魔法少女リリカルなのはViVid~英雄の意思を継ぎし子達
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三話~強さの在処
前書き
士郎「強さを追い求める、それは良いことだ」
なのは「だけど、孤独な強さは虚しいだけ……」
士郎「私が果てに見つけたのは、家族を守れる強さ、だった」
なのは「ノーヴェの前に現れた彼女はどうなのか。第三話、強さの在処、始まります」
side ノーヴェ
「質問があんならバイザー外して名を名乗れ」
いきなり話しかけてきたこいつがどんな奴かはわからないが、聞きたいことがあんなら最低限名前くらいは名乗るのが礼儀だろう。
「失礼しました。カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・インクヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いています」
「噂の通り魔か」
「否定はしません」
そんな奴が聞きたいことってのは一体なんだ?
そう思っていたら、奴は聞き逃し出来ないことを言い放った。
「伺いたいのはあなたの知己である『王』達についてです。聖王オリヴィエの複製体と、冥府の炎王イクスヴェリア。あなたはその両方の所在を知っているそうですね」
「知らねえな」
こいつの狙いは……ヴィヴィオ達か!
「あたしが知ってんのは普通に生きてる子供たちだ。聖王だの冥王だのと知り合いになった覚えはねえ」
あの一家にそんな問題は持ち込ませやしねえ!
「そうですか。それについては他を当たるとしましょう。ではもう一つ。あなたの拳と私の拳、一体どちらが強いのかを確かめさせてください」
「いいだろう。受けてやるよ」
side 覇王?
彼女は鞄を放り投げると、そのまま私と向かい合った。
「防護服と武装をお願いします」
「いらねえよ。てかよく見りゃまだガキじゃねーか。なんでこんなことしてる?」
こんなことをしている理由、ですか。
「強さを……知りたいんです」
「強さ……ね。やっぱガキだな」
それだけを呟いた彼女の次の動きはとても速かった。
一瞬で距離を詰めた膝蹴りによる不意打ち。何とか防ぐがそのままスタンショットを打ちこんできた。
何とか受けきることに成功する。
「チッ……ジェットエッジ」
[start up.]
今ので倒せると踏んでいたであろう彼女も私を敵と認識してくれたのか、武装を展開した。
「ありがとうございます」
「強さを知りてえんだったな」
「はい。私は今よりももっと強くならなければいけないのです」
「だったらいい人紹介してやる。だからこんなことやめとけ」
それは表舞台に生きる彼女だから言える言葉。だが、私は………
「ご厚意痛み入ります。ですが、私の確かめたい強さは……生きる意味は……」
そして構える。覇王の力を示すために。
「表舞台にはないんです」
side ノーヴェ
「表舞台にはないんです」
その言葉は、陰で生きてきた者のみが持つ陰りがあった。
だが、こいつはあの時のあたし達よりも若い。まだまだやり直せるんだ。
あたし達だってそうだったんだから。
(しかし、この距離で構えるとはな。何が来る?)
そう考えていたら、一瞬で距離を詰められていた。
(歩法か!)
しかし、あの人たちほどの動きではない。そう考えたのが油断だった。
「がっは………」
目で追えるスピードだが、だからと言って遅いわけではない。
それなりの威力を持った拳を腹にまともに喰らってしまった。
腹を押さえて呻くあたしに奴は言った。
「列強の王たちをすべて斃し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべきことです」
「ふっざけんな!」
その言葉にあたしは思わず叫んでいた。
「昔の王様何ざみんな死んでる!生き残りや末裔たちだって普通に生きてんだよ!!」
「弱い王ならば……この手でただ、屠るまで」
弱い王?あいつらが?イクスが?ヴィヴィオが?
あんなに一生懸命なあいつらが?
眠りにつく前にあんなに笑って見せてくれたイクスが?
あの人たちの娘として、弟を守りたいって願いのために強くなろうとしているヴィヴィオが?
「このバカったれが!!」
もう手加減も何も必要ねえ。こいつにわからせてやる!!
「ベルカの戦乱も聖王戦争も!!ベルカって国そのものも!!もうとっくに終わってんだよ!!」
「………!」
「リボルバー・スパイク!」
エアライナーを展開し、リングバインドで手足を縛る。
そのまま最大威力で蹴りを打ち込んだ。
確かな手応え。決まった、と思ったその時だった。
「終わってないんです」
その声と共に足に違和感が。
(カウンターバインドだと!?)
違和感の正体は防御を考えずにあたしの動きを止めるために準備されていたバインドにかかったことだった。
「私にとってはまだなにも」
そしてこいつは構える。仕留めに来る気だ。
「覇王……断空拳」
side 覇王?
なんとか競り勝つことが出来た。
彼女の一撃はかなりのダメージだったが、なんとか耐え、反撃に成功した。
そのまま体を引きずってコインロッカーに荷物を取りに向かった。
「武装形態……解除」
この体は間違いなく強い。だと言うのに……
(とにかく、帰って休もう。そしたら……!?)
急に意識が飛びそうになった。
何とか踏みとどまろうと足に力を入れたが、呆気なく倒れてしまう。
(だめ、こんな所で倒れる訳に、は……)
私の意識が持ったのはそこまでだった。
side ノーヴェ
「無事か?ジェット」
[I'm OK.]
かなり強力な打撃だった。
しかし、負けたとしてもただ負けてやるわけにはいかない。
その為の手は打ってある。後は最後の仕上げとして頼れる姉に連絡をいれるだけだ。
幸い姉はすぐに通信に応じてくれた。
「はい、スバルです。ノーヴェ、どうしたの?」
「ちょっと頼まれてくれねーか?喧嘩で負けて動けねー」
「ええっ!?」
慌てふためくスバルに説明を続ける。
「相手は例の襲撃犯。きっちりダメージ食らわしたし、蹴りついでにセンサーもくっ付けといた。今ならすぐに捕捉できる」
「うん、わかった。任せておいて」
「あと、あたしの迎えも頼むわ……」
「はいはい」
さて、じっくり話を聞かせてもらうとするか。
side 覇王?
意識が覚醒する。見覚えのない天井。ここは……?
「よう。やっと起きたか」
その声に隣を見ると、ノーヴェ・ナカジマさんが私を見ていた。
「あの……ここは?」
彼女が答えるよりも前にドアがノックされる。
「はい」
彼女が返事をすると、長い髪をストレートに下ろした女性が入って来た。
「おはようノーヴェ。それから……」
「自称覇王インクヴァルト。本名アインハルト・ストラトス。St.ヒルデ魔法学院中等科一年生」
な、何で私の正体を……!?
「ごめんね。コインロッカーの荷物出させてもらったの。ちゃんと全部持ってきてあるから安心して」
そんな私の疑問はすぐに解決した。
「制服と学生証持ち歩いてるたあ随分とぼけた喧嘩屋だな」
「学校帰りだったんです。それに、あんなところで倒れるなんて……」
そこまで言ったとき、不意にドアの方から元気な声がした。
「みんな、おっはよ~」
入って来たのは青い髪を短めに切り揃えたどことなくノーヴェさんに似た女性。
「おっ待たせ~。朝ごはんで~す」
「おっ、ベーコンエッグ!」
「野菜スープもあるよ」
彼女はテーブルに持ってきた食事を置くと、私に向き合った。
「初めまして、だね。アインハルト。スバル・ナカジマです。事情はいろいろあるだろうけど、まずは朝ごはんでも食べながらお話聞かせてくれるかな?」
彼女の対応は純粋に事情が知りたい、といった類のものだった。
そのためだろうか。
「はい……」
素直に話してみよう、と思えたのは。
side ティアナ
彼女、アインハルトに対し、ノーヴェが状況の説明をする。
「んじゃ、一応説明しとくぞ。ここはこいつ……あたしの姉貴、スバルの家」
「うん」
「で、その姉貴の親友で本局執務官」
「ティアナ・ランスターです」
紹介されたので名乗っておく。
「お前を発見して保護してくれたのはこの二人だ。感謝しろよ」
「でも駄目だよノーヴェ。いくら同意の上の喧嘩でもこんなちっちゃい子にひどいことしちゃ」
「おいおい。こっちだって思いっきりやられてまだ全身痛えんだぞ」
ノーヴェは文句を垂れているが、とりあえずアインハルトに聞くべきことを聞くのが優先ね。
「格闘家相手の連続襲撃犯があなただっていうのは……本当?」
「……はい」
返事は意外と早く帰ってきた。
「理由聞いてもいい?」
「えっと……」
口ごもった彼女の代わりにノーヴェが答えた。
「大昔のベルカの戦争がこいつの中では終わってないんだと。で、自分の強さを知りたいのと、あとは聖王と冥王をぶっ倒したいんだったか?」
「最後のは……少し違います。古きベルカのどの王よりも覇王のこの身が強くあること。それを証明できればいいだけなんです」
「聖王家や冥王家に恨みがあるわけじゃないのね?」
確認のために聞く。
「はい」
「そう。ならよかった」
その返事を聞いてスバルは安心したようだ。私もだが。
「え?」
「ああ。スバルはその二人と仲良しなのよ。聖王の方は私の妹弟子でもあるしね」
「そうなの」
しばらくぼけーっとしていたアインハルトだったが、おずおずと聞いてきた。
「あの……聖王が妹弟子、と言うのは……?」
ああ。師がだれか気になる、ってわけね。
「アインハルトは聞いたことある?たった二人で特S級ロストロギアを封印したり、大規模な犯罪組織を壊滅させてる管理局員の話。巷で結構噂になってるらしいんだけど」
「はい……教室で男子が話しているのを聞いたことがあります。確か弓兵と槍兵と名乗るとか……」
「そのうちの一人がね、私の師匠で、聖王の親なのよ」
「は、はぁ………」
あら、信じてないみたい。それはそうね。普通は信じられないわよね。
「それはひとまず置いといて、と。後で近くの署に行きましょう。被害届は出てないって話だし、もう路上で喧嘩とかしないって約束してくれればすぐ帰れるはずだから」
そこまで行った時、ノーヴェが話に入ってきた。
「あのよ、ティアナ。今回先に手ぇ出したのはあたしなんだ」
「あら」
「だからあたしも一緒に行く。喧嘩両成敗ってやつにしてくれ。お前もそれでいいな?」
ノーヴェはやっぱり根は優しいわね。
「はい……。ありがとうございます」
side アインハルト
私は何をしているのか?やらなければならないことはたくさんあるはずなのに。
「よう」
「ひゃっ!?」
不意に頬に冷たいものが押し当てられた。
驚いて情けない声が出てしまう。
「隙だらけだぜ、覇王様」
冷たいものの正体はノーヴェさんの持っていた缶ジュースだった。
……………………………………………………………………
「もうすぐ解放されっけどよ、学校はどうする?」
「行けるのならば行きます」
「真面目で結構」
私の返答に満足したのかノーヴェさんがうなずく。
「で…あのよ。うちの姉貴やティアナは局員の中でも結構すごい連中なんだ。古代ベルカの事に詳しい専門家もたくさん知ってる。お前の言う『戦争』がなんなのかはわかんねーけどよ、手伝えることがあるならあたしたちが手伝う。だから………」
そこまで言って言葉を止めるノーヴェさん。何が言いたいのかは大体わかる。
「聖王たちに手を出すな……ということですか?」
「違ぇよ。あ、違わなくはねえんだが」
そう言った後少し照れくさそうに言葉を続けた。
「ガチで立ち会ったからなんとなくわかるんだ。おまえさ、格闘技が好きだろ?」
好き……?
「あたしも修行中だけどコーチの真似事やってからよ。才能や気持ちを見る目はあるつもりなんだ」
迷いが顔に出ていたのか、ノーヴェさんは遠慮がちに聞いてきた。
「違うか……?」
「好きとか嫌いとか、そんな考え方をしたことはありません。覇王流は私の存在理由のすべてですから」
side ノーヴェ
「覇王流は私の存在理由のすべてですから」
どうしてそんなことが言えるんだよ。悲しすぎるじゃねえか。
だったら少しでいいからこいつの助けになってやりてえ。あの人たちならば絶対にそうしているだろうから。
「……聞かせてくれねーか?覇王流の事、お前の国の事。それから……お前がこだわってる戦争の事」
「私は………」
少しだけ迷っているみたいだ。だが、それもほんの少しだけだった。
彼女は語りだす。自身の事を。今まで一人で抱え込んできたであろうものを。
side リオ
「あったあった!これこれ!」
私達がいるのは図書室。ヴィヴィオとコロナと初めて出会った場所でもある思い入れの深い場所だ。
「『覇王インクヴァルト伝』に『雄王列記』ルーちゃんに教えてもらったんだ。後は当時の歴史書とかかな?」
「それにしてもいきなりシュトゥラの昔話なんてどうしたの?」
ヴィヴィオがコロナにアドバイスをお願いした時から疑問に思っていた事を聞く。
「ノーヴェがこの辺の歴史を勉強しないか、ってメールくれたんだ」
「へぇ~」
「それとね、今日の放課後ノーヴェが新しく知り合った格闘技やってる子と一緒に練習してみないかって」
新しい子かぁ……どんな人だろう?
――この時はまだ、知らなかった。これから続く私たちの物語を………
後書き
言いたいことは一つ。
シリアスって難しい。
アインハルトメインだとどうしてもシリアス寄りになるんですよね。
そんなどうでもいい事はスルーして、と。
次回予告!
巡り会う二人。少女達はお互いに何を思うのだろうか?
次回、『覇王』と『聖王』。お楽しみに。
超珍しく真面目な次回予告です。それでは
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