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久遠の神話

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第四十三話 病院にてその九

「とんでもないことになるからな」
「確かに。それは」
「もっと怖い場合だってあるだろ」
「もっと?」
「殺人鬼とか凶悪犯が捕まらないことを願ったらどうなる?」
 中田はこのケースも想定して上城に話した。
「その場合はな」
「殺人鬼が、ですか」
「知ってるか知らないかわからないがな」
 中田はこう前置きして上城に述べた。
「世の中には人を無茶苦茶な理由とやり方で殺して楽しむ奴がいるんだよ」
「それが殺人鬼ですか」
「切り裂きジャックとかな」
 まずはイギリスの歴史に名を残す正体不明の連続殺人鬼だ。
「そういうのが捕まらずにやりたい放題やっていくんだよ」
「剣士として生き残って」
「過去そんな奴がいたかどうかは知らないけれどな」
 中田は過去の剣士達の戦いについては知らなかった。だからこう言ったのd。
「それでも。そうしたいかれた奴が勝ち残ったらな」
「大変なことになりますね」
「ポル=ポトみたいな奴が生き残るとかな」
 カンボジアをキリング=フィールドにした狂気の独裁者だ。共産主義思想に染まっていたがそれは最早狂気そのものだった。
「そうなったら怖いだろ」
「確かに」
「だろ?剣士の戦いってのはな」
「無益なだけでなく」
「危険なんだよ」
 そうしたものだというのだ。
「それも洒落にならないまでにな」
「そうした戦いだからこそ」
「ああ、止めるのはいいことだ」
 戦いのことをわかっている言葉だった。剣士としての戦いを。
「絶対にな」
「だからですか」
「君は俺のことを気にせずに戦えばいい」
「けれどそれだと」
「俺は俺さ」
 屈託のない笑みが戻っての言葉だった。
「家族の為に戦うだけさ」
「中田さんは中田さんですか」
「家族ってのは離せないものなんだよ」
 自分に対する自嘲も笑みに入った。無益なだけでなく危険であることもわかっている戦いにすがるしかない自分自身に対しての。
「どうしてもな」
「だからですか」
「ああ、俺は戦うさ」
 そして生き残るというのだ。
「絶対にな」
「僕達はそうした意味で」
「戦うよな」
「はい」
 そうなるとだ。上城も今は毅然として答える。
「そうさせてもらいます」
「まあな。何とかなればいいんだけれどな」
 中田は今はぼやく様に笑って述べた。
「親父達のことはな」
「若しもですけれど」
 上城はこの前置きから中田に尋ねた。
「若しもご家族が普通に回復したら」
「その時はっていうんだな」
「中田さんはどうされるんですか?」
「そうしたら戦う理由はないからな」
 だからだとだ。中田はこのことはあっさりと答えた。その場合彼はどうするかということを。
「降りるさ」
「そうされますか」
「俺だって戦わないに越したことはないからな」
「本当に戦いはお嫌いなんですね」
「剣道って活人剣だろ」
「はい」
 上城もそう考えている。剣道は本来そうしたものだとだ。 
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