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ワルキューレ

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第二幕その八


第二幕その八

「あの音が」
「間違いない、あれは」
「そうです。フンディングの」
 二人にはそのことがすぐにわかったのだった。
「一族の者達や犬達を集めて来ています」
「しかし私がいる。だから」
「犬の吠声も聴こえてきて」
 それも聴こえてきたのであった。
「あの犬達が貴方を」
「そんなことはない」
 ジークムントは彼女の今の言葉を否定した。
「それは絶対にだ。有り得ない」
「そう仰るのですか」
「そうだ。有り得ない」
 彼にとってはそんなことは万に一つも有り得ないことだった。だからこう妹に対して答えることができたのだ。荒涼たる荒野の中でだ。
「私には」
「では貴方は」
「今は休むのだ」
「今は」
「そうだ。休むのだ」
 あくまでこう告げるのだった。
「いいな」
「・・・・・・ええ」
 ここで遂に頷く妹だった。そうして静かに横たわり目を閉じた。ジークムントはその彼女の傍らに立つ。その彼の傍に姿を現したのは。
「貴女は?」
「ジークムントよ」
 その黒い服の乙女は優しい声で彼に告げてきた。
「貴方はもうすぐ私に従わなければなりません」
「貴女にですか」
「そうです」
 こう告げるのだった。
「私にです」
「それは何故ですか?」
 ジークムントは怪訝な顔で彼女に問わずにはいられなかった。
「何故貴女に。それに貴女は一体」
「私はブリュンヒルテ」
「ブリュンヒルテ。それでは」
「私のことは知っているようですね」
「ワルキューレの一人」
 神々のことは彼も知っているのだった。
「そうですね」
「はい。死の運命を受けた者だけが私達を見ることができます」
「それでは私は」
「はい。私の姿を見ました、ですから」
「ヴァルハラに行くのですか」
「そこに戦死した気高い英雄達が集っています」
 それこそがエインヘリャルというのである。
「貴方もまたそこに」
「そこには父もいるのでしょうか」
「ヴェルズングはそこに自分の父を見出すでしょう」
 ここでも優しい声だった。
「貴方は」
「ではそこには一人の女は」
 そのことも問うジークムントだった。
「いるのでしょうか」
「ワルキューレ達がいます」
 つまり他ならぬ自分達のことであるというのだ。
「貴方達と共にいます」
「ですがジークリンデは」
 ジークムントは今度はかなり具体的に問うたのだった。
「花嫁である妹は兄に従って行くのでしょうか。そこで私は彼女と」
「いえ、まだです」
 それはまだだというのだった。
「彼女はまだこの世に留まります」
「そうですか」
 それを聞いてもだった。ジークフリートは項垂れることはなかった。ただそれを聞くだけであった。
 そしてそのうえで。再びブリュンヒルテに対して告げるのだった。
「それではです」
「はい」
「私はヴァルハラには行きません」
 こう言うのだった。
「ヴェルはルにも主であるヴォータンにも父上にもお伝え下さい。全ての者達に」
「ですが貴方はもう私を見ました」 
 ブリュンヒルテの声が悲しいものになった。
 
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