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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第六十話 カイバって……M?

「ははは! こってり絞られたみたいだなトーゴ!」


 愉快そうに笑うのは、ネコミミ男子ことカイバだ。


「うるせえな」
「ま、仕方無いだろ? それがヘタレラブマシーンの務めだからな」
「誰がヘタレラブマシーンだ!」
「はっはっは! ところで今回の大会のこと聞いたか?」
「いきなり話題変えやがったな……まあいいけど。んで? 大会のことって?」
「どうやら全学年の全ルームリーダーが参加するらしいぞ」


 ルームリーダーというのは、そのルームの中で一番の実力者が担う役目だと聞いている。
 闘悟と闘った貴族のリューイも、ルームリーダーの一人だ。


「つうことは……ルームが一学年で五ルームあって、六年制だから……」
「三十人だな」


 闘悟の疑問にカイバが答えた。
 どうやら掛け算はできるみたいだ。
 感心感心。


「おいトーゴ。お前今バカにしなかったか?」
「そんなことはないよカイバカくん」
「誰だよカイバカって! 俺はカイバだ!」


 う~ん、でも三十人か……どんな奴が参加するんだろうな……?
 そんなことを考えてると、カイバが闘悟の思考に気づいて口を開く。


「お? 誰が参加するか気になるか?」
「知ってんのか?」
「そりゃあな。有名な奴は覚えてるぞ。教えてやろうか?」
「ああ」
「まずは六学年第一ルーム『オネスト』のルームリーダーは……」


 ひとしきりカイバに名前と特徴を教えてはもらったが、三十人分を一気に覚えることは無理だった。
 とりあえず、カイバが注目している人物を重点的に教えてもらったが、話に聞いても実際に会ってはいないからピンと来るのは、リューイだけだった。


「ん? そういや、オレ達のルームリーダーって誰だ?」


 闘悟は今更ながら浮かんだ疑問をカイバに投げかける。


「は? お前知らなかったのか?」
「一体誰なんだ?」
「ほれ」


 そうやってカイバが指を差したのはミラニだった。
 あ、だよね。
 だって団長なんだもん。


「ものすげえ納得……ところでカイバは出るのか?」
「おう! オレだって将来は魔法騎士団に入るつもりだしな!」
「は? そうなのか?」
「おうよ!」


 驚いた……まさか、カイバがミラニの下につきたいと思っているとは考えつかなかった。
 奴は余程のMと見え……。


「Mじゃないからな?」


 カイバが心を読んだかのように突っ込んでくる。
 いや~あの激鬼(げきおに)のミラニさんの下についてやっていこうと思うなんて、どう考えてもM属性としか思えねえぞ。
 それだけ、ミラニの兵士のしごき方は半端無い。
 よく兵士達に愚痴(ぐち)を聞かされている闘悟はそのことをよく理解している。


「……ま、いいや。ヒナやメイムは?」
「ヒナは……でない……よ」


 うん、その方がいい。
 玉のような肌に傷がついたら大変だ。
 もしヒナに傷をつけようものなら、オレの全魔力で爆散させてやる。


「アタシ? アタシは出ちゃうよ! こう見えてもギルド登録してるからね~」
「俺もな」


 メイムとカイバが二人してギルドカードを見せてきた。
 二人ともランクはDだ。


「へぇ、お前らもそうなんだ」
「お前らもってトーゴもか?」
「おう、二週間ぐらい前に登録したぞ」


 そう言って、同じようにギルドカードを見せる。


「「……え?」」


 二人揃って首を傾げる。
 闘悟のカードを凝視したままで動かない。


「どうした?」
「ど……」
「ど?」
「ど、どうしたじゃねえよ! 何でランクが、ランクが!」


 カイバがカードを指差しながら顔を真っ赤にしている。


「おいおい、どうしたんだよカイバカ?」
「だからカイバカって言うんじゃねえぇぇぇっ!!!」


 カイバだけでなく、メイムも闘悟のカードを見て驚愕の表情をしている。


「メイムもどうしたんだ?」
「あ、あのさトーゴくん?」
「ん?」
「登録したのって二週間くらい前だよね?」
「ああ」
「ふ、普通はね、ランクが上がるには、それ相応の依頼をこなして、査定(さてい)を受けなきゃなんないの」
「そうみてえだな」
「アタシだって、ううん、他の人達だって、一ランク上に上がるには、一年くらい掛かるんだよね。上のランクならもっと掛かるけど……」
「ほぅ」
「もう、言いたいこと分かるよね?」


 まあな。
 オレは驚かせるためにカードを提示したようなもんだしな。


「何で……」


 メイムが静かに口を開く。


「何で……Bランクなのかな?」


 そう。
 闘悟のギルドランクはBランクになっていた。


「ああ、それはだな。立て続けにAランクの依頼を達成したからだな」
「ちょっと待てぃっ!!!」


 カイバが割り込んでくる。


「何だよネコミミ?」
「いやネコミミだけども! てかそんなことはどうでもいい! おいトーゴ! どうやったら立て続けにAランクの依頼が受けられるってんだ?」


 普通、依頼を受けられるランクは、自身のランクとギルドの判断に任せられる。
 通常はFランクならどんな好成績の者でも、Eランクがやっとである。
 上位ランクはそれだけ危険度が高いのだ。
 たとえ、Dランクになったとしても、受けられる依頼ランクは同じDランクだ。
 ギルドの信用を得て、初めてその上のCランクを受けさせてもらえる。
 そうして、何度もギルド側から上位ランクの指名を受けて、その成績が著(いちじる)しいものならランクが上がる。
 だが、それは途方も無い時間が掛かる。


 メイムの言うように、一つ上のランクに上がるにも、一年費やすのは普通のことだ。
 特にDから上はもっと掛かる。
 ギルドの信頼と実績、実力が伴わなければまずBランクにはなれない。
 だが闘悟は登録して二週間。
 彼のランクは、それこそ異常というより異端だった。
 まるで常識を無視しているというより、最初から闘悟はルールの上を走っていないように感じた。
 常人が必死になりルールの上を這いつくばっているのを尻目に、闘悟はその上空を気持ち良く飛んでいる感じだ。
 二人に詰め寄られ、闘悟は仕方無く、ここ二週間の出来事を話した。
 そして、彼らが結論付けたことは一つだった。


「まあ、トーゴだから仕方無いか」


 これだけだった。
 そう、彼らはトーゴのやることをいちいち気にするのを放棄したのだ。
 ここ二週間で闘悟はAランクの討伐依頼を受け続けた。
 もちろん、受ける時はギルドマスターであるジュネイの了承をもらった。
 最初は不安になっていた受付嬢のアンシーも、無傷で依頼達成する闘悟の姿を何度も見て、今では行く度に


「Aランクですか? それともSランクですか?」


 と聞いてくる。
 彼女も強くなったものだ。
 闘悟はSランクを受けてみたかったが、ほとんどが遠出の依頼だったので、学園がある闘悟にとって、それはナンセンスだった。
 いつか、長い休みができたら受けてみようと考えている。

 
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