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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode4 悟る真理の一角

 「はぁー……」

 訪れた(というか連行された)喫茶店(の、ような雰囲気のテントのブースの一角)で、俺はどっかりとテーブルに両肘をついた。組んだ手がゆるりと解かれて額に当てられるその動きは鈍く、相当量の疲労が蓄積が感じられた。

 勿論先ほどの決闘のものもあるのだが、

 「これで、私達も一緒にいけますね!」
 「……オメーは何もしてねーだろうが!」

 大多数は、この連中のせいだ。

 デュエルが終わった後、俺はもともとの目的だった中立村、《ブレーメン》にて夕食(こっちの時間で、の話であり現実ではそろそろ昼、というところだが)……という名前の圧迫面接を受けていた。横にくっついているモモカ一人ならいつも通り容易くあしらえるのだが、残念ながら今日は勝手が違う。

 『先の決闘で言った通りです。このALOでの活動経験が甘い貴方では、長い時間この世界で活動している人の助けなくしては観光も覚束ないでしょう。バカですか』

 目の前に、もう一人いるのだ。

 俺を完封してくれた(あの束縛、囚われてしまえば内側からの物理的な力だけで解こうと思えば鬼の硬さを味わうことになるそうだ)この女…ブロッサムも、一緒についてきたのだ。テーブルでこうして向かい合っているものの、会話は相変わらずチャットでという徹底したロールプレイ。バカとか言われてるが、てめーに言われたくないぞ。

 「……っつってもそれだって、慣れれば、」
 『そのつもりがあるのですか?モモカさんは、貴方がすぐにでもプーカ領を出ていくように感じておられるそうです。自分も同様に思います。そもそもお仕事でしたら、慣れるなどと悠長なことは言っていられないでしょう。協力者に同行してもらうのが定石です』
 「……」

 おいおい、俺が仕事で来てることまで喋ったのか、このピンク野郎。

 睨みつけてやると、頭の上に「?」を三つくらい浮かべて首を傾げやがった。
 ったく、とぼけたって許さねーぞ。

 「……〆切は年明けだ、そこまで急ぐ必要は」
 『毎回領土を出るたびに死に戻りしては無理だと思います』
 「……」
 『往生際が悪いですね。「 私 が 同 行 し ま す 」と言っているのです。あまり断り続けるのは、殿方の器が知れます。寧ろ殿方は、ついてこい、というべきものです』

 俺の方を向けて表示されるメッセージ、ご丁寧に太字で強調されていやがる。ブロッサムの腕に装着された腕輪アイテム、《ノティス・ウィンドウ》で表示できるこの対面向きのウインドウは、そんな器用な事まで出来るらしい。このフルダイブ環境、使うような変人なんて絶滅危惧種だろうが。

 がまあ、この場合はそんなことに感心している場合では無い。
 強調してきやがったということは、俺に逃げ場はないということだ。少なくともブロッサムは、俺が『SAO生還者(サバイバー)』だと言うことを知っていて……恐らくは、あの世界での俺の戦闘スタイルも、熟知している。

 無差別にこのことをバラされては堪らないし、もしかしたら『俺の倉庫の中』まで知られているかもしれないのだ。あのバグデータの群れが明るみに出されれば、一発でエラー検出プログラムにひっかかるだろう。そもそも今も弄らずに安置しているからまだ無事なのであって、この先も無事な保証はない……が、今ここで消去されるのは、出来れば避けたい。

 あーくそ。

 「……わーかったよ、連れてきゃいいんだろうが……ってか勝手についてきやがれ……」
 「やったー!!!」
 「なんでテメーまでついてくる前提なんだよ!?」
 『モモカさんは、この世界の随意飛行のシステムやアイテム、各地の勢力情報に詳しい方です。自分は『随意飛行』は苦手ですし、自分はこの通り周囲とのコミュニケーションが出来ませんから、彼女の同行を求めます』
 「……あーもう好きにしろや……」

 結局もう、既に俺は敗北者なのだった。情報においても、戦闘においても。

 というかそもそも、三人部屋の個室(珍しいことにここの店はレストランに個室用のブースがあった)に、女二人に連れ込まれた段階で俺に勝ち目は無かったよなあ……と、あの世界に思いを馳せる……が、もう入ってしまった後。ああ、これが「あとのまつり」、という奴か。

 ―――口は、女の方が上手い。
 ―――そして、言い出したら女は引かない。

 こいつは昔母さんが教えてくれたことだったか。
 それが今身に染みて分かった、真実だ。
 俺は今、この世の真理の一つを悟ったかもしれん。

 ……とにかく。

 三人部屋の個室に、俺のふかーいため息を響かせて。

 「あーあー。分かった、分かったから。今日は、もう落ちるから、明日な」
 「ええっ! もう落ちちゃうんですか?まだ一緒に街とか回りたいんですが……」
 『では自分も、もう落ちます』

 言うが早いか、ブロッサムがログアウトする。ここはログアウト者を自動で横の休憩テントに転送してくれるらしく、その体は自動モードで動いて取った部屋へと歩いていった。間髪いれない撤収に二人で顔を見合わせて、

 「ってか、テメー俺のことべらべら喋るなよ? 記者ってばれるといろいろ面倒なんだよ、この仕事は。テメーだって自分のリアルとかばらされたら困るだろうが……」
 「へ? シドくんの知り合いじゃないの? 私はここ数日、「体術を操る新参のプーカを知らないか」って聞き込みしてるレプラコーンがいるって聞いてね、話してみたら「同行して貰えるように交渉する」って言ってくれたからついてきたの。だからてっきりキミの知り合いだって思ってたけど……」
 「はあ? 俺の知り合いじゃ……」

 無い……はず。
 俺にネットゲームをやる様な知り合い、なんてのはSAO世界にしかいなかったはずだ。

 ……まあ、逆に言えば、SAO世界になら、いる訳だが。

 「んん? もしもーし、シドさん? どうしたんです、考え込んじゃって。落ちないんです?」
 「……あ、ああ……んじゃ、」
 「明日は九時にここに集合ですね!」

 ……しまった。思考に気を取られて、現実世界への逃亡のタイミングを逃した。
 そうして俺は、しっかりと次の約束を取り付けられてしまい、逃げるに逃げられない状況をまんまとつくられてしまったのだった。……どないせーっちゅうねん。

 
 

 
後書き
 毒舌無口っ子強化版。 
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