DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-24乙女の想い
宿に戻り、各自の部屋に散る。
ブライが部屋に戻ると、クリフトは起き上がり、荷物の整理などをしていた。
「クリフト。寝ておらねば駄目ではないか」
「ブライ様。すっかり良くなって、寝ているほうが辛いのです。診に来てくださった神父様にも、お墨付きを頂きましたから」
「神父殿が。それは良かった。しかし、くれぐれも無理はするで無いぞ。少しでも疲れたら、すぐに休むようにの」
「はい。私もぶり返して、皆さんにご迷惑はおかけしたくありませんから。気を付けます」
「うむ。ならば、良い」
昼食を取るため、食堂に集まる。
クリフトの姿を認め、アリーナが声をかける。
「クリフト。もういいのか」
「はい。すっかり、良くなりました。ご心配おかけしました」
「神父殿のお墨付きも出たそうですじゃ」
「そうか。それなら、ひとまずは安心だな」
「まあまあ。お顔の色も、すっかりよくなって。よかったですわ。」
「まだ、戦闘に出ていただくわけにはいきませんが。これなら、移動は問題なさそうですね」
「はい。お世話おかけします」
「手なら、足りてるからな。気にすんな」
「ありがとうございます」
「クリフト。元気になって、よかったね」
「ええ。皆さんのお蔭ですわ」
仲間たちがひと通り声をかけ終わったところで、トルネコが切り出す。
「そうそう。クリフトさんかブライさんに、お渡ししたいものがあったのよ。女性用の頭防具の、金の髪飾りなんですけれど。この町でも売っているけれど、お持ちではありませんわよね?」
「うむ。この町に着いてすぐ、クリフトが倒れたでの。買い物どころでは無かったからのう」
「申し訳ありません……」
「責めておるのでは無いから、いちいち謝らずとも良い。トルネコ殿、それはどのような物じゃ?」
「これですわ。」
トルネコが、金の髪飾りを差し出す。
「まあ、素敵ですわ」
「ふむ。やはり、わしにはどうにも若すぎるの。クリフト、使うが良かろう」
「良いのですか?」
「守備力を考えれば、着けても良いのじゃろうが。あまり年甲斐の無い真似も、したくは無いでな」
「それなら、落ち着いたデザインの物も、お店にはあったようですから。あとで、見に行きませんこと?」
「ふむ。そうするかの」
「それでは、これは私が使わせていただきますね。ありがとうございます、トルネコさん」
「いえいえ、これは、他のみなさんが手に入れられたものですの。お礼なら、みなさんに言ってくださいな。」
「そうだったのですね。皆さん、ありがとうございます」
「いいえ。無駄にならなくて、よかったです」
「うん。クリフトに、きっと似合うね」
二つ目の金の髪飾りの行き先が決まり、安堵する少女。
トルネコが、話を続ける。
「それから、パデキアの種があった洞窟に、いい防具があったのですけれど。安らぎのローブと言って、戦闘中に眠らされたときに特に身を守ってくれる、魔法の服ですわ。これも、ブライさんかクリフトさんに、どうかしら。」
「他の者は、装備出来ぬのか?」
「できないことは、ありませんけれど。裾の長い服だから、前衛向きではありませんのよ。」
「マーニャ殿は、どうじゃ」
「舞台衣裳で慣れてるから、動けねえこたあねえが。戦闘中に、進んで着たいもんでもねえな。身軽さが身上なんでな」
「私も前衛に出ることがありますので、ブライ様にお使い頂くのが良いのではないでしょうか」
「ふむ。そう言うことであれば、使わせて貰うとするかの」
「では、あとでお部屋にお持ちしますわね。」
「うむ。すまぬな」
装備の割り振りと買い物の予定を話し合う女性たちに、マーニャが言う。
「午後は、ばあさんたちは買い物か。なら今日の講義は、終いだな」
「詰め込み過ぎも、良くないでな。当面必要なものは、覚えられたでの。元々、午後は続けるつもりは無かったがのう」
「まあ。午前中だけで、新しい呪文を覚えられたのですか?すごいですわ」
驚くクリフトに、ミネアが言う。
「ほとんど、知っている呪文の上位のものでしたから。ブライさんの教え方もお上手だったので、なんとか」
「ミネアさんは、何を覚えられたのですか?」
「ミネア殿。わかっておるの?」
ブライが口を挟み、釘を刺す。
「はい。今日は、ベホマ、ラリホーマ、バギマと、あとひとつを」
他人の目があるため、ザオラルの習得をミネアは濁し、クリフトも察してそこには触れない。
「まあ、ベホマを。やはり経験を積まれている分、魔力がお高いのですね。私も勉強はしてあるのですけど、まだ使うことはできなくて。それにラリホーとバギは、私には素質の無いものですから。羨ましいですわ」
「お主には、別の適性があるじゃろう。お主とて、得難い才の持ち主なのじゃ。経験も、これから積んでゆけば良い。焦るで無いぞ」
「はい。私は、私の出来ること、ですね」
「うむ。」
マーニャが話を変える。
「さて。午後は暇なら、ひと稼ぎしてくるか。ミネア、付き合えよ」
「外では、ヒルタン老人の講義があるだろう?邪魔にならないかな」
「あー。んなもんも、あったな」
「お昼の休憩が、長いそうですから。午後の講義が始まる前なら、大丈夫なはずですわ。この町はまるごとヒルタンさんの所有のようなものですから、広場の使用許可は、宿で取ればいいですわね。」
「おお、さすが姐御だな。よく押さえてるぜ」
「ホフマンさんと、お話を聞きましたからね。」
「マーニャ、踊るのね」
「おう。来るか?」
「うん!」
「マーニャは、芸人と言っていたが。踊りをやるのか。道理で、動きが良いと思った。戦いの身のこなしの参考になりそうだな、俺も行こう」
「そういえば、あたしも見たことはありませんわね。ブライさん、お買い物の前に、見に行ってもいいかしら。」
「うむ。わしも、興味があるでの。そうしましょうぞ」
「では、私もお供いたしますわ」
「なんだ、結局全員か。ま、賑やかしになっていいな。じゃ、食って少し休んだら、行くぞ」
昼食後の食休みを取り、広場の使用許可を受けて、一行は町に出る。
講義の行われる場所には僅かながら人が残っているが、事情を話せば快く、むしろ娯楽を楽しみに、喜んで場所を譲られる。
宿からも話を聞きつけて来た客が集まり、人集りが更に人を呼んで、始まる前から盛況となる。
「宣伝もしねえのに、随分集まったな。ま、好都合だ」
「それじゃ、始めようか」
「おう」
いつものようにミネアが笛を吹き、曲に合わせてマーニャが舞う。
少女やトルネコ、町の者たちはもとより、城に出入りする踊りの巧者たちで目が肥えているはずのアリーナたちも、吸い寄せられるように見入る。
囃し立てることも忘れたように踊りを、その挙動のひとつひとつまでを、息を詰めて見つめていた観衆が、曲が終わると共に歓声を上げ、おひねりを投げ込み、再演を熱望する。
講義までまだ時間があることを確認し、別の曲で別の舞いを行い、更なる喝采を浴びて、大好評のうちに興行を終える。
「マーニャ殿が、このような素晴らしい踊り手であったとは!天は、二物も三物も与えるものじゃな!」
「ありがとよ。こっちが、本業だからな」
「あんなにすてきなものを、今まで見なかっただなんて!なんてことかしら!」
「姐御が故郷に戻ってたときに踊ってたんでな。悪かったな」
「本当に、素晴らしかったですわ!国王陛下の御前で舞われる方々でも、ここまでのものではありませんでした!」
「クリフトでも、そんなんなるんだな」
「素晴らしい身のこなしだったな!ますます、手合わせがしてみたくなった!」
「しねえっつってんだろ」
「やっぱり、マーニャは、すごいね!」
「……なんか、嬢ちゃんだと落ち着くな。小せえからか?」
アリーナと女性たちが詰め寄る様から目を逸らし、マーニャは少女の頭を撫でる。
「……わたし。小さい、かな?」
「大人に比べりゃ、小せえな」
「……そう、よね」
「なんだ?気にしてんのか」
「……どう、かな?」
「わからねえのか」
「小さいと、強くなれないと思ってたから。強くなれれば、小さくてもいい、のかも」
「いいんじゃねえか。ガキなんだし、落ち着くしな」
「うん」
盛り上がったり和んだり、忙しい仲間たちを眺めながら、ミネアが呟く。
「二物に三物か。確かに、そうだけど。代わりに失ってるものが、大きいからなあ……」
「あ?なんか、言ったか?」
「言ったけど、もういいよ。無い物ねだりをしても、仕方ない」
「なんか知らねえが、いいってんならいいな。姐御にばあさんは、買い物はいいのか?店が閉まるぜ」
興奮していた女性陣が、我に返る。
「あら、いけない。そうね、早く行かないと。選ぶ時間が、なくなっちゃうわね。ブライさん、まいりましょう。」
「うむ、そうじゃな。長く使う物じゃ、しっかり選ばねば」
「私も、お供いたします」
「ユウちゃんも、行きましょう?」
「うん、行く」
「んじゃ、オレらは宿に帰るか」
「そうだね」
「マーニャ!時間があるなら、手合わせを」
「しねえ」
トルネコとブライは商店街に向かって歩き出し、クリフトと少女も続く。
なんとか手合わせを承諾させようとマーニャに纏わりつくアリーナを目にして、クリフトは嬉しそうに微笑んでいる。
少女が問う。
「クリフト。なにか、いいことがあったの?」
「はい。アリーナ様が、お楽しそうで。良かったですわ」
「そうなの。アリーナは、いつも楽しそうに見えたけど。戦いのときも、手合わせのときも。積み荷を運んでたときも」
「ユウさんは、アリーナ様と手合わせをされたのでしたね。魔物と戦うことも、家臣では無い方と手合わせをされることも、積み荷を運ぶといった雑用に参加されることも、あのように邪険になさる方と交流されることも。どれも、お城におられる間は、お出来にならなかったことですから。外に出られてからのアリーナ様は、本当にお楽しそうで。良かったですわ」
「そうなのね。わたしも、外に出てから知ったことが、たくさんあるけど。アリーナも、そうなのね」
「はい。私も、外に出てから学んだことが、沢山ありますわ」
「クリフトは、アリーナが、好きなのね」
「ええっ!?」
少女の発言に、クリフトが驚き、慌てふためく。
「そ、それは!勿論、家臣として、お慕いはしておりますけど!す、好き……などと!断じてそのような、分不相応なことは」
突然様子の変わったクリフトに、きょとんとする少女。
「クリフト?」
「そ、それに私は、神に仕える身でもありますし!神の花嫁たるシスターとは違い、婚姻も許されるとは言え、このような未熟な身で、色恋などとそのような」
「……よく、わからないけど。したうっていうのは、好きとは違うの?」
「……え?……そうですね、好き、と言うことも、出来ますね。そうですか、そういう意味ですか」
動揺から一転、脱力するクリフト。
話を続ける少女。
「そう。好きなのね。だから、一緒に旅をしているの?」
クリフトも、気を取り直して答える。
「はい。アリーナ様は、当初はひとり旅をご希望でしたが。おひとりで旅にお出しするわけには参りませんし、居心地の良い城を離れて旅に出たがる者も、多くはありませんし。それならば私がお供して、少しでも楽しい旅に出来ればと。今もその想いは変わりませんが、状況は厳しくなりましたので。加えて、身命を賭してもお仕えしようと、思っております」
「そう。アリーナは、幸せね」
少女の言葉に、クリフトが一瞬考え、躊躇いがちに返す。
「そう、でしょうか」
「うん。辛いことも、あったと思うけど。今、自分を想ってくれる人たちと、いられるのは。幸せだと、思う。わたしも、そうだから」
「……ユウさんは、今、お幸せなんですね」
「うん。悲しいことは、あったけど。それが、なければよかったとも、思うけど。今、みんなといられるのは。幸せだと、思う」
「そうなのですね。それは、本当に良かったですわ」
「でも、クリフトが死んじゃったら、アリーナは悲しいと思うから。死なないで、ね」
「はい。死んでしまっては、もうお仕えすることも出来ませんから。勿論ですわ」
ふたりの前を歩くトルネコが、ブライに囁く。
「まあ、まあ。クリフトさんは、そうなんですのね?」
「うむ。王子はどうも、そういったことにご関心が薄いようでな。少しでも良い影響があればと、思うておったのじゃが。クリフトは能力も人柄も問題無いゆえ、そうなっても悪くは無いと、思うておるのじゃが。なかなか、上手くはゆかぬのう」
「あら、まあ。あたしも、なにかご協力したほうが、いいかしら。」
「いや。その気にならぬうちから、無理に事を押し進めては、却ってお心を遠ざけよう。王子のお相手が、クリフトでなければならぬことも、無いしの。今は、見守るが良かろうて」
「そうですわね。自然の成り行きにまかせたほうが、いいですわね。」
女性たちは商店街にたどり着き、防具屋でブライの金の髪飾りを選ぶ。
「ふむ。思った以上に、品揃えが良いの」
「ブライさん、これなんかいかがかしら。」
「ふむ。悪くないの」
「こちらも、お似合いになると思いますわ」
「ふむ。それも良いの」
「おばあちゃん、これは?」
「わしには、若すぎるかの。ユウちゃんやクリフトにならば、良いと思うがの。もう少し、落ち着いた物が良いのじゃよ」
「そうなのね。じゃあ、これは?」
「おお!これは、良いの!」
「まあ、ほんとね。どこにあったのかしら、気付かなかったわ。」
「本当ですね。ブライ様の知的な雰囲気に、よくお似合いになりますわ」
「安らぎのローブにも、合いそうですわね。」
「うん。おばあちゃんが、あれを着るって言ってたから」
「ふむ、そうか。他の装備品との兼ね合いを考えるとは。ユウちゃん、趣味が良いの。では、これにしようかの」
「では、ご主人。これを、お願いしますわ。」
「トルネコ殿。支払いは、自分でするでな」
「いいえ。装備品の代金と宿泊費に食事代は、一行の財布から出すことで、ミネアさんともお話ししてありますの。その代わりに、戦利品は一旦あたしのほうで預からせていただいて、各自の裁量で使えるお金は、あとであたしからお渡しすることになりますけれど。今お持ちのお金は、その分として取っておいてくださいな。」
「そうであったか。ならば、お願いするかの」
「ときどき、ミネアさんには収支報告をすることにしていますから。ブライさんも、ご参加くださいね。」
「うむ」
支払いを済ませ、金の髪飾りを受け取る。
「さて、次は。ユウちゃんの服を、買いに行きましょう。」
「わたしの?服なら、あるから。いらない」
「あら、だめよ!洗い替えの一枚があるくらいでは、持っているうちに入らないわ!お母さまが縫われた一枚はいいとしても、間に合わせで買ったほうは、なんというか質素すぎるし。せっかく若くて可愛いんだから、可愛い服を着ないと!」
「なんと!それは、いかんの!旅の途中であまり荷物も増やせぬとは言え、だからこそ厳選した物を持たねばの!」
「馬車も船もあるということですから、服が多少増えたくらいなら、困ることも無いでしょう。ユウさんなら、可愛らしい服が似合いそうですね。選び甲斐がありますわ」
「え。あの」
「下着も、揃えましょうね!」
「この町ならば、品揃えが良いからの。この機会を逃す手は無いでな」
「さあ、ユウさん。参りましょうか」
戸惑う少女は女性たちに服屋に連行され、さんざん着せ替えを楽しまれた後に、早い段階で目を付けていた好みの服を選び出し、女性たちも納得のもと、新しい服を買い揃えた。
更に、小遣いで新しい本を買い足し、買い物を終えて宿に戻る。
後書き
神に仕える乙女を迎えて、華やぎを増す一行。
他方、男たちも、親交を深める。
次回、『5-25王子と踊り手』。
8/17(土)午前5:00更新。
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