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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode5 旅路、影妖精領4

 
前書き
 クエストボスってのは、いくつになっても心躍る好敵手ですよね。 

 
 更に逃げ続けること数分、とうとう二本目の敵HPバーが消滅した。
 数分逃げるのに泣きそうになったのは内緒だ。

 それはさておき、HPバーの残り一本。その意味するところは、あと一歩……ではない。昔の超有名大作マンガ風に言うなら「ここからが本当の地獄だ」ってやつだ。それを裏付けるべく、一声大きく奇声をあげたナガブツ、その鋭い牙のずらりと並んだ口元から。

 「うおおおおっ!!!?」

 真っ赤に燃え盛る火焔が噴き出してきやがった。

 「っ、これがコイツのエクストラ攻撃かよ!」

 開けた空間でならいくらでも避けようがあるが、この細い通路ではそうはいかない。足を止めないまま羽織った革製コートで抱きしめるように体を覆うが、一気に三割近くHPが削られていく。強烈な炎熱耐性でもないただのコートは、こんなモノに耐えるようにはできていないのだ。

 まじい。マジにまずいぞ。

 「何発もは喰らってられんな、こりゃあ」

 慌ててポーションを取り出し……足が遺跡の残骸を踏み外して派手に転倒した。くそっ、大分このミニサイズ身体にも慣れてきたと思ってたのに! ちなみにこの世界では、どんな踏み外し方をしても捻挫や骨折をすることは無い……が、そんなことは今は何の慰めにもならない。

 「うおおおっ!!?」

 転倒の勢いで手からポーションがすっ飛ぶ。後ろには、迫りくる巨大ナガブツ……うわあ、やべえアレ、なんか口からよだれみたいなの撒き散らしまくってるし。あの外見はこんな神秘的な遺跡とかじゃなくって砂漠とか毒沼とかに居るべきタイプだろアイツ。ぜってえヒトとか家畜とか丸呑みにしてるだろコイツ。

 「……っと、そんなこと言ってる場合じゃねえ!」

 咄嗟に緊急時と判断、鍛え上げたウィンドウ操作速度で取り出すのは、投擲用のマジックアイテム。《投剣》スキルなどビタ一上げていない俺だが、それでも鍛え上げた反応速度は右手を霞むほどの速度で動かして取り出した魔法球を投げつける。

 ―――――――――ギュギャギャァ!!!

 一直線に飛来した水晶は、怪物の顔(その目も鼻も無い巨大なのっぺらぼうを顔と呼ぶのなら、だが)に過たず衝突し、派手な音を立てて弾ける。同時に、割れた球体からは白い霧のような魔力が噴き出して化け物を包み込む。

 マジックアイテム、《フロズン・スフィア》。

 それは、ノ―ム領巨大地下ダンジョンの地底湖でのクエストでの報酬として数個だけ獲得した、投げつけるだけでダメージと束縛の効果をもつ氷雪魔法を発動させるという、物理攻撃特化(ノーキンやろう)の俺の持つ数少ない魔法攻撃手段。

 ―――――――ォォォッッッン!!!

 迷路に怪物の悲鳴が響き、ナガブツのHPバーが一割近く減少する。本来束縛の魔法なのにこれほどのダメージがはいるとは、どうやら弱点らしい。

 (……まだ俺もツキに見放されてはいねえな)

 敵が突進を止めて大きく仰け反り、体に張り付いた氷を壁に擦りつけて落とそうと身を捩らせる。すかさず続けざまに氷球の残りを全部投げつける。ああ、これだけで一財産……。

 だがしかし、所詮はその場凌ぎのゴリ押しアイテム戦闘。それくらいではこの大物クエストボスHPをゲージ一本を削りきるまでには、流石にならない。なんのスキルの支援もなく全弾命中したのは奇跡といっていいほどの偶然だったが、それでも敵の残りHPゲージはまだ三割はある。

 (……しゃーねえ、一か八かっ!)

 起き上って、一気に跳躍。

 さっきまでと同様に、逃げる方向では無い。

 「おおおおおっ!!!」

 真正面から、立ち向かう方向に、だ。

 跳躍のままに全力で振り抜く足は、あの世界での、『体術』スキル連続蹴り技、《ネプチューン・ストーム》。連続の回転蹴りは、右の回し蹴り、続けて左の後ろ回し蹴り、それを二セット連続で繰り出す四連撃。あちらの世界では相当の硬直時間を課せられる大技で、俺の得意とするスピードファイトには向かない為に敬遠していた技だったが、こちらではその心配はない。勿論このALOではかつてのようにシステム的なアシストは得られないが、それでも二年間培った戦闘の勘は、当時の動きを完璧にトレースする。

 一撃、一撃、もう一撃!

 「うおおおおっ!!!」

 絶叫しながら神経回路を振り絞って、最後の一撃が深々と怪物の頭頂部に突き刺さり。

 大きく痙攣したその巨体が、ポリゴン片を残して派手に爆散した。


 ◆


 「はぁ、はぁ……うっし、クエストアイテムゲット…かぁ…」

 荒い息の中、力尽きて倒れそうになるのを必死に堪えてストレージを確認する。新規獲得欄に新しく入っているのは、クエストアイテム、《封印獣の毒牙》。受けているサラマンダー用クエストのフラグアイテムだ。

 「他種族向けクエスト、難易度高すぎだろ常識的に考えて……」

 直後、脱力して、がっくりと膝をついた。
 まったく、今回みたいな目に合うのは、実は初めてではない。

 理由としては恐らく、この『他種族向けクエスト』は「既に領内のクエストをやり尽くした様な、上級者用のクエスト」としてこれらのクエストは設定されているのだろう。今回のクエストだってそのMobの力は俺一人でもなんとか(多少イレギュラーなアイテムの力は借りたものの)なんとか出来なくは無かったが、ここまで来る途中のシュートトラップは明らかに数人しか入れない……つまりは、人数を制限する為のものだった。

 土妖精(ノーム)領、鍛冶妖精(レプラコーン)領でも、他のクエストと比べて全体的にしんどい。そろそろ俺一人で出来るのも、限られるか。あの世界で二年間培った勘で無理なクエストを避けれてはいるが、所詮は勘だ。いつまでもつか。


 (そろそろ誰か、手伝い人でも雇うかね……)

 共に旅するモモカ、ブロッサムにはあまり知られたくない。できれば行きずりパーティーのようにしてそのクエスト限りでの協力を求めたい……などと思い続けて、もう何日経ったことか。どうやら俺はどうのこうの頭で考えても、それを実行しようとはしない人間らしい。

 「……パーティー、ね……」

 一息だけ、大きくため息をつく。
 まあこれも今すぐ結論を出すものでもない、と判断して、頭を切り替える。

 とりあえず今はこうして、俺はまた、新たなクエスト報酬……今回は、古代武具級の鎧を手に入れたのだ。システムの抜け穴を生かしての、誰も知らないクエストアイテムを集めていく。旅の生命線は、きちんと保たれた。

 まあ、重金属鎧なんぞ俺には行商の品目入りにしかならないのだが。

 
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