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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第六十九話 うわ! 話しかけないでっ!

「それじゃ、まずは予選だ! あとは頼んだぜ!」


 ギルバニアが誰かに後を任せるように言葉を放つ。
 すると、彼とは違った女の声が響いてくる。
 そこにはまるで実況席のような建物があった。


「お任せあれぇっ! ここからはこのワタクシ! モア・ランズが実況をさせて頂きたいと思います! よろしくお願い致します! なお解説にはこの方ぁっ!!!」
「フレンシア・イクス・ヴァウスです。皆様よろしくお願いしますわ」


 手を振りながら笑顔を振り向くそのお方は、間違いなく闘悟の顔見知りだった。


「フ、フレンシア……さん?」


 そう、彼女はヒナの母親だ。
 どうして解説なんかしているのか分からなかった。
 確かに彼女は貴族だが、このような場に出てくるような人とは思えなかった。
 だが、何故か周りの者達は妙に納得顔をしている。
 闘悟はそれに気づき首を傾げて考察するが答えは出てこない。
 そんな闘悟の疑問には、モアが答えてくれた。


「皆様もご存じの通り、フレンシア様は三賢人のお一人! 魔法の解説でこの人以上の方はいないでしょう!」


 ええっ!? そ、そうだったのか!?
 闘悟は素直に驚愕に包まれていた。
 まさかヒナの母親である彼女が、三賢人だとは知らなかった。
 そんな大物にすでに会っているという事実に愕然としていた。
 それほどの有名人なら、周りから不満が出るわけは無かった。
 闘悟は周りの者達と同様に納得した。


 当の本人であるフレンシアは、闘悟の思いにも気づかず凛(りん)としている。
 さすがは高貴な家柄の人。
 暴走さえしなければ、礼儀正しい気品のある見目麗(みめうるわ)しい銀髪美女だ。
 そう、暴走しなければだが。
 すると、フレンシアは誰かに気づいたようにハッとなり微笑んだ。
 そして、絶対してほしくはない行動に出た。


「やっほ~! そこにいたのねトーゴく~ん!!!」


 大きく手を振りながら子供の様にはしゃぐ。


「げっ!」


 闘悟はサッと顔を伏せて知らぬ存ぜぬを通そうとする。
 いきなり雰囲気がガラッと変わった三賢人に、回りの人間は度肝(どぎも)を抜かれているみたいだ。
 あんな雰囲気のフレンシアを知っている者は、ここにはいないのかもしれない。


「なあなあトーゴ? もしかしてお前……」


 カイバが闘悟の様子に気づき、小声で話してくる。


「あ、ああ……残念ながら知り合いだ」


 ホントに残念ながらな……。
 周囲の者達も、フレンシアの掛け声の主を探そうとキョロキョロしている。
 だからオレを見つけないでっ!


「お、お前も大変だな……」
「わ、分かってくれるか……?」


 闘悟を見て不憫(ふびん)に思ったのか、カイバが労(ねぎら)うように肩に手を当てる。
 未だに手を振り続けているフレンシアに辟易(へきえき)しながら身を屈(かが)める。
 そんな一悶着(ひともんちゃく)があったが、実況であるモアが先を進めてくれる。
 闘悟はホッとして、モアの進行具合に感謝した。
 モアは琥珀(こはく)色のショートカットをしている。
 髪には可愛らしい星形の髪留めが目立っている。
 外見の年齢は二十代前半には見えるが、女性の象徴であるあの部分は、悲しいことに地平線と化している。
 その彼女が、闘悟に反応してもらえずいじけているフレンシアをよそに進行を進める。


「それでは、お待ちかねの予選内容を発表したいと思いま~す!」


 その言葉に皆が食い入るように注目する。


「予選内容は、バトルロイヤルで~すっ!!!」


 闘悟はなるほどと思っていた。
 この人数だ。
 どうやって三日で捌(さば)くのか興味があった。
 バトルロイヤルと聞いて納得した。


「なお、バトルロイヤルは三十人で行います! まずはそれで四十人まで選抜します!」


 つまり、四十回のバトルを行うということだ。
 確かにこれは一日ではできない。


「それでは皆さん、ここに来る時に渡された玉がありますね?」


 闘悟はポケットに入れてあった黒い玉を取り出す。
 これは受付の人に渡されたものだ。


「それでは! その玉に魔力を流してみて下さい!」そ


 う言われて皆が玉に集中する。
 闘悟も同様に行うと、玉に⑳という数字が白く浮き出てくる。
 他の者の玉を見ると、それぞれ数字が違う。
 カイバも⑨だ。
 だが、近くに⑳の玉を持っている者もいる。
 ということは、個人個人で違いがあるわけではなさそうだ。
 中には白い玉を持っている者もいる。
 白と黒で何か違うのか?
 闘悟がそう思っていると、モアが説明してくれる。


「分かりましたか! 数字が浮き出てきたはずです! それはバトルロイヤルの抽選番号になっております! 玉は白い玉と黒い玉があり、数字は①~⑳まであります! バトルロイヤルは二日間行います。白い玉は初日、黒い玉は二日目です!」


 うっわ! つうことはオレって黒い玉で⑳だから、超ドンケツかよ!
 あれ? 二日間? つうことは最終日は違うのか?
 そんな闘悟の疑問を介さず、モアは続ける。


「あ、ちなみに今誰かと交換しても意味無いですよ? 一度発動したら、その人の魔力でしか数字は浮き上がらないので、違反行為はできませんのでご了承下さいね! それでは、これからさっそく始めたいと思いますので、白い玉で①を持っている人は舞台に上がって下さいね!」


 不正はできねえってことだな。
 やるつもりなんてねえけど。
 確かにバトルを有利にしようと、誰かと交換したりはできなさそうだ。
 でも、この玉ってずっと持ってんのか?
 闘悟の疑問にまたまた答えてくれたのはモアだった。


「他の方々も、登録しますので、受付の方に集まって下さいね!」


 なるほど、そこで玉を渡して登録するんだな。
 そんじゃ、さっさと登録して試合を見るかな。





 各国の代表者達は、一番見晴らしのいい、いわゆるVIPルームに集結している。


「さて、楽しみですな」


 アーダストリンクの代表であるブラス王が言葉を放つ。
 その後ろには息子であるギレンもいる。


「これほど活気づくとは、意外ですねぇ」


 次に言葉を発したのは、シュレイエ王国の代表であるツートンである。
 彼は大臣であり、恰幅(かっぷく)の良い体躯(たいく)をしている。
 暑いわけでもないのに、その額にはうっすらと汗を流している。


「史上最大の『ヴェルーナ魔武大会』になる……ということですね」


 この男はランブリタル王国の宰相(さいしょう)をしているディグナスだ。
 実際は若いが、口元に生やしている髭(ひげ)のせいで、威厳のある顔つきになっている。
 目つきも鋭く、狩人(かりゅうど)のような風格もある。


「そうは思いませんか……貴女も?」


 ディグナスがもう一人の代表である者に声を掛ける。


「……」


 しかし、その返事は沈黙だった。
 外見は細身で、スタイルのいい女性だ。
 彼女はキュッラといい、ザド王国王族の代表である。
 空色の髪の毛を有していて、それを肩まで伸ばしている。
 眼鏡を掛けて、無表情を装っているので、冷たい印象を与える。
 何かを観察するようにジッと舞台を見つめている。
 その様子を見て、怪訝そうな表情をし、息を吐いたディグナスは、彼女のように舞台に視線を送る。


「さあ、いよいよ祭りの始まりだ」


 ギルバニアが楽しそうに笑う。


 
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