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形而下の神々

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10日間の小さな行軍記
  行軍4日目~前編~

4日目の朝日は俺達を笑顔で迎えた。というか、ここ四日間全く陰る様子の無い太陽にそろそろウザったさを感じつつあった。雨が懐かしい。

「いやぁ今日も清々しい朝だなぁ!!」

 しかし相変わらずグランシェは太陽より暑苦しい。

「そうだな……」

 グランシェの寝相を避けること3回。
 俺は快眠を手に入れたのだが、昨日は柄にもなく何となく考え事が煮詰まらず、センチメンタルな気分で眠れなかったのでテントの外に出ていたのだ。

 外では常に子供の奴隷が代わる代わる見張りをしている。そして奴隷とは話さないのが基本だとはいえ、俺にそんな基本は関係ない。

 次から次へとやって来る見張りの奴隷と話しているといつの間にか当たりは白く輝き、朝日が一日の仕事を始めたのだった。要するに一睡もしていないのだ。

 話せば奴隷もただの子供でとても可愛らしい者ばかりだし、流石に何故奴隷になってしまったのかなんて話は出来なかったが、それでも皆は心を開いてくれた。


 そうやって調子に乗って会話を重ねるうちに、俺はすっかり寝不足なのだ。


「おはようタイチさん!!」

 一人の子供が元気良く挨拶してくる。グランシェとペアの奴隷、ユミの双子の姉であるユイだ。

「おはようユイちゃん」


 このユイとユミは何故か奴隷になったいきさつを語って来た子達だ。二人揃って口減らしということで奴隷に出されたらしい。
 ただ、親もただの酷い人間などではなく、二人がずっと一緒に居られる様にと二人にセットの刻印と言うものをを与えたのだそうだ。

 刻印については二人も詳しく知らないみたいだったが、どうやら公式を文様のような形にして、人間の身体に書き込む事でその公式を理解していなくてもその公式が使えるという便利アイテムらしい。

 そして、ユイは氷造の公式を、ユミは物動の公式を刻印されて使うらしい。実際に少しその文様を見せてもらったが、刻印は身体に刻み込むものなので、必然的に服の中を覗き込む形になってしまい、何だかとってもイケナイことをしている感じがした。
 その時は何も考えずに刻印を見せてと言ってしまったのだが、これからは注意しよう。

 ちなみにこの二人の刻印で何がセットなのかと言うと、ユイが氷を作りだし、ユミはポルタガイストさながらにその氷を操るのだという。
 
 それで、二人セットで戦闘奴隷として売ったらしい。

 こうした結果、危険な戦場に我が子を送る事になってしまうとは、いささか苦肉の策といった感はあるがやはり肉親が近くに居るというのは心強いものだろう。
 奴隷の子供達の先に見える絶望は相も変わらず果てしないものなのだろうが、彼女達だけは幾分か子供特有の快活さを持ち合わせている感じは確かにした。

 ただ少しでも、あと6日とないこの旅路の間だけでも、俺はこの子達に楽しい思いをしてもらいたかった。まさか夜に少し面白い話をするだけで子供たちがこんなにも精神的に元気になるとは思ってもみなかったが、今朝の子供達には確かに笑顔が少しだけだが見られた。


「やるじゃんタイチ」
 朝食を摂っているとシュナウドがニヤニヤしながら言って来た。多分今朝の子供たちのことを言っているのだろう。

「はっ、大学教授の話術がこんな所で役に立つとはな」
「ダイガクキョージュ?」


 言うとシュナウドがオウム返しで聞いて来た。やはりこの世界には大学に相当するものががないのだろうか?
 この世界の学力水準がますます分からなくなる。学者は存在するのに大学は無い。多分頭のいい奴が集まる研究機関的なモノがあるのだろうが、その下地の知識はどこから得ているのだろうか。

「先生の事だよ。俺は昔は教師をしてたんだ」

 実際はつい最近まで教師だったんだがな。

「教師ッ!? な、なんでそんなにスゴイヒトが傭兵なんかやってんだよ」
「スゴイヒトかどうかは分からんが……ま、家庭の事情ってヤツだ」

 無駄な事を考えていても仕方がない。という事はこの数日間で学んだ。だが考える事は止めない。
 ここで生きて行くためには考える事と考えない事のバランスが重要だ。

「面白い転落人生だな」
「今からはい上がるんだよコノヤロー」

 どうやら、やはりこの世界で教師と言うものは結構な立場らしい。そして傭兵は「転落人生」と評されるような職みたいだ。

 というかシュナウドの印象も随分と変わった気がするな。最初は口内炎にでもなっているのかって程に何も話さなかったのに、今では向こうからガンガン話しかけて来るし。
 口内炎、コイツが出来ちゃうと話すだけでも口の中が痛いからね。
 まぁシュナウドも楽しそうだし、俺としては嬉しい限りなのだが。



 そうして歩くうちに段々とシュナウドが無言になって行き、俺はある異変に気付いた。

「おいシュナウド、なんか変じゃないか?」
「え? タイチもそう思う?」

 さっきからあまり喋らないと思ったら、どうやらシュナウドも異変に気付いていたみたい。

「うん、だって……」

 そう言って俺は街道の道を指差す。
 このアロン街道を先行しているはずの先遣隊の馬の蹄鉄の跡が、気付けばいつの間にか失くなっていたのだ。


 これはまずいんじゃない? 先遣隊に何かあったとしたら、これは2度目の戦闘を視野に入れなくてはならないという事になる。

「これは後続と合流した方が良いかもね」
 シュナウドが俺に言った。

 俺達の行軍は、行軍とは言っているがそんなに規則正しい隊列を守っている訳ではない。
 要は1日の進むべきノルマの距離を達成すれば良い訳で、ペースは各々の判断に任されるのだ。先遣隊だけは、先にキャンプ予定地の安全を確保するので馬を走らせる訳だが。
 ちなみに俺とシュナウドはトップを歩いている。

「どうする? 引き返すか?」

 と、俺はとりあえずシュナウドの意見を仰ぐ。

「ああ、引き換えした方がいいと思う。 流石に2人だけで狼人に出くわしたら一貫の終わりだ」
「……そうだな」

 結局、俺とシュナウドは元来た道を引き返す事にした。

「さ、引き返そう」


 サッと踵を返し、アロン街道を逆戻りする。
 そうしてしばらく歩くと見覚えのあるシルエットが見えてきた。

「あっ、タイチさん!! どうしたんですか? 戻って来たりして」

最初に会ったのは2番手のユミと傭兵のシャラという女性のコンビだった。

「あぁ、君は……たしか瞬間移動の傭兵だったね。何故引き返してきた?」

 シャラのいかにも訝しむ様な目線が痛いが、シュナウドが言うには「この女はまだ出来る方」らしい。

「どうやらこの隊は狼人に目を付けられちゃったらしくてね……」

 と、今までの経緯を話すうちに3番手のグランシェ&ユイ隊に合流。


 また話すうちに4番手に合流と、同じことを延々と繰り返し、結局全員がその場に居合わせる事となった。
 そうして同じ話を何度も聞いたシャラがアクビをしだす頃、23人の傭兵と12人の奴隷、そしてマスターのマストルじじぃとその手下の3人が揃った。

「タイチ君だったかな?狼人が襲ってくるとはどういう事だね」

 と、マストルはいかにも不満そうに口を開いた。

「はい、ここから少し先の道で先遣隊の馬の足跡が消えています。恐らく、狼人の輩に襲われたのかと」

「狼人と言う根拠は?」

 てめぇの身勝手な欲ボケのせいだよ。
 ……とは流石に言えないので怒りを飲んで笑顔で対応する。

「狼人かどうかはまだ確定はしていませんが、私たちに何かしらの敵が迫っていることは確かかと」

 それを聞いた爺さんは納得したのか、全員に向かって指示を出した。

「確かにそうですね……これからは固まって行軍します。馬が蹄の跡も無く消える訳もありませんし、だからといって戦闘した跡がある訳でもない。敵の罠にかかった可能性もありますので、皆さん注意して行軍しましょう」

 マストルの掛け声で、全員が行軍を再開する。

 ここはアロン街道。左手には緑豊かな丘が広がる丘陵地帯。右手にはキラキラと輝く清水が流れる深緑の森。
 雨量は少ないのか空気は澄み乾き、夜は美しい月が煌々と辺りを照らす。

 ここは逃げ場のない、ただひたすらに続く一本道。
 左手の丘は狼人が住まう丘陵地帯。右手の森は美しき毒の樹海と呼ばれる毒草の森。夜の明かりは美しい月明かりのみで、新月の夜は漆黒と言うに相応しい世界が広がる街道。

「レジャーとかで来れてたら最高だったのになぁ……」

 俺は一人呟いてシュナウドの少し後を歩いた。 
 

 
後書き
 読了お疲れ様です! そしてありがとうございます!
 今、この小説を続けて読んで下さっている方は一体どれほどいらっしゃるのか分かりませんが、日々ほんの少しづつですが伸びて行く閲覧数を更新日に眺めてモチベーションにしています(笑)

 まだまだ荒削りな文章で、読みにくい所なども多々あるとは思いますが、気になる点はどんどん指摘してやってください。
 あまり「忙しい」と口にするのは嫌なのですが、これで結構忙しいのでお返事が遅れたり、気付くのに時間がかかったりしますが、ご指摘に関しては必ず改善していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。


 ──2013年06月13日、記。 
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