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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百七話 スレンて……勇気があるよな

「へぇ、でもかなり希少(きしょう)な魔道具じゃねえのか?」
「あったりまえだっての! これは我が家に伝わる家宝だっての!」


 羽の形をしているイヤリングに触れながら言う。


「でも、いくら家宝と言ったって、それだけの能力だ。制限も……あるんじゃねえのか?」


 闘悟の言葉にウースイは誰もが見ても分かり易くドキッとした。


「な、な、何のことだっての?」
「その反応で十分だよ」


 どうやら本当に何か制限があるみたいだ。
 それが何かは分からないが、少しは役に立てたかなとスレンの方を見る。
 すると、彼女は微かに頷きを返してくれた。
 十分と時間稼ぎもできた。
 そう思った時、バンリドから声が届く。


「お前さんの望み通り、そっちの御仁(ごじん)も十分に休めたみたいじゃのう」
「なにぃぃぃっ!」


 ウースイが憤慨(ふんがい)しながら叫ぶ。
 闘悟がわざわざ時間を掛けてネタばらしをしたのは、スレンの体力回復を狙ったからだ。
 これも一応はチームプレイだから、試合を有利に進めるのは当然の行動だ。
 だがバンリドには、闘悟の企みは筒抜(つつぬ)けだったようだ。


「知ってたんなら何で知らせなかったんだ?」
「ん? その方が面白いじゃろ?」


 まるで邪気など感じられない笑みだった。
 バンリドは本気でそう思っていると感じた。


「こらぁバンリド! てめえどっちの味方だっての!」


 ウースイの言うことも最もだ。
 彼にしてみれば、せっかく相手を疲弊(ひへい)させたのに、それが無駄になったのは頂けない状況だ。


「いやぁ、言ってみや、魔道具って反則みたいなもんじゃろ? ハンデじゃハンデ!」
「ぐっ、くっそぉ! 覚えてろっての!」


 ウースイの怒声も軽く流しながら笑うバンリドを見て、大人だなと感じる。
 年齢は同じくらいなのに、妙に達観(たっかん)しているようにも感じる。


「ああもう! 再開するっての!」


 ウースイはこれ以上バンリドに物を申しても無駄だと知っているのか、追及を諦めてスレンに視線を向ける。
 その視線を受け、スレンも身構える。
 そしてまた火の玉を出したウースイに警戒を向ける。
 だがそこで、作っている間には僅かな隙があることに気づく。
 その隙をついてスレンは同じように火の魔法を放つ。
 それを見たウースイはギョッとなり避けるべく横に跳ぶ。
 すると、火の玉も消えたようでウースイの周りには何も浮いてはいなかった。


 ん? どうして消したんだ?
 避けてそのまま攻撃すれば良かったんじゃ……?
 もしかしたら……。
 そう思い、スレンに声を掛ける。


「スレン!」


 すると、彼女は手をこちらに上げて答える。
 何も言うなという意味を込めて。
 どうやら彼女も気づいたようだ。
 またもウースイがその場で火の玉を作る。
 一つが作られ、複製される瞬間、スレンがまた火の魔法を放つ。


「くっ! またかっての!」


 するとまたウースイは、せっかく作った火の玉を消してその場から離れる。
 だがその状況を見て闘悟は確信する。
 あのイヤリングの制限を。
 スレンも闘悟同様に思ったはずだ。
 彼女は剣を抜き、即座にウースイとの距離を詰める。


「のやろっ!」


 ウースイはかなりの速さで向かって来るスレンに舌打ちをする。
 そして何故か一つだけ火の玉を飛ばす。
 だが先程まで何十という玉を避けていたスレンなのだ。
 たった一つの玉など、何の障害にもならなかった。
 スレンは軽く避わして、ウースイの目前まで来る。


「うわっ! し、しょうがねえ!」


 彼は地面に手をかざすと亀裂が走り、そこから水が噴き出す。
 その水に向けてもう一度火の玉をぶつける。
 すると、いきなり蒸発した水は霧状になりウースイの姿を隠す。
 相手を見失ったスレンは動きを止める。


「止まんな! 狙い撃ちにされるぞ!」


 闘悟の叫び声を聞いてハッとなったが、少し気づくのが遅かった。
 もう目の前からは新たな火の玉が複数飛んできていた。
 また『魔補螺羽(まほらば)』を使われてしまったようだ。


 スレンは大きく後ろへ跳び距離を取る。
 地面に衝突した火の玉は爆風を生み、そのせいで霧が晴れる。


「へへへ、そう簡単には近づけさせねえっての!」


 さすがに『五色の統一者(カラーズモナーク)』の一人だ。
 遠距離では絶対の強さを誇り、それを防ぐために近づこうとしても、先程のように簡単には近づけさせてくれない。


 また距離を取ることになってしまい、火の玉のターゲットになってしまうスレン。
 体力が回復したとはいえ、このように距離を開かされ、遠距離戦を強いられると辛いものがある。


「さって、このまま的になってもらうっての!」


 ウースイはニヤッとしてもう勝ち誇った顔をしている。


「さっさとてめえを倒して、俺は黒髪とやるんだっての!」


 その言葉を聞いた瞬間、明らかにスレンの纏(まと)う魔力の圧力が変わった。
 スレン…………ありゃ怒ってんな……。
 闘悟が感じた怒りは本物だった。
 スレンは先程以上の魔力を体に漲(みなぎ)らせて、剣を抜く。


「ああ? 何をするつもりか分からねえが、これで終わりだっての!」


 またも複数の火の玉が放たれる。
 スレンは上手く避けながら前に進む。
 ウースイの近くまで来たところで、彼は再び水を噴出させる。
 そして霧状にさせてまた身を隠す。
 スレンは先程と同様に足を止める。

 だがここからが違った。
 彼女は霧の中から飛んでくる火の玉から身を避わすのではなく、そのまま剣を手にして突っ込んだ。


「あのバカッ!」


 闘悟はそんな彼女の行動に目を見張る。
 向かってくる火の玉の直撃だけを何とか剣で防ぐ。
 だが防いでいるのは直撃だけで、何発かは体に当たっている。
 鎧もさすがに傷ついていく。
 それでもスレンは動くのを止めずに火の玉の方向へ走る。

 
 そして今度はスレン自身が地面に向けて火の魔法ぶつけ、霧を晴れさせる。
 そこから現れたのは、間違いなくウースイだ。
 火の玉の方向に彼がいると推測して、危険を冒(おか)して進んだが、その代償としてかなりの体力を奪われた。
 だがこれでウースイの懐へ飛び込むことができた。
 もちろん、そんな行動をとった彼女を見て驚愕した彼はつい叫ぶ。


「なっ! 何て奴だっての!?」


 一つ間違えば、直撃を受けて、火の玉の集中攻撃にさらされるかもしれないのに、懐に入るために、こんな方法をとった彼女の勇気という無謀に驚きを隠せなかった。


(マ、マズイっての! このままじゃやられるっての!)


 明らかに動揺した表情を作り焦るが、このままでは倒される危険が高い。


「くそが! 負けるなんてありえねえっての!」


 そう叫ぶと、彼はイヤリングに触れながら叫ぶ。


「はばたけっ! 『魔補螺羽(まほらば)』っ!!!」


 イヤリングがピカッと光ったと思うと、突然予期せぬ出来事が起こる。
 ウースイの周囲に数えきれない火の玉が、一瞬のうちに出現したのだ。
 バンリド以外は、その場を見て驚愕する。
 何が起こったのか全く分からなかった。
 先程まで何も無かったというのに、一瞬で場が変化した。


「シュ、『火の流星群(シューティングスター)』!!!」


 無数の火の玉が目前にいるスレンに集束する。
 な、何て数の火の玉だ!
 『紫の弾幕(だんまく)』とはよく言ったものだな全く……。


「避けろスレンッ!!!」


 だが、突然のことにスレンは硬直している。
 兜のせいで表情は見えないが、きっと焦っているに違いない。
 そう思ったが、スレンが行った行為は全く別だった。
 何と彼女は同じように火の魔法を使ってウースイに向けて放つ。


「なあっ!?」


 その行動に驚いたのはウースイも同様だった。
 先にスレンの攻撃がウースイにヒットする。


「ぐわぁっ!!!」


 彼は直撃した魔法の威力に吹き飛ぶ。
 だがまだ終わってはいない。
 今度はスレンが『火の流星群(シューティングスター)』の餌食(えじき)になる。


「キャアァァァァッ!!!」


 この声っ!? やっぱりっ!
 闘悟は心の中で何かを確信していた。
 必死に体を捻(ひね)らせ全弾命中は防ぐが、何発かは直撃する。
 一つ一つは威力は弱いが、これだけの数の集中攻撃では中級以上の威力と遜色(そんしょく)は無い。
 ウースイもスレンも舞台から転げ落ちる。


「こ、これはすご~~~~い! 両者ダブルノックダウンかぁ!?」


 モアの実況が闘武場を包む。
 あまりに激しい衝撃に観客達はより一層盛り上がっている。
 闘悟は飛んで行ったスレンのもとに向かう。
 どうやらバンリドもウースイのところへ向かってるみたいだ。


「大丈夫か!」


 地面に転がっているスレンに声を掛ける。
 鎧も半壊(はんかい)している。
 フルフェイスだった兜も、後頭部の方が壊されていて、長い赤髪が出現している。
 その髪を見て闘悟は溜め息を吐く。
 やっぱりな……。
 彼女の意識を覚醒させるように体を揺する。
 すると、体がビクッと痙攣(けいれん)する。
 どうやら無事のようだ。
 確かに幾つか攻撃を受けたみたいだが、頑丈(がんじょう)な鎧だったのか、重症というわけではない。


「う……うぅ……」


 スレンは上半身を声を絞りながら起こす。
 自ら体を起こした様子を見てホッとする。


「ふぅ、焦ったぞ?」


 スレンは軽く手を上げ大丈夫だという意思表示をする。


「そっか、でも何で試合に出てきたんだステリア?」
「それは、やっぱ出たいじゃないの」
「でもお前は一応王女だろ?」
「馬鹿ね。だからこうして身を隠……し……て……へ?」


 スレンは完全に凍りついて闘悟の顔を見つめていた。


 
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