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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―ジェネックス Ⅴ―

 
前書き
最近、タイトルが適当すぎるかと思う今日この頃。 

 
『お前が持つ鍵を賭けてデュエルを申し込む。翌日校門前、首を洗って待っているが良い
ホワイトサンダー』

 ……といった手紙が俺のラー・イエローの扉の前に置いてあったのは、俺がジェネックスでのデュエルから疲れて帰ってきたからであった。
斎王からこの鍵を預かってからというもの、光の結社からの挑戦者が異様に増加し、そのいずれも例外なく『勝ったらその鍵を返せ』と言って来るのだった。
お前らの教主様から預かってる物だ、と言っても聞く耳も持たず、挙げ句の果てにはジェネックスで敗退している者さえもデュエルを申し込んで来るので、体力が持たずに部屋に逃げ帰ってきたのだった。

 デュエリストとしては逃げることはあまりしたくなかったが、そういうことが考えられないぐらい、いつにも増して光の結社は異様な雰囲気であった。

 斎王から託されたこの鍵は何なのか、そんなことを考えながら部屋に戻ると……まあ、こんなような手紙が置いてあったという訳だ。

 この手紙の主があまり親しくない者ならば無視しても構わなかったが、寄りにもよって万丈目準という友人であり、明日のジェネックスでの対戦相手が決まったようなものだった。

 俺も、万丈目と同じように光の結社に囚われた俺を救ってくれた三沢のように、万丈目を救えるだろうか。
いや、救わねばならない……万丈目が光の結社に入る時に、その時は何も知らなかったとはいえ、助けられる可能性があったのは俺なのだから。

 とりあえず俺は隣の三沢の部屋を訪ねると、三沢ももう今日のところは休憩に入ったらしく、「入って良い」との旨の言葉が部屋から響いてきた。

「おじゃまします……って、またこれか」

 三沢の部屋は相変わらず数式で覆われた異界と化していたが、この数式の一つ一つが光の結社から俺を救うために書かれたものだということをレイから教えられているので、今回のこの数式については俺はあまり強く言えなかった。

「どうした遊矢、メダルを賭けてのデュエルなら受けないぞ?」

「そんなのこっちからお断りだ……こんな手紙が来ててな」

 三沢や亮とはこんな時期に戦う気などさらさら無く、デュエルするならば終盤か決勝だと決めている。
ホワイトサンダーからの手紙を三沢に見せると、鍵のことは既に説明しているため、三沢は大体の事情を悟ってくれたようだった。

「なるほど……遂に万丈目直々のお出ましか。デッキの調整なら手伝おう」

「確かにデッキの調整には変わりがないんだが……今回頼みたいことは、『デッキの構築』だな」

 そして俺が考えている事には、俺と三沢の二人ではまだ人手が足りない。
怪訝な顔をしている三沢を前にして、俺はポケットにあるPDAを取り出すと、未だデュエルのために走り回っているだろう友人――十代へと電話を掛けた。


「良く逃げずに来たな遊矢、そこは褒めてやろう!」

 そして翌日になった校門前、久々に会話をした友人は、洗脳まがいのことをされているとは思えぬいつも通りさで俺を待ち構えていた。

 万丈目の背後には大量の取り巻き兼光の結社の構成員が控え、周りにはデッキ調整を手伝ってくれた三沢を始め、どこからかデュエルの噂を聞きつけた者がたむろしていた。

 そして俺はその群集の中に、あまりこういうところに来るのは予想外な人物を見かけた。

「……エド、お前まで来たのか」

「ふん、お前が負けたら次は僕だそうだ。万丈目だか何だか知らないが、身の程知らずが」

「ええい、俺様を無視するな遊矢にエド!」

 そう言ったエドの首には、俺と同じように斎王から預けられた鍵がかけられていた。
斎王は俺の他にはエドに渡していたようで、万丈目は一気に二人の鍵を奪う算段なのだろう。

「悪い遊矢、寝坊しちまった!」

 大声をあげながら坂を駆け上がってくる十代の手には、黒い服……ノース校の制服が握られていた。
自分が以前着ていた服だからか黒い服だからかは知らないが、万丈目はノース校の制服を見て露骨に顔をしかめた。

「……なんだそれは」

「お前の制服だよ、万丈目」

 十代が寝坊したせいで少しデュエルする予定が遅れたが、問題なくデュエルディスクを展開する。
万丈目も同じようにデュエルディスクを展開するや否や、急にポーズを取った。

「違うぞ遊矢! 俺は光の洗礼によって生まれ変わった、万丈目!」

『ホワイトサンダー!』

 ……まさかとは思うが、後ろの取り巻きはこれを言うためだけに連れて来たのだろうか。
そんなことを思っただけでとりあえずスルーし、俺たちはデュエルを開始した。

『デュエル!』

遊矢LP4000
万丈目LP4000

「俺様の先攻! ドロー!」

 デュエルディスクが示した先攻は万丈目……これはデッキを見極めるチャンスとなる。
明日香とデュエルした時は【アームド・ドラゴン+おジャマ】だったが、光の結社になっている今、どんなデッキでもあり得るのだ。

「俺は《X-ヘッド・キャノン》を召喚する!」

X-ヘッド・キャノン
ATK1800
DEF1500

「……【VWXYZ】!?」

 俺が直接デュエルした経験もないため、予測から外していたデッキ【VWXYZ】のメインアタッカーがお目見えする。

「貴様など、斎王様から賜りしデッキを使うまでも無いのだ! カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「……何はともあれ、楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 《X-ヘッド・キャノン》は、光属性かつアタッカーとして及第点のステータスもあるため、【VWXYZ】以外のデッキかとも思ったが……今の万丈目の発言からするとそれもなさそうだ。

 何も知らないデッキを相手にするより遥かにマシであるし、これは万丈目が自力で光の結社から抜けだそうとしている証拠なのかも知れないと考えておく。

 ――問題は、俺自身のデッキなのだから。

「俺は……《魂虎》を守備表示で召喚!」

魂虎
ATK0
DEF2100

『【機械戦士】じゃない!?』

 俺とて授業の際には他のデッキぐらい使うのだが……対戦相手の万丈目のみならず、デュエルを見学している群集全体に驚かれるとは、【機械戦士】使いとしては喜ばしい限りなのだろうが、今はそんな場合ではない。

「貴様……【機械戦士】を使わないとは、この俺様をナメているのか!」

 万丈目は元々感情を隠すタイプではないものの、俺が【機械戦士】を使わない――すなわち、本気を出さない――ことに真剣に怒りを見せていた。
もちろん俺にも万丈目のその気持ちも痛いほど解るし、本気のデュエルならば【機械戦士】を使いたい。

 だがしかし。

「違うな。このデッキは、お前を光の結社から助け出す為だけに作ったデッキ……このデュエルに、こいつ程相応しいデッキはない!」

 このデッキは万丈目がノース校で使用したらしいデッキと、実の兄とのデュエルで使用した、井戸に捨てられていたカードたちがほとんどで構成されている。
つまり万丈目がホワイト寮に移って、レッド寮に残されていたカードたちであり、十代にイエロー寮まで持ってきてもらった物だ。


「俺もカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「戯れ言を……! 俺のターン、ドロー!」

 万丈目からすればこれは怒り浸透であることも解るが、俺に出来る手段は現状これしか無いのも事実だった。

「俺は《Z-メタル・キャタピラー》を召喚!」

Z-メタル・キャタピラー
ATK1500
DEF1300

 黄色のボディをした一つ目の戦車が召喚され、X-ヘッド・キャノンのボディの下部に磁力に引き寄せられて合体した。
合体といっても融合召喚ではなく、ただユニオンの効果を発動しただけのようだが。

「《X-ヘッド・キャノン》に《Z-メタル・キャタピラー》を装備することで、攻撃力・守備力が600ポイントアップ! バトルだ、その機械戦士にも劣る雑魚モンスターを破壊しろ!」

 ユニオンの効果による合体したことにより、攻撃力が上級の及第点に達したX-ヘッド・キャノンに、いくら魂虎でも耐えられずに四散してしまう。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 このデッキの基となっている万丈目が使用した二つのデッキは、攻撃力が低いカードがデッキの大半を占めている。
デッキ構築をする際に三沢にも手伝ってもらい、俺のカードも入れて打点を補強したものの……やはり、攻めに転じることは出来なさそうだ。

「俺は《王立魔法図書館》を守備表示で召喚する」

王立魔法図書館
ATK0
DEF2000

 俺の前に魔法使いたちが利用する図書館が壁のように設置され、もう一枚のカードをディスクに差すと、ペラペラと図書館の本がめくれ始めた。

「さらに俺は《折れ竹光》を王立魔法図書館に装備し、カウンターを一個乗せる」

 めくれた本からは、今装備した魔法カード《折れ竹光》が現れ、それで王立魔法図書館に装備されたこととなったらしい。
もちろんこの《折れ竹光》のままでは何の意味も無いが、当然専用サポートカードは用意してある。

「通常魔法《黄金色の竹光》を発動! 自分のフィールドに竹光と名前のついた装備魔法がある時、二枚ドロー出来る! それを二枚発動し、王立魔法図書館に二個のカウンターを乗せる!」

「チィ……!」

 安価なカードである《竹光》によるコンボにより、なんと四枚のドローをしたことが気に入らないのか、万丈目は苛立った表情を隠さなかった。

「更に王立魔法図書館の効果! カウンターを三つ取り除き、更に一枚ドロー! ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン! ドロー!」

 《竹光》と《王立魔法図書館》の組み合わせにより合計五枚のカードをドローし、何とか手札の調子も良くなってきた。
万丈目が何もしてくれなければ、次のターンに攻め込めるものだが……そんなわけにはいかないだろう。

「俺は《Y―ドラゴン・ヘッド》を召喚! そして、《Z-メタル・キャタピラー》のユニオンを解除する!」

Y―ドラゴン・ヘッド
ATK1500
DEF1600

 X-ヘッド・キャノン、Y―ドラゴン・ヘッド、Z-メタル・キャタピラー。
三種のユニオンモンスターの代表とも言えるモンスターがフィールドに並び、わざわざ合体を解除したということは……やはり来るか。

「行くぞ! フィールドの三体のモンスターを合体させ、《XYZ-ドラゴン・キャノン》を融合召喚する!」

XYZ-ドラゴン・キャノン
ATK2800
DEF2600

 三体のモンスターがユニオンで装備された時のように引き寄せあい、そのまま合体して別のモンスターへと昇華した姿となる。
【VWXYZ】の最強モンスターには一歩及ばないものの、もう準最強モンスターと言っても良いモンスターだ……!

「XYZ-ドラゴン・キャノンの効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手のカードを破壊する! リバースカードを破壊せよ、ハイパー・デストラクション!」

 一番上部に合体しているX-ヘッド・キャノンの大砲が発射され、俺のリバースカードであった《攻撃の無力化》が破壊された。

「バトルだ! XYZ-ドラゴン・キャノンで、王立魔法図書館に攻撃! X・Y・Z ハイパー・ディストラクション!」

 効果破壊の時に使った技と何がどう違うのかは全く解らないが、技名が違う同じ大砲により、王立魔法図書館は破壊されてしまう。

「これで俺様はターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見ると、ようやく手札にコンボパーツが揃えることが出来るカード……すなわち、攻めに転じることが出来るカードが来てくれた。

「俺は《増援》を発動し《首領・ザルーグ》を手札に加え、そのまま召喚する!」

首領・ザルーグ
ATK1400
DEF1300

『合点だダンナぁ!』

 カードの精霊らしく雄々しく雄叫びを上げ、自慢の銃を抜きながらかつての万丈目の敵、首領・ザルーグが召喚された。
もちろん彼がいるのだから、他の団員たちも既にこの場に集まっている。

「行くぞみんな! 魔法カード《黒蠍団召集》を発動! 首領・ザルーグがフィールドにいる時、黒蠍盗掘団員をフィールドに特殊召喚出来る!」

 俺の手札には五体の黒蠍盗掘団員全員が集まっているため、フィールドに黒蠍団が集合してあの良く解らないポーズを取り始めた。

『我ら、黒蠍盗掘団!』

 彼らはもちろん元・セブンスターズの黒蠍盗掘団であり、何でも万丈目を救うために、十代にデッキに入れてくれるよう頼み込んで来たらしい。
俺が多用する戦士族でもあるために他のカードよりは扱いやすく、彼らの出番と相成った訳である。

「そんな俺に敗れた雑魚共に、何が出来るというのだ!」

「こいつらの強さは良く覚えてる筈だ! 罠カード、《必殺! 黒蠍コンビネーション!」

 このターン相手へと与える戦闘ダメージが一律400になる代わりに、俺のフィールドにいる黒蠍盗掘団たちはダイレクトアタックが出来るという、まさに黒蠍盗掘団の必殺のカード。
セブンスターズだった彼らのデッキは、この黒蠍コンビネーションを相手に与えることに特化したデッキだった。

「バトル! 黒蠍盗掘団たちで、万丈目にダイレクトアタック!」

『必殺! 黒蠍コンビネーション!』

「そいつは……! リバースカード、《ピンポイント・ガード》を発動! 墓地から《Y-ドラゴン・ヘッド》を特殊召喚する!」

 ダイレクトアタックを受けた時に、破壊耐性を付加して特殊召喚する《ピンポイント・ガード》であろうとも、黒蠍コンビネーションの前では壁にすらなりはしない。
まあ発動しなければ、《黒蠍-罠はずしのクリフ》の効果で破壊されただけだったが。

そしていつかのデュエルの時のように、黒蠍盗掘団たちの得意とする武器が万丈目に一斉に叩き込まれた。

万丈目LP4000→2000

「ダメージを与えたため、黒蠍盗掘団たちの効果を発動! お前は手札を一枚捨て、XYZ-ドラゴン・キャノンをデッキの一番上に戻し、X-ヘッド・キャノンを手札に戻し、デッキの上から二枚墓地に送り、俺は《必殺! 黒蠍コンビネーション》を手札に加える!」

「チィィ……!」

 見ている時は気が気でなかったが、やってみるとなかなかどうして爽快な黒蠍コンビネーションが完璧に決まる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「調子に乗るなよ! 俺のターン! ドロー!」

 フィールドを制圧していた頼みのXYZ-ドラゴン・キャノンもデッキに戻され、色々とボロボロになった万丈目だが、この戦術は一度乗り切っていること。
あの負けず嫌いが、一度制した戦術に負ける訳がない……!

「俺は永続魔法《前線基地》を発動し、《Y―ドラゴン・ヘッド》を特殊召喚する!」

 ユニオンモンスターを一度だけ特殊召喚することが出来る永続魔法《前線基地》により、先のターンで《ピンポイント・ガード》で特殊召喚した赤い竜が特殊召喚される。

「更にチューナーモンスター《ヴァイロン・プリズム》を特殊召喚する!」

ヴァイロン・プリズム
ATK1500
DEF1500

 明日香とのデュエルの際にも召喚されたチューナーモンスター、《ヴァイロン・プリズム》の登場に、俺はついつい身構える。
やはり来るか、光の結社の象徴であるらしい光の竜。

「レベル4の《Y―ドラゴン・ヘッド》に、レベル4の《ヴァイロン・プリズム》をチューニング!」

 ヴァイロン・プリズムが弾けて四つの光の玉になると、Y―ドラゴン・ヘッドを包み込んだ後、通常のシンクロ召喚の時より一際大きい光を放った。

「世界を飲み込む眩き光、闇の中から輝きを放て! シンクロ召喚! 光の化身、ライトエンド・ドラゴン!」

ライトエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2100

 吹雪さんの使っていた《ダークエンド・ドラゴン》の対となっている光の竜、ライトエンド・ドラゴンが遂にシンクロ召喚された。
このモンスターが万丈目を光の結社に縛り付けているのならば、このモンスターを破壊しなければならないのか……!

「ヴァイロン・プリズムが墓地に送られた時、500ライフを払うことでモンスターの装備魔法とすることが出来る! ヴァイロン・プリズムをライトエンド・ドラゴンに装備!」

万丈目LP2000→1500

 明日香とのデュエルの際、確か万丈目のライフはギリギリで使われなかったため、俺はヴァイロン・プリズムの装備魔法になるという効果は知らない。

「バトル! ライトエンド・ドラゴンで、首領・ザルーグに攻撃! シャイニングサプリメイション!」

 黒蠍盗掘団のボスを狙った光の一撃は、首領・ザルーグを軽々と吹き飛ばすことが出来る威力を秘めていたが、それだけではすまなかった。

「更にヴァイロン・プリズムの効果発動! 装備モンスターの攻撃力を、1000ポイントアップさせる!」

「くっ……!」

『うおおおおお!』

遊矢LP4000→1800

 首領・ザルーグの破壊されたことを示す悲痛な叫びを聞き流し、万丈目は優雅にバトルフェイズを終了した。

「俺のターン、ドロー!」

 ライトエンド・ドラゴンとヴァイロン・プリズムの予期せぬ威力の一撃により、予想外のダメージを受けた上に、黒蠍盗掘団のサポートカードの発動条件となっている首領・ザルーグも破壊されてしまった。

「だが! 《戦士の生還》を発動して首領・ザルーグを手札に戻し、召喚する!」

 俺のリバースカードは当然ながら、前の俺のターンで《黒蠍-茨のミーネ》の効果により手札に加えた、《必殺! 黒蠍コンビネーション》である……が。
万丈目のライフは、もう一撃黒蠍コンビネーションを喰らえば0になるというのに、リバースカードも無いのに万丈目は余裕そうな表情を浮かべている。

 万丈目の手札には、十中八九俺がトレードしたカードである《速攻のかかし》が握られていることだろう。
それを、このターンで倒せないということを嘆くか、俺がトレードしたカードを入れてるのならば、万丈目の洗脳は解けかかっていると喜ぶべきか。

「リバースカード、《必殺! 黒蠍コンビネーション》を発動し、バトル! 首領・ザルーグでダイレクトアタック!」

「俺は手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する!」

 予想通りに手札から飛びだしてきて、黒蠍盗掘団たちの攻撃を万丈目の代わりにその身で受ける速攻のかかしの姿は、いつもは俺が使っている立場のためにいささか妙な感じだった。

「……再びカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! ……ククク、その目障りな連中もこれで見納めだ! 速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動!」

 万丈目がドローしてそのまま手札から発動したカードは、身代わりの羊トークンを四体出現させる速攻魔法《スケープ・ゴート》。
かの《クリボー》の得意技《機雷化》があるわけでも無いのに、羊トークンを大量展開して黒蠍盗掘団を倒す……?

「そして、装備魔法《ヘル・ガントレット》をライトエンド・ドラゴンに装備する!」

「なるほどな……!」

 《ヘル・ガントレット》なる装備魔法は俺のデッキに入れていたカードでもあったので、幸運にもカードの効果は知っていた。
まあ、カードの効果を知っていようがいまいが、これから起こることは何ら変わらないのだが……

「バトル! ライトエンド・ドラゴンで、首領・ザルーグに攻撃! シャイニングサプリメイション!」

「させない! リバースカード、オープン! 《スピリット・バリア》!」

 させないとは言ったものの、俺とこのリバースカードに出来ることはモンスターが居続ける限り戦闘ダメージを防ぐことであり、首領・ザルーグ……ひいては黒蠍盗掘団を守ることは出来ない。

「フン、小賢しい。ヘル・ガントレットの効果発動! モンスターを一体リリースする度に、攻撃回数を増やす! 羊トークンを四体リリースし、薄汚い盗掘団を全滅させろ! シャイニングサプリメイション!」

 ヘル・ガントレットの効果を使用すると、ダイレクトアタックが出来なくなるというデメリットはあるものの、今この状況では何の関係もない。
黒蠍盗掘団を全滅させたライトエンド・ドラゴンの光に、《スピリット・バリア》が無かったらどうなっていたかと、少しゾッとしてしまう。

「フハハハハ! 全滅だ! このままターンエンド!」

「……ありがとう、黒蠍盗掘団……俺のターン、ドロー!」

 団員全員とそのサポートカードも墓地に送られた今、黒蠍盗掘団たちの再利用は難しい……短い間だけだけれど、一緒に戦ってくれた精霊たちにお礼を言った後にカードをドローした。

「《発掘作業》を発動! 手札を一枚捨て、一枚ドロー! ……そして、捨てたカードは《おジャマジック》!」

 十代が海辺で拾ったらしいおジャマ三兄弟も、自分から万丈目とデュエルをさせてくれと言ってきた黒蠍盗掘団に比べると意欲には欠けていたものの、万丈目を救うために共にデュエルをすることを了承してくれた。
今発動したサポートカードは、墓地に送られた時におジャマ三兄弟をデッキから手札に加えるサポートカードだ。

「おジャマだと!? ……ええい、どこまでもふざけたデッキだ……!」

「何度でも言うが、これはお前とのデュエルに相応しいデッキだ! 通常魔法《デスペラード・マネージャー》を発動! カードを二枚ドローし、手札のカードを三枚デッキの上に戻す」

 ノーコストで二枚ドロー出来ることはともかく、デッキの上が三枚もロックされるというのはかなりのデメリット。
だが、メリットに転換出来ることも出来るメリットだった。

「手札から《魔の試着部屋》を発動! 800ポイントライフを払い、デッキの上から四枚捲って、レベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する! 俺のデッキにあるのは、当然こいつらだ! 来い、おジャマ三兄弟!」

『おー! 遊矢のダンナー!』

 黄色・黒・緑色、三色の何とも言えないモンスター達が、俺のフィールドに守備表示で特殊召喚される。

「さらに、通常魔法《おジャマ・デルタ・ハリケーン》を発動! おジャマ三兄弟がフィールドにいる時、相手のカードを全て破壊する!」

 魔法カードに反応して何やら三体で回り始めたおジャマ三兄弟が、そのまま高速回転をした後にドーナツ状になった中央の穴から何でだか解らないがビームが出て来て、万丈目のライトエンド・ドラゴンと永続魔法《前線基地》を破壊した。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「それだけか! 俺のターン、ドロー!」

 これで使用しているのが万丈目であれば、おジャマ三兄弟をどうにかしてダイレクトアタックまでこぎつけ、相手に勝利するのだろうが……俺はそうは上手くいかない。

 騙し騙し使ってはいるが、このカードたちは元々万丈目のカードな上、半分程度デッキとしての体を成していないのだから。

「俺は魔法カード《埋葬呪文の宝札》を発動! 墓地の魔法カードを三枚除外し、二枚ドローする! ……よし、《死者蘇生》を発動! 蘇れ、《ライトエンド・ドラゴン》!」

 万能蘇生カードにより再び顕現するライトエンド・ドラゴンを前にして、おジャマ三兄弟は全員フィールドのギリギリまで下がり、盾にするようにおジャマ・イエローだけを前に出した。

「バトル! おジャマ・ブラックにライトエンド・ドラゴンで攻撃! シャイニングサプリメイション!」

『うわああああ~!』

 そんな努力も虚しく万丈目は色が黒いからかおジャマ・ブラックを狙い、ライトエンド・ドラゴンもピンポイントにおジャマ・ブラックへと光を放った。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー! 《マジック・プランター》を発動し、スピリット・バリアを破壊して二枚ドロー……くっ」

 何度か言った通り、これは万丈目を救うために作られた万丈目のカードのデッキ。
今ドローしたこのカードは、そのことを思うと使いたくはないが……このままでは、ライトエンド・ドラゴンに勝てそうにないのも事実だった。

「……俺は、《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 だが万丈目を救うという思いだけでは勝てない……デッキ構築の際にそれを思った俺は、仕方なく《機械戦士》を投入していた。
その中の一枚であるチューナーモンスター、ロード・シンクロンが始動する。

「待っていたぞ機械戦士! クズカードの相手ばかりで退屈していたところだ!」

「……レベル2のおジャマ・イエローとおジャマ・グリーンに、レベル4のロード・シンクロンをチューニング!」

 そのクズカードにフィールドを全滅させられたのは誰だとか、機械戦士はクズカードじゃなかったのか、などと色々と言いたかったことはあったものの、俺は何も言わずにシンクロ召喚に移行した。

 万丈目を救うためにデッキ構築をしたにも関わらず、機械戦士を使わないと勝てないという、俺の一つのデッキしか使って来なかった故の無力のせいか。

「集いし希望が新たな地平へいざなう。光さす道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 シンクロ召喚の口上だけでもせめて華々しくいつも通りに、金色の機械戦士の皇をシンクロ召喚をした。
おジャマ二種がシンクロ素材になっているとは欠片も思えぬ、雄々しい姿でロード・ウォリアーは立っていた。

「そしてリバースカード、オープン! 《ブレイクスルー・スキル》! ライトエンド・ドラゴンの効果を無効にする!」

 ライトエンド・ドラゴンの効果――戦闘時に自身の攻撃力を500下げて相手の攻撃力を1500下げる効果――がある以上、このまま攻撃しては返り討ちにあってしまうだけだ。
だが効果を無効にされては何の意味もなく、ロード・ウォリアーはライトエンド・ドラゴンへと駆け抜けた。

「バトル! ロード・ウォリアーで、ライトエンド・ドラゴンに攻撃! ライトニング・クロー!」

 おジャマ・デルタ・ハリケーンで一度破壊されてしまった今、ライトエンド・ドラゴンには《ヴァイロン・プリズム》が装備されてはおらず、あっさりとロード・ウォリアーに破壊された。

「斎王様から賜りしモンスターを二度も……許さんぞ!」

万丈目LP1500→1100

「メインフェイズ2、ロード・ウォリアーの効果発動! デッキからレベル2以下の戦士族を特殊召喚する! 守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 ロード・ウォリアーの剣から放たれた光の道に、デッキからマイフェイバリットカードがフィールドに駆けつける。
このマイフェイバリットカードは、どうしてもデッキから抜くことが出来なかったカードだった。

「カードを二枚伏せてターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー! 前のターンで《埋葬呪文の宝札》によって除外した、《異次元からの宝札》の効果を発動! このカードは手札に戻り、お互いに二枚ドローする!」

 魔法カードの除外をコストとする《埋葬呪文の宝札》とのコンボにより、除外ゾーンの《異次元からの宝札》が手札に戻って二枚ドローされる。
俺にもドローさせるというのはデメリットであるが、手札に戻るために《VWXYZ》の手札コストにした後に再利用出来ると考えれば、万丈目にとってはメリットなのかもしれない。

「これで貴様も終わりだ! リバースカード、《異次元からの帰還》! ライフを半分にし、除外ゾーンから可能な限りモンスターを特殊召喚する!」

万丈目LP1100→550

 《異次元からの宝札》に加えて再び発動される除外関係のカードは、除外ゾーンからモンスターを可能な限り召喚出来るという、除外関係の切り札《異次元からの帰還》。
万丈目に除外ゾーンにあるカードは、《埋葬呪文の宝札》でコストとした魔法カードと、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果で除外した三体のユニオンモンスター。

 つまり万丈目のフィールドに並ぶのは、XYZ-ドラゴン・キャノンの融合素材……!

「再合体! 《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 《黒蠍-強力のゴーグ》のダイレクトアタック時の効果により、エクストラデッキのトップに戻したカードだったが、再合体した後に銃口をこちらに向ける。

「XYZ-ドラゴン・キャノンの効果発動! 手札を一枚捨て、貴様のリバースカードを破壊する! ハイパー・ディストラクション!」

「チェーンして《和睦の使者》を発動する!」

 XYZ-ドラゴン・キャノンから放たれた砲撃がリバースカードを撃ち抜こうとするが、なんとか破壊される前に発動し、無事に《和睦の使者》の効果は発動される。

「……くっ、相変わらずしぶとい奴だ……! だが、俺は《V-タイガー・ジェット》を召喚!」

V-タイガー・ジェット
ATK1600
DEF1800

 XYZとはまた違う、後に新たに登場したモンスターだった《V-タイガー・ジェット》。
単体ではただの通常モンスターであり、和睦の使者が適用されている今ではアタッカーとしての活躍も望めない。

 ならば万丈目が狙っているのは、XYZ-ドラゴン・キャノンの更なる進化。

「伏せてあった《ゲットライド!》を発動し、V-タイガー・ジェットに墓地から《W-ウイング・カタパルト》を装備する!」

 恐らくは《黒蠍-罠はずしのクリフ》の効果により、デッキから墓地に直接送られていたのだろう《W-ウィング・カタパルト》が姿を現し、V-タイガー・ジェットと合体を始める……ただのユニオンではなく、合体をだ。

「W-ウィング・カタパルトとV-タイガー・ジェットを合体させ、《VW-タイガー・カタパルト》を融合召喚!」

VW-タイガー・カタパルト
ATK2000
DEF2100

 また新たな合体モンスターが融合召喚されるが、そのステータス自体はあまり脅威ではなく、俺が恐れているのはXYZ-ドラゴン・キャノンと並んだことにあった。

「フハハハハ、行くぞ遊矢! XYZ-ドラゴン・キャノンとVW-タイガー・カタパルトを合体させ、このデッキの最強モンスター! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を融合召喚する!」

VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン
ATK3000
DEF2800

 万丈目のデッキ【VWXYZ】の最強モンスターにして最終形態なだけはあり、《和睦の使者》が守ってくれていると解っていても、自然と冷や汗が身体から垂れてしまう。

「忌々しい《和睦の使者》が無ければ決まっていたが……! まあ良い、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンの効果を発動! ロード・ウォリアーを除外する! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

 《和睦の使者》があろうとモンスターを除外させる効果までは防ぎきれず、ロード・ウォリアーは呆気なく異次元へと吸い込まれていってしまう。

「これで俺様はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! 伏せてあった《補充要員》を発動し、墓地のおジャマ三兄弟を手札に加える!」

 俺のデッキには五体以上のモンスター――具体的に言うならば黒蠍盗掘団―がおり、攻撃力1500以下のおジャマ三兄弟を、そっくりそのまま手札に加えられた。

『遊矢のダンナ~……あんなデカい奴に勝てっこな』

「俺は《手札抹殺》を発動し、お互いに手札を全て捨ててその分ドロー!」

 今おジャマ三兄弟が何か言おうとしていて、そこを俺が万丈目のようなおジャマ三兄弟の使い方をした気がするが、俺にそんなことを気にしている余裕はない。

「……よし、魔法カード《スターレベル・シャッフル》を発動! レベル2のマイフェイバリットカードをリリースし、同レベルのモンスターを特殊召喚する! 蘇れ、《おジャマ・イエロー》!」

『お、おいら~!?』

 我がマイフェイバリットカードと交換して特殊召喚されたカードは、話に聞いたところによると万丈目が最も古くから付き合ってきた精霊、おジャマ・イエロー。
きっとこのモンスターならば、万丈目の目を覚まさせることが出来るかも知れない。

『遊矢のダンナ~、おいらじゃ無理だよ~』

 ……何だか期待外れだったような気もするが、このモンスターがVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンを打ち破るのは、当初の予定通り間違っていない。

「おジャマ・イエローに装備魔法《下克上の首飾り》を装備し、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンに攻撃!」

 装備魔法《下克上の首飾り》の効果は、戦闘するモンスターとのレベル差×500ポイントという、低レベルモンスターならばかなりの上昇値を期待出来るもの。
《機械戦士》に通常モンスターは、よくて《チューン・ウォリアー》ぐらいのため使う機会は無いが、おジャマ・イエローは首飾りに導かれるようにVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンに向かっていった。

『下克上・おジャマ・キーック!』

「チッ……迎撃しろ、VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

 VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンのレベルは8であり、おジャマ・イエローのレベルは2であるので、《下克上の首飾り》の効果により攻撃力は同格となる。

 だがそこを、盾持ちの機械戦士がおジャマ・イエローを守った。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、おジャマ・イエローの破壊を無効にする! そして突き破れ、おジャマ・イエロー!」

 VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンの攻撃をシールド・ウォリアーが防ぎ、おジャマ・イエローの俗に言うライダーキックがボディを貫通し、最強のVWXYZは見事に爆散した。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 俺が光の結社に洗脳された時は、マイフェイバリットカードたるスピード・ウォリアーの一撃で、俺は目覚めることになったらしい。
ならば、万丈目もこの一撃で光の結社から目覚めてはくれないだろうか……?

「クズカードの分際でぇ……! 俺のターン、ドロー!」

 結果は目を覚ますどころか逆の結果になったのか、ただでさえ万丈目の怒りという名の炎に油を注いでしまったようだ。
……いや、むしろ元の万丈目に戻ってきている証拠……なのか?

「まずは速攻魔法《サイクロン》を発動! 《下克上の首飾り》を破壊する!」

 戦闘する際に効果を発揮する装備魔法《下克上の首飾り》を破壊するということは、万丈目が狙っているのは、高レベルのモンスターの特殊召喚……!

「装備魔法《次元破壊砲-S・T・U》を発動! 墓地から効果を無効にして貫通効果を付与し、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を特殊召喚し、このカードを装備する!」

 言わずと知れた蘇生出来る装備魔法《早すぎた埋葬》が、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン専用蘇生カードとなった魔法カードにより、再びVWXYZの最強モンスターが復活を遂げる。

「終わりだ、バトル! VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンで、おジャマ・イエローに攻撃! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「……万丈目。お前がホワイトサンダーである限り、お前はこのデッキにすら勝てない! 《ジャスティブレイク》を発動!」

 通常モンスターが攻撃対象に選択された時、フィールドにいる通常モンスター以外を全滅させる罠の雷――それがおジャマ・イエローから降り注ぎ、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンをまたも破壊した。

「……俺がホワイトサンダーである限り勝てない、だと……!?」

「ああ。その証拠がこのフィールドだ」

 正直に言うと、ついつい口から出てしまった出任せだったので、俺にももう余裕も何もないのだが、万丈目が反応してくれたのでこのまま行くとしよう。

「思い出せよ万丈目! ホワイトサンダーなんて言ってるお前じゃなく、真に強い万丈目サンダーを!」

 先程の言葉は口からの出任せだったが、この言葉は心からの言葉だった。
万丈目のこれまでのことを考えると生半可なことではなく、俺にそんなことは、一つたりとも出来そうに無いことだ。

 中等部トップ・ノース校チャンプ・攻撃力0デッキで勝利……様々なことを自信満々にやってのける万丈目サンダーに、俺は心の底では憧れていたのかも知れない。

「……ならばその言葉、このホワイトサンダーの象徴を倒すことで証明して見せろ! 魔法カード《シャイニング・リバース》を発動! 墓地のシンクロモンスターをシンクロ召喚する!」

 万丈目の墓地から眩い光が瞬くと、シンクロ召喚時に現れる光の輪と光の玉が次々と現れ、シンクロ素材もいないのにシンクロ召喚の準備が完了する。

「世界を飲み込む眩き光、闇の中から輝きを放て! シンクロ召喚! 光の化身、ライトエンド・ドラゴン!」

 墓地からシンクロ召喚されるライトエンド・ドラゴン……この光輝く竜を倒せば、あの万丈目サンダーが戻ってくるというのならば。

「ターンエンドだ」

「俺のターン……ドロー!」

 ……戻ってくるというのならば、絶対にあのライトエンド・ドラゴンを倒すことにしよう。

「俺は《馬の骨の対価》を発動! おジャマ・イエローをリリースして二枚ドロー! ……更に、《おジャマンダラ》を発動! 1000ライフを払い、再び蘇れ! おジャマ三兄弟!」

遊矢LP1800→800

 このデッキに入っているモンスターたちで万丈目を救うに相応しいのは、やはりこいつら――おジャマ三兄弟なのだろう。
俺の今の手札は、それを証明するような手札であった。

「更に《融合》を発動! おジャマ三兄弟を融合し、《おジャマ・キング》を融合召喚する!」

『おジャマ究極合体!』

おジャマ・キング
ATK0
DEF3000

 この期に及んでおジャマ三兄弟たちも泣き言は言わず、万丈目を救うという一心にておジャマ究極合体を行った。

「装備魔法《シールド・アタック》をおジャマ・キングに装備し、攻撃力と守備力を入れ替える!」

 よっておジャマ・キングの攻撃力は3000となり、ライトエンド・ドラゴンの2600の攻撃力を僅かに400だが超える。

「更に墓地から《ブレイクスルー・スキル》の効果を発動! ライトエンド・ドラゴンの効果を無効にする!」

 墓地からも発動出来るという優秀な罠カードである、《ブレイクスルー・スキル》が再びライトエンド・ドラゴンを束縛し、これで攻撃の準備が完了した。

「そうか……」

「行くぞ万丈目、バトルだ! おジャマ・キングで、ライトエンド・ドラゴンに攻撃! フライング・ボディアタック!」

 攻撃力を3000に上昇させたおジャマ・キングがライトエンド・ドラゴンを押しつぶすのを、万丈目はどこか静かな表情で眺めていた。

万丈目LP550→150

「……何だこの趣味の悪い白い制服は!? 明日香くんのためとはいえ、何故俺はこんな服を着ているのだ!」

「……万丈目?」

 どうやら様子がおかしい……ということはなく、洗脳された状態とそうでない時の違いが無く、区別が全くつくことがない。

「十代、俺の制服を返せ! 何故貴様が持っている!?」

「へへ……けどよ万丈目、これ何かしょっぱい匂いがするぜ?」

 「ええい、うるさい!」などと騒ぎながら十代からノース校の制服を奪うと、万丈目は即座に黒い制服へと衣替えを果たした。

「遊矢、貴様のターンだろう。早くしろ!」

「……続けるのか?」

 これにて一件落着かとも思っていた俺へと、万丈目の不意打ちが襲いかかった。

「当たり前だろう。何故貴様とデュエルしているのかは覚えていないが、途中で止めることなどしない!」

 ――それでこそ万丈目サンダーだ、と口には出さずに微笑むと、俺は何も言わずにデュエルを進行した。

「俺はこれでターンエンド。さあ来い、万丈目!」

「言われずとも! 俺のターン、ドロー!」

 万丈目のライフは150というギリギリの数値に、フィールドには何もないという絶体絶命の状況。
対する俺は、こちらもライフが800というギリギリの数値だが、《シールド・アタック》により攻撃力3000となった《おジャマ・キング》を擁している。

「俺は《アームズ・ホール》を発動! デッキからカードを一枚墓地に送り、墓地から《次元破壊砲-S・T・U》を手札に加えて発動する!」

 通常召喚を封じることで、手札・墓地から装備魔法カードを手札に加えることが出来る魔法カード、《アームズ・ホール》により、先のターンに発動された次元破壊砲-S・T・Uが手札に加えられる。
貫通効果を付与して、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》が三度目の登場と相成った。

「そしてバトル! VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンで攻撃! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「なっ……おジャマ・キング! フライング・ボディアタック!」

 攻撃力は同じ3000であり、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンの効果は無効になっているため、睨み合いになるのかと思っていた。
だが万丈目が選んだのは、せっかく蘇生したVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンと、俺のおジャマ・キングの相討ちという結果とすることだった。

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 双方のフィールドを空にするという、自分にも不利なこの結果を選択した万丈目のキーカードは、十中八九あのリバースカードなのだろうが……残念ながら、《サイクロン》のようなカードは手札にない。

「俺はカードを一枚伏せ、通常魔法《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 俺のセットカードを破壊することで、二枚ドローする!」

 代わりと言っては何だが、万丈目のリバースカードではなく自分のセットカードを破壊すると、墓地でそのカードが発動した。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! 墓地からマイフェイバリットカードを特殊召喚する! 蘇れ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

 万丈目のライフポイントは僅かに150……通るとは思えないが、スピード・ウォリアーの一撃が決まれば俺の勝利となる。

「バトル! 万丈目にダイレクトアタックだ、スピード・ウォリアー! ソニック・エッジ!」

「万丈目、さんだ! 墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、戦闘を無効にする!」

 このタイミングでネクロ・ガードナーとは……万丈目が出し惜しみをしていたとはとても考えられないので、運良く《アームズ・ホール》の効果でデッキトップを墓地に送る時に墓地に行ったのだろう。

「ならば《アンノウン・シンクロン》を召喚し、魔法カード《下降潮流》を発動! アンノウン・シンクロンをレベル3にする!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 本来ならばアンノウン・シンクロンとスピード・ウォリアーの合計はレベル3だが、魔法カード《下降潮流》のおかげでギリギリレベル5へと達する。

「レベル2のスピード・ウォリアーと、レベル3となったアンノウン・シンクロンをチューニング!」

 魔法カード《下降潮流》の効果で無理やり光の輪を三つにし、スピード・ウォリアーを包み込んだ。
《下降潮流》というカード名であるのに、レベルが下降してないのは良いのだろうか……なんて、くだらないことを考えられる余裕が出来たことに苦笑する。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 短剣を武器とした、傷だらけの機械戦士であるスカー・ウォリアーがシンクロ召喚される。
戦闘破壊耐性を持っているこのカードならば、次の万丈目のターンも防げるだろう。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 万丈目がドローしたカードを見ると、ニヤリと笑ってこちらを見てきた。

「このターンで終わらせるぞ遊矢! 《X-ヘッド・キャノン》を召喚!」

 このターンで終わらせるという万丈目の言葉に反し、召喚されたのはただのバニラモンスターたる《X-ヘッド・キャノン》。
X-ヘッド・キャノンで何をするのかと思っていたが、万丈目が次に行った一手は、更に俺を混乱させた。

「装備魔法《戦線復活の代償》を発動! 通常モンスターであるX-ヘッド・キャノンをリリースし、遊矢の墓地から……《おジャマ・イエロー》を特殊召喚する!」

『万丈目のアニキ~元に戻ったのね~!』

 X-ヘッド・キャノンをリリースして俺の墓地からおジャマ・イエローを蘇生すると、おジャマ・イエローはすかさず万丈目に抱きついていったが、「うるさい!」の一言と共に万丈目に弾き飛ばされてしまった。

『でもアニキ、何でおいらを特殊召喚したの?』

「決まってるじゃあないか……お前は、俺のエースカードだからだ!」

 光の結社から解き放たれた万丈目サンダーと、精霊でありエースカードであるおジャマ・イエローの美しい友情……は、他ならぬ万丈目の魔法カードで打ち砕かれた。

「魔法カード《突撃指令》を発動! 通常モンスターであるおジャマ・イエローをリリースすることで、相手モンスターを破壊する! さあ玉砕しろ、おジャマ・イエロー!」

『えええええ!?』

 文句を言いながらも悲しいかな、モンスターであるおジャマ・イエローには万丈目が使用した魔法カードには逆らえず、スカー・ウォリアーに突撃していって巻き込んで爆発した。

「そして俺は罠カード、《死の演算盤》を発動していた! 墓地に送られたモンスターの数×500ポイントのダメージを与える!」

「なっ……!」

 このジェネックス中にデュエルした、数学プロデュエリストのマティマティカが使っていたコンボだったが、リリースするモンスターを俺のモンスターにすることで、ダメージを俺に与えることコンボ。
今破壊された《スカー・ウォリアー》と《おジャマ・イエロー》は、どちらも同じく俺の墓地に送られるモンスターのため、マティマティカ戦の時と同じように《死の演算盤》が俺にのみ起動する……!

「貴様のライフは800ポイント、これで終わりだ!」

「ぐああああああっ!」

遊矢LP800→0


 まさかの《死の演算盤》によるバーンダメージで敗北し、俺は大地に膝を付いた。
万丈目を光の結社から救うことには成功したが……まさか、敗北するとは思ってもみなかった。

「遊矢貴様! 返せ、俺様のカードを! ……それにメダルはいらんぞ、【機械戦士】でない貴様に意味はない!」

 万丈目はそう言いながら、無理やり俺のデュエルディスクごとカードを奪っていき、少し雑にカードたちを懐にしまった。

「だがまあ、勝ったからには言うしかないな。一!」

『十!』

「百!」

『千!』

「『万丈目サンダーァァァッ!」』

 勝者たる万丈目サンダーを取り囲むアカデミアの生徒たちと、彼の懐に入れられたおジャマ三兄弟を始めとする精霊たちの万丈目サンダーコールが終わると、三沢が俺に手を貸して起こしてくれた。

「惜しかったな、遊矢」

「……いや、やっぱり急増デッキで勝てる相手じゃないさ。『万丈目サンダー』はな」

 しかし万丈目の性格のおかげで、ジェネックスの参加メダルを取られなくて済んだのはありがたかった。
万丈目を倒した今、光の結社が切れる俺に対する手札は一枚……いや、一人のみの筈なのだから。

「明日香……」

 オベリスク・ブルーの女王こと天上院明日香……ジェネックス参加メダルとこの鍵があれば、必ず近いうちに彼女を救える時が必ず来ると、俺は信じるのだった。
 
 

 
後書き
VS.万丈目戦。

期せずしてマティマティカ戦でのギミックを再び使ってしまったのは、かなりの反省点となっております……

感想・アドバイス待っております。 
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