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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第六十四話 やっぱ父は娘には弱いよなぁ

 ギレンに話を聞いてもらい、幾分スッキリしたステリアは、自室で考え事をしていた。
 それは、先日依頼先で出会った少年のことだった。
 確かトーゴ・アカジと言っていた。
 そして、自身を異世界人と名乗る不思議な少年。
 本来なら一笑(いっしょう)に伏すのだが、そうもできない事実があった。


 それは、彼の異常なまでの強さだった。
 中でもその魔力量は、とても人間が有しているとは思えないほどのものだった。
 あの時感じた魔力量は、達人級の魔法士がたとえ一千人いたとしても足りないほどのものだった。
 修練を積めば手に入れられるといった許容量を、オーバーし過ぎていた。
 ステリア自身、今まで感じたことがある最大の魔力量を持つ生物と比べても、その存在が可愛く思えるほどだった。
 それに致命傷を一瞬で治癒した。
 あれは魔法なんかでは無かった。
 気が付けば彼の傷は塞がっていた。
 そして、Fランクのギルド登録者なのにAランクの魔物を単独で倒す力。


「それに……最後のアレ……」


 ステリアは闘悟がガルーダにトドメを与える時のことを思い出していた。
 ガルーダが放った猛火に飛び込み、それを一瞬で……。
 ハッキリ言って、あまりに一瞬のことだったので何が起きたのか理解できはしなかった。
 ただ覚えているのは、彼の姿だけだった。
 そう、それはあまりに異様な姿と思えた。


「アレは何だったの? 魔法? でもあんな魔法見たことも聞いたことも無いわ……」


 ステリアは、その力について少年に聞き忘れていたことを後悔した。
 自分と同年代に見える少年は、何もかもが桁外(けたはず)れだった。
 だけど、それ以上に興味が引いたのは、彼の人間性だった。
 あれほどの力を持ちながら、至って普通の男の子だった。
 故意に自慢したり、人を見下したりしない、変わった少年。


「あんな男もいるのね……少しギレン兄様に似てるかも……」


 クスッと笑みを溢(こぼ)して言う。
 だが次の瞬間、自分の頬が赤くなるのを感じた。
 それは自分が彼に対して言ったある言葉を思い出したからだ。
 ステリアは闘悟に対して「気に入った」と、そして自分の国に来るように要求した。
 よくもまあ、初めて会う男にそんなことを言えたもんだと今更ながらに恥ずかしくなった。
 特に気に入ったという部分を思い浮かべるだけで顔が熱くなる。


《もしかして誰か意中の相手でも見つかったのかな?》


 先程の兄の言葉が脳裏(のうり)に過ぎる。
 そしてまた熱が上がる。


「ううん! こ、これはそんなんじゃないわよ! ぜ、絶対違うんだからぁ!」


 ステリアはベッドに横になり枕に顔を埋める。


「そ、そうよ! 気に入ったって言ったのは、アイツの実力なんだから!」


 そう思い闘悟の顔を思い浮かべる。


「でも……あの黒い目……綺麗だったなぁ……」


 しばらくぼ~っとしていたステリアは、体を起こして何かを決めたように頷く。


「よし! やっぱり決めたわ!」


 そう言うと足早に父であるブラスを探しに行った。
 ブラスは一人で書斎(しょさい)にいた。


「おおステリア、どうしたんだ?」
「お父様、お願いがあるの!」
「お願い?」


 するとブラスは眉間にしわを寄せる。
 少し嫌な予感を感じたからだ。


「まさか、また依頼を受けるとか言うのかい?」


 不安そうに聞いてくるが、ステリアは首を横に振る。


「ううん、違うわ」
「違う? じゃあ何だい?」


 ブラスは違うと聞き、少しホッとした。


「お父様って『ヴェルーナ魔武大会』を観戦しに行くのよね?」
「うむ。毎年各国の代表がグレイハーツ国王に呼ばれているからね。まあ、王直々行くのは私ぐらいだが」
「今年ももちろん行くわよね?」
「ああ、通達(つうたつ)も来ているしね。今年は参加者数が多く、盛大な大会になるそうだから、楽しみだよ」


 ブラスは口元を綻(ほころ)ばせ、顎髭(あごひげ)を触りながら言う。


「それがどうかしたのかい?」
「アタシも連れてって!」
「ええ!?」


 ステリアの願いとは、もう少しで開催される『ヴェルーナ魔武大会』の観戦に同行することだった。
 突然の娘からの願いに戸惑う。


「本当は出場したいけど、そこまで我(わ)が儘(まま)は言わないわ! だからお願い!」
「むぅ……」


 ブラスは困ったように唸(うな)る。
 先程ステリア自身、母親であるメアリスに外出の件で注意を受けたばかりなのだ。
 それなのに、また外出となったら面倒なことになりかねないとブラスは感じていた。
 正直に言えば、自分も可愛い一人娘を外に出すのはいい気分ではない。
 できれば、他国の王女のように慎(つつ)ましやかに過ごしてもらいたいと思っている。
 だが、娘の真剣さを感じ取り、ブラスはある条件を出すことで許可することにした。


「条件がある」
「何でも聞くわ」
「一つ、私の言うことは必ず聞くこと」
「ええ」
「一つ、道中(どうちゅう)危険なことが起きたら、すぐに引き返すこと」
「……ええ」
「そして最後に、依頼を受けるなとは言わない。だが、せめてこれからは、私にだけでも、どんな依頼を受けるのかを報告すること。それを守れるかい?」
「…………分かったわ」


 ステリアは歯噛(はが)みしながら、泣く泣くその条件を飲むことにした。
 ブラスは軽く頷く。


「よし、それなら連れて行ってあげよう」
「あ、ありがとうお父様!」


 了承を得られたことがとても嬉しかったので、ステリアは満面の笑顔で父に抱きつく。


「ははは、今年はギレンも行くそうだから、詳細はギレンに聞きなさい。準備は早目にな」
「はい!」


 ステリアは楽しみで胸一杯だった。
 またあの変な少年に会える。
 それがこんなにも楽しみだとは思わなかったが、待ち遠しくて仕方が無かった。
 自室に帰ったステリアは窓からグレイハーツの方向に視線と指を突きつける。


「待ってなさいよトーゴ・アカジ! 今度こそこの国に連れ帰ってやるんだから!」


 期待と願望を胸に宣言する。

 
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