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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百六話 レアな魔道具ってやつか

 闘悟達は片手を上げて準備が整ったことを知らせる。
 互いに舞台を挟んで対面に向かう。


「どうやら舞台を使用するみたいですね!」
「ええ、どんな試合になるのか楽しみです」


 モアとフレンシアがそれぞれ舞台の方に注目する。


「さて、そんじゃオレが……」


 闘悟は自分が先に闘おうと思い舞台に上がろうとしたら、腕を誰かに掴まれた。
 振り返ってみると、そこには思った通りスレンがいた。


「……何だ?」


 彼女は自分を指しながら頷く。


「もしかして……先に出るのか?」


 何度も頷くので、その通りなのだろう。
 だが、闘悟は溜め息を吐く。


「あのなぁ、いい加減少しは喋ったらどうだ?」


 しかしウンともスンとも言わない。


「…………」
「…………」


 これはハッキリ言って埒(らち)があかない。
 このままでは仕方が無いので闘悟が折れることになった。


「……分かったよ。でも気をつけろよ? アンタは強えけど、アイツらも伊達(だて)にヴェルーナ魔法学園の代表じゃねえぞ?」


 彼女はその言葉に頷きだけを返した。


「ま、お手並み拝見だな」


 スレンは大きくジャンプし舞台に上がる。


「何だ何だぁ? お前が出てくるんじゃないのかっての!」


 するともう舞台に上がっていたウースイが不機嫌そうに言葉を放つ。
 どうやら向こうの先方は彼らしい。
 ウースイ自身は、闘悟と最初に闘いたかったみたいだが、当てが外れて機嫌が悪い。


「どうやら舞台は整った模様です! 初戦はスレン選手とウースイ選手のようです! お二人とも心構えはよろしいですか! それでは……」


 先程まで盛り上がっていた観客達から熱が消えた。
 いや、消えたのではなく抑えているのだ。
 モアの開始の声を今か今かと心待ちにしている。
 皆の視線は舞台の二人に注がれ、緊張感に包まれている。
 スレンとウースイは互いに視線をぶつけ合う。


「始めぇっ!!!」


 二次予選最終戦が今始まった。





 スレンは剣に手を掛ける。
 だがウースイはそのままの姿で立っている。
 彼はシャオニと同様帯剣(たいけん)をしていない。
 そういえばフービもバンリドも帯剣してはいなかった。
 『五色の統一者(カラーズモナーク)』は帯剣をしない決まりでもあるのかと闘悟は首を傾げる。
 あのリューイは帯剣していたから、学生だからといって剣を持てないというわけでもない。


 あれ? そういやリューイはどうなったんだろ?
 確か大会で闘えとか言っていたけど…………ま、いっか。
 本選まで行ってるならその機会もあるだろうと思い、考えを放棄した。
 闘悟はじっくり大会を観察していたわけではないので、リューイが大会でどのような結果を出しているのか知らない。
 実は彼はタッグマッチ戦にまで勝ち残ったはいいが、パートナーに恵まれず敗退してしまったのだ。
 闘悟がそれを知るのは大会の後になってからだが、正直闘悟はあまり気にしてはいなかったので、基本的にはどうでもよかった。


 スレンは様子を見ているのか、いきなり動くのではなく、ジリジリと間を少しずつ詰めていく。
 ウースイはそれを見てニヤッと笑いながら言う。


「おいおい、何ビビってんだっての! そんなんじゃ日が暮れちまうっての!」


 彼はサッと後ろに跳んで両手を広げる。
 スレンは警戒をするように動きを止めて見つめる。
 ウースイの体から魔力が溢れていく。
 すると、彼の周囲に野球ボールくらいの大きさの赤い玉が一つ現れる。
 すると、次々と現れる。
 それも一個や二個ではない。
 十個以上は確実にある。


「火の玉……?」


 闘悟は空中に浮かんでいる玉を見て呟く。
 ウースイは楽しそうに微笑み闘悟を睨みつける。


「見てろっての黒髪! これがウースイ様の『火連弾(フレイムガトリング)』だっ!」


 彼の周りに浮いていた火の玉がスレンに向けて放射される。
 優れたピッチャーも驚くほどの剛速球だ。
 スレンは前を見据えながら、次々と飛んでくる火の玉を華麗に避わしていく。


「へぇ、なかなかやるじゃねえかっての」


 ウースイもスレンの動きに感心している。


「だけどな! それで終わりじゃねえんだっての!」


 ウースイはまたも火の玉を複数作り放つ。
 だがスレンは体に魔力を宿し、踊るように避ける。


「ほほう、やるやる! だけどいつまでもつかなっての?」


 ウースイから終わりなく火の玉が放たれる。
 これまで華麗に避けていたスレンだが、このままの状態が続けば体力が底を尽くのは時間の問題かもしれない。
 だが、それはウースイにも言えることだ。
 あれだけの量の火の玉を放っている彼の魔力も決して無限ではない。
 普通ならもう疲労感が顔に出ていると思うが、おかしなことにウースイの顔色は全く変わらない。
 それに、さっきから感じてる魔力も変な感じだ。
 減ってることには減ってるのだが、あまりに微弱過ぎる。
 闘悟は余裕綽々(しゃくしゃく)のウースイを観察する。
 足元から頭まで目で追ってみると、ふと気づいたことがある。


「……ん? あのイヤリング…」


 ウースイがしている羽の形をしているイヤリングから妙な魔力を感じる。


「……まさか……な」


 闘悟はある仮説を思いついたが、それを確信に変えるために、もう一度彼が火の玉を作る瞬間を凝視する。


「まだまだ行くっての!」


 彼の周りに火の玉が現れ始める。
 まず一つ作られると、その周囲に次々と現れる。


「ふうん、なるほどね」


 闘悟は得心(とくしん)がいったかのように唸る。
 するとスレンの体に火の玉が掠(かす)り始めた。
 どうやら体力が奪われ、動きが悪くなってきているようだ。


「もう辛くなってきたかっての? こっちはまだまだ行けるっての!」


 ウースイは楽しそうに口角(こうかく)を上げて叫ぶ。
 そこへ闘悟が言葉を投げかける。


「そりゃそうだろうな!」


 突然の闘悟の言葉に、その場にいる者は彼に視線を注ぐ。
 それはウースイも同様だ。
 肩で息をしているスレンに軽く視線を流す。
 少し休憩してろと意味を込めた。
 彼女もそれに気づいてくれるだろう。


「一体何だっての?」
「いや~さすがは『五色の統一者(カラーズモナーク)』だなと思ってな!」
「はあ? 何言ってやがるっての?」


 眉間にしわを寄せながら闘悟を睨む。


「いやなに、それほどの大物はやっぱ貴重な魔道具も持ってるんだなってな」
「……っ!?」


 闘悟の言葉にウースイは固まる。


「ほう、やるのう」


 バンリドは感心するように声を漏らす。
 その言葉で、闘悟の言(げん)が、的を射ていることを証明する。


「黒髪……てめえ」


 鋭い目つきをぶつけてくるが、闘悟は冷ややかに受け流す。


「さあ、種明(たねあ)かしの時間だ」


 わざとらしく大げさな言い方をして、皆の注目を一身に引きつける。





「そのイヤリング……魔道具なんだろ?」


 闘悟はウースイのイヤリングを指差す。


「くっ……」


 ウースイはこんなに早く見破られたことが悔しいのか苦々しい表情をする。
 誤魔化すと思っていたが、正直というか嘘を吐けないタイプなのか、その反応だけで闘悟の追及が真実だと判断できる。


「アンタが火の玉を作る時、必ず一つだけ先に作られる。その後に複数の玉が現れる。まるで複製されたかのようにな」
「うぐっ!」


 ウースイは唸(うな)りながら身を引く。


「多分その魔道具、火の玉を複製できるんだよな?」
「おぐっ!」


 どうやら図星のようだ。
 それにしても、ウースイの反応が分かりやす過ぎて、少し駆け引きをしなければならないかなと思っていた闘悟は拍子抜けしてしまう。


「トーゴとやら、何で気づけたんじゃ?」


 驚いて言葉を失っているウースイではなく、バンリドが尋ねる。


「魔力だよ」
「魔力じゃと?」
「ああ、あれだけの数の火の玉を作ってんだから、それなりの魔力を消費するはずだろ?」
「……なるほどのう」


 顎を撫でながら納得する。


「だけど、アンタからは微量な魔力しか使用されていなかった」
「むぐっ!」


 またも唸りながら身を引く。
 何だかよく見てみると、本当に反応が面白い。


「そこで変だと思って観察してみた。するとだ、そのイヤリングから妙な魔力の流れが視えた」
「お前さん、魔力視認ができるのかの?」
「まあな」
「ははは! こりゃうっかりじゃったのうウースイ!」


 バンリドが面白そうに声を上げる。


「魔力視認されるとは、調べが足りんかったのう!」


 するとウースイは悔しそうに歯を食いしばっている。
 彼らは一応対戦相手である闘悟を調べたらしいが、魔力視認の能力までは知らなかったようだ。
 ウースイは不満顔を作り声を張り上げる。


「ああそうだっての! これは魔道具『魔補螺羽(まほらば)』。黒髪、てめえの言った通り、複製能力があるっての!」

 
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