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久遠の神話

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第四十三話 病院にてその十

「己の身体、そして心を鍛えるものですね」
「そうだよ。活人剣なんだよ」
「だからですか」
「エゴとかで剣を持つものじゃないんだよ」
 中田は言いながら上城とはじめて会った頃に成敗したあの暴力教師の話をした。己の嗜虐の為に生徒を虐待していたあの教師のことを。
「暴力の為でもないんだよ」
「剣は暴力の為にはない」
「そうだよ。己をな」
「鍛える為にあるものですね」
「剣道ってのは喧嘩とは違うんだよ」
 正しい剣道家だからこそ言えることだった。
「だから間違ってもな」
「戦うことも」
「エゴの為にするものじゃないんだよ」 
 わかっている言葉だった。だがわかっていてもそれでどうにかなる場合とならない場合があることもわかっている言葉だった。
「本当はな」
「だから中田さんも」
「どうにかならないかね。本当にね」
 中田は残念そうな軽口を出した。
「この状況はね」
「それは」
「まあ。俺はそういうことでな」
「戦われるんですね」
「そうさ。そしてやるからには本気で戦うからな」
 これは本気でだというのだ。
「やるさ。ただな」
「ただ?」
「俺には容赦する必要はないからな」
 顔も目も笑っているがその目の光は鋭い。その目で上城を見てそのうえで彼に対して告げた言葉だった。
「俺も本気でいくからな」
「だからですか」
「そうだよ。お互いにな」
「全力で、ですね」
「やろうな。俺を倒してもいいぜ」
「中田さんも」
「俺も君を倒す」
 やるからにはだ。本気でそうするつもりだというのだ。
「そのことは言っておくな」
「わかりました。それじゃあ」
「死なない様にするにしても覚悟はしておいてくれよ」 
 中田も流石に上城を殺すつもりはなかった。これは上城も同じだ。しかし剣士の戦いがどういったものかはわかっていた。それ故の言葉だった。
「命のやり取りだからな」
「ですね。それなら」
「死んでも怨まないからな」
 中田は自分のことから話した。
「それは言っておくからな」
「中田さんが死んでも」
「ああ、俺は絶対に君を怨まない」
 上城を殺して自分を怨むなと言った。自分が死んでもそれでも上城を怨むことはしないと言うのだ。
「そのことは約束するさ」
「そうですか」
「じゃあまたな」
 中田は軽い口調に戻って述べた。
「次は戦うかもな」
「はい、その時は」
「全力でやろうな。お互い頑張ろうな」
 中田はいつも通りの気さくな笑みで上城に右手を顔の高さに掲げて応えた。そのうえで彼と樹里に別れを告げて屋上を後にした。  
 後に残った上城は樹里に顔を向けて言った。
「まさかね。中田さんが」
「そうね。戦っている理由は前から気になっていたけれど」
「そうした理由があったんだね」
「ええ、重いものがあったのね」
「そうだね。中田さんは自分の為に戦っていなかった」
「むしろ戦いは嫌いだったのね」
「そのことは前から感じてたよ」
 何となくだが上城も実感として感じていた。 
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