トーゴの異世界無双
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第六十七話 やっぱ来たのかステリアよ
ギルバニアが、嫌な汗を掻(か)きながら告白している最中、闘悟はというと……
「あ~茶がうめえ……」
暢気(のんき)に寛(くつろ)いでいたのである。
「おお! これウマイぞ!」
しかもその隣にはハロもいる。
一緒にお茶タイムを満喫しているようだ。
「お、オレもも~らい! おお! 美味だ美味だ!」
闘悟は皿に乗っているパイを掴んで口に入れる。
「びみってなんだぁ?」
ハロが首を傾げて聞いてくる。
「何だ知らねえのか? いいか? 美味ってのは、おお! ウマイじゃねえかコンニャロウ! って意味だ」
「…………んん?」
あらあら?
どうやらよく分かってないご様子だねどうも。
頭の上にハテナが浮かんでるようだ。
「つまりはだ、好きだって意味だ!」
「おお! そうか! トーゴはものしりだな!」
まあ、若干ニュアンスが違うような気もするけど、まあいいか。ハロはまだ子供だしな。
「んじゃあな、トーゴはびみだ!」
「はへ?」
急にトンチンカンなことを言われたのでポカンとしてしまった。
この時はかなりのアホ面になってはいただろう。
「だってすきってことなんだろ? あたしはトーゴすきだしな! だからびみだ!」
「あ、なるほど……」
ようやく謎が解けた。
というか、やはり教え方を間違ったな……。
闘悟はもう一度説明し直そうかと思ったが、何だかめんどくさかったので止めた。
大きくなったらそのうち間違いは矯正(きょうせい)するだろうと考えた。
「なあなあ、トーゴはあたしのことびみか?」
キラキラした瞳で聞いてくる。
その瞳の中には期待感で一杯だった。
「ああ、もちろん美味だぞ! 当たり前だろ!」
「にししし! そっかぁ! にししし!」
花が咲いたように満面の笑みを浮かべる。
その時、急に扉が音を立てて開く。
「はへ?」
その日、二度目のアホ面だった。
そして、そこに現れた人物はニコッとした笑いを向けてくる。
「また会えたわね、トーゴ・アカジ!」
そこにいたのは、前に成り行きで依頼を一緒にこなしたステリアだった。
「……」
闘悟は固まりながらいきなり現れたステリアを見つめていた。
傍にいたハロは、闘悟とステリアを交互に眺め、首を傾げている。
「なんだなんだぁ? だれだぁ?」
ハロはまたも頭にハテナを浮かべていることだろう。
「えっと…………誰だ?」
闘悟のそんな言葉を聞いて、ステリアは口をへの字にする。
「へ、へぇ……いい度胸してるじゃない」
「そう言われてもなぁ……知ってるかハロ?」
「しらないぞ!」
ハロは首を大きく振りながら否定する。
すると彼女はキッと睨みつけてくる。
「まだそんな態度とるつもりなら…………燃え散らすわよ?」
「ご、ごめんステリア! 冗談だって!」
ついつい、お茶目なジョークのつもりだったが、あんな表情されるともう無理だ。
だって、凄まじい殺気と、手には火を生み出しているんだぞ?
そんな状況でジョークを貫けると思うか?
少なくともオレは無理だ!
だってオレだって命は惜しいからな!
死なねえんだけども!
闘悟が冷や汗を滲ませながら言葉を放つと、ステリアは不機嫌そうに口を尖らせる。
「まったく! もう少しで灰にするとこだったわよ!」
そ、それは止めてほしい。
闘悟はジョークを止めて良かったと本当に思った。
「なあなあ!」
すると、ハロが仲間外れにされて怒ったのか、眉を寄せながら闘悟の袖を引っ張ってくる。
「だれなんだぁ? おしえろよぉ~!」
「わ、分かったから! 教えるから引っ張んなって!」
ようやく大人しくなったハロは、闘悟の膝の上にチョコンと座った。
「コイツはステリア。クィルと同じくお転婆(てんば)王女だ」
「誰がお転婆王女よ!」
「そ、そうです! 私はお転婆なんかじゃありませんです!」
そうやってまた誰かがいきなり部屋に入ってきて叫んだかと思えば、その正体はクィルだった。
「にししし! そっかぁ! クーねえとおんなじおてんばなんだなぁ!」
ハロが嬉しそうにコロコロと笑う。
「お、おおクィルいたのか?」
「そ、それは……」
実はここまでステリアを案内したのはクィルだった。
知り合いだとはステリアに聞いていたので、積もる話もあるかと思い、部屋の中には入らず、様子を見ていたのだが、いきなり闘悟にお転婆と言われたので、我慢できずに突入してしまったのだ。
「おお! おてんばのクーねえだ! にししし!」
「も、もう! トーゴ様!」
ハロが自分のことをお転婆王女と認識してしまったことに腹を立てる。
「そうよ! 取り消しなさいトーゴ!」
今度はステリアが指を突きつけてくる。
「あはは! 悪い悪い!」
そこから闘悟は二人に謝り、何とか許しを得た。
「ま、でも最初気づかなかったのはホントだぞ?」
「ん? どういうことよ?」
「だってよ……」
闘悟はそう言いながら、彼女の体に指を差す。
「……何なの?」
「その格好だよ」
そうなのだ。
ステリアの今の姿はその赤い髪に映えるような白いドレス姿だった。
綺麗な髪飾りもそうだが、王女らしく気品のある佇(たたず)まいのせいで、一瞬彼女がステリアだとは気づかなかったのだ。
以前会った時は、ローブを羽織り、その下は剣を携えた鎧姿だった。
そのギャップのせいで判断がつかなかったのだ。
「さすがは王女様ってとこか?」
「アタシはもっとラフな格好で来たかったんだけどね」
「いやいや、その姿も似合ってると思うぞ?」
「え? あ、そ、そう? えっと……はは、ありがとね!」
ステリアは頬を軽く染めながら綻(ほころ)ばせる。
その様子を見たクィルは少し眉を寄せる。
「ト、トーゴ様! わ、私はどうでしょうか!」
そう言って闘悟に詰め寄ってくる。
どうしてクィルがいきなり対抗するように聞いてきたのかは分からないが、闘悟は一応クィルの姿を見つめる。
う~ん……いつもと同じ薄いピンク色のドレス姿なのだが……。
クィルは真剣な表情を向けてきているが、瞳をキラキラさせて、何かを期待するような視線を送ってくる。
「えっと……おう、いつも可愛いドレス姿だなクィル」
「そ、そうですか!」
花が咲いたように微笑む。
どうやら、喜んでくれたようで、闘悟はホッとした。
すると隣にいるハロも袖を引いて見つめてくる。
「ハロも激可愛いぞ!」
「げき?」
「とんでもなく可愛いってことだ!」
親指を立てて言う。
「そっかぁ! にししし!」
ハロも嬉しそうに笑う。
「トーゴ……アンタってロリコンなの?」
ステリアが犯罪者を見るような目で見てくる。
「待て! その目は止めてくれ! 俺はドノーマルだ!」
「……ホントに?」
「……そのはずだ」
「……ふうん」
ステリアはまだ疑わしそうに闘悟を見つめているが、その傍でクィルは顔を赤くしながらモジモジしている。
どうやら、例のトリップをしているようだ。
クィルはたまにこうなるけど……放っておいて大丈夫だよ……な?
「なあなあ、ろりこんってなんだぁ?」
「ほれ見ろステリア! お前のせいでハロが興味持っちまっただろうが!」
「アンタのせいでしょうが! このロリコン!」
「だから違えって言ってんだろ!」
この後は、仕方無くハロにロリコンの説明をすることになった。
もちろん本当の説明はしていない。
ただハロのことが好きな人のことをそう呼ぶとだけ教えた。
ハロは納得して「じゃあトーゴはろりこんなんだな!」と言って喜んでいた。
もう反論する気力もなかったので、いつか分かってくれるだろうと思い頷きを返していた。
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