剣風覇伝
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第六話「天空の勇者」
タチカゼは飛ぶ、どのくらいとんだろうか、山をもう三つも越えた。
しかし王国は、まだ見えてこない。それもそうだ、タチカゼの探しているヨトュンヘイムの王国は、暗黒の王の軍勢をその最前線で食いとどめている。最強の王国だからである。
その国の人々はみな、ふつうの人間の数倍はでかい。その人間ですら、魔族の軍勢では苦戦を強いられる。
そして、その王国を王国たらしめているのは、大きな巨人たちでも国の広さでもない、一人の普通の人間の女性によって成り立っているという。
噂では名をメレオルと言い、魔術師とも神の使者とも言われて、その名を馳せる人物で、そのものの杖の一撃は、魔族を千里後退させ、国ひとつ滅ぼすと、いわれている。
銀のローブに身を包み、この世のあらゆる叡智に長け、その美貌は、この世のあらゆる女の中で一番美しいという。
なにやら神話のようなその国の話に、タチカゼも昔、子供のころは思いを馳せたものだ。
タチカゼは日が暮れてきたのを見て高度を落とし、今日の泊まれる宿を探した。
そう、夜のうちは空というのはとても寒いということを知ったのだ。
それでしょうがなく夜のうちは、泊まれる宿を探して、とまることにしたのだ。
近くに大きな町をみた。
そして天馬にまたがったまま町の広場に着地した。
人々はものすごくびっくりしていた。
当たり前である、空からあろうことか天馬にまたがった人が降りてきたのだ。みな、天の使いと勘違いしてタチカゼにひれ伏した。
「こら、みなさん、そのように頭などさげないでください」
「あ、あああ!天から救い主が現れた!あああ!」
「ん?」
そこへ馬車が一台来た。
馬車はあわてて、止まると、なかから身分の高そうな色の白い男が一人現れた。
「伯爵様のおいでだ」
みんながしんと静まり返った。
伯爵は、凛とした様子でその場を見た。天馬にまたがる青年。伯爵の目はきらりと輝いた。
「そこのひと、その様子から察するに只者ではあるまい、どういうご用件でこの町に?」
「いや、一晩の宿を探しているだけの、旅の者」
「なるほど、ならばわたしの屋敷に招待したい。おいでねがえますかな?」
「うん、いやありがたい。喜んで参りましょう」
「されば、屋敷はあちらです。馬車でお送りいたしましょう」
「いや、馬がありますから、自分でまいりましょう」
「ははは、そうですか、それでは屋敷で」
馬車が伯爵を乗せて帰っていく。
タチカゼは、そのあとに空からついていく。
天馬は一蹴りで飛翔した。
その様子にどよめく民衆。
そして天馬が町の彼方にきえるまで、みな、その姿にみいっていた。
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