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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第七十五話 出たよ、厨二的な敵が……

 それから二回戦が始まり、順当だと思われる者が勝ち残っていった。
 次々と対戦が消化されていき、いつの間にかヒナとハロは膝の上で眠っていた。
 まあ、二人とも闘いに興味があるとは思えないし、十歳と五歳の子供だから仕方が無いとも言える。
 あれからヤーヴァスのような興味惹かれるような闘いをしてくれる者も出てきていない。
 闘悟はヒナとハロをそっと椅子に寝かせる。


「どこか行かれるのですか?」


 クィルが闘悟の行動に疑問を持って口を開く。


「おう、帰るわ」
「……ええっ!?」


 その場にいた者が驚きの声を上げる。


「ど、どうしたのですか?」


 クィルの疑問は最もだ。
 今まで大人しく大会を見ていた闘悟が、いきなり帰ると言い出したのだから驚いて当然だろう。


「あとは本番のお楽しみと言うことで」


 闘悟はそう言ってその場から立ち去ろる。


「ト、トーゴ様!」


 クィルの言葉が聞こえたが、手をプラプラと振りながらそのまま止まらず歩く。


「い、一体どうされたのでしょうかトーゴ様……」
「ん~トーちゃんのことだから……眠たくなったとか?」


 ニアが愉快そうに話すが、リアが窘(たしな)める。


「お母様、冗談はそのくらいで」
「む~冗談じゃないも~ん!」


 子供みたいにムキになり膨れっ面になる。


「恐らく何かしたいことがあるのでしょう」


 ミラニがクィルの方に向き口を開く。


「何かって?」
「それは分かりかねますが、何か魔法の修練とか……」


 ミラニの言葉にクィルはハッとなる。
 クィルには闘悟が毎回一人で魔法の修練をしていることを知っている。
 ミラニの言葉でそれを思い出して、もしかしたら彼女の言う通り、いつもの修練をしに行ったのかもしれないと思った。
 だが、ミラニの言葉を聞いて一際反応したのはクィルだけではなかった。


「魔法の修練!?」


 ステリアが声を張り上げて皆の視線を集める。


「トーゴが!? どこで!?」


 クィルに詰め寄りながら言う。クィルはビクッとなって体を硬直させる。


「え? その、あの……」
「もしかして行くおつもりなのですか?」


 ミラニが丁寧な口調でステリアに尋ねる。


「だってあのトーゴの魔法修練なんでしょ? ものすっごく興味深いわ!」
「ですが、一応ステリア様は代表の付き添いです」
「う……」
「勝手にこの場をお離れにならない方がよろしいのではないでしょうか?」
「そ、それは……」


 ミラニに正論を言われ、言葉を詰まらせる。
 条件付きでここに連れてきてもらった手前、勝手な行動をすれば叱られるだけでは済まないかもしれない。
 しかも自分が尊敬する兄のギレンにも迷惑を掛ける可能性も高い。
 だが、あの闘悟の魔法修練なのだ。
 是非自分の目で確認したいという衝動が激しい。
 自分の中で葛藤(かっとう)していると、クィルが苦笑しながらステリアを見る。


「あ、あのステリア様」
「ん? 何? どうしたのクィル?」
「私も見てみたいのは山々なのですが、ここはトーゴ様の仰った通り、本番のお楽しみということでよろしいのではないでしょうか?」
「うぅ……」


 まだ釈然としていない様子だが、クィルの説得に応じた方が、後々問題が起きないのも事実だ。
 それに、確かに本番のお楽しみとして取っておくのも、それはそれで良い。


「…………はぁ、しょうがないわね……」


 結局悩んだ結果、彼女の出した答えは静観(せいかん)だった。


「もう! こうなったら物凄いもの見せなさいよトーゴ!!!」


 ステリアは拳を突き出し声を上げる。





 その頃、闘悟は闘武場から出て宮殿に向かっていた。
 実はミラニの言ったことは正確に的を射ていた。
 大会を見ていた闘悟は、自身も体を動かしてみたくなったのだ。
 だからいつもやっている魔法修練を急にやりたくなったのだ。
 それに、あまり敵状視察(てきじょうしさつ)をするようなタイプではないので、別に大会を細かに観察しようとは思わない。
 相手がどんな魔法を使うのか本番を楽しみにしておくのも一興だと感じている。
 闘武場から出てしばらく歩いていると、ふと突き刺さるような視線を感じる。
 闘悟は平静を装いながら人気の無い場所へと足を運ぶ。
 そして、誰もいない裏道に辿り着いて、そのまま足を止める。


「……さてと、オレに何か用か?」


 闘悟は視線を感じる方向に向かって言葉を放つ。
 それにしてもと闘悟は思う。
 異世界に来て、自分が変わったと思うことがたくさんある。
 魔法や魔力は別にして、こんなふうに誰かの気配を探知できる能力など無かった。
 実際に感じているのは魔力の意識なのだが、闘悟はそれを人が存在する気配だと思っているが、確かに気配には違いないので間違いではない。
 魔力を視認したり探知したりと、もう丸っきり異世界の住人になっている。
 闘悟が声を掛けると、ジャリッと地面をする足音が聞こえた。


「アンタ……誰だ?」


 闘悟の目の前に現れた人物は、大柄な男だった。


「俺を知らないのか?」


 不愉快そうに男が聞いてくる。
 そんな顔されても闘悟には本当に見覚えなど無い。


「悪いな、世間知らずなんだよ」
「みたいだな転校生」


 その言葉でピンとくる。


「アンタ……学園生か?」


 闘悟が転校生だと知っているということは、同じ『ヴェルーナ魔法学園』の生徒である可能性が高い。


「そうだ。まずは名乗ろうか。俺はフービ・ジン・トレドナム。『五色の統一者(カラーズモナーク)』が一人、『黄鬼(おうき)』だ。覚えておけ」


 『五色の統一者(カラーズモナーク)』……?
 確かウサミミボインがそんなことを言ってたような……。
 それにそいつらが……。


「これはこれは、そんな有名人がどうしてオレなんかを狙ってるんだ?」


 そう、オレを狙ってると言っていた。


「ふっ、よく狙ってると分かったな?」
「ああ、おせっかいなウサミミが教えてくれたからな」
「何? ちっ……あの獣人が」


 不機嫌そうに顔を歪めながら声を漏らす。
 どうやらウサミミ獣人のシャオニとは仲が悪いみたいだ。


「それで? オレの後をつけて何か用か?」
「そうだったな。お前に伝えることがあった」
「伝えること?」
「お前、予選番号は明日の⑳だろ?」
「……そうだけど?」


 何故知っているとは聞かなかった。
 調べようと思ったら幾らでも調べられるし、別にバレたところで支障は無いからだ。


「俺も同じだ」
「……アンタもクジ運悪いんだな」
「そうか? 俺は幸運に歓喜したがな」


 フービは楽しそうに口角を上げる。
 外見は昔見たホラー映画に出てくるフランケンみたいなので、笑うと少し怖い。


「そんなにオレとバトりたかったとか?」
「その通りだ。お前なら必ず楽しい闘いになる」


 だからニヤッとするな怖いから!
 心の中で苦笑しながら、それを表に出さないように努める。


「それを伝えるためだけに後を?」
「そうだ。お前が逃げないようにな」


 闘悟は尊大そうに言葉を発するフービを半目で見る。


「……アンタ、オレとリューイの決闘は知ってるよな?」
「ああ」
「聞いたぜ? アンタ、前大会でリューイと互角の闘いをしたんだってな。なら、オレの力は分かるはずだけど?」


 するとフービは愉快そうに笑う。
 だから笑うなっての。


「これを見ろ」


 そう言って右腕の袖(そで)を上げる。


 
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