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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第三十五話 そんなもんいらねえ

 どんなプロフィールだと普通なら突っ込まれるが、ここではそんなことはなかった。
 大体の話はギルバニアや、大臣のベアンに聞いているのだろう。


「でもクィル、お前の姉妹って個性豊かだよな。あ、いや、一番意外だったのはニア様だけどな」
「は、恥ずかしいですぅ……」


 クィルが顔を伏せる。
 その時、ようやくギルバニアが口を開く。


「ところでトーゴ」
「はい?」
「あのシュールベル卿(きょう)の息子と決闘したらしいな」


 あ、やっぱり知ってたんだ。


「まあ、成り行きで」
「しかも、物の見事に打ち負かしたみてえだな」
「すっごく強いんだってねぇ~トーくんってば!」


 ニアが手を合わせながら声を出す。


「ていうか、そんな面白そうな催(もよお)し物、何で俺に黙ってたんだ?」
「あ、いや……」


 だって、話したらさ……。


「絶対に見に行ったのによ……」


 だから黙ってたんだって。
 王が直々に見に来るほどの決闘でも無かったし。
 それに何故か物凄く恥ずかしい。


「あたしもみたかったぞちちうえ!」


 ハロがギルバニアに詰め寄る。


「私も見たかったなぁ、トーくんの晴れ姿。ね? リーちゃん?」


 話を振られたリアも、小さく頷く。


「はいお母様。異世界人であるトーゴ様の決闘、実に興味深いです」


 何だ何だ?
 この国の王族は戦闘マニアなのか?
 あ、いや、クィルだけは戦闘嫌いだったかな?
 そう考えれば、クィルはこの人達の性格のどこを受け継いだのだろうか?
 闘悟は考えてみるが、どうもクィルは隔世遺伝(かくせいいでん)でもしたんじゃないかと思うほど、性格は似ていない。
 まあ、三人もいれば穏やかな性格の子が生まれても不思議じゃないか。


「ふっふっふ」


 何故かギルバニアが気味の悪い声で笑い出しだ。
 皆が彼に注目する。


「そうか、皆がトーゴの闘いを見たいか……」
「どうしたのあなた?」


 さすがに自分の夫が急に笑い出したのが気になって、ニアが声を掛ける。


「いやなに、お前達の希望が叶う日がある」


 トーゴは何だかとても嫌な予感がする。
 これはあれだ、いけないフラグが立つ時に感じる悪寒だ。


「ふははは! 喜べ野郎ども!」


 いやいや、この場に野郎はオレしかいねえし。
 ていうか喜ばねえし。
 嫌な予感がプンプンだし。


「お~!」


 ギルバニアの声に反応して手を挙げて叫んだのはハロだけだ。


「いいか? 来たるは一か月後! あの決戦が再び燃え上がる!」
「ま、まさかあなた!」


 まるで舞台演技をしているかのように大げさに驚く。


「そうだ愛しき妻よ! あのイベントをやるのだ!」
「うっは~! なんかよくわからないけどやったぞ~!」


 ハロがノリだけで舞台に上がる。


「それはそれは、頼もしいことですわねお父様。ええ、わたくしも楽しみですわ!」


 え? そこノッちゃうのリアさん!? 


「トーゴ! よく聞け!」


 あ~はいはい、もう何でもいいからさっさと言っちゃって下さい。


「お前にはもちろん参加してもらう! 炎の決戦! 『ヴェルーナ魔武(まぶ)大会』にな!!!」


 あ~ここでフラグ回収か~。
 闘悟はまるで他人事のように心の中で呟く。
 クィルはクィルで、大会の開催にとても驚愕している様子だ。


「クィル、その大会ってカイバが言ってたやつ?」
「あ、はいです。去年、あのリューイ様がフービ様に敗れた大会です」


 何でも、この時期に開かれるのだそうだ。
 大会は自由参加だが、もちろん予選があり、本選に出場できるのは十人だけだ。
 本選はタイマン制のトーナメントだが、予選も盛り上がる。
 毎回予選の内容は変更される。
 前年は参加人数が少なかったせいか、予選も同じようにタイマン制で勝負を決めた。


「今年は参加人数はかなり多いぞ。何たって優勝者には白金貨十枚に……」


 おお、十枚ってことは、日本円で一千万か……大きいな。
 どうやら前回は賞金が出なかったみたいだ。
 だから参加人数が少なかった。
 これを嘆いたギルバニアが賞金を出すことにした。
 だが、ギルバニアはまだ何か副賞的なものを用意してるみたいだ。


「我らが王妃のデコチューが与えられるのだ!!!」


 …………はい?
 ……でこちゅ~? 


「は~美しいって罪なのよねぇ」


 え~っと……。
 顔を赤らめてモジモジするのは止めて頂きたい。


「今もぞくぞくと参加の申し込みが殺到してる。さすがは我が妻の魅力。デコチュー狙いでここまで集まるとは予想してはいなかったぞ」
「いやんいやん」
「ふはははは! 可愛い奴め!」


 いやいや、皆さんは多分名誉と白金目当てだと思うけどな。
 むしろデコチューは拒否されるんじゃね?
 とか言ったらぶっ飛ばされそうなのでやめとこ。


「いいかトーゴ! 一か月後だぞ! お前もデコチュー目指して頑張れ! ふははは!」


 目指さねえけどな。
 まあでも、参加する以上は勝つけど。
 ん~でもデコチューはいらんなぁ。
 どうせだったらリアさんの……。
 闘悟がリアの方を向いていると、クィルが背中の肉を抓(つね)ってきた。


「いてっ!?」


 闘悟は何事かと思いクィルの顔を見ると、何故か膨れてる彼女がいた。


「何を考えてるのですかトーゴ様?」
「……何も?」


 目を逸らしたことで、また彼女の機嫌を損ねたのか、頬をこれでもかと言わんばかりに膨らませる。
 闘悟はその頬を突くと、プフッと息が抜ける。


「ト、トーゴ様!」


 クィルは恥ずかしそうに頬を染めて詰め寄ってくる。
 そんなやりとりを、その場にいる者は温かく見守っていた。


 
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