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久遠の神話

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第四十三話 病院にてその五

「泥棒とか詐欺とかはしてないからな」
「ならいいですが」
「まあ。金のことは問題ないよな」
「今だけで十年は入院できますので」
「十年か」
「それだけのお金を既に頂いています」
 だから大丈夫だというのだ。入院費用のことは。
「ご心配なく」
「だといいけれどな」
「それにです」
 それに加えてだった。医師が中田に言うことは。
「これだけのものがあれば」
「手術できるかい?」
「できます。しかしです」
「助かることは、か」
「あそこまで重傷でしたから」
「三人共だよな」
「回復も絶望的です」
 それもだとだ。医師は中田に暗い顔で述べる。
「手術をするしかないですが」
「それも、か」
「手術に耐えられるだけの体力はありません」
 そうだと答える医師だった。
「若しすればです」
「手術は成功してもか」
「どなたも命は保障できません」
「辛いね。回復も絶望的なら」
 それならだとだ。中田は視線を上にやって述べた。
「このままずっとかね」
「現状維持ですね」
「けれどあれだろ。この間にも」
「どなたも何時でもです」
 旅立つ、そうなってしまうというのだ。
「どうなるかは」
「嫌な話だね。忌々しい意味で焦るよ」
「そうですか」
「焦っても仕方ないことだけれどな」
 中田は焦りを押し殺して言った。
「どうしてもな」
「はい。しかし」
「ああ、命の方はまだ大丈夫だよな」
「小康状態のままです」
 医師の返答はいいものではなかったが極限まで絶望するものではなかった。
「そのままです」
「そうか。じゃあな」
「入院費は充分です」
 それはあるというのだ。
「このまま払って頂ければ」
「そうか。いいんだな」
「はい、今のところは」
「けれどだよな」
 中田は彼にしては珍しく暗い顔で言った。
「親父もお袋も妹も」
「どなたもです」
「回復は絶望的なんだな」
「率直に申し上げまして」
「だよな。じゃあな」
「それじゃあ?」
「俺が最後までやるしかないんだな」
 曇った顔での言葉だった。
「そうするしかな」
「?今の言葉って」
「まさか」
 上城と樹里は中田と医師のやり取りを聞き続けていた。聞くつもりはなかったがついつい聞いてしまった。一旦聞くとそこから離れられなかった。
 それでだ。聞いて言うのだった。 
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