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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第七十六話 オレは厄介事に好かれる……みたいだな

 そこには変な文様が刻まれていた腕輪が嵌(は)められてある。


「これは『魔封輪(まふうりん)』と呼ばれているものだ。魔力を抑える効力を持っている」


 なるほど、コイツの言いたいことが分かった。
 多分リューイと闘った時は、その腕輪を嵌めたままだったのだろう。


「生まれつき魔力が高くてな。学生レベルの闘いぐらいでこれを外すなと父から命を受けているんだ」


 腕輪を擦(さす)りながらこちらを見つめてくる。
 彼が言うには、『魔封輪』というのは、いろいろ種類があるらしく、彼が身に着けている物は、自身の魔力を半分以下に抑える効果があるらしい。
 かなり高価なもので、手に入れるのも難しいとのことだ。
 そんなものを装備しているということは、普段から力を抑えて生活しているということだ。
 そしてそれは、前大会の時もそうだったらしい。
 つまり、全力で闘って得た結果ではないぞと言っている。


「忘れてんのか? オレも学生だぞ?」
「ふっ、お前が学生レベルのはずはないだろ?」
「……」
「もっと先があるはずだ」
「……アンタ、戦闘狂だな完全に」
「褒め言葉として受け取っておこう」


 褒めてねえっての。
 フランケンが戦闘狂って、まさしくホラーじゃねえかよ。


「それに、お前の闘い方が気に入った」
「闘い方?」
「魔法に頼らないところだ」


 フービは魔法が好きではなかった。
 もちろん彼も貴族であり、その類稀(たぐいまれ)なる魔力は先天的なものであり、魔法も使用することができる。
 だが、彼は己の肉体を鍛えることに執着していた。
 だからこそ、自身の魔力を身体能力強化に当てている。
 闘悟はそんなフービの不敵な微笑を見て察する。
 つまりは、純粋に殴り合いで勝負しようということか……。


「俺も魔法は好かん。男ならこれだ!」


 そう言って拳を振り抜き壁にめり込ませる。
 壁は粉砕され破片が飛び散る。
 込められた魔力は微量なものである。
 それなのに壁がいとも簡単に破壊された。
 そのことから分かるに、やはり彼の体は強靭に鍛えられているのだろう。


「お前相手なら全力で闘える」


 希望通りの好敵手を見つけた喜びで自然と頬が緩む。


「…………はぁ、ミラニに反論できねえなこりゃ」


 闘悟は残念そうに肩を落とす。
 どうやら、彼女の言う通り、自分は本当に厄介事に好かれてるみたいだ。
 だけど、こんな出来事を楽しいと思っているのもまた事実なのだ。


「とにかく、大会では本気でやろうってことだな?」
「話が分かるな」
「そこまで言われて分からねえわけねえだろ?」
「ふっ、明日が楽しみだ」
「はいはい、それで? 言いたいことはそれだけか?」
「あと一つ忠告しておいてやる。あまり獣人どもと関わらないことだ」
「はあ?」


 いきなりわけの分からないことを言い出したので眉間にしわを寄せてしまう。


「奴らは汚い種族だ。お前も人間ならもっと考えた相手とつるむんだな」
「……オレが誰と付き合おうとアンタには関係ねえな」
「……ふっ、後悔しても知らないぞ」


 それだけ言うとフービはその大きな体を翻(ひるがえ)して去って行った。
 獣人嫌いねぇ……それがアイツ個人からくるものなのか、それとも大きな差別意識からくるのか……。
 そう言えば、シャオニの話題が出た時に、フービは不機嫌そうな顔をしていた。
 まるで口にするのも不快と言った感じだった。
 だが闘悟は、考えても始まらないと思ったので頭を振り、宮殿に戻って行った。





「ふぅ、うっしゃ! この力も大分ものにできたかな」


 闘悟は宮殿に戻ってきてすぐに第二練武場(れんぶじょう)に来ていた。
 ここは一人で魔法練習するにはもってこいなのだ。
 そこでいつものように日課である魔法の練習をしていた。


「この力、クィルに言ったみたいにデビューさせることが楽しみだな」


 闘悟は先程修練していた魔法のことを考えている。
 その魔法は以前クィルに見せたものだ。
 その時に初めて見せたのだが、異様に驚いていたのが印象的だった。
 それだけこの力は珍しいものなのだろう。


「あ、やっべ。そういやあん時も使ったっけか?」


 そうやって思い出したのは、ステリアと出会った時だ。
 彼女と出会った時、魔物のガルーダと戦うことになった。
 その時にこの力を使ってガルーダを仕留めたことを思い出した。
 あの時は咄嗟(とっさ)のことで、ついついこの力を使ってしまっていた。


「ん~まあ、見たのはステリアだけだしあれが本格的なデビューってわけじゃないか」


 自分でも何を拘ってるのか不思議だが、せっかくだから大勢の前で見せて驚かせてみたいと思っていた。
 クィルには、そんなことをすれば間違いなく目立ってしまうとは聞いていたが、別にそんなことは気にしない。
 目立とうが目立つまいが、闘悟が面白いと思っているので関係無いのだ。
 よく小説などでは、その力を利用しようと近づいて来たり、拉致(らち)して研究材料にされたりするのを恐れて隠そうとするが、闘悟にしては全く恐怖の対象にはならない。
 何故なら、拘束されるほど弱くは無いし、そんな感情を持って近づいてくるなら返り討ちにすればいいとさえ思っている。
 闘悟にはそれができるだけの力があるから全然気にしてはいないのだ。


「あ、そういや服はどうすっかなぁ……」


 闘悟の小さな悩みの一つ、それは戦闘のコスチュームであった。
 日々の生活を青ジャージで過ごしている彼だが、さすがに格式のある大会にジャージで出場するのもどうかと思ったのだ。
 別に闘悟自身はジャージでもいい。
 鎧を着て身を守る必要が無いからだ。
 むしろ動き易いジャージがいいとさえ思っている。
 だが一応宮殿に住まわせてもらっている身分でもあり、王族と親しい間柄だ。
 せめてそのような場だけでも、それなりの身形(みなり)はしなければと考える。


「そうだなぁ…………あ! そういやまだガルーダの羽毛が残ってたっけか?」


 突然思い出して、部屋へと急いで戻る。
 そして、ベッドの脇に置いてある袋の中身を確認する。
 そこには確かにルビーのような輝きを放つガルーダの羽毛があった。


「これで何か作るかなぁ……」


 闘悟は思案顔をしながら腕を組む。
 そして一しきり悩んだ後、闘悟が出した答えは「よし! 今日の夜寝ながら考えよう!」思考の放棄だった。
 楽観的な闘悟らしい解答だった。

 
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