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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第5話 第1層・はじまりの街・西フィールド


 この世界は、アインクラッドと呼ばれている空中に浮かぶ城。
 その第1層の広さは広大。直径は10kmに及ぶと言う。そして、勿論フィールドもその広さに合わせて広大であり、見渡す限りの草原が広がっている。絶景と言えばそうなのだが、生憎ピクニックをするという概念は無い。

 そもそも、現実世界だって今までした事だってない。

 だから……初めての経験だった。でも、その初めてをこの世界で味わえた事をリュウキは幸運に思えた。この世界は、仮想世界は、とても好きな世界だから。

「どわーーーーっ!!」

 折角初めての感覚を満喫し、感傷に浸っていたのに、視界の中にクラインがすっ飛んできた。どうやら、攻撃を受けてしまった様だ。

「うっ、げっ!がぁぁ……股座がっ……!」

 クラインは、腹を抱えて悶絶している。腹部に攻撃を受けて、その痛みが痛覚となって襲っているのだろうか? ……が、それはありえない事だ。

「大袈裟だな。別に痛みは感じないだろう?」

 キリトは呆れながらそう言った。そう、ここは仮想空間。
 現実では指一本ですら、身体は動かしていない、故に擬似的な痛みはあるが、そこまでの痛覚はありえない。……威力によっては、大小のノックバックが発生するが、あくまで衝撃だけであり、痛みは殆ど無い。

「あ、そっか……!はは、ついな……? いやー、ビビったビビった」

 クラインは頭を掻きつつおどけて見せた。……リュウキは、ため息をしつつ、再び景色を眺めるのを再開していた。この世界の空を大地を眺めていた。

「……んで? リュウキは、いつまで眺めてんだ?」

 キリトは空を、大地を見ているリュウキにそう聞いていた。かれこれ、このフィールドに来てからずっと眺めているからだ。

 空を見上げていたリュウキは、視線をキリトの方へと向けた。

「……ん。ああ。漸く、此処に。……この世界に本当に帰ってきたな……って思ってな。いつまで、か……決めてない」

 リュウキはそう返しつつ、再び空を見た。そして、手を伸ばし……、空気を摑む様に握った。

「おお~~い! 確かになぁ……! って思わねーでも無いが、こっちも頼むぜ! レクチャーしてくれよ。いきなりゲームオーバーだなんて最先最悪だからよ!」

 クラインは、HPをそれなりに削られているらしく、早い段階で助けを求めていた。よくよく見てみると、どうやら彼のHPゲージが注意値(イエロー)近くまで減っていたようだ。
 でも戦闘が始まったのはついさっきだから、早すぎるのでは? とキリトとリュウキは思ったが、口には出さなかった。

「……キリトがさっき言ってた言葉をよく思い出せ。初動のモーション。それが重要だ」
「そうだ。その通り」

 2人して、出来野悪い生徒に教えるようにそう教えていた。ちゃんと自分のものに出来るかどうか……、それは本人次第だろう、そこまで見てあげられる自信もなければ、見るつもりも無い。
                                     byリュウキ

「んなこと言ってもよ……。アイツ動きやがるしよ?」

 クラインが見ている先には猪の姿をしたモンスターがいる。
 その名は≪フレンジーボア≫ 通称 青イノシシ。

「……動かないモンスターがいるか。そんなアクションRPG面白くないだろ?」
「ま、まぁ そ……そりゃそうだけど」

 リュウキの言葉に苦笑いをしつつ同意するクライン。

「それに、ちゃんとソード・スキルを発動さえすればシステムが当ててくれる。難しく考える必要ないさ」

 キリトは、草原に落ちている石を拾い上げると初期投擲のスキルである“シングルシュート”を放つ。キリトから放たれた石は、赤く光りまるで矢の様に、フレンジーボアに解き放たれた。赤い軌跡を残しながら、放たれていく石は、予め当たる事が決まっていたかの様に、直撃する。

「ギャンッ!!」

 投擲技は、相手のHPは殆ど削らないが、気をそらせること、そしておびき出す事はできる。だから、フレンジーボアは 標的をクラインからキリトの方へと変えた様だ。

「成程、モーションか……モーション……」

 キリトの方へとフレンジーボアが向かっていっているその間にクラインは集中していた。

「どういえばいいのかな? よっと!」

 キリトは、フレンジーボアを軽くいなしながら、説明を始めた。所謂、これは見取り稽古だ。口で説明するだけよりは、実演しながら教えたほうが身に付くのが早いだろう。

「ほんの少し、溜めて スキルが立ち上がるのを感じたら……ズバーンッ!ってする感じ?」
「……擬音ばかりだな。まあ、その方が判り易いか? 感覚が大事だからな」

 リュウキは、キリトの教え方に苦言を呈すが、クラインの方を見て、そう思った。どうやら、クラインも掴みかけているようだから。

「ほうほう、ズバーンかぁ……ん……おっ? おおっ?」

暫く瞑想するかの様に目を閉じていたクラインだったが、どうやら感覚を掴めた様だ。
 目を開くと剣を構えた。

「ふっ……。」

 それを見たキリトは、蹴りを放ちクラインの方へと蹴り飛ばした。スキルじゃない攻撃は、基本的にHPを削る事は出来ない。が、ノックバックを発生させ、身体をズラす事は出来る。丁度、クラインの剣の太刀筋にちょうど良い場所へとキリトは蹴り飛ばしたのだ。

「おおらあああ!!!」

 クラインは、ソード・スキルを発動させた。真一文字に斬り裂く一撃。その一撃は、ボアのHPゲージを一気に消滅していく。黄色のゲージから、赤へと変わり……、完全に消失する。
 すると同時に、フレンジーボアの身体が青く光り、そして最後には鮮やかな硝子片となって、弾けて砕け散った。

「い……よっしゃあああ!!」

 クラインは、空に右拳を突き上げ盛大にガッツポーズ。

「おめでとう」

 そして、キリトも近づいて手を出し、クラインとハイタッチをした。

「おー!っておい。リュウキもしようぜ? ハイタッチ!」
「……オレは別に良い。アイツを倒したのはお前らだろ?」

 リュウキは加わらずに、素っ気なくそう返したが。

「まあ、そう言うなって」

 キリトが『加われよ』と言う前に、リュウキの手を引っ張っていった。

「わっ、な、何だよ」
「ほら、ハイタッチだハイタッチ」

 笑いながらそう言うキリト。そしてクラインも笑っていた。それを見てリュウキはため息を吐くと。

「……わかったよ。」

 観念した様に、手を差し出した。

「へへ!」

 こうして、3人はハイタッチを交わしたのだった。



――……リュウキはこの時、思っていた。


 キリトはかなり強引だった。でも、以前もこんな感じだっただろうか? 置いていく時も、別に文句を言っていた覚えはない。

(だけどなんでだろう……、悪い気はしない、な。こんな空気も……)

 キリトの変化、そしてそれを受け入れている自分も、悪い気は不思議としていなかった。……だけど、同時にリュウキには疑問も生まれていた。

「……でもあのイノシシは、雑魚も雑魚……。所謂、序盤のモンスター。スライムみたいなものだろ? それで毎回するのか? ハイタッチ」

 そう聞くと、クラインは唖然としていた。どうやら、クラインはあのモンスターの事を知らなかったようだ。倒せて当然。入門編。チュートリアルクラスのMobだということを。

「ええ〜〜。マジかよ!おりゃてっきり中ボスクラスかと……」

 折角倒したのに、とクラインは項垂れていた。その言葉を聞いたリュウキは、少し笑った。

「……こんなのが、此処の中ボスだったらオレはもう全層突破している。あのβテスト期間中でな」

 そう言っていた。そして、キリトも笑う。

「それはオレも言えるぜ? 雑魚モンスターだし」

 その点に関してはキリトも同様だった。

「くぅ〜〜マジかよ……。」

 クラインの前途は多難のようだとこの時そう思っていた。


 そして、その後はモンスターと戦う事はせず、暫くクラインはスキル発動の練習をしていた。

「………おお〜〜っ!」

 クラインは何度かボアを倒し、剣を実際に振るい、漸くソードスキルのコツを掴んだようだ。
ソードスキルの成功の確率も上昇している。

「なっ? ハマるだろう?」

 キリトは、夢中になって剣を振っているクラインにそう言って笑った。

「まあ、今までのと段違いだしな。」

 リュウキもそこは強く同意していた。VRMMOの最大の魅力はそこにあるからだ。自分自身の身体で、剣を振るっている感覚なのだから。

「ああ! そうだな。おっ……? ははっ!リュウキよ、おめー初めて笑ったな? 初めて見たぜ?」

 クラインは、リュウキの顔を見ながらそう言って更に笑った。苦笑いをしていたり、は見たが、今の様な良い笑顔は見てなかったから。

「………ッ」

 リュウキは、クラインにそう言われて、思わず直ぐに顔を背けた。

「ははっ、アバターだけどよ? 現実のお前って可愛い顔してんじゃねーか? そのツラでその性格でって考えたらよ? 俺よか年上っぽいのに、無理矢理厳ついアバターに変えたのかぁ? 現実で会ってみたいな」

 クラインはニヤニヤと嫌な笑みをしつつ、リュウキの身体に肘をつんつんと当ててくる。リュウキは、直ぐに無表情になり、クラインから背を向けた。


「……さてと、もう大丈夫そうだ。……オレはもう行くか。さっさと次の村にでも」

 ふいっ……っと、何事も無かったかのように立ち去ろうとしていた。

「って !おおい! じょーだんだって、じょーだん! 行くなって」

 さっさと言ってしまうリュウキをクラインは引き止めていた。



「それよりよー。スキルって色々あるんだろう? 武器を作るとかさ?」
「ああ、スキルの種類は無数にあるって言われてる。その代わり魔法はないが」

 このVRMMOのソフトSAOの世界には魔法は存在しない。全ては剣なのだ。あまり無い珍しい設定、だとも言える。

「RPGで、魔法無しか……大胆な設定だな!」

 クラインは剣を素振りしながらそう言っていた。

「自分の体を動かして戦う方が面白いだろう?」
「確かに!」
「あっちじゃ、絶対に出来ないことだ。確かにその点はオレも同意だ。魔法がでるタイプのVRMMOがでてもいいとは思うが、こっちを終わらせてからだな」

 皆がそう言い合っていた。その後は狩りを再開する。

「んで、そのスイッチのコツなんだけどさ?」

 クラインがその方法についてを確認していた。次は複数でのパーティプレイの時の事だ。

「普通のMMOと同じで、回復の間を開ける事とかだな。それにスタン……一時行動不能化してしまった時にも使えるからな。正直、ソロでのプレイは絶対の限界がある」

 キリトはそう説明をしたが、直ぐに表情を強張らせた。『限界がある』と言う言葉を思い返しつつ。

「まっ、例外はあるがな」

 そう言って視線をリュウキの方へと向けていた。

「へ? 例外? 一体なんだそりゃ。」

 どうやら、クラインはキリトが言っている意味が判らない様だ。キリトは答えず、ただただリュウキの方を見ていた。

「…………」

 そのキリトの視線は少し離れたところにいるリュウキ。モンスター、フレンジーボアが何匹か同時に現れたから散開したのだ。初心者のクラインが主に1匹に集中し、その他、複数でくるモンスターはキリトやリュウキが相手をしていた。クラインが1匹を仕留めるのに随分時間がかかっていたが……。気が付いたら、リュウキはもう終わっていた。そして、遅れてキリト。最後にクラインの順番だ。

「あ~……なるほどな。リュウキもお前もβテスターの時に、パーティでやってたのか?」

 クラインは、何かを察した様でそう聞いていた。

「はぁ、オレも結構頑張ってる方なんだけどな。アイツは気づいたら先に先にって感じだったよ」

 キリトは悔しそうにそう言う。追いかけても追いかけても、常に前に行かれている存在。
それが、リュウキだと言っていた。そんな会話をしているとは知らないリュウキは飽きず空を眺めていた。



 そして、時刻は夕方。


 夕日が沈んで行くのがよくわかる。太陽が落ち……夜の闇が生まれる。その光景まさに、現実と変わらない光景だった。

「……何度見ても信じられねーな。ここがゲームの中なんてよ?作ったやつは天才だぜ。マジでこの時代に生まれてよかったわ」

 クラインは、その光景を目に焼き付けつつそう言っていた。現実の世界で何度も見ているそれと全く変らないのだから。

「それはオレも同感だ。久しく感じなかったものがここで手に入った。まだまだ、終わりも見えないし最高だ」

 リュウキもクラインの言葉に同意していた。

「大袈裟だな。お前らは。ナーヴギア用のゲームやるの、これが初めてなのか?」
「ああ、って言うか、これが発売と同時にそろえたって感じだ。」
「同じく……。VRMMOはこれが初だし、今のところ、≪SAO≫これにしか興味は無かった」

 その言葉からどうやら、リュウキもβの時のフルダイブはこれが初のようだ。そして、そのリュウキの言葉を聞いてキリトは呟く。

「………初めてであの実力かよ」

 キリトは、唖然……そして その腕に少し嫉妬していたようだ。この世界では感覚が命だ。だから、この世界のゲーム以上に経験、そしてセンスが問われるものはないだろう。

「ん?何か言ったか?」
「なんでもない。」
「へへ……。キリトも可愛いとこあんじゃねーか」

 クラインは笑っていた。それを訊いて、リュウキは思う。

「……? さっきの時と言い 今と言い……。お前は所謂ホモなのか?」

 リュウキは真面目にそう聞く。先ほども、色々と言っていたからだ。すると、慌てたクラインはリュウキに向き直した。

「アホ言え! オレはノーマルだ! 可愛いお嬢ちゃん! 綺麗なおねーさんが大好きだ!! 男好きだなんて、断じてねぇ!」

 そう必死に叫んで否定していた。ただ 叫ばなくていいことも大声で言っている。

 ……それは是非そうであってもらいたいとキリトは思っていた。

 この記念すべき一日の最初のパーティメンバーが……そんな趣味だったら最悪だと思えるからだ。


「それにしてもよー 我ながら運が良かったと思ってるぜ。たった10,000本しかない初回ロットを手に入れられるなんてよ?ここ3年分の運を使ったって感じだ。だけど、お前らほどじゃないか」

 そう言ってクラインは2人を見た。

「「ん?」」

 キリトとリュウキは2人同時に振り向いた。

「だってよ。βテストに当選だろう?あれは10,000の更に10分の1……1,000本ぼっちだもんな」

 予約が殺到していた為、確立で言えば0.00……1%。限りなく0に近い確立であり、宝くじと似たようなものなのだ。

「……爺やに、ほんと感謝」

 リュウキは、改めてそう強く思った。彼が頼んでくれたからこそ、手に入れる事が出来たんだ。そして、今この世界に打ち込めていられるのも、彼のおかげだから。

「ん?何か言ったか? リュウキ」

 キリトはリュウキが何か言っていた事に気が付きそう聞くが、リュウキは首を振る。

「……なんでもない」

 リュウキは、さっき言っていた事は話さずにそう返していた。

「おっ、そういえばよ。βテストん時は何処まで言ったんだ?」

 クラインは、βテストの時の事が気になった様で、2人の前でそう聞いていた。それがスイッチだと言う事を知らずに……。
 “ビキィィィィン!!!!” と言う音が響いた気がする。……スイッチ、と言うより、何かが切れたような音だ。

「………ん? どうかしたかキリト」

 今度はリュウキがキリトにそう聞いた。ちなみに、音が聞こえた気がしたのは、クラインだけであり、別にリュウキには何も聞こえなかったのだ。

「べっ……別に……」

 キリトは、口にこそ今は出していないが、どうやら、以前のβテストの時の結果を、本気で悔しがっているみたいだ。

「ん、オレはβテストの期間、2ヶ月で16層だな」

 リュウキはクラインの質問を聞き、数ヶ月前のβテスト期間の時のプレイ状況を思い出しつつ答えた。 クラインは、その答えを聞いて。

「へ〜……。結構なペースで攻略できるんだな? 1年ちょい位で 100まで行けるか……? 人数も多くなってるし」

 そう返していた。ここ、アインクラッドは全100層の構成。そのペースなら、単純計算で確かにクラインが言うとおり、約1年弱程で攻略出来るだろう。だが、その計算をキリトが首を左右に振って否定する。

「……そいつは特別だ。リュウキは。……ほんっと異常なんだ。オレがどんだけ頑張っても6層までしか行けなかったのにな。初めっからほんとに…………………くそぅ。」
「………まあ、頑張れ」
「だから、嫌味くせーって!」

 クラインは、子供の様に叫んでいるキリトを見て、軽くいなしてるリュウキを見て。

「かっ! はははっ! ほんっと悔しいんだな? キリトは。ならよぉ、正式サービスの今 リュウキを追い抜いたらいいじゃねえか。それにお前ら……相当にハマってるな?」

 クラインはそう言って笑っていた。

「勿論だ。ここはオレにとって…………。」

 リュウキは何かを言おうとするが、最後まで口にはしなかった。

「ん?オレにとって……なんだ?」

 キリトは気になった様で、聞くが。

「なんでもない。ただ、ハマってると言うのは否定しない」

 リュウキは答えなかった。現実の事が絡んでくるし、気軽に話す様な事でもない。

 ただ、この世界が現実以上の場所。

 今、考えられるのはそこだろう。……無論、他にもあるが、今はあまり考えなかった。

「だよな……。ここでは(コイツ)一本でどこまでも上っていけるんだ。あの期間では寝ても覚めてもSAOの事しか考えていなかったよ……それにな」

 キリトのこの次の言葉、それを聞いてリュウキは驚く。

「仮想空間なのに……現実世界より生きてるって感じがしてるんだ」

 そう、その言葉だった。確かに、仮想世界だから。自分の身体を動かしている様に感じるから。
 人は『所詮はゲームだ』と答える事が多いだろう。 でも、自分と同じ様に感じている人がいて、嬉しくも思えたのだ。

「………。だよね」

 だから、リュウキの、彼の素の言葉が出ていた。それはこの場の誰も……本人さえも気づいていなかったが。



「さて、もう少し狩りを続けるか?」

 キリトはそう聞く。まだログアウトをするには早い、と思ったから。

「まあ、オレは続ける。今日くらいは付いてくよ」

 リュウキはそう答えた。時刻に関しては、彼はまるで問題じゃないのだ。……文字通り、この世界で暮らしていく覚悟だから。

「あったりめーよ!!」

 クラインも同意した。……のだが、直ぐ撤回をする。

「あっ……っと言いたいところだが……。」

 突然“ぎゅるるる〜〜〜〜”と盛大に音が鳴り響いた。どうやら、クラインの腹から音が鳴ったのだ。……この仮想空間で、そこまで再現しているとは恐れいったものだ。

「腹減ったからな……。一度落ちるわ」

 楽しいが、流石に空腹には勝てない。そう言わんばかりだった。

(ん……オレは空腹に勝ってる……のか?)

 リュウキ自身はそう思わずにはいられなかった。確かに、空腹感はあるがそこまででは無かったからだ。

「まあ、ここでのメシは空腹感がまぎれるだけだからな」
「でもまぁ、味がいいのもあるだろう?」
「へ?そんなのもあるのか?」
「ん。あるな。食材の中でもランクがあるし」
「マジか! そりゃ今後が楽しみだ! だが……、今は5時半に熱々のピザを頼んでいるんだ! そっちのを堪能してくるぜ!」
「準備万端だな」

 キリトは本当に感心してるのかどうかは、判らないがそう答えていた。

「まあ、その後にまたログインするさ。それよりもどうだ?オレこの後、仲間と落ち合う予定なんだ。良かったらフレンド登録しないか?」
「え………」
「…………」

 2人とも、クラインの言葉を訊いて、言葉を詰まらせていた。フレンド登録については、難色を示しているのだ。……抵抗があるから。

「いやいや! 無理にとは言わないんだ。それにそのうち紹介することもあるだろうしな?」

 クラインは、そう言って笑っていた。

 リュウキこの目の前の男は本当に良い奴だと感じた。

 少なくとも……数あるネットゲームの中で出会ったプレイヤーの中でも……格段に良い。

(10,000人しかいないからかな……。でも、オレは運がよかったのかもしれない)

 そう思っていた。もしかしたら……爺やが、この2人と自分を引き合わせてくれたのかも……とも思える程だった。

(……ってそんなわけ無いよな)

 リュウキはその考えを一蹴した。幾ら彼でも出来る事と出来ない事がある。そして、この出会いは意図しての事、とは思えないしありえるはずは無いから。

「悪いな……ありがとう」

 キリトは分ってくれた事を感謝していた。

「オレもだ。今までいろんなオンラインゲームをプレイしてきたが……。アンタみたいなプレイヤーは少ない」

 リュウキも同様にそう返していた。その言葉の中には感謝している様にも聞こえてくる。

「おいおいおい。礼を言いたいのはオレの方だって。それにオレみたいなプレイヤーなんてごまんといるさ。俺の仲間はそんな連中だ」

 クラインはそう言って笑うと2人の肩をつかむ。

「……ありがとな?この礼はいつか必ずする。精神的にな?」
「はは……」
「……期待しないでまってる」

 そう言って握手を交わしログアウトしようとした時だ。


 ある異変(・・)に気がついたのだ。








 
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