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八条学園怪異譚

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第二十七話 教会の赤マントその八

「例えば欧州の言語はまずラテン語を覚えるのじゃ」
「ローマ帝国で使われていた言語です」
 ろく子が注釈を入れる。
「キリスト教において公用語でした」
「欧州の言語はラテン語からはじまっておる」
「だからまずはラテン語なんですか」
「それを覚えるんですか」
「そうじゃ、そうしてじゃ」
 そのラテン語を覚えてだというのだ。
「他の言語も覚えていくのじゃよ」
「英語とかフランス語ですか」
「そういう言葉を」
「しかもイタリア語はラテン語の直系じゃ」
 これもまたローマの遺産と言える。ローマ帝国が現代イタリア人に残している遺産はルネサンスの頃の諸国家と同じく素晴らしいものがあるのだ。
「非常に覚えやすいぞ。しかも」
「しかも?」
「しかもっていいますと」
「フランス語やスペイン語は同じラテン系なのでイタリア語と近い」
 ラテン系ということは言語においても大きいのだ。
「ほれ、母を尋ねて三千里じゃ」
「あのアニメですか?」
「原作はクオレでしたよね」
「うむ、イタリアからアルゼンチンまで行くが」
 この場合問題になるのは旅費と労力、それに言語だ。先の二つが何とかなっても言語が問題だがそれもなのだ。
「普通に話せておったな」
「アルゼンチンってスペイン語ですね」
「あそこはスペインの植民地でしたから」
「それでも言葉が通じたのはじゃ」
 それは何故かというと。
「イタリア語とスペイン語が近いからじゃ」
「だからですね」
「それでだったんですね」
「イタリアオペラを歌えればフランスオペラも歌える」
 実際にプッチーニで歌う歌手がビゼーで歌うことは常だ。ホセ=カレーラスはこの二人の作品でそれぞれ高い評価を受けている。
「ついでに言えばサルエスラもじゃ」
「スペイン語のオペラと思って下さい」
 またろく子が二人に注釈を話す。
「スペインではかなり有名ですよ」
「何かそういうの聞いたら」
「言語も面白いですね」
「うむ、言語学もまた面白い」
 博士は白い髪の毛と髭の中の目を綻ばせて話す。
「二人共時間があれば勉強するとよいぞ」
「ちなみに博士は方言を含めると百国語は普通に話せます」
「大きく分けて英語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語。オランダ語、ロシア語、中国語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、インド語、トルコ語、アラビア語じゃ。アメリカ英語所謂アメリカ語にブラジルのポルトガル語にラテン語もじゃがな」
「本当に多いですね」
「それもかなり」
「ああ、無論日本語もじゃ」
 今喋っている。
「オーストラリア英語やメキシコスペイン語もいけるぞ」
「そこに方言も入るんですよね」
「サンスクリット語とかも」
「うむ、だから色々な文献が読めるのじゃ」
「だから古典を原文でもなんですか」
「あの凄く難しい字を」
 俗に『みみずがのたくった様な』と表現される字だ、これも読めるのはというのだ。
「そうした言葉が読めるうちの一つなんですね」
「つまりは」
「古文書解読になるがな」
 歴史学では必要な技術の一つだ。
「昔は活字印刷なぞなかったしのう」
「ああ、全部手書きですね」
「本も」
「だから昔の本は非常に高価で数も少なく」
 例えば史記もだ。当時は紙もなく木簡に手書きだった。
「手で書いておったのじゃ」
「あの字をですか」
「そうなるんですね」
「まあゴシック体とかが出来たのも最近じゃ」
 今読まれている様な読みやすい字もだというのだ。 
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