形而下の神々
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10日間の小さな行軍記
行軍1日目
「よろしくね、シュナウド君」
とりあえず挨拶をする。
「…………」
って無視かよ!!
いや、これが普通なのかも知れない。俺以外、グランシェすらも奴隷の子とは一切会話してない。
まぁ職務中だしね。
仕方ないので全体の行軍に併せてシュナウドの隣を黙々と歩く。
とは言っても行軍なんて形でだけで、皆が皆、思い思いのペースで進んでいる。結局は一日の終わりに本日の進むべきノルマをクリアすればいいのだから、基本は自由みたいなのだ。
隊列なんかを組んでみたりする割にはその辺が何となくお粗末な気もするが、きっとそれがこの世界での普通なのだろう。
ただ、やはり最低限自分に割り当てられた奴隷とは一緒に歩くのがルールだ。当たり前だけどね。
と、俺はシュナウドの方をチラッと見る。ヤツは相変わらずこちらには見向きもしないで前だけを見ていた。
見た目的には15歳くらいだろうか。綺麗な金の短髪をしていて少し小柄だ。
しかし何気に貫禄的なオーラを感じてしまうのは、この子がそれなりに死線を潜り抜けてきた証しだろう。
しかもこいつ、奴隷なのに思いっきり武器を携帯してる。
「変な武器だね」
黙々と歩いていると何だかいたたまれなくなり、たまらず隣のシュナウドに話しかける。
「……変じゃない。使いやすい」
おっ、反応アリだ。
もしかしてこの子、武器持ちだし戦闘奴隷とか言うヤツか?
ちなみにシュナウドの武器はちょうどピーター・パンに出て来るフック船長の腕に付いてるフックみたいなヤツだ。
それを両手に持つのか、2本携帯してる。
「でも、使いにくそうだ」
「傭兵さんの短剣と、どっちの方が使い易いか。試させてやろうか?」
言いながらシュナウドは軽く武器を抜いてこちらに構えてきた。
「……遠慮しときます」
シュナウドはフックに掛けた手を離し、少し笑って前を向く。
そして、また沈黙が降り注ぐ。
俺は沈黙が苦手なんだ。 何というか、どんな顔をしておけば良いのか判らなくなる。
いや、無表情で良いんだろうけどさぁ。無表情って、なんか嫌い。
しかし、結局それからシュナウドは一言も話さなかった。
途中で馬車が石に引っ掛かり、多少の騒ぎがあったが、そんな事以外は何も起きなかったし、騒ぎの中でもシュナウドは一人落ち着いて黙々と自分の荷物だけを綺麗に整えていた。
シュナウドはやはり食事の時も何も話さない。それがマナーなのかもしれないけど。
ちなみに飯は奴隷も傭兵も同じ物を食うらしく、食料の馬車に向かうと2人分の塩辛い干し肉とパンを渡され、夕食は同じ様に干し肉とパンと、そこに味の薄いスープが付いていた。
スープは冷製……と言えば聞こえは良いがただの冷めたスープにしか感じなかったが、干し肉と一緒に食べると妙にくせになる塩味が出て、何となく美味しくいただけました。
奴隷と傭兵は同じ物を食すがマスターとかは違うらしく、マストルの野郎は夕食時はワインを煽ってやがった。
自分でチーズやらを持参してる傭兵を見かけたのでやはり持ち物は自由らしいが、それでも酒類はモラルに反するらしい。
まぁ、お仕事中だもんね。
その夜、俺とグランシェは寝袋に包まり、心地好い睡魔に襲われつつも少し会話をした。
「なぁ、奴隷の子供達、どう思う?」
「ユイって子は無愛想だったよ。可愛らしいのに勿体ない」
シュナウドも無愛想だったな。子供らしくないというか、子供である前に奴隷ですって感じがして何だか気が滅入る。
が、俺が聞きたかったのはそう言う事ではないんだよ。
「いや、そういうんじゃなくて、武器とか持ってるし」
寝首を掻かれたりはしないだろうけど、もしシュナウドと戦えば多分俺はあの子に殺される。
日本ではまさに「平和ボケ」と称される程に安全だったし、アメリカでも常に銃を持ってるヤツなんてそう居ないし、やたらめったら発砲なんてとんでもない話だ。
だから、やはり隣に武器を携帯してる人間が居ると落ち着かんのだ。とか言う俺も短剣を持ってるのだが。
その時グランシェがいきなり話題を振ってきた。
「タイチは聞かなかったのか?奴隷の仕組みについて」
「奴隷の仕組み?」
俺はオウム返しに聞き返す。
「俺はユイちゃんに聞いてきたぞ。奴隷はどういうモノなのかをな」
「逆に奴隷本人にそんな事よく聞けたな」
この野郎、なんてデリカシーのない奴だ。
「じゃあタイチには教えない」
「ごめんなさい教えて下さい」
俺が謝ると、普通に話し出した。分かってはいたが、やはり別段気にはしてないみたい。
「奴隷になるには量産式の神器が要るんだとさ。その神器は『騎士の誓い』という神器で、剣の形をしてるらしい」
「騎士の誓いで奴隷を作るとか、中々ふざけた設定だね」
全然騎士じゃないだろ。
「まぁ『騎士の誓い』の能力が奴隷作りに最適だったらしいよ」
「ほぉ、どういう能力?」
聞くと、グランシェは少し考えてから口を開いた。
「Aさんという人が居ます」
と、突然グランシェが例え話を始めだす。
「Aさんは『騎士の誓い』を自分で自分の胸にブッ刺しました。しかし『騎士の誓い』を胸に刺しても、Aさんは無傷です。しかもその後すぐに、Aさんの口から真っ赤な宝石が出て来ます。
その真っ赤な宝石が誓いの証。その宝石の持ち主がAさんに死ねと思うだけで、Aさんは心臓が爆発して死んでしまうのです」
「……なるほどね」
要するに、神器『騎士の誓い』を胸に刺すと口から石を吐き出す。
その吐き出した石を誰か、すなわち奴隷の持ち主に渡せば、その奴隷の持ち主さんが奴隷に対して「死ね」と思うだけで奴隷は息を引き取ると。
なんとも恐ろしい神器だな。しかも死因が「心臓爆発」だなんてなんと恐ろしい。
「じゃあここの子供達はみんな自分で『騎士の誓い』を胸に刺したのか?」
「まぁそういう事になるんじゃない?」
グランシェは、さも興味なさ気に返す。
「多分、あのマストルとかいう爺さんが12人分の宝石を持ってるんだろうよ」
と、さらにグランシェは続けた。
「そりゃあ手枷も要らないし武器の携帯も自由だな。死ねと思うだけで殺せるんだもんな」
奴隷主にしてみりゃ、こんなに便利な神器は無いだろうな。奴隷解放なんて事、この世では起こせないかのも。
リンカーンもお手上げかねこれは。
ちなみにその奴隷の子供達は今、火を焚いて順番に見張りをしている。
夜間は奴隷が交代で見張りをするのだそうだ。まぁ見張りなら戦闘経験は要らないもんね。
傭兵もゆっくり休めるし、マストルにしてみりゃ一石二鳥ってトコなんだろう。当のマストルは休んでばっかだけど。
「なぁグランシェ、あのマストルとかいう爺さん、どう思う?」
「………………」
……返事が無い。グランシェは寝息も立てずに静かに眠っていた。
仕方ないのでヤツの寝相に殺されないよう祈りながら俺も目をつむる。どちらかと言えばグランシェに見張りを付けてほしいくらいです。
その夜、俺の悲鳴に傭兵達が飛び起きてブチギレられたエピソードは、永遠の秘密である。
行軍1日目
残り傭兵30名。
残り奴隷12名。
後書き
やっと始まりました、アロン街道行軍編!
ここが最初のタイチとグランシェのファンタジーになります。たった10日足らずの旅路ですが、この旅が今後の彼らの運命を大きく左右して行く大切なお話です。
伏線も、分かりやすいモノからいつ回収するのか分からないものまで、色々とばらまいて行きますので今後もどうか続けてご愛読くださいませ!
──2013年05月30日、記。
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