達は、フェイスチェンジでエルフになっているので、騒ぎになるのは時間の問題だろう。ちなみに解放した奴隷は、後ほどマギ商会がドリュアス領への移民を勧める予定だ。解放して“はいそれまで”と言うような、無責任な事はしない。と、ギルは言っていたわ。
そこからはスピード勝負だ。騒ぎになる前に神官と無関係な商会(注 ガリアの王党派と懇意にしている商会)へと向かい、同様の手口で商会に忍び込む。今回商会長の部屋へ突入するのは、ギルとティアだけだ。そして私は話しがある程度進むまで部屋の外で待機する。
「……では、それが可能な者達に心当たりは ッ!? 誰だ!!」
ギルが話の途中で、ドアを見ながら声を上げる。私はそれを合図に部屋へと入った。
「私よ」
「驚かせないでくれ」
ギルがホッとした様に息を吐く。エルフが1人増えたので、商会長の震えっぷりが凄まじい。今にも気絶してしまいそうだ。
「それで何かあったのか?」
「2人の行方が分かったわ」
ギルが満足そうに頷く。
「それで2人は……」
「アルビオンよ」
「アルビオン? あの空中大陸のか?」
「ええ。そこで殺されたらしいわ」
「ッ!! な なんだと!!」
ギルの顔が驚愕に染まり、その驚愕がやがて憤怒へと変わって行く。……ギルも演技が上手い。
「な 何故だ!! 何故あの2人が死なねばならん!!」
「なんでも“妾と庶子の身代わり”だそうよ。モード大公とか言う人に“エルフと姦通する異端者”と、レッテルを貼りたいらしいわ」
私は冷淡に、表情を一切動かさずに言い切った。自分で言っておいてなんだが、白々しい芝居にボロが出て居ないか物凄く心配だ。
「なっ では、自分達の勢力争いの為に、無力な母娘をわざわざ攫い殺したと言うのか!?」
私が頷くと、ギルは怒りにまかせて机を蹴り飛ばした。次いで「人間が!!」と吐き捨てながら、商会長に刃を振り上げる。
「待ちなさい」
そんなギルの手を私が掴んだ。演技がわざとらしくなっていないか、もの凄く心配だ。
「止めるな!!」
「その人間は無関係なのでしょう。私達は人間とは違う。無関係の者まで手を出してはダメよ」
「……くっ」
ギルが剣を降ろし、悔しそうにうつむく。
「死体の回収は、“ビターシャル”に依頼したわ。私達は撤退するわよ」
わざと彼の名前を出して、商会長に聞かせておく。これがジョゼフ王子の耳に入れば、今回の芝居が真実だと誤認させられるだろう。万が一ジョゼフ王子から確認されても、彼が肯定すれば逆に止めとなる。
ギルは最後に商会長を睨みつけ、「命拾いしたな」と吐き捨て商会を……グラスノスタヴを脱出した。
---- SIDE カトレア END ----
ただ今、お祭り騒ぎになっています。ロマリアに非難轟々デス。
グラスノスタヴ襲撃事件は、あっと言う間に世界に広まりました。それと時を同じくして、ビターシャルがサウスゴータの広場を襲撃したのです。こちらはサウスゴータ襲撃事件と言われ、ハルケギニアを震撼させました。それぞれの事件は、かなりの尾ひれが付きました。しかしその尾ひれは、不思議な事にロマリアや神官が不利になる情報ばかりだったのです。……いえ、不思議でもなんでもないですね。それだけロマリアや神官が、恨まれていたと言う事でしょう。決してマギ商会を使って、情報操作した訳ではありません。あくまで自業自得です♪
……ファビオが何かやっていた? 私は知りません♪
情報の拡散と共に、ガリアがロマリアを非難し始めました。これはグラスノスタヴ襲撃事件の詳細を、一番早く把握(ビターシャルは、ジョゼフ王子に事実確認をされ「グラスノスタヴを襲ったのは私の仲間だ。そしてサウスゴータの襲撃は、私がやった」と、答えてくれそうです。そして私が確保した帳簿を提示してくれました)したからです。トリステインは元々アルビオンの味方をしていましたが、内部には反対派や静観派が多く、アルビオンの全面的な支援に踏み切れないでいました。それも襲撃事件の情報が入ると一変します。そしてトリステインの全面支援と前後して、ゲルマニアも全面的に反ロマリア派につきました。
こうなると、ロマリアに勝ち目はありません。事件の内容が明るみになってから、一週間も経つと状況は決したと誰もが思いました。余りにも順調だったので、私達も“このままならロマリアを叩き潰せるかも”等と淡い期待を持ってしましました。しかしその期待は、裏切られる事になります。ヴィットーリオが本格的に動き出したのです。
先ずヴィットーリオが行ったのが、謝罪と状況説明です。
「過去トリステイン王国で起きた事件により、我々ロマリアは不正を働く神官……背信者の大々的な処罰に打って出た。処罰は順調に進んでいたが、追い詰められた背信者達は何かを計画していた。我々ロマリアは、それを止めようと奔走したが、間に合わず今回のモード大公家襲撃事件につながった。これは教皇である自分のふがいなさが招いた事件である」
そして今回の事件に関わった者達とその家族を、アルビオンに差し出しました。加えて出来る限りの賠償をすると申し出たのです。
要するに“未然に防ごうとしたが駄目だった”と言った上で、犯人とその関係者を差し出し、誠意を見せると公言したのです。
そしてその賠償を決める席に証人として呼ばれた他国の外交官達が、何時の間にか被害者側に誘導(神官の被害は万国共通)され、他国も賠償を受け取れる流れが何時の間にか出来ていました。とは言え、先の謝罪が原因で、教皇を責め辛い状況が出来上がっています。特に現教皇であるヴィットーリオは、不正神官の取り締まりに一定の成果を見せていたのでなおさらです。更に不正神官を追い詰めたのは、ロマリア以外の国にも責任はあるとチラつかされれば強くは責められません。
加えて通貨価値の管理をしているのが、ロマリアである事がこの状況に拍車をかけました。ロマリアを弱らせ過ぎると、通貨価値の調整が利かなくなり経済的大混乱に陥ると予想されたのです。各国ともそれは避けたい事態でした。そしてそうなると、賠償に託けて“通貨の管理発行権を奪取する”と言う流れが出来るの当然と言えますが、それをすると“どの国が管理するの?”と言う話になります。下手をすると、戦争の火種になりかねません。国から代表を募り共同で管理する話もありましたが、その場合は大国の国威で実権を掌握されかねないので、国力が弱っているアルビオン(被害国)が難色を示した事で賠償問題が激化しました。
当然賠償話は遅々として進まず、一月も経過すると事件は新たな局面を迎える事になります。
今回の騒動を起こしたのは神官ですが、当然一部の貴族派も関わっていました。そしてロマリアの情報工作と証拠捏造により、何時の間にか“アルビオンの貴族派が主犯である”とされてしまったのです。こうなると一番悪いのは“自国の貴族を御せなかったアルビオン王家”になってしまいます。更に悪い事に、賠償問題に他国を巻き込んだアルビオンの外交官が、大公家襲撃に関わった貴族派である事が止めとなりました。(本人は失踪。ロマリアで匿うことを条件に、今回の工作に手を貸したと思われるが、残念ながら証拠が一切ない)
こうなると当然の様に事件の責任は、アルビオン王家側に傾きます。残念ながらアルビオン王家に、その流れを止める力は残っていませんでした。もちろん賠償の話も流されてしまいます。
……流石としか言い様がありません。謝罪や他国を巻き込んだ賠償話は、全てこの為の時間稼ぎだったのです。あれだけのお膳立てが出来ていたのに、止めを刺す所まで持っていけませんでした。かなりのダメージ(密輸ルート壊滅・更なる発言力の低下)を与えられた事に変わりはありませんが、むしろヴィットーリオの誠意ある対応は(実状を知らない者には)高く評価される事となります。
色々と納得出来ない終わり方となりましたが、ロマリアや神官は暫く大人しくしているでしょう。ガリアの方は、下手に手を打てません。そこで私は、内に目を向ける事にしました。
と言う訳で先ずは、テファとマチルダが如何なったかについてです。
ビターシャルが回収したシャジャルの死体は、ドリュアス領にある共同墓地に埋葬する事にしました。それに立ち会うのは、テファとマチルダ、マリヴォンヌ一家、ドリュアス家に加えビターシャルとルクシャナです。
「父上。行けますか?」
「何時でも大丈夫だ」
私と父上の魔法が発動し、墓地に大きな穴が空きました。これで棺を納める墓穴の準備は終了です。
「こちらの準備は終わったぞ」
父上が声をかけると、黒い礼服を纏った母上達が棺をこちらへ運んで来ます。そして墓穴の前に棺が置かれると、棺の蓋が開けられました。
そこには美しい顔をした一人のエルフの姿がありました。母上やマリヴォンヌが「せめて死に姿ぐらいは……」と、色々と頑張ってくれたのです。
「お母さん」
テファの口から、かすれた声が漏れました。そんなテファをマチルダが抱きしめ、マリヴォンヌ一家がその周りを固める様に立っています。
「テファ。シャジャル様に花をそえてあげようね」
「うん」
マチルダに言われテファが頷きます。そこでディーネが花を持って行くと、一輪だけ受け取り黙ってシャジャルの胸元にそえました。それにマチルダ、マリヴォンヌ一家と続きます。
「すまんな。ちゃんとした葬儀にしてやりたいのだが……」
「いえ。葬儀を行えただけで十分ですわ。本当にありがとうございます」
父上がマチルダに謝り、逆にお礼を言われていました。本来なら埋葬するだけだったのですが、それだけではあまりに不憫と言う事で、人払いをして葬式っぽくしただけです。葬式と言うには、余りに簡素と言うほかありません。ドリュアス家もシャジャルの立場が立場なので、おおっぴらに葬式を出してあげる訳にも行かなかったのです。
やがて全員が花を添え終わります。
「……お母さん」
そのまま動けなくなるテファ。別れの時間は出来るだけ長く取ってあげたいですが、流石に無限にと言う訳には行きません。暫くするとマチルダがテファを棺から離し、蓋を閉じると母上が魔法で棺を穴に納めました。
テファがすすり泣く声をBGMにして、棺を埋める作業は流石にクルモノがありました。
その後にテファの態度も幾分マシになりましたが、とても喜ぶような気分ではありませんでした。
葬式が終わって何週間か経つと、テファも少しずつ元気になりエルウィングと仲が良くなりました。2人の立場が何かと近いので、これは必然と言っても良いでしょう。同様にマチルダとマリヴォンヌ一家も仲良くなっています。その一方で他の人間とは、まだまだ時間がかかりそうです。
マチルダはマギ商会と諜報部を掛け持ちさせました。これは私の片腕として教育する為の処置です。テファは人間を見ると怯えてしまうので、まだしばらく様子見をする事にしました。徐々に馴らして行けば良いでしょう。
テファとマチルダについては、こんなところですね。
そして次は、ディーネとアロンダイトについてです。
あの名付けが原因で、仲が上手く行っていませんでした。名前を呼ぶ度にアロンダイトが機嫌を損ねるので、当然と言えば当然です。
それでも王都に居る間は、何とかなっていたのです。私がアロンダイトに“ドリュアス家の現状”を説いて説得したのが原因ですが、その反動が領に帰って来てから一気に噴出する事になってしまいました。
そしてあっという間に、2人の仲は険悪になります。
「アロンダイト呼ぶな!!」
「アロンダイトはアロンダイトでしょう!!」
「牡馬ちゃうわ」
「意味が分かりません!! 私が敬愛する“湖の騎士の愛剣“の何が不満か!!」
「所詮は不貞の騎士が……」
「何を言う!! 彼は最高の騎士で……」
こんな言い合いが、日常茶飯事となりました。
流石に“マスターであるディーネを見殺しにする”等と言う事はあり得ないのですが、私以外の者は不安でたまらかった様です。その代表が父上と母上で、私に何とかしろと家長命令が飛んで来ました。……勘弁して下さい。
2人に個別で聞き取りをしましたが、アロンダイトはディーネをマスターと認めていますし、ディーネも迂闊な命名を後悔していました。そして互いに歩み寄ろうと努力もしてるのです。しかしそんな努力もむなしく、名を呼ばれる度にアロンダイトが切れて口げんかに発展……。とても良い状態とは言えませんね。
一応、私が仲裁に入れば喧嘩は治まるのですが、それでは根本的解決になりません。逆に私が居なければ喧嘩は収まらない可能性が……更に、他の者が下手に介入してこじれでもしたら?
確かに早く解決しておいた方が良いかもしれません。
しかしこの問題は、根本的な部分を何とかしなければ解決はあり得ません。そして諍いの根となるのが、アロンダイトと言う名前です。しかし魔術的に確定されてしまっているので、今更銘を変える訳には行きません。そうなると、アロンダイトに名前を受け入れてもらうしかないのですが、それも難しい……いえ、おそらく無理でしょう。
ダメだ。……手も足も出せません。
泣きが入ってしまったので、助けを求める様に色々な人に相談しました。
「「それを考えるのがお前の仕事だろう」」父上。母上。それは無いです。
「ギルなら出来るわ「いえ、解決h……」ギルならきっと出来るわ」カトレア。その根拠は?
「……えっと。(目をそらしながら)時間が解決してくれると思うよ」我が妹は、達観しすぎなのか? いや、誤魔化しているだけですね。
「吾に人の事は分からぬの……「ああ、ボッチだったか」フシャーーーー!! ボッチ言うでない!!」引っ掻かれました。
相談出来そうな使用人達には、頭を下げられ「ごめんなさい。お力になれません」と言われてしまいましたし、そのうち何人かには追加で「お願いします。ディーネ様を助けてください」と懇願される始末です。
そのまま一週間ほど頭を悩ませる羽目になりました。当然その間にも喧嘩は発生し、仲裁をやらされます。いっその事、キレて2人の共通の敵になれば改善するかも…… 等と、投げやりな事を考え始めた時でした。
私の中に神が降りて来たのです。
思い立ったが吉日とばかりに、そのままディーネの部屋へ突入します。
ガチャ
「ぎ ギル? 着替え中に、ノックも無しに……」
「グランドマスター?」
うろたえるディーネを放っておいて、アロンダイトを回収します。服を着て居なかったような気がしますが、そんな場合じゃありません。文句があるなら追って来るでしょう。
「ま まって!! 私の剣を……」
制止を聞かずにそのまま部屋を脱出し、真っ直ぐ私の工房へと向かいます。
「グランドマスター? 何をする心算ですか?」
アロンダイトに私の“アストレア”と言う名前を話してから、シンパシーを感じたのか敬意をこめてグランドマスターと呼んでくれています。ハッキリ言って、ディーネより私の方が彼女と上手く行っています。
「現状を改善する為に少しね」
「本当ですか? よろしくお願いします」
アロンダイトが喜びの声を上げました。彼女も現状が良くないと自覚はあるのです。それと感情が別なのが、問題なのですが……
工房に着くと、早速アロンダイトの柄を分解します。そして銘を刻むルーン術式に、追加でルーンを刻みました。術式に項目を少し増やすだけなので、2分も掛からず作業は終了です。
「グランドマスター。一体何をするのですか?」
「もう終わりましたよ。後は元に組み立てて……」
ディーネも遅いですね。そろそろ追いついて来ても良いのですが。
「良し。出来ました」
「グランドマスター?」
「君の銘はアロンダイトですが……」
「ムッ」
あっ。少し怒ったみたいです。アロンダイトが私を慕うのは、私が気軽に銘を呼ばないと言うのが理由の一つですからこれは仕方がありません。
「それはあくまで器の銘なので、宿る人格名は“エリス”をとします」
「えっ」
エクスカリバーを少しもじらせていただきました。
「これからはエリス=アロンダイトと名乗りなさい」
彼女の感覚を日本人風に例えるなら、ババと名前を付けられた様な物です。それが名前ではなく名字だとしたら如何でしょう? 馬場とか? 矛盾が無い訳ではありませんが、同型の剣をアロンダイト・シリーズ(名字)として纏めてしまえば言い張れます。ディーネにも“剣との契約は銘を付けろる事”と言ってあるので、納得させる事は出来るでしょう。ついでに……
「そしてグランドマスター特権で、湖の光……“湖光”の字名を送ります」
実際に器が破壊されれば、彼女は“エリス”と“アロンダイト”両方の名を使う……いえ、縛りから解かれる事になります。器を変えた時にどう名乗るかは、彼女次第ですが、まあ……そうそうあり得ないですけど。
「ぐ グランドマスター。 湖光のエリス=アロンダイトの名。た 確かに頂きました。ありがとうございます。……本当にありがとうございます」
本当に嬉しいのでしょう。アロンダ……いえ、エリスの声も震えています。
バタン
「ギル!! 私のアロンダイトに何を……」
ようやく追いついたのか、ディーネが扉を勢いよく開けて工房には行って来ました。
「あっ。良い所に来ましたね。今終わった所です」
「えっ!? 何が?」
「さぁ 今こそ名乗るのです」
「ハイ!! グランドマスター」
ディーネだけ、話に全くついて来れて居ません。
「我が名はエリス。“湖光”のエリス=アロンダイト。担い手よ。今後ともよろしくお願いします」
「え ここう? えりす? 如何言う事です?」
ただうろたえるばかりのディーネ。
「ちょっと命名項目を増やして、アロンダイトの部分を我々で言う家名のような扱いにしたのですよ。細かい事は気にしない気にしない」
「えっ でも、名前は私が……」
そう言い掛けたディーネですが、私は内心で(ディーネに任せると絶対ろくな名前にならないから)と思い、笑顔でその言葉をさえぎります。ディーネの眉がつり上がりましたが、それ以上の反応はありませんでした。これで解決です。
ガシッ
エリスを返却して工房を出ようとしたら、ディーネに肩を掴まれました。なんでしょう? 振り向くととても良い笑顔のディーネが……。
「その前に、着替え中の乙女の部屋に入ったのです。覚悟は出来ていますか?」
あっ ヤバ……
その場で意識を飛ばされました。ディーネって、意外と怪力なんですよね。次から気を付けようと反省しました。
色々と残念な部分がありましたが、……まあ、懸念が一つ解決したので良しとしておきましょう。
それと、最近気付いた事があります。それはシエスタって、意外と出来る人だったんだなと言う事です。
何故そう思うかと言うと、実は彼女をドリュアス家が使用人として雇っていたからです。学院で働いていた理由は、出稼ぎ+箔付けに加え花嫁修行や社会勉強と言う意図がありました。家で働いているのも、ほぼ同じ理由でしょう。(注 ドリュアス家を選んだ理由は、馬鹿貴族に無体をされないと言う意味で安全だから)そして使用人研修でメイド長に見込まれ、本邸勤務を命じられていました。黒髪のメイドを見かけ、気になりアンナに聞くとシエスタの名前が……。発覚当初は、私も物凄く焦りましたよ。
考えてみれば当然かもしれません。ただでさえ学院は、多くの貴族子女が集まる場所です。それに加え下手をすれば王族も通う様な学院が、無能な侍女を雇う訳はありません。原作でも読み書き計算は出来ると言っていた気がしますし、礼儀作法・掃除・洗濯・料理と侍女スキルはかなり高いです。
実家はドリュアス家の影響で、農民から醤油工場の管理者に変わっています。当然、下手な貴族より裕福な暮らしをしています。しかも生活環境が変わった所為か、そばかすも無くなり肌も艶々しています。(注 アニメ版シエスタ)
……だからもてるんですよ。今のシエスタ。本人の理想が高いのか、特定の誰かと付き合うには至ってはいませんが、今後もそうとは限らないので心配です。原作に沿うか以外にも、男女のドロドロと言う意味でも。
続いて領地の状態についてですね。
私が作った特産品は軌道に乗りましたが、逆にこれ以上の黒字拡大は難しいでしょう。まだカトレアが開発している染物が如何なるか分かりませんが、利益は大きな予想できますが赤字解消までには至らないでしょう。
その中で大きな利益を出しているのが、お馬さんです。長距離・短距離・ジャンプ・運搬と言った、多くの競技を用意したのもありますが、現代競馬を参考に年齢や雄雌の限定を付け、突出した馬が出て来ても全ての競技がつまらなくならないようにしました。そして何と言っても、賭け事(胴元に限る)は儲かるのです。ドリュアス家の赤字を、大分減らす事に成功しました。
ただ、問題が発生しなかった訳ではありません。競馬なのに馬では無く、騎獣(マンティコア等)を出そうとした馬鹿貴族が居たのです。丁重に出走はお断りしましたが、これからも同じ事が起こりそうなので騎獣専用の競技も模索中です。
ちなみに父上が考えていたのは、ドリュアス領と王都を結ぶレース競技です。そうなると、他の領地や王都をまたぐ一大イベントになるので、他の貴族や王族とのすり合わせなど色々と面倒な事になります。家族全員に反対され、落ち込んだ父上がモンモランシ伯やヴァリエール公爵に相談したら、何時の間にかやる方向で話が進んでいたりします。
面白そうと言う理由だけで、父上を焚き付ける伯爵と公爵の姿が目に浮かびます。そして簡単に乗せられる父上。
……はい。逃げました。やってられません。家族全員で「絶対に手伝わない」と言った時の父上は、割と本気で泣きが入っていました。そんな父上に「口は災いの元」と言う言葉を送っておきます♪
赤字。だいぶ減りましたね。いえ……免税状態なら、黒字が出るまでになりました。(お馬さんのおかげで)しかし、喜んでばかりもいられません。免税期間が終われば、本来の税率に戻さざるを得ないからです。賢い商人の中には“商品のやり取りは他領で行うが書類上はドリュアス領で取引する”者が何人もいました。当然これは取引額が大きければ大きい程に減税に繋がります。(他領の貴族からは、犯罪扱いされそうですが)国に納める分を今の税に上乗せする(税率が元に戻る)と、当家が受け取れる税は一気に減る事になります。更に現在は儲かっていますが、馬の方もこのままの利益を上げ続ける保証はありません。
そう考えると、安定して集められる食料・衣料・生活必需品取引による税収のアップは欠かせません。それには、如何しても領民を増やす必要があります。以前に流された誹謗中傷(治安が悪い等)の解消には勤めていますが、まだまだ完全ではありません。
しかしこの問題は、思わぬ方向で解決する事になりました。
その理由は、ロマリアの権威が低下した事です。以前も寄付額が減ったと言いましたが、今回の事件が止めとなり国単位で行われていた寄付も、減額・打ち切りとなりました。これが以前大幅に(真っ先に)削られた、貧困者や難民・孤児を救済する為の福祉予算に直撃します。(完全に無くならないのは、ヴィットーリオが頑張っているから)そうなると炊き出し等の援助が無くなるだけでなく、孤児院等の施設も援助が打ち切られる事態へと繋がりました。
一部有志貴族や関係者の頑張りにより、幸運にも孤児院の方は大きな被害は出ませんでした。しかし貧困者や難民はそうはいきません。彼らには死ぬか奪うかの二択が付き付けられたのです。そこにマギ商会が割り込んで、ドリュアス領へと導きました。
本来なら喜ぶ所ですが、素直に喜べない理由があります。それは“ドリュアス家の赤字を埋める程の貧民や難民が居た理由”です。
……別に貧民が多かった訳ではありません。ある理由により難民が激増していたのです。
その理由はアルビオンにありました。実は原作同様に、アルビオンで内乱が勃発したからです。何故? ……と思うかもしれませんが、よくよく聞いてみれば納得してしまいます。先のモード大公の一件で王族を殺されたにもかかわらず、外交でやり込められてしまったからです。実状を知っている貴族達はそんなアルビオン王家に失望し、大公と親しかった貴族達は無力な王家を恨む事になりました。これが火種となった事に加え、今回の一件を早く過去のモノにしたいロマリアと貴族派が油を注ぎました。
結果として内乱はアルビオン全体へと波及し、多くの難民を生み出す事となったのです。
(保身の為なら内乱も辞さないか。……神官や貴族派って、何処まで腐っているのでしょう)
おかげ様でドリュアス家は、難民への対応に追われる事となります。
……本格的に、ディーネとアナスタシアに書類仕事手伝わせよう。
難民達の対応に追われている内に、原作3年前が終わっちゃいました♪
魔法学院入学まで、一年を切ってしまいました。その準備も進めなくてはなりません。なのに未だに片付いていない事が多すぎます。
オルレアン公は未だ投獄されたままですし、アルビオンの内乱は激しくなる一方です。リッシュモンも今は大人しいですが、後々何をしでかすか分かりません。
しかし、暗い事ばかりではありません。
何と言っても、陛下がお元気なのは喜ぶべき事ですね。原作3年前に亡くなったと言われていますが、それらしき兆候は一切ありません。
そしてその陛下が「不謹慎だ」と言った事により、園遊会は中止となりました。流石に顔を出さないと言う訳には行かなそうなので、個人的には大変ありがたいのですが、アンリエッタ姫とウェールズ殿下の出会いが如何なるか不安でたまりません。
……と思っていたら、意外にもちゃんと出会っていました。
アルビオンは内戦の影響で王宮内が荒れ、暗殺等の危険性が高まってしまったのです。流石に国王が逃げる訳には行きませんが、皇太子は避難させました。その避難先が、弟の所だったと言うだけの話です。表向きは“内戦で疲弊したアルビオンに援助を求める使者”ですが、トリステイン国内では人質と言う扱いでした。
しかしその関係には、原作と微妙に違うようです。アンリエッタ姫の性格が、原作より成長しているので当然と言えば当然ですね。
後書き
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