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八条学園怪異譚

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第二十七話 教会の赤マントその十一

「花子さんが出て来てだ」
「それで教会にですか」
「引っ越したんですね」
「この学園ではな」
 あくまでこの学園限定だがそうなったというのだ。
「そうなったのだ」
「ううん、そうなんですね」
「トイレに花子さんが入ったから」
「いてもよかったと思うが譲ったのだ」
 花子さんにだというのだ。この辺りに妖怪同士の気遣いがあったのだ。
「そして教会にいてだ」
「そこで人を驚かせてるんですね」
「教会に来た人を」
「そうだ、いきなり出て来る」 
 妖怪に相応しくだというのだ。
「とはいっても君達は」
「慣れてます」
「これまでいつもですから」
 妖怪は人の心の死角から出て来て驚かせることが生きがいだ。二人もこれまでのことでよく知っているのだ。
 つまり経験だ、そこから知ってのことなのだ。
「ですからもう」
「例え何が出て来ても驚かないです」
「それにいい妖怪さんだってわかってますから」
「それなら」
「驚かないか」
「取って食われるんじゃないですよね」
「そうでなければ」
 大丈夫だと言う二人だった、愛実も聖花も落ち着いている。
 そしてその落ち着きの中でこうも言ったのである。
「別に、身構えしなくても」
「痴漢の方がずっと怖いです」 
 年頃の女の子から見ればそうなる、妖怪よりも悪質な人間の方がだというのだ。
 日下部も二人のその話を聞いてこう言った。
「そうだな、不逞の輩は妖怪よりも悪質だ」
「ですよね、いい妖怪さんよりも悪人の方が怖いです」
「悪人って悪い妖怪と同じですよね」
「何処にも不逞の輩はいる」
 また言った日下部だった。
「それもまた人間の世界だ」
「何処にいるか、何をしてるかじゃないですよね」
「その人それぞれですよね」
「柔道や剣道は素晴らしい」
 武道、それはだというのだ。
「しかしそれをする者はどうか」
「剣道を教える学校の先生でも酷い先生いますね」
 聖花が言う。
「生徒に普通に暴力を振るう先生って」
「体罰は必要かも知れない」
 日下部は自分の時代から話した、だがだった。
「しかし体罰と暴力は違うのだ」
「そうみたいですね」
「西本幸雄という野球監督がいた」
 大毎から阪急、近鉄の監督を務めその三つのチーム全てを優勝させた。日本一にこそならなかったが八度、それも監督を務めた全てのチームを優勝させた監督は世界のスポーツチームでも稀であろう。
「その監督は鉄拳制裁で有名だったが」
「暴力じゃなかったんですね」
「この辺りの判断は難しい、だが」
 それでもだというのだ。
「西本さんはそこに愛情があった」
「それがですか」
「そうだ、選手と野球に対する揺るがない愛情があった」
 この辺りが違うというのだ。西本と暴力教師風情は。
「西本さんはどれだけ怒られても選手を何十発も殴ったり蹴ったりはされなかった。叱咤はされたが相手を全否定する罵倒はされなかった」
「暴力じゃなかったんですね」
「だから選手もついてきた」
 暴力を振るうだけの輩を誰も尊敬しないというのだ。
「絶対にな」
「そういう人軍にも多かったですよね」
 愛実が戦前の軍のことを問うた。 
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