失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
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原作開始【第一巻相当】
第十八話「修行中」
前書き
ようやく更☆新!
キャラクター人気投票を取りたいと思います!
キャラの中で誰かに一票を入れてください。現在までに登場したキャラでも未登場のキャラでも構いません。もっとも票が多いキャラの話をIFとして書こうと思います!
締め切りは27日00:00です。ご協力よろしくお願いいます!
キミの一票が未来を決める!
青野の修業に付き合い始めて二週間が経過した。
まだまだ未熟とはいえ、曲りなりにも気のコントロールを覚えた青野。今日は学園に通う日のため一旦修業を切り上げて学園に向かわせた。
一年一組の一限目は英語。本来はエクセレント・マキ先生が受け持つ授業だが、生憎彼は不在のため俺にお鉢が回ってきた。
なんでも屋は顧客を問わないため、日々色々な人種と接する。そのため英語を含めて五か国語くらいならカバーできる。
英語の教材を手にした俺はハクを引き連れて一組に向かった。
「チャイムは鳴ったぞ、席につけー」
席を立って雑談している生徒たちに注意を促し教壇に立つと、一人の生徒が首を傾げた。
「あれ? 今日の授業って英語だよね。なんで先生がいるの?」
見ると他にも頷いている生徒たちがいる。一つ咳払いした俺は真面目な顔で教壇から見下ろした。
「ああ、英語のエクセレント・マキ先生だが……実は亡くなられた」
『ええっ!?』
驚く生徒たちに大きく頷いた。
「ここだけの話、エクセレント・マキ先生は副業として殺し屋を営んでいたんだ。だが、商売敵のゴ○ゴという男に消されたらしい。まさに出る杭は打たれるだな」
絶句という言葉がしっくりくる様子を見せる。まだ事態を飲み込めていないのか、生徒たちは皆、空いた口が塞がらない。
「まあ冗談だが」
ズザァー! といったズッコケた擬音を聞いたような気がした。肩に乗ったハクの溜め息がいやに耳に残る。
「な、なんだ冗談か……」
「あー、ビックリしたぁ」
「先生でも冗談っていうんだねー」
「あー、それ私も思ったー! 珍しいこともあるもんだね」
――……どうやら俺は冗談を言う才能がないようだ。
一つ咳払いをしてこの微妙な空気を払拭し、改めて授業を再開する。
「まあ実際はただの風邪で明日には出勤できるとの話だ。ということで教科書の三十三ページを開けー」
まだ微妙な空気が尾を引いているが、このくらいは許容範囲内だろう。
「さて、ここの英文を……朱染に読んでもらうか」
「はい。……Traditional Japanese home cooking includes rice and a couple of dishessuch as baked fish or cooked vegetables with soup and some pick-les」
銀の髪を揺らしながら席を立った萌香は教科書を片手に朗読する。
「うわぁ、綺麗な声だなぁ……」
「朱染さん素敵すぎる~!」
「頭も良いだなんて、流石だー!」
「朱染さんって、英語ペラペラ?」
「容姿端麗で頭脳明晰、私たちが勝てるところって……」
澄んだ声で英語をスラスラと読み上げるその姿に男子どもの目が釘付けだ。女子は女子で嫉妬と羨望が混じった複雑な視線を向けている。
――そういえば萌香は昔から真面目で、勉強熱心な子だったな。相変わらず勤勉なようで兄としても鼻が高い。
終始落ち着いた姿勢で英文を読み上げた萌香を褒める。子供は褒めると伸びが良いのだ。
「じゃあ今の英文を今度は日本語に訳せ。青野」
「えっ、お、俺ですか!?」
「お前以外に青野はいるのか?」
あたふたと席を立った青野が教科書を手にする。
「ええっと……に、日本の家では、ご飯と……み、味噌汁を、作っています?」
眉根を寄せて滅茶苦茶な解釈をする青野。こっちはあまり勤勉とは言えないようだ。
「……日本の伝統的な日常食は、ご飯に焼き魚や野菜などの二、三種類のおかずと、味噌汁と漬け物といったようなものです、だ。青野も少しは勉強癖というのをつけろ。せめて予習復習くらいはして来い」
ため息交じりでそう言うと、青野は羞恥で顔を赤くした。
「知識は生きる上で様々な役に立つからな。身に付けておいて損は無い。今からでも知識を吸収することに貪欲になれ。青野だけじゃないからなー」
他人事のように聞いている生徒たちにしっかりと釘を刺し、授業を再開する。
――取りあえず、青野は英語が苦手だと分かったから、英語も修業に加えるか……。
† † †
時間は進み、昼時。チャイムの音を耳にした俺は背もたれに寄りかかり大きく伸びをした。
ほとんどのヒトが授業に出ているため、職員室には数えるくらいしかヒトがいない。
定位置である肩の上に乗ったハクがつぶらな瞳で俺を見上げた。
「今日は食堂ですか?」
「ああ、たまにはな。御手洗シェフの作る料理は絶品だし」
「確かに、あの味はなかなか出せるものではありませんからね」
ハクも御手洗シェフが作る料理には大変満足してる様子。うんうん頷いていたハクは頬に顔を摺り寄せてきた。
「でも、私は千夜の作るご飯、好きですよ?」
「ははっ、ありがとうな」
そんないじらしいことを言ってくれる愛狐の頭を撫でて食堂に向かう。
食堂は大きなコの字型をしている。席はぼちぼち空いており食堂からは御手洗シェフの「ハイヤー! チェヤー!」などの掛け声が聞こえる。
厨房は食堂から透明ガラス越に見えるように作られている。そこには中華鍋を振るっている御手洗シェフが調理に勤しんでいた。他にもスタッフたちが忙しなく動いている。
「相変わらず忙しそうだな、ここは」
「千夜じゃないカ! もちろん厨房はコックの戦場ネ!」
コック長はニカッと人懐っこい笑みを浮かべた。
コック長を任されている御手洗シェフは身長が二メートル近くある大柄な体型をしている。
やや肥満傾向にある身体を包む調理服は、はち切れんばかりの筋肉でぱつんぱつん。なぜか下半身より上半身の筋肉が発達しており、自称『料理の妖怪』の異名に相応しい知識と調理技術を有している。
「メニューはどうするネ?」
「俺はいつもので。ハクは?」
「長野産のキャベツ炒めでお願いします」
「須藤スペシャルメニューに超手抜き炒めネ、まかせるヨ! 出来上がるまで十二分三十秒待っネ! ――おら野郎ども! 戦争の時間だッ!」
『ウィ、ボス!』
御手洗シェフの掛け声を合図に一斉に動き出すシェフたち。
「ホォォォアタタタタタタタタッ!! ――貴様はもう刻まれている」
「俺の中華鍋が真っ赤に燃える! 野菜を炒めろと轟き叫ぶ!」
「貴様の血は何色だぁぁぁ!! あ、血抜きしたんだった」
――今一、シェフたちのテンションにはついていけない部分があるが……。
きっちり十二分三十秒ピッタリに出来上がった料理を運び、適当な場所の席に座った俺たちは早速昼食を頂く。
俺のメニューは俗に須藤スペシャルと呼ばれるもので、ご飯三合に卵を十玉使ったデラックスなオムライスと、卵を五玉使ったジャンボな目玉焼きだ。何故かこいつを食すのは俺だけで、 気がつけば須藤専用メニューに昇華していたりする。ちなみに、俺の好物は卵料理だ。
ハクの料理はキャベツを炒めただけの料理と呼べるかわからないメニューだ。調味料もなにもない、ただ単に火を通しただけのキャベツ。
拘りがあるらしく、キャベツでは長野産か秋田産、肉では松坂の霜降り肉を好んで食べる。なんとも贅沢な奴だ。
そういえばハクと出会った日に与えた食べ物が霜降り肉だったな。それで味を占めたのかも。まあ、金銭的に余裕があるから構わないが。
「やはりキャベツは長野産か秋田産に限りますね。野菜の風味を残しながらのこのシャキシャキ感……腕を上げましたね」
もりもりキャベツをかじっていたハクがほぅ、と吐息を溢した。ご満悦な様子でなによりだ。
「よくわからんが、違うのか?」
「全然違いますね。ひき肉と霜降り肉くらい違います。……良ければどう違うのか教えて差し上げますが?」
「いやいい。人間の俺には分かりそうにないしな」
「そうですか。……残念です」
ハクは九尾の狐で動物だからな、人間にはない味覚を持ってるのかも。
「あれ? 須藤先生じゃないですか」
「ん? おお、宮本か。お前も食事か?」
背後から陽気に声を掛けてきたのは二年の宮本灰次。二年生でありながら空手部主将であり、義に篤い男だ。
宮本の持つトレーには典型的な和食が乗せられている。メニューは鮭の塩焼きになめこの味噌汁、漬物か。
「相席いいっすか?」
「ああ。かまわんよ」
正面の席に座る宮本。キャベツをもりもり食べていたハクはチラッと横目に一瞥しただけで何も言わなかった。
「お前は相変わらずその恰好なんだな」
「これがオレの正装ですから」
空手部主将である宮本は常に胴着を着込んでいる。水泳の授業など特別な理由が無い限り服装を変えない主義だ。胴着姿はなかなか堂に入っており凛々しさを際立てている。持ち前の明るさも加えて一見良い男に見える。
「そうだ先生、聞いてくださいよ! この間可愛い幼女を見つけたんですよ!」
「はぁ?」
ご飯粒を飛ばしながら目を輝かせた宮間はいきなり唐突もないことを口にした。
「あれは一年生ですね。着物を着た白髪の女の子なんですよ! 見たのは一瞬でしたけど、クールな感じで、よかったなぁ……」
――これがなければモテるんだろうな……なんともったいない。
爽やかな風貌で人当たりもよく、それでいて成績優秀、運動神経は言わずもがな。一見、誰にでもモテそうな宮本だが、一つだけ欠点がある。
それが“幼女趣味”だ。
幼児体型をこよなく愛するこの男は背の低い童顔な少女しか目に入らない。幸い、そういった女子は愛でる対象であって性的興奮は感じられないといった点か。本人談のため確証は持てないが。
「あの凍てつく氷のような澄ました雰囲気がギャップがあっていいんですよ! ああっ、お近付きになりたいなぁ!」
――……確証はないが。
そして、ハクよ。なぜ固まっている?
† † †
時刻は午後の七時を回ったところ。今日の業務を終えた俺は再び青野の修業につきあうことに。
裏稼業の方も頻繁に依頼が来るわけでなく、ここ一週間のスケジュールはスローペースでゆったりとした時間が過ごせている。そのため、こうして青野の修業に時間を割くことが出来るのだが。
いつものように自宅のライブラマンションの一室から魔方陣を経由して修業場所に移動した俺たち。
今回は休憩場所のログハウスではなく、そこから少し歩いた場所にある開けた空間に向かった。
そこには大きな湖がある。現実世界でいうところの琵琶湖に相当する面積だ。滝もあるため滝行にも使える。
「うわぁ、綺麗なところですね~! こんなところがあるなんて!」
「なかなかのものだろ? 俺も結構気に入ってる場所なんだ」
コバルトブルーのような蒼い水面が陽光を反射して煌めき、ときおり小さな魚が跳ねて水面に小さな波紋を作っている。
そよ風に揺られた葉っぱが煌めく水面を彩った。
「でも、こんなところに来て何するんですか? 釣り?」
「釣竿もないのにか? 素手で出来なくはないが、今の青野にはまだ無理だ」
「夢の見すぎです」
ハクの辛辣な一言が青野の臓腑を抉ったようだった。
「今回の修業は更なる気のコントロールだ」
「えっ、でも気はコントロールできるようになってきましたよ?」
「ある程度はな。だが、その程度ではまだ駄目だ。今の青野は初級クラスをクリアしたところ。これからは中級クラス、そして上級クラスへと移行する。目安は一月で各クラスをクリアすることだ。今まで以上に頑張らないと地獄を見るぞ」
「うぇ! あ、あれより酷いんですか!?」
顔を顰める青野にハクが追い打ちを仕掛ける。
「嫌なら辞めればいいじゃないですか。千夜は強制していません。そもそもこうして貴方を鍛える義務はないのに時間を割いて付き合っているのですよ」
「ちょっと言葉が強いが、ハクの言っていることは正しい。なにも俺は強制していない。辞めるならここで辞めても良いんだぞ。それにあの程度でキツイって言っているようじゃ、この先の修業はとてもじゃないが耐えられないな」
そう言うと、青野は先程よりか幾分引き締めた表情で俺の目を真っ直ぐ見返した。
「……やります、やらせてください! 少しでも強くなりたいんです!」
「わかった。では、早速修業に入る」
ちょっと待ってろ、と一言断り近くにある木に近づく。
「ふっ!」
鋭い呼気とともに右脚を一閃、返す刀でもう一閃。
重い音を轟かせて斬り倒された木は丁度良い長さ(一メートル半)の分断された。
それを持ち上げて湖に向かって投げ飛ばす。バシャンッと大きな音を伴いながら着水した大木が水面にプカプカと浮いた。
「青野は泳げるか?」
「え? あ、はい」
「よし、じゃああの大木まで行って来い」
「……へ?」
今し方、投げ飛ばした木を指差すと、目を真ん丸に見開いて俺の顔と木の間で視線を往復させる。
「行ってこいって、どうやって?」
「泳いでに決まってるだろ」
「ええっ、でも水着もなにも持ってないし……」
「あーもう、いいから行ってこい!」
ああだこうだと踏ん切りがつかない青野の首根っこを持ち上げて放り投げる。
見事な放物線を描き、水しぶきを上げながら水の中へと落ちる。
諦めがついたのか溜め息を一つ零した青野は大人しく泳ぎ始めた。
「――ぷはぁ……! ……うわっ、先生いつの間に!? えっ、えっ?」
「ほれ、さっさと木の上に立て。これが出来んと始められないぞ」
青野が一生懸命泳いでいる間に俺は先回りして大木の上に起立していた。目を白黒する彼を片手で促す。
「あっ、はい……っても、これ立つのも難しいですよ……!」
気の上に昇ろうとしては何度も転がり落ち、またはバランスを崩して水の中に戻る。形だけでも様になってきたのは十分後のことだった。
「よし、なんとか木の上に立てれたな」
「ぎ、ギリギリですけどね……うわっとっと! こ、これ、バランス保つのが……難しい……っ!」
「全身の筋肉を弛緩させて、ゆっくりと大地に根を張るように。大切なのは集中力だ。これからはこの上に立ちながら気を練ってもらう。気の練り方は大丈夫だな?」
「え、ええ……一応はできますけど……っとっと」
「気を練ったら身体に回して保てるようになれ。まずはそこからだ。よし、では気を練りながら正拳突き百回」
「は、はい……うわぁ!」
今度は三分十五秒か。最長記録だな。
「鍛練は継続、達人は一日にならず。歩活ならざれば拳乱れ、歩快なれば拳慢なり。すべては歩き方が基本ということだ」
水の中から鼻から上だけを覗かせる青野を見下ろし、フッと微笑む。
トン、と軽く木を蹴り、プカプカ水面を漂う小枝に跳び乗る。
そして、小枝だから一枚の葉っぱへ、葉っぱから葉っぱへとリズムよく跳び乗った。
「禅を学ぶ前、山はただの山であり、川はただの川だった。禅を学ぶようになると山はただの山でなくなり、川はただの川ではなくなる。しかし、悟った今、山はただの山であり、川はただの川だった」
地上に降り立ち振り向く。呆然とした顔で俺を見つめる弟子と目があった。
「これが分かれば、君は一回りも二回りも大きく成長しているよ」
後書き
今回の修行場面はとある漫画を参考にしています。分かる人には分かるかも?
感想および評価切実に募集中!
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