ハイスクールD×D ~銀白の剣士~
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第8話
Side 渚
僕たちは今、堕天使たちへの対応を話し合っている
「もう、カチコミでいいんじゃないですか? はぐれ悪魔祓いがいるし堕天使もいるってことは教会には関係なんだから大丈夫でしょう。堕天使も一部が勝手にやってるみたいですし」
「・・・・・・・ナギ、あなたの顔でカチコミというのは、すさまじく違和感があるわね」
僕の提案にリアス先輩が答える。顔は関係ないだろう、顔は。おい、みんなうなずくな。
「それより、ナギはなぜそのシスターをさらったの?」
「さらったって言うのは、人聞き悪いですね。保護ですよ、保護」
肩をすくめながら言う。まったくもって、遺憾だ。
「まあ、アーシアさんが神父に逆らって兄さんを庇ったので、お返しと言うわけではありませんが、あの神父から助け出した・・・・・という感じです。それに、彼女を見る限り堕天使に利用されようとしてる気がしたので」
「渚の言うとおりです部長。あの神父は堕天使に殺さないように言われていたみたいです。そう言っていました」
兄さんが補足してくれる。
「お願いです、部長! アーシアを保護させてください!」
「・・・・・・・あなた、教会から追放されたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アーシアさんは、静かにうなずいて話し始めた。
Side out
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Side 一誠
部長の質問にアーシアはうなずいて語り始めた。それは「聖女」として祭られた少女の末路。
ヨーロッパのとある地方で生まれた少女は、生まれてすぐに両親から捨てられた。捨てられた場所は教会兼孤児院。
そこで、他の孤児たちと一緒にシスターに育てられる。
子供の頃から、信仰深く育てられた少女に力が宿ったのは、八歳の時。
偶然、負傷した子犬の怪我を不思議な力で治療したところを、カトリック教会の関係者に見られたらしい。
それから、少女の生活は一変した。
少女は、カトリック教会の本部に連れて行かれ、治癒の力を宿した「聖女」として、担ぎ出された。
訪れる信者に祝福と称して、体の悪いところを治療する。これは噂となりあっという間に広がった。
噂は噂を呼び、少女は多くの信者から「聖女」として崇められた。
少女の意志とは関係なしに。
だが、待遇に不満などなかった。教会の関係者はよくしてくれるし、怪我をした人を治療するのも彼女は嫌いではなかった。
逆に、自分の力が役に立つのがうれしかった。
神様に授けられたこの力に彼女は感謝した。
だけど、彼女は少しだけ寂しかった。
少女には心を許せる友人が一人もいなかったのである。誰もが優しくしてくれる。大事にしてくれる。だが、誰も彼女の友達にはなってはくれなかった。
彼女は理解していた。
彼らが裏で、自分の力を異質ものを見る目で見ていたことに。
彼らは彼女を、人間ではなく「人を治療できる生き物」のような感じで少女を見ていた。
そして、ある日、転機が訪れる。
少女はたまたま自分の近くに現れた悪魔を治療してしまった。
怪我をしていた悪魔を見捨てられなかっただけ。彼女の優しさだった。
怪我をしているなら悪魔といえど、治療しなくてはならない。
ただ、彼女の生来の優しさがそうさせたのだ。
しかし、それが彼女の人生を反転させた。
その光景を、偶然見ていた教会関係者の一人が、それを本部に報告した。
本部の司祭は、その事実に驚愕した。
「悪魔を治療できる力だと!?」
「そんな、バカなことがあるはずない!」
「治癒の力は、神の加護を受けた者にしか効果を及ぼせないはずだ!」
そう、治癒の力を持った者は世界各地にいた。
しかし、悪魔を治療する力は規格外だった。治癒の力は悪魔と堕天使には効果がないと言うのが教会内部で認知されていたからだ。
そういう事例は過去にもあったらしい。
神の加護を受けない悪魔、そして堕天使さえも治療できる力。しかし、それは「魔女」の力として恐れられていた。
そして、教会の司祭たちは少女を異端視するようになる。
「悪魔を癒す魔女め!」
聖女として、崇められていた少女は、悪魔を治療できるというだけで今度は「魔女」の烙印を押され、教会から恐れられ、呆気なくカトリックから捨てられた。
行き場のなくなった少女を拾ったのは極東にある「はぐれ悪魔祓い」の組織。
つまり、堕天使の加護を受けなくてはいけなくなった。
少女は、間違っても神への祈りを一度たりとも忘れたことなどない。感謝も忘れたことなどなかった。
なのに、彼女は捨てられた。
少女が一番ショックだったのは、教会内で誰も自分を庇ってくれる人がいなかったこと。少女の味方は誰一人としていなかった。
「・・・・・・・・・・きっと、私の祈りが足りなかったのです。ほら、私抜けているところがありますから」
アーシアは笑いながら、涙を拭う。言葉が通じない渚は、木場に通訳してもらっていたらしい。
部員の誰もが声をかけられなかった。想像を絶する彼女の過去を知り、どうやって声をかけたらいいのかわからない。
「これも主の試練なんです。私が全然ダメなシスターなので、こうやって修行を与えてくれているんです。今は我慢の時なんです」
笑いながら、自分に言い聞かせるようにアーシアは言う。
「お友達もいつかたくさんできると思ってますよ。私、夢があるんです。お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったりして・・・・・・・・・おしゃべりして・・・・・・・」
彼女は涙を溢れさせている。もう見てられなかった。
「アーシア、俺が友達になってやる。いや、もう友達だ」
アーシアがきょとんとしている。
「悪魔だけど、関係ない! 俺たちは友達だ!」
「それは契約ですか?」
「違うッ! 契約なんか必要じゃない。ただ、俺がアーシアと友達になりたいんだ!」
「私・・・・世間知らずで、日本語もしゃべれませんし、文化もわかりませんよ?」
「これから、知っていけばいい! 俺が教えてやる!」
俺はアーシアの手を握る。
「・・・・・・・・・・・・・私と友達になってくれるんですか?」
「ああ、もちろんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・(こくん)///」
涙を流しながら、アーシアはうなずいてくれた。
「僕もよかったら、友達になってくれないかな?」
「・・・・・・・・・私も、お願いします」
木場と小猫ちゃんが言ってくる。
「ああ、木場も小猫ちゃんもアーシアの友達だ」
「・・・・・・はい」
アーシアは小さな声だったけど、はっきりと返事をした。アーシアの手を握っている手が、ギュッと握り返される。
「ありがとうございます」
涙を拭って、笑顔を浮かべながらアーシアは俺にそう言った。今更ながら、手を握っているのが恥ずかしくなってきたぞ。
「部長? どうするんですか?」
「そうですね、リアス先輩。どうするんですか?」
渚がニヤニヤしながら、部長に問いかけた。
「これで、ダメなんて言ったら私、悪者じゃない」
「ええ、私も仲間に入れてほしいですわ」
朱乃さんが微笑みながら言う。
「まったく、仕方ないわね」
「さすがリアス先輩」
「ナギ、やめなさい」
口ではああ言っているが、部長の顔は優しさに満ちていた。
「アーシア、明日は遊びに行こう。いいですよね、部長?」
「ええ、かまわないわ。ただし―――」
「リアス先輩、朱乃先輩、ちょっといいですか?」
なにかを言おうとした。部長を渚が止める。そして、部長と朱乃さんを部室の隅へ連れて行き、内緒話を始めた。いったいなんだ?
Side out
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Side 渚
「(アーシアの表情を見ると、あれは完璧に兄さんに惚れています。それに兄さんもアーシアさんのことが気になるみたいです)」
リアス先輩と朱乃先輩を部室の隅に連れて行き、周りに聞こえないように話す。アーシアさんは兄さんに手を握られていて、うれしそうだ。兄さんは恥ずかしそうにしている。
「(あら、そうなの?)」
「(部長・・・・・・男のナギくんが気づいたのに、気づかなかったんですか?)」
朱乃先輩が呆れたような声で言った。
「(べ、別に気づかなかったわけじゃないわっ)」
なんとか誤魔化そうとしているようだ。ここはスルーしてあげよう。
「(とにかく、僕としてはアーシアさんの恋を応援したいので、なんとか二人っきりにさせたいのですが・・・・・・・)」
「(いい案だと思いますわ。私も賛成です)」
「(だけど、アーシアは堕天使に狙われてるのよ? イッセーだけじゃ心配だわ)」
「(そこは、僕が後ろからついていきます。でも、僕だけじゃ心配なので朱乃先輩についてきてもらいたいのですが・・・・・・)」
「(あらあら、私は構いませんよ。部長、ここは二人を応援すべきですわ)」
「(わかったわ。それじゃあ、二人のことはお願いね)」
僕らはうなずきあって、兄さんたちのもとへ戻る。
「ごめんなさいね、待たせてしまって」
「いえ、別に構いませんが、やっぱりだめですか?」
兄さんがリアス先輩に聞く。
「いいえ。遊びに行くのは構わないわ。ただし、二人だけになるわよ」
「なぜです?」
「堕天使との戦闘の準備よ」
「だったら、俺も――――」
「あなたたちはいいから、行ってきなさい」
「・・・・・わかりました」
有無を言わさないリアス先輩の言い方に兄さんも納得したようだ。
「いや~、すごいね兄さん。みんなの前でデート宣言ですか? 羨ましいね兄さん。アーシアさんみたいな美少女とデートか・・・・・」
「なっ!? ちが、違う! お、俺はそんなつもりじゃ」
「?」
僕の言葉はアーシアさんにはわからないので、兄さんをしばらくからかい、解散となった。
Side out
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