三つのオレンジの恋
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第一幕その十
第一幕その十
「しかし三つのオレンジとは」
「何なのでしょうか」
「よし、それなら」
だがここで王子が言うのだった。
「見つけ出しに行くよ」
「えっ、王子」
「何と」
「道化よ」
彼は周囲が自分の言葉に顔を向ける中で道化師に顔を向けて告げてきた。
「そなたが共になるのだ」
「えっと、私がですか」
「そうだ。目指すは魔女クレオンタの城だ」
「魔女クレオンタの!?」
「あの世界の果てにある」
クレオンタという魔女は世界の果てに住んでいるのである。森に河に谷に海に荒野に山に砂漠を抜けたその果てに。一人で住んでいる変わった魔女である。
「まさか。そんなところまで行かれるとは」
「折角御病気が治ったのに」
皆今の王子の言葉に驚く。王はさらに切実に我が子に対して問うのだった。
「王子よ、それは本気なのか?」
「はい、そうです」
王子の返事は聞き間違えようもないまでにはっきりとしたものであった。
「父上、私は行きます」
「魔女の城にか」
「三つのオレンジを手に入れに」
その為だというのである。
「今から行きます」
「しかしじゃ」
王は困惑しながら我が子に言葉を返す。
「そこまで辿り着けるのか」
「御心配には及びません」
ここでもはっきりと答える王子だった。
「今の私には勇気も分別もあります」
「それでもじゃ。途中には」
「そして剣もあります」
こう言って聞かないのであった。
「そして知恵袋も」
「それが私なのですね」
「その通りだ」
満足した顔で道化師を見ながらの言葉であった。
「そなたもいてくれる。だから大丈夫だ」
「はあ。そうですか」
「ですから父上」
あらためて父王に言うのであった。
「今から行きます」
「何ということじゃ」
怒涛の、かつ衝撃の展開にまずは唖然となっている王だった。
「この様なことになるとは」
「どうしましょうか」
「行かせるしかあるまい」
パンタローネの言葉にも唖然となったまま返すだけだった。
「今はのう」
「左様ですか」
「では道化師よ」
王子はもう席を立っていた。腰の剣と白いマントが如何にも王子らしい。
「行くぞ」
「今ですか」
「そうだ、今だ」
道化師の問いにこれまたはっきりとした言葉で返す。
「わかったな。それではだ」
「はあ。それじゃあ」
「いざ冒険の旅へ!」
腰の剣を抜きそれを天に高々と掲げての言葉であった。
「三つのオレンジを手に入れる為に!」
呆然とする周りの者をそのままに旅立つ王子であった。後に従う道化師もまだ呆然としていた。
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